METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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怪物の宴

「――――いい加減くたばれこのッ!」

 

 スコーピオンはマガジン内の弾丸をありったけ叩き込んでなお、活動を停止しない連邦軍の戦術人形に暴言を吐く。

 強固な装甲と恐ろしい火力を持つ連邦製の戦術人形チェルノボーグの性能は恐ろしく高く、数こそそこまでいないものの、歴戦のMSFの戦闘員を数人相手取る戦闘能力で部隊を苦しめる。

 

 元々装甲を持った敵に対し相性の悪いスコーピオンであったが、弾切れになった銃をしまいこみ、半ばやけくそにスコップを振りかざす。

 狙うは比較的装甲の薄い関節部。

 だが敵は咄嗟に腕を盾にスコップの一撃を防ぎ、逆にスコーピオンの手にするスコップの方が柄のところでへし折れてしまう。

 敵はそのまま小柄なスコーピオンを抱え上げ、投げ飛ばす。  

 ゴロゴロと地面を転がり吹き飛ばされたスコーピオンであったが、細いマニピュレーターに足を掴まれ小柄な身体が宙に浮いたかと思うと、一機の月光の頭部に乗せられる。

 

「痛ッ…助かったよ月光」

 

 助けてくれた月光の頭をペシペシ叩きつつ、月光の高い視点から周囲を伺う。

 後方で支援攻撃を行う月光を除けば、現在最前線で戦う月光は既にこの一機のみだ。

 装甲部分は被弾しところどころ被膜がはがれ、脚部の生体パーツもところどころ傷ついている…だがその月光は闘志を衰えさせることなく、スコーピオンを痛めつけたチェルノボーグに対し地面をひっかくような威嚇行動をとる。

 

「やっちまえ月光ッ!」

 

 頭部に乗りながらスコーピオンが叫ぶと、それに呼応するかのように月光は唸りをあげる。

 チェルノボーグの対戦車砲を跳躍で躱し、着地と同時に踏みつける。

 月光の重量で踏みつけられれば大半の敵は活動を停止するが、いくら頑丈なチェルノボーグとはいえその限りではなく少しもがいた末に活動を停止させる。

 

 

「月光、敵が三体やって来たよ!」

 

 

 頭上から襲い掛かる敵の位置を教えると、月光は再び跳躍すると、塹壕の中に飛び込み装甲の薄い脚部を隠し頑丈な上体部分のみを塹壕から出して敵を迎え撃つ。

 取り付けられたブローニングM2重機関銃を敵に向けて撃ち、隠れた敵を迫撃砲による曲射で破壊する。

 獅子奮迅の活躍に、思わずスコーピオンは苦笑いを浮かべる。

 月光は戦術人形を参考にしたAIを搭載しているが、言葉は交わせず単純な命令を聞くだけの存在であるはずだった。

 だがAIを手掛けたストレンジラブはある仕掛けをAIに施していて、幾度も経験を重ねることで成長させるプログラムを仕込んだのだ。

 

 スコーピオンは知らなかったが、今いるこの月光は初期に生産された個体で幾度となく戦場に投入され、経験と知識を積み重ねた歴戦の月光なのだ。

 

 

 敵を打ち倒し、勝ち名乗りをあげるかのように咆哮する月光に、スコーピオンはおもわず手を叩いて喜ぶ。

 粗末に扱ってごめんね、そう言いながら撫でてやるとどこか嬉しそうな様子だ。

 

「さてと、他の様子は? なんかよく分からない戦術人形が助けに来てくれたみたいだけど…エグゼは無事かな?」

 

 月光が塹壕を這い出て再び高くなった視点から戦場を俯瞰する。

 見回してみると、奥の方ではスネークと謎の人物が共闘して忌々しい強化兵と対峙しているのが見えた。

 いますぐ駆けつけたい衝動に駆られるが、ふと視界の端でエグゼの姿を捉えそちらに目を向ける。

 

 その表情に笑みを浮かべ、心底楽しそうにブレードを振るう姿に感心しつつ、エグゼが対峙している相手を見て思わず情けない声をこぼしてしまう…。

 

「エグゼ、なにやってんの…?」

 

 エグゼが襲い掛かっている相手、それは先ほど戦場に唐突に現われMSFへの加勢を高らかに宣言した404小隊であった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラオラ、かかってこいやコラッ!」

 

「なんなのよあんた! こっちは敵じゃないって、さっきから、言ってるでしょうがッ!」

 

「うるせえ!」

 

「このバカ、なんなのもう!?」

 

 エグゼは404小隊の隊員である416に対し執拗に攻撃を仕掛け、必死で敵意がないことを説明するも聞く耳を持たず、激しい斬撃をなんとか躱すことしかできていない。

 

