広域破壊兵器ウラヌスはMSFの活躍によって破壊され、基地周辺にいた連邦軍も撤退。
パルチザン側から依頼された任務は全うすることができたが、精強な連邦正規軍と激しく衝突したMSFもまた無視できない被害を被ることとなった。
多くの死傷者の他、連邦軍が最後の悪あがきとして撃ちこんだ毒ガス攻撃によっていくつかの物資及び兵器を戦場に置き去りにするはめになったのだ。
最悪なことに、連邦軍が放った毒ガスは金属をも腐食させるほどの猛毒であり、その場所に残留し今後数年は立ち入ることができない極度の汚染地帯へと変えた。
防毒スーツをも透過する化学兵器、生態系に与える影響も大きいだろう。
戦場になってしまったとはいえ、付近には緑豊かな自然が広がる場所であった…それが、一瞬で死の大地へと変わったのだ。
「気にすんなよ、戦争なんだ」
このバルカン半島へ足を踏み入れ、この地に残る美しい自然を気に入っていた9A91は仕方がなかったとはいえ、自然界の汚染に関与してしまったことに心を痛める。
仕方がなかった…どうしようもないことだったことは彼女自身も理解しているが、心優しい9A91は、そこに暮らしていたたくさんの生き物の命が失われたことへ鈍感になることはできなかった。
「あそこは枯れちまったが、他にも自然はあるさ。それにいつまでも汚染されてるわけじゃねえし、放射能汚染よりマシだって」
そんな彼女を、エグゼは励まそうと声をかけていた。
傷心の9A91にかける言葉にしてはもっと言葉を選んだ方がいいのは事実なのだが、不器用ながらも仲間を元気づけようとしていることは9A91の心にしっかりと届いている。
ただ今の9A91には時間が必要だ。
そのことはエグゼも理解し、うつむく彼女の頭を抱きそっと撫でるのであった。
「悪いな、スネークみたいにマシな言葉を言ってやれなくてよ」
「いえ、いいんです。ありがとう、エグゼ」
そっと体重を預けてくる彼女をしっかりと受け止め、その小柄な身体を優しく包み込む。
戦場から帰還したMSFの部隊は駐屯地へと戻り、負傷者の手当てと部隊の補給とであわただしい。
特に救護兵として従事するようになったスプリングフィールドは負傷兵の手当てで駆けまわっており、制服が血で汚れてしまうのもいとわずがむしゃらに看護にあたっている。
肉体的な外傷だけではない、帰還した兵士の中にはPTSDの障害が見られるものも少なくなかった。
核兵器が当たり前のように使用される。
MSFの精鋭が非常識と思うような戦闘が、この世界の常識として起こっている。
かつて核の脅威から世界を守るべく、ビッグボスとともに戦ったことのある彼らだが、なんの躊躇もなく使用された戦術核兵器に大きなショックを受けていた。
そんなこともあってか、兵士たちのストレスを緩和させる狙いもあり酒やたばこなどのちょっとした嗜好品を多めに支給された。
「エグゼ、あなたも飲む?」
いつもより元気さに陰りがあるスコーピオンが持ってきた酒瓶を、エグゼは無言で受け取る。
廃屋から回収した質の悪い酒だ、飲み口は決して良くはないが、喉を通るときの焼け付く様な感覚と高いアルコール度数が幾分か気持ちを和らげる。
エグゼは戦場での出来事に精神を動じさせてはいなかったが、仲間たちが傷つき疲労している姿を見せつけられたことには動揺していた。
「自分がいくら傷付こうがなんとも思わねえが…仲間が傷つく姿を見るのは、何回経験しても慣れないもんだな」
自嘲気味につぶやき、エグゼは失くした腕…義手をぼんやりと眺める。
うずきはじめる幻肢痛と同時に頭に思い浮かぶのは、あの日の出来事。
親友のハンターが目の前で殺される瞬間、腕と足を無くした自分を冷たく見下ろすM4の顔…。
思いだす度に哀しみと怒り、屈辱と報復心が高まっていく。
それを察し、スコーピオンは無言でエグゼの肩を抱きその背をさする。
「これじゃ、傷を舐め合うハイエナだな…」
「いいんだよ、それで。人間も人形も、一人じゃ生きていけないんだから…一匹オオカミは哀しいだけなんだ」
「戦友ってのはいいもんだな。ハンターの次くらいに、お前好きだよ」
「そこは一番って言って欲しかったなぁ」
笑いあい、瓶をこつんとぶつけあい酒を喉に流し込む。
相変わらずの強さに二人は表情をしかめ、もう一度笑いあう…ふと、エグゼは何かを見つけると固い表情を浮かべる。
「やあ初めまして、スコーピオンに処刑人さん」
やって来たのは、先の戦場で救援として駆けつけてくれた404小隊のメンバーだ。
微笑を浮かべつつもどこか探るような様子のUMP45、反対に愛嬌のある笑顔を浮かべるUMP9、二人とは対照的に明確な敵意の眼差しをエグゼにむけるHK416、それからもう一人は立ったまま寝ているGrG11だ。
