「ほう……あんなバカ女でも、やはり単純な戦闘能力では鉄血の中でも一、二を争うということか」
廃墟のビルの屋上から、アルケミストは一人戦場を俯瞰していた。
眼下では集結する装甲人形や装甲機械の部隊がスネークとオセロットの二人を取り囲むようにして迫る。
しかしスネークとオセロットを相手に、装甲部隊はその能力を活かしきれず次々に撃破されている。
一方で、蠱毒の中で鍛えられ、ビッグボスとザ・ボスの戦闘データを基にしたAIと戦闘を行っていたウロボロスは、スネークとオセロットの二人とはり合っているようだ。
仲間であるグレイ・フォックスの援護のおかげもあるだろうが、電脳空間で果てしない闘争の末に生まれたという経歴は伊達ではないということだ。
スネークとオセロットに、特別な能力などは存在しない。
戦場の流れを本能で感じ取る天賦の才、常に状況が変わる戦場で最善の一手を見つける鋭い洞察力、長年の闘争と鍛錬により培われた確かな戦闘技術。
人外めいた特殊技術をもたない二人だが、それに勝るほどの能力を身に付けているのだ。
ウロボロスは強い、彼女はもはや仲間でも無い存在だが、それは認めなければならない。
グレイ・フォックス…彼はウロボロスがどこからか見つけてきた最高の逸材だ。
二人を同時に相手をすれば死は免れない…アルケミストは傲慢だが、敵の過小評価は決して行わない。
「ククク…羨ましいな…」
無意識にこぼれ出た己の言葉に、アルケミストは自嘲する。
ビッグボスの戦闘データはアルケミスト自身も目にしたもので、それまで下等な人間と侮っていた存在の中でそのデータは目を疑う存在だった。
いち早くその危険性に気付いた代理人が敵対することを避ける指示を出した理由も分かる。
アルケミストもその脅威を理解し、忠実に代理人の言いつけを守ってはいるが……。
「処刑人が魅了されるのも分からなくもないな。同じ戦いの中に生きる者として、是非とも戦ってみたい」
勝ち負けではない、互いの力を出し切る闘争にこそ本当の意味がある。
ビッグボスは果たしてどんな反応を見せるのか、どう戦いを受けるのか、興味が尽きないのだ。
あぁ…処刑人はこの狂おしいほどの渇望を抑え切れず、ビッグボスに挑んでいったのだなと、アルケミストは悟るのであった。
人形を拷問にかけ、断末魔の悲鳴を聞き悦に入るのとはわけが違う……。
「アンタみたいな奴でも、そういう顔するんだね」
屋上に響いた声に、アルケミストはゆっくり振り返る。
「おいおい、お前はこんなところに居ていいのかな? ここはお前の舞台だろう?」
「お生憎、怪獣たちに主役の座を奪われちゃったから私たちの舞台は閉幕よ。あなたは舞台に上がらないで観客気どりかしら?」
「そうとも。あたしはこの演劇をただ観て愉しむだけなのさ…見たところ、お前は裏方で色々忙しそうだなUMP45」
「
「アハハハハ! 言葉遊びはもう止めにしようか? ジャミング装置が欲しいのなら不意打ちでも奇襲でもなんでもすれば良かったものを」
「そんな野蛮なことすると思う?一声挨拶をと思ってね、淑女らしくさ」
「面白いことを言うね、淑女か…お前に最も相応しくない言葉だぞ。かわいい顔をして、その腹にどんなどす黒い汚物をため込んでいることやら。どちらかというと、お前はこっち側だろう?」
「失礼ね、わたしは世界で一番きれいな心の持ち主よ。さて、長話もそろそろ飽きてきちゃったし…」
その時、屋上の物陰から416が飛び出しアルケミストへ向けて引き金を引いた。
完璧な奇襲攻撃、しかしアルケミストはまるでその攻撃を予測していたかのように驚異的な速度で弾丸を躱し、凄まじい速さで416へ向けて走った。
不規則に動き翻弄するアルケミストは416の視界から忽然と姿を消す…いや、姿が消えたと錯覚するほどの速さで移動して見せたのだ。
気がつけば、416は背後をとられ銃を握る腕を拘束される。
「くっ、離せ!」
「お前ではあたしは殺せないさ。素質が違う、経験が違う、鍛え方が違う、潜り抜けてきた修羅場の数が違う。我々が人類と決別するよりもずっと前から、あたしは戦場にいたからね…お前たちなんて
「アルケミスト、あなたやっぱり…誕生以来一度も死なずに戦場に立ち続けただけのことはあるわね」
