METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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素晴らしき友よ、永遠なれ

「代理人、代理人! 聞いてくれよ代理人!」

 

「うるさいですね、何の用です?」

 

 通路を歩いていた代理人は、あわただしく自分の名を呼んで追いかけてきた処刑人を心底鬱陶しそうに振り返る。

 

「聞いてよ代理人、あのさぁ!」

 

「耳を貸すな代理人! この盗人め、私のスイーツを返せ!」

 

 そこへ処刑人の背後から走ってきたハンターが処刑人を捕まえヘッドロックで抑え込む。

 目の前で取っ組み合いのケンカをする二人の様子を、代理人はしばらく無表情で見下ろしていたが、あまりにも長いこと取っ組み合いをしているのでため息をこぼし二人の脳天にげんこつを振り下ろす。

 

 

「いってぇぇっ!!」

「ぐうぅっ!」

 

「いい加減になさい二人とも。ケンカの原因は何なんですか?」

 

「聞いてくれ代理人、処刑人の奴冷蔵庫のスイーツをまた勝手に盗ったんだ! ちゃんと名前も書いていたのに!」

 

「そこにあったら普通食うだろ!? だいたいお前ばかり美味いもの食いやがって、プロテインとペーストフードで戦争なんてできるか! くそ思いだしたらイライラしてきたぞ!」

 

「それはこっちのセリフだ! あれは代理人が私にくれた大切なスイーツだったんだ…それを貴様ァ!」

 

「うっせえ! というか代理人、オレには何もくれないのか!?」

 

 飢えた子犬のように見つめてくる処刑人に、代理人は容赦なく手刀を叩き込む。

 今回のケンカはハンターのおやつを奪った処刑人が悪いということでおさめられるのだが、それでは処刑人の気も収まらないだろう。

 主人を第一に考える代理人としては、そつなく任務をこなしさえすれば部下の私生活など微塵も興味がなかったのだが、妙なところで子どもっぽい処刑人はおそらく任務に引きずることが心配される。

 そう考えた代理人は二人を招き、鉄血司令部の無機質な厨房へと連れていく。

 

「お、代理人料理作ってくれるのか!?」

 

「今回だけですよ。その代わり気持ちを切り替えなさい、じゃないとAIを初期化しますからね」

 

「うんうん、代理人の手料理なんて久しぶりだからな! 大人しく待ってるぜ!」

 

「そもそもお前が私のスイーツを盗ったのが悪いんだぞ。だが、代理人の手料理か…楽しみだな」

 

 心なしかハンターの怒りも静まり、処刑人と並び期待に満ちた表情で代理人を見つめる。

 そんな目で見られて代理人も悪い気はせず、面倒に思えた料理も若干楽しみに感じていた…無論、そんなことを考えているなど彼女の変わらない表情から読み取ることは不可能だろうが。

 

「材料…無いですね…」

 

 しかし、冷蔵庫を開けてみれば見事なまでに空っぽだ。

 鉄血人形は基本的に戦って奪うことしかしないため、人間のように家畜を飼ったり野菜を栽培したりしないので食糧確保というのは意外にも終始付きまとう課題でもある。

 それを解決するために栄養バランスのみを考えたフードペーストやサプリメントが主食だが、はっきり言って人形たちからは不評である。

 なので、ハイエンドモデルの人形などはたまに私的にグリフィンの人形を襲撃して食糧を略奪したりする。

 

「ハンター、処刑人。このままでは料理が作れません…そうですね、近くにグリフィン支部があったでしょう? ちょっと行ってきて壊滅させるついでに食糧をとってきなさいな」

 

「よっしゃ、行くぞハンター!」

「おう!」

 

 二人はその言葉を聞くや否やすぐさま厨房を飛び出していった。

 

「さて…暇ですね」

 

 何かないものかと、厨房の戸棚を開いて使える物を探す。

 するといくつか果物の缶詰とはちみつを発見する。

 二人の帰りを待っている間、暇つぶしに代理人はそれらを使いデザートを作るのであった…。

 

 

 

 数時間後…。

 

 デザートも作り終え、厨房の椅子に座り欠伸をかいていると、バタバタと騒がしく処刑人とハンターが厨房に雪崩れ込んできた。

 