「さっきはよくもやってくれたわね」
「酒が不味くなるからとっとと失せろ。お前見てると嫌な奴の面が浮かぶんだよ」
「あら、それってAR小隊のことかしら?」
「あぁ? なんだテメェ?」
UMP45の言葉に、額に青筋を浮かべ立ち上がる。
416の方も、戦場での借りがあるために敵意のこもった眼差しを向け、一触即発の危険な雰囲気が漂う。
「落ち着きなよエグゼ。ここは戦場じゃないんだから、ね?」
「スコーピオンの言う通りね。416もそんな目で彼女を見るのは止めなさい、わたしたちはMSFに戦いを挑みに来たわけじゃないんだからさ」
「そうそう! せっかく一緒に戦った仲だからね! 戦勝祝いに乾杯だー!」
ニコニコと笑顔を浮かべるUMP9が酒瓶を掲げる。
こんな戦術人形いたかなと、疑問を抱きつつもスコーピオンは404小隊と酒を酌み交わす。
隊長の言葉に416もエグゼを睨むのを止めてコップに注いだ酒に手を伸ばす。
そんな時、エグゼは目の前のテーブルに義足の方の足を叩きつけるように乗せる。
それから無表情で酒瓶を404小隊に掲げ、義手と義足に酒を浴びせた。
「オレの腕と足に乾杯、気が済んだか? 何のためにやって来たか知らないが、お前みたいな腹の底になんか隠してるような奴と酒が飲めるかよ。何の用なんだよ、はっきり言えよ」
「エグゼ! もう、ごめんね…こいつちょっと失礼な奴で」
「いいのよスコーピオン。こっちもからかい過ぎたわね、素直に考えを話すわ」
そう言うと、UMP45は端末をテーブルの上に置いた。
端末から雑音のようなものが流れ、やがて誰かの話し声が流される…。
"――――連邦の最終兵器は予想通りの状態だ。連邦軍はソレの制御を失って久しいが、まだソレを制御下にあると世界に吹聴している。愚かな事だ、奴らの虚栄心がこの危機を生んだのだよ。いずれパルチザンがそこに現われる、お前たちには期待しているぞ。共に
"任せろ、オレの力を存分に使うといい。お前はどうだ、やれるか?"
"無論。私に足らない技は全てお前に教えてもらった。本物のハンターは、息をひそめて待つもの…と思っていたが、戦術の使い分けは重要だな"
"その通りだ。固定概念にとらわれるな、必要なあらゆる手段を熟考しろ。型にはまれば罠にはまる…ククク、未熟な狩猟者が狐の手によって真のハンターへ開花した。その力、このウロボロスのために存分に振るってもらうぞ"
そこで、UMP45は端末を操作し録音音声を停止させる。
しばらくの沈黙の後、エグゼは深い深呼吸を繰り返し真っ直ぐにUMP45を見つめる。
「いつ、どこでこれを録音した」
「つい最近、とだけね。一人はウロボロスという名の女、一人は戦場でなぜか助けてくれたフランク・イェーガー、もう一人は…」
「ハンターだ…聞き間違えるはずがねえ。ハンターが生きている…いや、新しく生まれ変わったのかもしれないが…でも何かおかしいな」
「意外に冷静でいてくれて良かったわ。わたしたちはある任務でウロボロスという鉄血の人形を追っている、わたしがMSFに接触したのは協力を得るため。いつもは自分たちの小隊だけで任務を遂行するのだけど、事情が変わったの。ウロボロスは連邦が隠す最終兵器を狙ってる、それが何なのかは分からないけどね…でもここまでやって来るからにはろくでもないことを企んでいるのは確かだから」
「それで、ハンターの生存をオレに知らせたってわけか…」
「信用を得るためにね。わたしたちは敵じゃない、戦場でそれを証明したはずよ。信用を得るための材料はこれで全部。どう、わたしたちと手を組まない?」
そう言いながら、UMP45は手を差しだしてきた。
しかしエグゼは握手には応じず、テーブルから身を乗り出し彼女の胸倉を掴み引き寄せる。
咄嗟に銃を構える416をUMP45は制す。
「何が信用を得るためだ。MSFはオレの大切な家族、ハンターはオレの親友、舐めるのも大概にしろ!」
「フフ、えらく感情的になったわね。それで、手を組んでくれる?」
「お前と手を組むなんてお断りだ。だがな、オレは親友を助けに行くし親友を利用するクズは許さねえ! オレは一人でも行くさ、だがMSFの力を借りたいならスネークに言いな」
ようやくエグゼの手が離されたところで、UMP45は掴まれて乱れた服装を直す。
再度エグゼを見て見れば、腕を組みなにやら唸っている…もしや機嫌を損ねたかなと危機感を抱くが…。
「あんまり言いたくねえけどよ、本当に言いたくねえけどさ…ハンターのこと教えてくれて、サンキューな…」
「……フフ、どういたしまして。お互い利用し合いましょう」
「チッ、今思い出した。お前ら鉄血で噂になってた404小隊だな? 面倒な奴らに絡まれたもんだぜ」