「逃げてばかりじゃ勝てないぜ?」

 

「だから敵じゃないって言ってるでしょう!? バカなの!?」

 

「胡散臭い奴はぶっ殺せってな! 先制反撃だよッ!」

 

「なによ先制反撃って!? 先制攻撃の間違いでしょ!もう頭に来た!」

 

 一向に攻撃の手を止めないエグゼに、とうとう堪忍袋の緒が切れる416。

 銃を構えた彼女に獰猛な笑みを浮かべ、エグゼは攻撃をさらに苛烈なものとする。

 

「やっぱ敵じゃねえかお前よ!」

 

「あんたが悪いんでしょ!?」

 

 お互いに敵意を剥き出しに襲い掛かる姿には、本来の敵であるはずの連邦軍の戦術人形も関与したく無さそうに距離を置いている…今にも本気の殺し合いを行うところを、月光に乗ったスコーピオンが割って入り仲裁する。

 

「エグゼ、なんか知らないけどこの人たち味方みたいだよ!?」

 

「あ、そうなの? ったく、敵じゃねえならさっさと言えよこっちは忙しいんだ」

 

 やれやれとため息をこぼしてみせるエグゼに、416は言葉も出さず顔を真っ赤にし殺意を剥き出しにして睨みつけている。

 そんな風ににらまれれば喧嘩っ早いエグゼも受けて立とうとするが、そこはなんとかスコーピオンがなだめてみせる。

 一方の416の方も、同じ小隊のUMP45にたしなめられているようだが…。

 

「アイツ殺す!」

 

「まあまあ落ち着きなさい416。あれが噂のMSFに寝返った鉄血のハイエンドモデル処刑人よ、まともにやり合って分が悪いのはあなたの方よ。今はまだこらえなさい」

 

「そうだよ、今は恩を売るのが先決だよ!」

 

 そう言いながら、UMP9は付近のチェルノボーグを打ち倒す。

 思わぬ助太刀にMSFの兵士は口笛を吹いて称賛し、UMP9も笑顔を浮かべサムズアップで応える。

 

「分かったわよ…それで、G11はどこ行ったの?」

 

「あぁ…あっちのお化けの戦いに巻き込まれて縮みあがってるみたい」

 

「まったく役立たずめ」

 

 見れば戦場の奥、化け物同士の激しい戦闘に巻き込まれた挙句撤退もかなわず、砲撃で出来たくぼみで震えがっているG11がいるではないか。

 416は罵倒するが、MSFのスネーク、謎のニンジャ、連邦軍の強化兵フェリックスの激闘に巻き込まれてしまえば誰だってあんな風になってしまうだろう…。

 そのまま放っておいてもいいのだが、万が一流れ弾に当たって死なれても面倒だということで救出に行こうとするのだが…。

 

 

「あれは近づけないわよね」

 

 

 分かってはいるが、再度見た三人の血で血を洗うような激しい戦いに思わず苦笑する。

 

 常人なら持ち上げることも困難な重火砲を手に撃ちまくり、弾丸を刀ではじき攻撃を見極め弾丸を躱し、体格差をものともせず対峙する…まるでアクション映画でも見ているかのような、目を疑うような死闘を繰り広げている。

 そこに巻き込まれれば連邦のチェルノボーグといえども一瞬でスクラップと化すため、一定の距離をあけて戦闘を行っている。

 

 

 

 

 

 

 

「うぅぅ…怖い怖い怖いッ! なんで誰も助けにきてくれないの…!」

 

 すぐそばで行われている化け物同士の戦いに、G11は穴の中で震えあがることしかできないでいる。

 何度か隙をみて穴を這い出ようとするが、その度にフェリックスのガトリング砲やスネークのロケットランチャーの流れ弾が飛んでくるために何度も追い返されてしまっている。

 通信で小隊の仲間に救助をお願いすれば、頑張って脱出しなさいと心無い返事を返される…。

 

「45、いいから助けに来てよお願いだよ、なんでもするからさ…!」

 

『わたしに死ねって言ってるの? しばらくそうしてなさい。あ、頭伏せてた方がいいわ』

 

 UMP45が言った間もなく、G11の隠れる穴の傍に砲弾が着弾し、吹き飛ばされた土砂が彼女の頭上に覆いかぶさる。

 

「酷いよ45! 9でも416でも誰でもいいから助けに来てよ!」

 

『ごめんね、45姉に今は行くなって言われてるから』

 

『ついでみたいに言われるのが気にくわないわね。自分で何とかしなさい』

 

「薄情者! こんな小隊抜けてやる!」

 

 恨みの言葉を叫んだ次の瞬間、誰かが穴の中に転がり落ちてきたためにG11は大きな悲鳴をあげる。

 