「代理人…ハァハァ…取って来たぜ!」

 

「ついでにグリフィン支部もぶち壊したぞ…!」

 

 全身傷だらけで、返り血なのか自分の血なのか分からない人工血液を身体中に浴びた二人。

 持ち帰って来たバッグには新鮮な野菜などの食糧が詰め仕込まれており、おまけにグリフィンで飼われていたと思われる犬と猫が生きたまま抱えられている。

 ひとまず汚い姿の二人をシャワー室に放り込み、その間に代理人は持ち帰ってきた食糧から料理を考案し作業にかかった。

 

 

「あ、いい匂いだぁ…」

 

 

 通路をたまたま歩いていたデストロイヤーが足を止め、匂いに誘われて厨房へと入り込んできた。

 

 

「代理人、なんで料理してるの!?」

 

「処刑人とハンターがうるさかったので作ってるんですよ」

 

「いいなぁ…ねえ代理人、わたしも食べたい!」

 

「しかし材料はそこまでありませんからね…」

 

「やだやだ! 処刑人とハンダーだけずるいよ! わたしも食べたいの!」

 

 駄々をこねるデストロイヤーであるが、限られた食糧事情ではどうしようもないものである。

 仕方なく、デストロイヤーにも指示を与え、手ごろなグリフィン支部を襲撃させることにした…。

 

「お、良い香りがすると思ったら代理人が料理とは…珍しいじゃないか」

 

 そこへ今度はアルケミストが現れる。

 なにやら小難しいことを言うが、要約するなら自分にも食わせろと言った内容である。

 そうしているとスケアクロウが、イントゥルーダーが、夢想家が姿を現して皆一様に代理人の料理をする姿を珍しがり料理を要求した。

 この際代理人は全員に料理を作ることで妥協し、この日多くのグリフィン支部が消滅する事態となったのだった…。

 

 

「――――――料理はまだありますから慌てないでください。ほらそこ、隣の人の料理をとらないの、あなたの事よ処刑人。それとデストロイヤーは食べきれる料理をとりなさい。アルケミストは捕虜を厨房に連れてこないでください」

 

 給仕服姿で料理を配膳する代理人の姿はとても様になる。

 普段は一カ所に集まることがないハイエンドモデルたちが代理人の料理目当てに集まる…ただでさえ個性の強いメンバーが集まればそこは宴会のように騒がしくなり、グリフィン支部を襲撃した際に持ち帰った酒も空けられ代理人ですら手のつけられないほど賑やかなものとなる。

 

「まさかこんな事になるとはな、お前のせいだぞ処刑人」

 

 ハンターは缶ビールを片手に、隣の処刑人へ声をかける。

 

「でも、悪かないだろ? たまにはこういうのも悪かない」

 

「それもそうだな…なぁ処刑人、さっきは殴って悪かったな」

 

「おう、もっと謝れ」

 

「このやろう」

 

 処刑人の軽口に、ハンターは咄嗟に彼女の肩に軽くパンチする。

 それからお互い笑いあい、酒を喉に流し込む…。

 

「ハンターオレたち、ずっと友達だよな」

 

「何を急に、明日死ぬのか?」

 

「バカ野郎、オレは不死身だ。頭を撃ち抜かれても死にはしねぇよ…まあとにかくだ、オレはてめぇが地獄の底に叩き落されても助けに行ってやる。寝ぼけてたらぶん殴ってでもたたき起こしてやるからよ」

 

「ハハ、お前に付きまとわれるのは勘弁願いたいな。だが、悪くないな」

 

「そう、悪くねえだろ? これからもよろしくな、親友よ――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激しい銃撃戦、互いの刃がぶつかれば激しく火花が散らされる。

 

 接近戦を得意とするエグゼは地面を踏みしめ、一気に駆け抜ける。

 風よりも疾く、疾風の如き速さであっという間に間合いを詰めて放たれた斬撃を、ハンターは二つのナイフを重ね受け止める。

 スピードとパワーの乗った斬撃、それを受け止めたハンターのガードは崩れ大きく後ずさる。

 

「オラァッ!」

 