UMP45の言葉に、アルケミストは誇らし気に笑う。
拘束した416の頬に冷たい指を這わせ弄ぶアルケミスト…416はそんな彼女の指に噛みついたが、アルケミストは416の舌を引っ張り上げてなおも苛めて遊ぶ。
「まあ、そう言うことだ。戦場における
アルケミストは最後に一度、416の頬にキスをして突き放す。
咄嗟に振り返った416であったが、既にアルケミストの姿はなかった…。
「この高さから飛び降りるなんて、鉄血の人形っていよいよ化物染みてきたわね」
「あいつ…今度会ったら八つ裂きにしてやるわ」
アルケミストに散々弄ばれた416はおもわず毒を吐く。
そんな時、廃墟の向こうで爆発音が鳴り響き、高層ビルの一つが大きく傾きだした。
アルケミストとの戦闘で少し忘れていたが、あっちでも化物染みた連中が戦っている。
すっかり戦場という舞台の主役を奪われてしまったが、UMP45は裏方の役割を演じ切る腹積もりでいた。
「スネーーーク!」
基礎を破壊され、傾斜したビルの外壁を滑りながらウロボロスは兵装を開き小型ミサイルを発射させる。
スティンガーバースト…一発一発が人体を容易く吹き飛ばすほどの威力を持つ誘導式ミサイル、それを一斉に斉射させる。
倒壊するビルの瓦礫から逃れ、そのすぐ後を誘導されたミサイルが着弾していく。
スネークは走ったままの勢いで前転し、自身を付け狙う小型ミサイルへ向けて発砲、すべてのミサイルを空中で爆散させる。
爆炎と黒煙が巻き起こる最中、ウロボロスは大胆にもその火炎の中に飛び込みスネークへ肉薄する。
「くらえッ!」
爆炎の中を突き抜けて現われたウロボロスの渾身の蹴りを、スネークは咄嗟に受け止める。
華奢な身体からは想像もできない重い一撃にスネークは一瞬苦悶の表情を浮かべたが、すぐさま反撃に移る。
ウロボロスの二撃目の回し蹴りを屈んで避け、がら空きになったウロボロスの腹を肘で殴りつける…前かがみになったウロボロスの後ろ首へさらに拳銃の銃床を叩きつけ、その首を捉える。
「させるかーっ!」
だがウロボロスは意地でもって強引に突進し、スネークを押し倒しその上に跨る。
マウントポジションからの、振り抜かれた拳がスネークの横顔を殴りつける。
二発、三発…四発目をスネークは見切り、空振ったウロボロスの腕を絡めとる…。
ベキッ…。
腕の骨をへし折り、攻撃の手を止めたウロボロスを押しのけ、へし折った腕を掴みあげ、投げ飛ばす。
柔道の一本背負いの要領で投げ飛ばされたウロボロスはろくに受け身も取れず、背面より地面に叩き付けられた。
「おのれ……!」
関節を外された程度ではない…力なく腕を垂れ下げたウロボロスであるが、その闘志は衰えることは無い。
そんな時、激しい衝撃音と共にビルの建物の外壁が粉砕され、傷だらけのオセロットが転がり込んできた。
「くっ…やはり絶対兵士の被験体に選ばれたことだけはあるな」
砂煙の中より現れるグレイ・フォックス。
彼もまた全身を負傷しており、オセロットとの激しい戦いの様子を物語る。
この場において無傷の者はいない。
大小の差はあれど、互いに互いが付けた傷で血を流している。
グレイ・フォックスが動いた時、オセロットは目にも留まらぬ速さでリボルバーを引き抜く。
超人的な速さで接近するグレイ・フォックスは、自身に放たれた銃弾をブレードで斬りおとす…しかしグレイ・フォックスは突如足を止めてブレーキをかける。
その刹那、斜め方向より弾丸が掠め壁を抉る。
素早い射撃の中に、オセロットは跳弾を交えグレイ・フォックスの動きを牽制。
さらに足を止めた数秒の隙に
グレイ・フォックスが再び動こうとした時には、既にオセロットのリボルバーは弾丸を放っていた。
達人的な速射はグレイ・フォックスの反応を上回り、数発がさばききれず彼の身体を撃ち抜いた…。
「フォックス! くっ!」
仲間の窮地にウロボロスは一瞬目の前のスネークから目を離してしまう。
その隙をスネークが見逃すはずもなく、接近に気付き身構えようとした時には遅かった。
咄嗟にナイフをとった手は抑えられ、へし折られた腕は動かせず、普段なら防ぐことも出来たはずの技にも対処できず容易く地面に叩き付けられる。
「なぜだ……何故勝てん…! おぬしの行動や、戦術は全て見切っていたはずだというのに…!」