「くそ、しぶとい奴だ。おい、キミはこんなところで何をしてる?」

 

 転がり込んできたのはMSFの司令官スネークだ。

 ちゃんと自己紹介をしてはいなかったが、404小隊として加勢している状況に置いて少なくとも彼はG11の味方と言ってもいい存在だ。

 

「ここにいたら巻き込まれるぞ」

 

「うぅ、分かってるけど」

 

「よし、合図をしたら飛び出して仲間のところに行け。行くぞ!」

 

「うぇッ!? 早いよ!」

 

 すぐさま穴を這い出たスネークの後を追ったG11だが、前方に仁王立ちする連邦軍強化兵フェリックスの姿を見た瞬間全力で穴に引き返したくなる衝動に駆られる。 

 

「邪魔だ、退いてろ!」

 

 突然背後から後ろ襟を掴みあげられ、G11は投げ飛ばされる。

 G11を投げ飛ばしたのは全身を強化骨格に包むサイボーグ忍者、フランク・イェーガーであった…投げ飛ばされたG11は勢いのままに転がっていき、岩に頭をぶつけたところで停止する。

 酷い痛みに泣きそうになるが、ひとまず激戦地を逃れることができた…そのまま彼女はさっさとその場を脱出するのであった。

 

 

「忌々しいテロリスト共が…! これ以上、貴様らの好きにはさせん……祖国の名に懸けて、貴様らを抹殺してやる!」

 

 度重なる戦闘でフェリックスのアーマーは損傷し、ところどころE.L.I.Dに感染し異形化した肉体を露出させている。

 おびただしい血を流し、受けたダメージによりその巨体は安定感を失いかけている。

 だが、ダメージを負いにアーマーが破壊されていく過程で彼にかけられているタガが外れていき、戦闘能力は高まっていく。

 戦場に雨が降り始めた時、雨粒はフェリックスのアーマーの表面で沸騰し一瞬で蒸気と化す。

 アーマーの排熱機器が破損し、動力が生み出す膨大な熱が内部へと溜まりそれもまた彼の肉体に負荷を与えるとともに、その苦痛によって彼の闘争心を激烈なものへと変えていく。

 

 武器を破壊されたフェリックスは己の体躯を武器に突進する。

 すかさずスネークはアサルトライフルの引き金を引いて迎え撃つが、強化されたフェリックスの肉体は小口径の弾ではびくともせず、勢いは止まらない。

 ならばと、銃身下に装着されたグレネードランチャーに弾を込め、突進するフェリックスに向けて射出する。

 グレネードは彼の剥がれたアーマーの箇所に直撃し、受けた衝撃により足を止める。

 

 よろめくフェリックスへ、すかさずフランクが追撃を仕掛ける。

 ステルス迷彩で姿を隠していたフランクは頭上から襲撃し、攻撃に気付きフェリックスが上を見上げた時には、フランクの高周波ブレードの切っ先がヘルメットを貫き眼孔を刺し貫いていた。

 

 おぞましい獣のような叫び声が戦場に響き渡る。

 

 フランクは突き刺したブレードをねじり、さらに傷口を広げる。

 

 

「フランク!」

 

 スネークの声に、フランク・イェーガーはブレードを引き抜きその場か跳躍し離れる。 

 次の瞬間、放たれた弾頭がフェリックスに直撃し大きな爆発を起こす。

 

 爆炎が晴れた時、フェリックスは腕と胴体部分を吹き飛ばされた状態で立ち上がっていたが、数歩よろめいた末に、ついにその巨体が崩れ落ちる。

 しかし、倒れた彼はいまだ生命活動を止めず、残った腕を支えに再び立ち上がろうとしている。

 

 

「バビロン川のほとりに腰掛け…シオンを思い我々は泣いた……主よ、覚えておられますか? エルサレムの日にエドムの子らが…破壊せよ、破壊せよ、その基までも…と言ったことを…。バビロンの娘よ…破壊者よ。幸せたるは…お前の我らへの仕打ちに報いる者…! 幸せたるは、お前の嬰児を捕え、岩に打ちつける者なり!」

 

 フェリックスは立ち上がる。

 既に身体の損傷は限界を超え、制御を失い理性も失いかけつつある。

 それは祖国への忠誠心からか、それとも敵への報復心からか…どちらにしろ常人には想像もできないような激情が彼の肉体を突き動かしている。

 

「凄まじい執念だな。何がお前をそこまでさせる」

 

「黙れ、傭兵風情が…! 国を棄てた貴様らにわたしの祖国への忠誠心はわかるまい。わたしは異民族を、そしてそれに組するありとあらゆる者に容赦しない…祖国へ、勝利を捧げるのだ…遥かなる勝利を! それが…奴らに殺された、愛する家族への手向けとなる…」

