METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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ソレはいつもオレたちを支えてくれていた

「なあスネーク、うちもずいぶんと女性陣が増えたよな」

 

 任務から帰還しこれからシャワーでも行こうかと思った矢先、出迎えに来てくれたミラーが唐突にそんなことを言い始めた。無意識に周囲を伺うスネークは、傍に戦術人形がいないことを確認すると心底呆れたような目でミラーを見つめる。

 

「待てスネーク、アンタが言いたいことは分かっている。"また女に手を出そうとしたのか、今度やったら下水処理施設の掃除一年間だ!"とでも思っていたんだろうが、話しは最後まで聞いてほしい」

 

「お前がそれについて弁えているというのならそれでいい。それで、一体何の話しだ?」

 

「あぁ。実はマザーベースの大掃除をしたいと思ってるんだ。ここ最近はバタバタしていたから、色々と散らかってるしな」

 

「マザーベースはオレたちの家だ。住処をきれいにするのは大切だ、ここはジャングルじゃないんだからな。それで、カズ…その大掃除とMSFに女性が増えたことにどう関係があるんだ?」

 

 スネークの疑問にミラーはサングラスの奥から周囲に人影が無いことを確認する。

 周囲には警備兵の他、待機中の月光たちがヘイブン・トルーパー兵と日光浴をして休んでいるのみ…二人の周囲には特に誰もいない。

 スネークの肩に手を回し、小声でささやくミラーに、早くもろくでもない事態が発生したことを察する。

 

「先日、スタッフの一人がある物を持ちだしてシャワー室に入り込んだ。余程興奮していたんだろう、シャワー室が女性の時間だということにソイツは気付かなく、哀れにもワルサーに見つかって捕まったらしい」

 

「それは災難だな。それで、ソイツ何を持っていたんだ?」

 

「スネーク、分かるだろう? 男が一人こそこそ持ち歩いて見る物と言えば一つしかない」

 

「まさか…!」

 

「あぁ、雑誌(マガジン)だ」

 

 

 雑誌(マガジン)とは、過酷な戦場で性欲を持て余す男性兵士諸君のストレス解放のために用意された、戦場において欠かせないアイテムの一つだ。セクシーな女性の写真が載せられたそれを読めば元気になるし、明日からの過酷な戦いの励みにもなる。

 さらに雑誌の持つ力は万能であり、敵の注意を引きつけることもできるのだ!

 もちろん、女性には通用しないしここマザーベースではここ最近女性が増えたこともあり、内密にミラーからなるべくばれないようにという通達があったのだが…。

 

「ソイツは何だってシャワー室に雑誌を持ちこんだんだ?」

 

「よく分からんが、シャワー室で裸になって読むのが趣味だったらしい。とにかくそいつはワルサーに見つかり、PTSDを発症して医療班の世話になるくらいのトラウマを植え付けられたらしい。」

 

「PTSD…まあ、ワルサーがアレを見つけたらどういう反応を示すかくらいはなんとなく想像はできる。カズ、お前の言いたいことは分かった。これ以上男性スタッフが追い込まれる前に、基地の雑誌を回収しようという考えだな」

 

「その通りだ。女性陣に取ってアレは無駄に思えるかもしれないが、オレたち(男たち)にはなくてはならないアイテムなんだ。アレを集めるのにどれだけ苦労したか、アンタならわかるはずだ。オレたちの希望の書を、女性陣(男の敵)に焼き払われる前に安全な場所に移すんだ!」

 

「分かっている、あれには随分世話になった。すぐにやろう」

 

「スネーク、いやボス、アンタなら分かってくれると信じていた。マザーベースの男性スタッフには既に指示は伝えてある…各自が隠し持っている雑誌は、男性用宿舎に移す手はずになっているんだ」

 

 現在MSFの古参兵士たちはミラーの指示を受け、雑誌を手にそれぞれスタンバイしている状況にある。

 雑誌を喪失するということは戦場での癒しが失われるということに他ならない、これはMSFに所属する全男性スタッフにとっての死活問題なのだ。既にWA2000を筆頭に戦術人形()は警戒態勢に移っているという報告がある、警備隊であるヘイブン・トルーパー隊も厄介な存在だ。彼女らは直属の上司であるエグゼにすぐ告げ口するはずだ。

 

 

 作戦決行命令間もなくして、二人の無線機に通信が入る。

 

 

『こちらマシンガン・キッド。良いニュースです、倉庫に隠してあった段ボール一杯の雑誌は未だ無事です』

 

「でかしたキッド! 流石はうちのエリート兵士だ」

 

『悪いニュースです、倉庫の外に戦術人形が複数人。包囲されました』

 

「なんだと…脱出できそうか?」

 

『相手はWA2000、MG5、416。交渉も冗談も通じなそうな相手です……ボス、ミラーさん…どうやら、オレはここまでのようです。せめて最期は、男としてのプライドを貫き通したいです』