 体勢を崩したハンターへ横薙ぎに一閃。

 咄嗟に上体を逸らし躱したハンターの胸を、ブレードの切っ先が数センチほど斬り裂く。

 赤い人工血液が宙を舞い、それが地面に落ちるよりも早くハンターは機動装置を用いその場から離脱する。

 機動装置を使い加速したハンターはビルの壁を足場に戦場を縦横無尽に駆けまわり、壁を足場に一気に加速して鋭い蹴りを放つ。

 スピードに翻弄されていたエグゼはその蹴りをまともに受けて吹き飛ばされ、ビルの外壁に勢いよく叩きつけられた。

 

 すかさずハンターの二丁拳銃による連射が追い打ちをかけた。

 大口径の弾丸はビルのコンクリートごと粉砕し、瓦礫がエグゼの頭上から落下する。

 

「舐めるなよハンターッ!」

 

 だが、落下するコンクリート片をエグゼはブレードで両断し、ハンターへ向けて走りだす。

 再び機動装置で加速し、エグゼの背後をとる。

 しかし同じ手は二度とエグゼには通用しなかった。

 驚異的な反射神経でエグゼはハンターの攻撃を察知し、足を掴みとり地面に叩き付け、忌々しい機動装置を強引に引きちぎる。

 

「どうだハンター、お前のスピードは奪っ――――!」

 

 言い終わる前に、顔面を蹴り上げられエグゼは吹き飛んだ。

 

「この野郎、決め台詞は最後まで聞かねえタイプだな!?」

 

 激高したエグゼはブレードを構え、ハンターもまた弾の切れた拳銃を放り投げナイフを両手に構え迎え撃つ。

 先に動いたのはエグゼだ。

 得意の踏み込みからのブレードによる斬撃に、機動装置の加速に慣れてしまっていたハンターは一瞬反応が遅れたが、なんとかエグゼの斬撃を防いで見せた。

 

「強いな、一撃一撃の重みが違う」

 

「当たり前だろ、オレ様を誰だと思ってやがる!」

 

 つば競り合いを強引に弾き飛ばした時、ハンターの足がエグゼの側頭部めがけ振り抜かれる。

 腕で蹴りを防ぐが、予想していたよりもはるかに思い一撃にエグゼはガードを崩され、そこへ再びハンターの蹴りが放たれる。

 無防備の側頭部を狙った蹴りは、エグゼに軽い脳震盪を起こし地面に跪かせる。

 地面に膝をついたエグゼに対し、無慈悲にもハンターはその顔面を蹴り上げる。

 

「鉄鋼入りかよ…!」

 

「ご名答」

 

 血反吐を吐き、エグゼはなんとか立ち上がるが、鉄鋼入りのブーツで蹴られたダメージは大きい。

 足元はふらつき額からは血が流れ落ちる。

 それでも、エグゼは戦意を喪失させず、ハンターをじっと見据えている。

 

「行くぞ処刑人、お前を殺すことはウロボロスからの命令でもあるのだ」

 

「あのイカレ女…! オレとアイツ、どっちが大事なんだバカ野郎!」

 

「お前の事など知らんな」

 

 ナイフを手に、ハンターは迫る。

 鋭いナイフの切っ先を喉めがけ突き立てるのを、エグゼは義手を犠牲に防ぐ。

 

「見ろ、ハンター。あの日お前を救えなかったオレが失った腕だ。あの時お前はオレの命を救った、おかげでお前を救えなかった無念さにずっと苦しめられてきたんだ!」

 

「知らんな」

 

「忘れたとは言わせねえぞハンター! お前は最後にオレを信じ、一緒に来てくれるって言ったじゃねえか!」

 

「そんな記憶はない」

 

「ふざけんなよお前…! じゃあ戦場で何度も助け合い、一緒に戦った記憶もねえっていうのか!?」

 

「お前の事など知らん。何故私につきまとうのだ?」

 

「お前…まさか……本当にオレを、忘れちまったのか?」

 

 鋭い目で見据えるハンターの姿に、エグゼは最悪の結末に呆然とする。

 

 ハンターは、AIをリセットされている。

 これまで仲間と戦った記憶も、エグゼとの絆も、何もかもを忘れて…工場出荷時の初期状態になってしまっていた。

 それは、エグゼにとって親友の二度の死を、現実につきつけられたことに他ならない。

 

「こんな事って、あるのかよ………!」

 