 

「ふん、大層な理由だ。厄介な強敵だったが、そろそろ死んでもらおうか」

 

「待てフランク…こいつと話しをしたい」

 

 とどめを刺そうとブレードを抜いたフランク・イェーガーを制し、スネークは瀕死のフェリックスへと向き直る。

 

 

「お前、家族を殺されたと言っていたな。お前には、イリーナという妹とスオミという名の人形がいたんじゃないか?」

 

「貴様…何故それを知っている…?」

 

「その二人に会ったからな。お前がどういう認識でいるのか分からないが、二人とも元気に生きている」

 

「妹と…スオミが、生きているだと…? バカな、あり得ない…わたしの妹は、家族は…異民族の暴徒に殺されたはずだ」

 

「いや、生きている。彼女も、あんたのことを兄だと言っていた…彼女は今、パルチザンにいる」

 

「パルチザン…イリーナが……」

 

 

 先ほどまで殺気立っていたフェリックスから覇気が消えていく。

 それでもさっさと殺せと言わんばかりのフランク・イェーガーをたしなめる。

 

 

「わたしが目覚めた時、上官よりイリーナとスオミの死を伝えられた……愛すべき家族を奪った敵を殺すために、わたしは己の運命を受け入れた……」

 

「お前、嘘の話しを刷り込まされたのか。お前を戦闘兵器として扱うために」

 

「イリーナは昔から頭の良い子だった…スオミ、あの子も優しいがいつもイリーナを守ってくれていた…そうか、生きているのか……いや、あり得ない…死んだんだよ、二人は死んだのだ…二人は…ぐおっ!」

 

 突然、フェリックスは膝をつき、頭を抱え苦しみに悶え始める。

 何度も頭を地面に打ちつけ、獣のような咆哮をあげ始めた…その時、戦場にサイレンの音が鳴り響くとそれまで戦闘していたチェルノボーグたちが戦いを止めて撤退をしていく。

 

「なんだ?」

 

「連邦軍め、ここを処理するらしい」

 

「何故わかるんだ?」

 

「詳しいことは後だ。部隊を撤退させろビッグボス」

 

 腑に落ちないところだが、フランクの忠告を素直に聞きいれ、スネークは戦場の全部隊に撤退命令を出した。

 MSFの撤退に404小隊もさりげなく混ざり、部隊を引き上げさせていると、先ほどまで戦闘を行っていた戦場に砲弾が着弾する。

 だが砲弾は爆発を起こさず、赤黒いガスのようなものを周囲にまき散らす。

 

 

「毒ガス弾だ、金属をも腐食させるほどの猛毒だ。あれを浴びたらオレといえどひとたまりもない、人形ですらな。もっとも、E.L.I.Dに犯されたあの強化兵は死なんだろうがな」

 

「フランク、何故毒ガス攻撃のことを知っていたんだ? それにお前はこの世界で何をしていたんだ?」

 

 安全圏に退避したスネークは立ち止まり、戦闘中には聞くことのできなかった疑問を投げかける。

 

 彼と、フランク・イェーガーとスネークが初めて出会ったのはモザンビークでの紛争地帯、当時少年兵だった彼を救いだしたのだ。

 それからサンヒエロニモ半島にて、強化兵の実験体として使われていた彼と遭遇し再び彼を救いだした過去がある…その後MSFを創設してからというもの、彼と会ってはいない。

 バイザーを開き見せた彼の顔はスネークが予想しているよりも年齢を重ねているようにも見える。

 

 

「オレは、戦場である男との戦いに負け、生死の境をさまよっていた。気付いた時、オレはある女に救われ命を取り留めた…今は、その女の指揮下にいる。彼女の名は、ウロボロス…もう一人の、蛇のコードネームを持つ者だ」

 

ウロボロス(尾を飲み込む蛇)…何者だ?」

 

「じきに分かることだ。ビッグボス、ここに来たのはあなたへの恩を返すためだった。あなたへの恩をこれで返せたと思えないが……いずれまた戦場で会うことになるだろう」

 

「どういうことだフランク、おい!」

 

 スネークの呼び止めに応じず、フランク・イェーガーはステルス迷彩を起動させ姿をくらました。

 彼を追って森の中に足を踏み入れたが、姿と気配を完全に消し去った彼をスネークは見失う。

 

 

 

「次に会う時はお互い敵同士だ。あなたの伝説をもう一度見させてもらうぞ!」

 

 

 森の中に、彼の声が響き渡り、樹上を駆けていく足音が遠ざかっていった…。




フランク・イェーガー(グレイ・フォックス)さん、どうやら誰か別な蛇と地雷原で殴り合った後みたいですねぇ…。
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