心底嫌そうな表情で、再度差し出された握手に応じる。
それから他のメンバーとも一応握手を交わしていくが、416だけ拒絶され、それが原因でまた険悪なムードになるのだった。
「―――酷くやられたな、スネーク」
「それはお互い様だろう。サラエボは解放したようだな、見事な勝利だ」
駐屯地を訪れたパルチザンのリーダーをテントで出迎え、互いの健闘をたたえ合う。
スネークらMSFが連邦軍のウラヌスを攻略している間にすすめられたパルチザンによるサラエボ解放作戦は、激闘の末見事勝利したのだ。
その勝利によってサラエボ内の反政府勢力と合流を果たし、パルチザンの戦力増強にもつながり、革命への大きな一歩となる。
代償に、パルチザンもまた大きな損害を受け、前線で部隊を鼓舞していたイリーナ自身も大怪我をしたようだ。
それでも松葉杖を手にこうしてはるばるやってくるのだから、指導者というのはタフなものだ。
「スオミにこっぴどく叱られてしまったよ。指揮官のくせに前線に飛び出すなとな」
「あんたが心配なんだろう。だが統率者が前線にいるだけで、部隊が鼓舞されることもある。勝利の一因には、君が仲間と共に戦っていたこともあるだろう」
「あんたがそう言うと説得力があるよ。スネーク、MSFにはずいぶん助けられたよ…わたしの兄は、強かったか?」
「ああ、かなりな。イリーナ、彼と話しをした。彼はお前とスオミが異民族に殺されたと思っていたようだ、それで…」
「知ってるよ。だがわたしの兄は、E.L.I.Dに感染したあの時に死んだのだ。兄は連邦政府を離れて生きることはできない、制御と薬が無くなれば理性の無い感染者へとなる。 自分の意思も思想も自由も束縛され、ただ都合の良い兵器として戦場に投入される…それが、生きているといえるか?せめてその呪いから解放してやるのが、わたしの願いなのだよ」
その表情に少し哀愁を浮かべ、そっと首にかけられた十字架のネックレスを撫でる。
「兄は、スオミも妹のように可愛がっていた。あの子は今でも、兄を大切な指揮官として慕っている…実を言うとな、あの子が話せなくなったのは故障のせいじゃない。兄が感染し、死を伝えられたときスオミは…大きなショックから言葉を話すことができなくなってしまった」
その後、イリーナが傷ついたスオミを何度も元気づけて長い月日を経た末に、昔のような笑顔を浮かべてくれるようにはなったのだが、声だけが戻ることがなかったという。
今でもスオミは大好きだった指揮官が戻って来てくれることを信じているという。
それを聞き、スネークはかつての9A91を思い浮かべる。
彼女もまた、かつて目の前で大切な指揮官を失い不安定な精神状態に苦しめられていた時期があった。
「それから間もなく、兄が無理矢理生かされ、強化兵の実験体になっていることを知った。それまでにも連邦の腐敗や問題を見ていたわたしは、政府を去り革命を志した。スネーク、わたしはもう一つあんたに話さなければならないことがある。連邦軍が持つ、最終兵器の事についてだ」
「ああ、オセロットも言っていた。あいつは、お前がそのカギを握っていると言っていた」
「そうか、あんたの諜報員は優秀だな。ボスニア、クロアチア、セルビアの境界線が重なる地域…いかなる勢力にも属さない、ノーマンズランドと言われる地域でな、そこに大きな空軍基地がある。わたしはかつてそこである実験をしていてな、連邦軍の最終兵器のプログラムを任されていた。連邦を離れるにあたり、そこの防衛システムを起動させ、プログラムを改ざんしてやった」
「そこに連邦の最終兵器があるのか?」
「いや、そこにはない、制御だけだ。だが他にも隠された兵器は存在する。連邦軍のチェルノボーグには遭遇したか? 基地の地下には、起動を待つ何千何万という軍用人形の他、無人戦闘機などが格納されている。それらを制御するプログラムが、ここにある」
そう言って、イリーナは自分の頭を突いて見せる。
つまり、多数の兵器が隠されている基地の制御プログラムはイリーナの頭の中に知識として叩きこまれており、彼女を殺せば基地を制御下に置くことはできないということらしい。
「なるほどな、君を殺せば最終兵器を手にすることができなくなるということか。それで、最終兵器のありかはどこにあるんだ? それ自体は連邦が持っているのか?」
「いや、連邦の手にもない、さらに言うならこの国にも存在しない」
イリーナは人差し指を上に向ける。
つられて指で指し示す先を見る…天井、ではなく…空ということか。
「その兵器の名はアルキメデス、またの名を"神の杖"。衛星軌道上を周回する軍事衛星より、タングステン鋼芯弾を地上に撃ちこむ唯一無二の戦略兵器だ」
神の杖、詳細はググってください。
次話より戦闘戦闘&戦闘が続きます…かね。