 やりようのない悲しみと怒りが沸き立ち、無くした腕の痛みが激痛になってエグゼを苦しめる。

 ハンターは何か事情があってウロボロスに仕えているか、あるいは制御されていると思っていたが、鉄血はより確実な手段でハンターを再起動させた。

 すべての記憶を消去し、新たに戦闘技術を叩き込み、完全なる戦闘マシンとして生まれ変わらせた。

 

「許さねえ……誰がやりやがった…! 答えろよハンターッ!」

 

 ナイフを義手から引き抜き、ハンターの首を掴みあげる。

 

「ぐっ……!」

 

「お前は誰なんだッ! オレの親友をどこにやりやがった! お前は、お前はッ!」

 

 首を掴んだままハンターの身体を宙に浮かせ、勢いよく地面に叩き付ける。

 そのまま首から手を離さずに、エグゼは叫ぶ。

 

「誰だ、誰がやりやがったんだ!? ウロボロスか、夢想家か!? 代理人なのか!? オレの親友を殺したのはどいつだ!」

 

「だ、黙れ…! 世迷言を…!」

 

「てめえは偽物だ、アイツの声で喋るんじゃねえ!」

 

 首をギリギリと締め上げ、ハンターは苦悶の表情を浮かべついにナイフを手放し、首を絞めるエグゼの手を力なく握る。

 やがてハンターの腕はぶらりと垂れ下がり、彼女の身体から力が抜けたことを感じ取る。

 だが、エグゼは手の力を緩めることは無かった…。

 

 

「処刑人ッ!」

 

 

 誰かが、エグゼの腕に掴みかかり強引にハンターから引き剥がす。

 

「アンタ、なにやってのよ…ハンターを助けるって言ってたんじゃなかったの!?」

 

 エグゼの凶手を止めたのは416.

 衣服はところどころ焼け焦げ、顔も煤で汚れている。

 

「全部、無駄だったってわけだ……ハンターは死んじまったんだ、もうオレの知るハンターはどこにもいないんだよ…」

 

「アンタ…それでいいの?」

 

「うるせえ、お前らなんかに分かるもんかよ」

 

「鉄血のクズが考えることなんて知らないわ。だけどね、アンタが腐ってるところを見てるとムカつくわ。アンタ、自分が言った事には責任を持ちなさいよ! 親友を助けるって、そうビッグボスにも約束したんでしょ!?」

 

 エグゼは何も言い返さず、ただ意識を失い倒れるハンターから目を逸らし涙を流していた。

 それが気に入らず、416はそばに近寄るとエグゼの肩を掴み無理矢理その目を倒れるハンターに向けさせた。

 

「見なさい、アンタの親友よ! どんなことがあっても見捨てないのが親友なんじゃないの、あんたの想いはその程度だったの!? 違うでしょう、楽しいときも辛いときもずっとそばにいてあげるものでしょう」

 

「うるせぇ、うるせぇよ……んなことは分かってる」

 

「やり直せばいいじゃない。何度でもね…また新しい思い出を作ればいいのよ」

 

 そう言うと、エグゼはそっとハンターへと手を伸ばし、彼女を胸に抱き静かに泣いた。

 

 そんな二人を複雑な表情で見下ろし、やがて416はその場を立ち去る。

 

 

「416……あなたにしては…熱い態度…じゃない」

 

 物陰に身をひそめ成り行きを見守っていた404小隊の面子が416を出迎える。

 喉を裂かれた箇所を治療したUMP45はまだガサガサしたような声でしか話せないようだが、見た目はとても元気そうだ。

 皮肉を言う彼女に、416はため息をこぼし、ジャラジャラと小銭の入った袋を取り出す。

 

「MSFの人形たちからね、もしもエグゼが不安定になったら助けてって依頼があってね。私としてはハンターは死んでくれた方が良かったんだけど……こんな面倒な依頼ならもっとお金をふんだくっとけばよかったわ」

 

「フフ……たまには…悪く…ないでしょ…?」

 

「最悪よ」

 

 




楽しい思い出も、幸せな思い出も二人で分かち合った。
 
哀しいときも、辛いときも二人で慰め合った。

もしも私がそれを忘れてしまったら、それを覚えているお前がどうか忘れっぽい私にもう一度教えて欲しいな。

それが、親友ってもんだろう?



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