 

「キッド、何をする気だ! 早まるな!」

 

『ボス、ミラーさん。お元気で……さぁかかってこい、この先は通さん!』

 

 通信が途切れると同時に、倉庫のあるであろう方角から激しい銃声が鳴り響く。ミラーは通信機を握りしめ何度もキッドへ呼びかけるが応答はなく、やがて銃声が鳴り止んだ……キッドからの返答はない、それが意味することを察し二人は目を伏せる。

 

 

『ボス…! ミラーさん…! こちら、αチーム…!』

 

「どうしたんだ、無事か!?」

 

 

 通信機越しに聞こえるのは男性スタッフの震えた声だ。

 通信機越しに聞こえる小さな銃声にいよいよ緊急事態が迫っていることを察し、二人は焦燥する。戦術人形()の動きが早すぎる!

 

 

『部隊は、全滅です……相手は9A91とスプリングフィールドです…! ヒッ! き、来たぁ! うわああぁぁ!!』

 

「どうした! 応答しろ! どうしたんだ!?」

 

「敵の動きが早い…予想外の事態だスネーク! このままでは雑誌は全て焼き払われてしまう!」

 

「仕方がない…オレが行く。カズ、お前はここで仲間たちのサポートを頼む」

 

「いやスネーク、いいのか…?」

 

「あぁ、構わん」

 

 組織の最高責任者として、今日のこの事態を招いたのには自分の責任が大きい…雑誌をせっせと集めてみんなに配っていたのは自分なのだ、ミラーは女にだらしないところもあるが、この件について彼に責任を押し付けることはスネーク自身のプライドが許さなかった。

 

 麻酔銃を手に、散り散りになった部隊を捜索する。

 マザーベースの施設内は何故だか照明が落とされ、非常灯の赤ランプのみが不気味に光る。時折点滅する照明の灯りを頼りに通路を進んでいくと、大きな悲鳴があがり先の通路から腕を負傷した男性兵士が姿を現す。よろよろと壁にもたれかかった彼の傍に、鋭いブレードの切っ先が突き刺さる…エグゼだ。

 

「追い詰めたぜテメェ…よくもこんなもん隠しもってやがったな!? 発禁処分になった鉄血人形のカタログ…全部燃やされたと思ってたが…男はどうしようもねえな!」

 

「ヒィィィ! 誰か助けてくれ!」

 

 今にも殺さんばかりに激高するエグゼ、迷った末にスネークはエグゼめがけ駆け出した。

 走る音に気がついたエグゼはブレードを引き抜いて身構えたが、走り寄って来た相手がスネークだと分かると一瞬構えを解く。

 

「すまん!」

 

 エグゼを倒す前に一言謝罪し、スネークはエグゼのブレードを弾き飛ばし、彼女のがら空きの首元へと人形用の麻酔弾を撃ちこむ。人形用の麻酔弾は普通の麻酔弾よりも強力であったが、エグゼはしばらくもがいて見せる。やがて麻酔が全身を巡り、エグゼは昏倒した…。

 

「大丈夫か?」

 

「ありがとうございますボス!」

 

「エグゼに狙われるとは災難だったな。それで、この雑誌は?」

 

「鉄血がまだまともだったころの製品カタログですよ。諜報班が廃墟で見つけましてね、発禁処分前のレアものですよ。いやーこのデストロイヤーなんて可愛いですよね! それはボスにあげます、自分は全部脳に焼きつけましたから。ご武運を祈ります!」

 

 兵士にカタログを押し付けられたスネーク…無言でカタログをめくってみると、なるほど、エグゼが怒り狂って追い詰めようとするわけだ。鉄血の量産型人形の他、ハイエンドモデルと言われる人形も大まかなスペックと共にイメージ写真が載せられているが、写真の中にはきわどいものもある。

 眠らせたエグゼには悪い事をしてしまったと罪悪感を感じたスネークは、そっとそのカタログをエグゼのコートの下にしまい込む。流石に仲間をネタにすることは気が引ける…。

 

『スネーク、第二倉庫の雑誌の無事を確認したぞ。ただ巡回の目が厳しい、援護を頼めないか?』

 

 

 どうやら残った雑誌の確保に成功したらしい、ミラーの援護要請に応えスネークはその場を後にする。

 第二倉庫はスネークがいる場所から近い場所にある、先ほどのミラーの声からまだ見つかっていないことが伺える。そう思って外に出たスネークが見たのは、人形たちにリンチされぼろ雑巾と化したミラーの姿と冷酷な表情を浮かべるWA2000ら戦術人形の姿だ。

 

 

「ス、スネーク……すまん、しくじった……」

 

 