「お前は確かに強い、電脳空間でオレを倒したというのも嘘じゃないだろう。だがオレは、昨日よりも今日、今日よりも明日強くなることを意識し続けている。お前が倒したのは、過去のオレに過ぎない」
「真似事で勝てる相手ではなかったということか……フフ、所詮私は哀れな操り人形というわけか」
「オレはお前を許すことはできない。だが……お前がここまで強くなれたのは、並大抵の努力ではなかったはずだ。お前の向上心と闘争心は認めなければならないな……いいセンスだ」
「いい…センス…か」
ウロボロスは微かに目を見開くと、少しだけ誇らしげに笑った。
「わたしは己の存在意義を証明するため、常に力を渇望し続けてきた。だが……本当に欲しかったのは、違ったのかもしれんな。ビッグボス、あなたともっと早く出会えていたのならあるいは……いや、仮定の話しは止すとしよう」
おぼつかない足で立ち上がったウロボロスは、晴れ晴れとした表情でスネークを見据える。
そこには、それまでの傲慢で他者を見下していた表情は無い。
「蛇は、一人でいい……
ウロボロスの最後の攻撃、それはスネークまで届くことは無く彼の放った銃弾がウロボロスの胸を貫いた。
銃弾により貫かれた胸からおびただしい血を流し、ウロボロスは吐血する…。
そして彼女は力なくその場に崩れ落ちる。
スネークは銃を下ろし、グレイ・フォックスに視線を移す。
彼はウロボロスが倒れたと同時に、戦闘を停止させていた…。
「流石だなビッグボス。やはりあなたには敵わないな」
「フランク、お前はここで何のために戦っている。真意を聞かせろ」
「あなたと敵対することは決して本意ではなかった。オレは、その恩人である娘を救ってやりたかっただけだ…礼を言おう、ビッグボス。ウロボロスは最後には、呪いの輪廻から解き放たれたようだ。オレではできなかった事だ」
グレイ・フォックスはブレードを鞘におさめ、静かにウロボロスへと近付いていくとそっとその身体を抱き上げる。
「傷つき、死にかけていたオレはこの娘に救われた。それから甲斐甲斐しく看病されてな……似ているわけではないが、妹と重なって見えたんだ。これを返そう…アルキメデスの制御プログラムへの鍵だ」
投げ渡された端末をスネークは受け取る。
既にグレイ・フォックスに敵意はなく、オセロットも銃を下ろす。
「オレはこの世界で何かをなそうとするつもりはないが、オレは戦場からは離れられないだろう。オレは、この娘のために生きてみようと思う。さらばだビッグボス、機会があればどこかの戦場で会えるかもしれないな…」
ウロボロスの身体を抱きかかえ、彼は振り返ることなく、その場から立ち去っていった…。
ウロボロスとグレイ・フォックスが戦闘を停止させたと同時に、戦場に展開されていた装甲部隊もまた活動を停止させた。
グレイ・フォックスより渡された制御プログラムを開き、アルキメデスの発射コードも停止に成功する…。
そしてスネークは葉巻を一本取り出し、口にくわえる。
すかさずオセロットがライターの火を近づけた…。
「味の方はどうだ?」
「血の味がする…」
「お互い、年をとったな」
「ああ…さて、帰ろう。みんなが待っているからな」
「そうだな。新しい一日の始まりだ」
夜の闇が引いていき、空が明るくなってきた。
乾いた廃墟の街に、小鳥たちのさえずりが響き渡る…。
ウロボロス「フォックスお兄ちゃん!褒めて褒めて!」
グレイ・フォックス「生きる実感わいてきた」(至福)
ナオミ「は?」(憤怒)
大佐「全く度し難いな」
オタコン「君もオタクかい?」
ウロボロスは誰かに褒めてもらいたかったんや…でもどれだけ頑張っても、努力しても誰も認めてくれないからオラついちゃったんやな。
そんなウロボロスを、命の恩人として見捨てられなかったのがグレイ・フォックスさん…ちょっとご都合主義が強いけど、かんべんな!
というわけで、3章は終了…長かった。
次回からは4章だ!
4章のコンセプトはずばり"なんか色々辛いこと哀しいこと起きたけど全部忘れて楽しもうぜ"です。
犬もどきのパンドラの箱(おもちゃ箱)を開くときが来たぜ!
新しい戦術人形の仲間も増えるよ!
ほのぼのに全振りしてお届けする予定ですのでシリアスな空気はどっかに吹き飛ばせるといいな!