 散乱した雑誌はヘイブン・トルーパー隊が回収し、一か所にまとめられている。WA2000はミラーを絶対零度の冷たい目で見下ろし、416なども汚物を見るような目で見つめている。唯一、後方でUMP45が笑っているがおそらく彼女はこの事態を楽しんでいるだけだろう。

 

「ワルサーさん、いくらなんでもやりぎじゃ…大丈夫ですかミラーさん?」

 

「ダメよスオミ! 触っちゃダメ、あなたの手が腐るわ! 信じられないわ…マザーベースが変態の巣窟だったなんて!」

 

「ぐっ…男が変態で……何が悪い! きっとオセロットだって―――――ぐふっ!?」

 

「あんたら変態と!わたしのオセロットを!一緒にすんなッ!」

 

「グボァッ……!」

 

 既にボロボロになったミラーを踏みつけ、思いつく限りの罵倒をWA2000は投げかける。うつぶせの背を踏みつけるWA2000からは見えていないだろうが、今のミラーはどこか満たされているような表情をしているようだ……それはともかくとして、仲間の危機にスネークが前へ出る。

 

 

「スネーク? まさか、この変態どもの親玉が貴方だなんて言わないわよね?」

 

「いや、オレは…」

 

「待て! ワルサー、この件はオレが全て仕組んだことだ!」

 

「カズ!?」

 

 むくりと起き上がったミラーを再度WA2000は踏みつけ地面に這いつくばらせる。

 

"カズ、なぜだ!?"

 

"いいんだボス、オレには失うものはない。アンタの伝説に泥を塗るわけにはいかないんだ"

 

 

 そんなやり取りを、スネークとミラーは一瞬の視線の交錯で交わしあう。ミラーもまたオセロットと同様、伝説の傭兵ビッグボスに魅了された兵士の一人だ。心底惚れた男の伝説を、カリスマを、こんな事で汚すことは彼のプライドが許さなかった。

 

 

「いいわ、ならけじめをつけてもらおうじゃない。今この場で、この汚らしい雑誌を燃やしてもらおうじゃない。そうしたら、アンタの潔白を認めてあげるわ」

 

「くぅ、なかなか酷なことを……いいだろう、やってやろうじゃないか!」

 

 

 ミラーの決意表明にWA2000は彼の背を踏みつけることを止める。

 手際よくヘイブン・トルーパー兵が山積みの雑誌へガソリンをかけ、火のついた松明をミラーへと手渡した。

 

 静かに雑誌の山へミラーは足をすすめる。

 山積みになったにされた雑誌の前に立つと、浴びせられたガソリンのたちこめた匂いを嗅ぎ取った。松明の火を近付ければ引火し、この思い出の数々はあっという間に炎に包まれる。

男たちが戦場で戦い傷つき、心打ち砕かれようとされる時、ソレはすぐそばにあった。女っ気のない戦場で、孤独な男の世界の中で、ソレは何人もの男たちを慰め勇気付けてくれた。燃やしたくない、松明を手にするミラーは許しを乞うようにWA2000へと目を向けるが、彼女の目はただただ冷たい。

そして、志半ばで彼女たちに撃ち破られた戦士たちの悲哀の目がミラーに向けられていた。

 

しばしの沈黙の末、ミラーが歩を進める。

戦士たちは一様に俯き、その瞬間から目を背ける。自分たちを勇気付けてくれたヒロインたちが焼き払われる姿を、彼らは見る事が出来なかった。

ミラーが松明をゆっくりと雑誌の山へ近づけようとした時、その腕をスネークが掴み止めた。スネークは無言のまま松明を手に取る。

 

「一連の騒動の責任はオレにある。オレがやる…それで文句はないな?」

 

スネークの真剣な眼差しに、WA2000は何か言いたげに口を開いたが、何も言わずに小さく頷いた。

 

 

「お前たちの無念を海の藻屑にはしない…お前たちは、かけがえのない存在だ。MSFを代表し礼を言う、今までありがとう」

 

戦術人形に聞かれないよう、小さな声で呟いたスネークは の言葉をミラーはしっかりと聞いていた。

そしてついに火が雑誌に灯り、瞬く間に大きな火柱へと変化する。目標の炎上を目にした戦術人形たちは一人、また一人とその場を立ち去っていく。メラメラと燃え上がる雑誌の前で泣き崩れる兵士たち、彼らのすすり泣く声が、支えてくれた雑誌への鎮魂歌となるのだった。

 




スコーピオン「男の子がえっちなのは仕方がないのにね。可哀想だから人形たちの隠し撮り写真あげるから新しい雑誌作りなよ」(ビジネスチャンス)
ミラー「やったぜ」(歓喜)

ストーリー書き出す前の構想と書き終えた時の出来上がりが全く違くなる件、そーいうことない? ない?

年も変わるしそろそろシリアスの波動を解き放ってもいいよなぁ
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