METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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爆走!爆発!危機一髪!

 まだ日も登り切っていない時間帯、ガソリンスタンドの事務室で他の人形と並んでスリープモードについていたスコーピオンは唐突に身体をどつかれた衝撃で目を覚ます。いきなりの事に襲撃かと意識を覚醒させるが、スコーピオンが見たのは緋色の目で冷たく見下ろすアルケミストの姿だった。

 異変に気付いた他の人形たちも何事だと、眠たそうに目を覚ましていく。

 

「出発だ、1分で準備しろ」

 

「なんなんだよいきなり…! あ、おい!」

 

 アルケミストは人形たちの返答も聞かずに踵を返し部屋から出ていった。

 自分勝手な物言いに苛立つスコーピオンであったが、素早く身支度を整え愛銃とスコップを手にガソリンスタンドの外へと跳び出した。

 外では既にエグゼとハンター、そしてWA2000などが馬にまたがり出発の準備を整えていた。

 

「やっと来たかのろま共、さっさと行くぞ! 遅い奴は置いてくからな!」

 

 高圧的な態度のアルケミストに言い返そうと口を開いたスコーピオンであったが、先ほどと同じようにアルケミストは応答も聞かずに馬を走らせる。仕方なく遅れてやって来たスコーピオンらも慌てて馬にまたがり、先頭を走るアルケミストを追いかける。

 スプリングフィールドの後ろに跨るスコーピオンは、横で並んで走るエグゼとハンターに声をかけた。

 

「こんな朝っぱらからなんなんだよアイツ!?」

 

「デストロイヤーの救難信号を受信したらしいぞ! 姉貴のやつなんも言ってなかったのか!?」

 

「何も言ってないよ! まったく、仲間を助けたいのはこっちも一緒だっていうのに…!」

 

 前方を見れば、アルケミストの姿は小さくなっていた。

 さらに朝からの強風でまきあげられる荒野の砂塵によってアルケミストの姿は霞み、ついにはその姿を見失ってしまう。幸いにもデストロイヤーが救難信号を出したであろう座標はハンターが把握しているため、迷うことは無い。

 これまでのアルケミストの態度から、一人で突っ込ませて解決させればいいじゃないか、そういう考えがスコーピオンは浮かべるが…。

 

「早く姉貴に追いつこうぜ、デストロイヤーが死んだら大変だ!」

 

「エグゼ、あんた鉄血の元仲間だからって特別張り切ってるわけじゃないよね!?」

 

「いや、それは否定しないけどよ……もしデストロイヤーが助けられなかったら、97式がどうなるか分かったもんじゃねえぞ? 最悪八つ当たりにぶっ殺されるかも…」

 

「う、それも…そうだね…。みんな、大変だけどアイツに追いつくよ!」

 

 もう少し頑張ってくれよ、そう言いながらスコーピオンは馬の尻を叩く。

 MSF、及び404小隊の人形たちは馬を走らせ荒野を突き抜ける。

 強風でまきあげられた砂はいつしか砂嵐と呼べるほどの規模にまで発達し、風と共に吹きつけられる砂塵が彼女たちの身を容赦なく打ちつける。ぼろぼろのマントで素肌を保護し、ゴーグルを持っている者は装着する。

 注意しなければならないのは、砂が銃に入り込んで動作不良を起こすこと…人形たちは愛銃を布やカバーに包み込み、砂嵐から銃を保護する。

 

 

 少しずつ近付くデストロイヤーの救難信号が発せられた場所。

 

 砂嵐を突き抜けた先で、人形たちはうち捨てられたそれなりの規模の古い駅へと到達する。

 錆びつき放棄された列車が何両も並び、その中には脱線し横転した車両もあった。

 救難信号はその古い駅から発せられている。

 

 人形たちは到着するなり馬を降り、周囲の岩場や列車などに身をひそめ駅の方を注意深く伺う。

 駅正面には何台ものバイク及び車両があり、死体の皮を被った凶悪なギャングたちがたむろしている……そのまま監視を続けていると、悲痛な叫び声と共に、駅の中からデストロイヤーが髪を引っ張られながら引きずり出されてきたではないか。

 

 

「痛い痛いッ!止めて、離せってば!」

 

「ヒャハハハ、やっと捕まえたぞチビが! よくも仲間をたくさん殺してくれたな!」

 

 

 引きずり出されたデストロイヤーは、駅の前に集まっていたギャングたちの中へと放り込まれる。

 人間や動物の皮や肉を装着するギャングたちの恐ろしい姿と、無数の凶悪なまなざしに囲まれたデストロイヤーはただ涙を浮かべ震えあがっている。

 

 

「あいつら…! ぶっ殺してやる!」

 

「待ちなさいエグゼ! 何人いると思ってるの、うかつに突っ込んでみなさい、殺されるわよ!?」

 

 かつての仲間の危機にエグゼはブレードを手に突撃しようとしたが、WA2000とスプリングフィールドにつかまり物陰へと引きずり込まれる。

 

「見なさい、あいつらただの人間のチンピラじゃないわ」

 

「ええ、粗末なものですが車両は鉄板を溶接し重火器がとりつけられています。人数は見えるだけで100人近くはいます…装備も見てください、おそらく旧米軍のものですよ」

 

「だったらどうすりゃいいってんだよ!? それにアルケミストの姉貴はどこ行ったんだ!?」

 

 

 駅周辺にはアルケミストの姿はない…ギャングたちの様子からしてアルケミストがやって来た様子もない。

 

 怖気づいているわけではないが、必ず帰ってくると約束した手前無謀な状況に闇雲に突っ込むこともできなかった。何より、エグゼやハンターはともかくとして、スコーピオンらにとってはデストロイヤーを助ける義理など本来無かったのだ。

 依頼である以上きっちりと任務をこなす覚悟はできていたが、命をかける価値までは見いだせないでいる。

 

 だがそれでは97式はどうなる?

 様々な思いが彼女たちにこみ上げ、葛藤する…。

 

 そんな風に迷っているうちに、血に飢えたギャングたちはその狂気を目の前の少女へとぶつけていく。

 

 

「さてどう料理してくれようか? お前みたいなチビじゃまともな孕み袋にもなりゃしない。ただ殺すんじゃ面白くねえ…生きたまま全身の皮を剥いでやろうか? 手足を数センチずつ斬りおとしてやろうか? 磔にしてハゲワシに貪らせるのもありだな!」

 

「おい、こいつオレにくれ…! ペットにして躾けてやるんだ」

 

「うるせぇ下がってろバカが! おいメスガキ、まずはお前の面の皮を剥いでやる…痛いぞ、我慢してないと綺麗に剥げねえからな、大人しくしてろよ!」

 

「やだ…やだ…来ないでよ変態ッ!」

 

 

 逃げようとするデストロイヤーだが、何十人もの屈強な男たちに囲まれている状況では逃げることも敵わず、数人のギャングに抑え込まれる。ギャングの一人がマチェーテを手にデストロイヤーへと近付き、鋭利な刃を彼女の頬に押し付ける。

 鋭利な刃がデストロイヤーの頬を小さく切りつけ、うっすらと血がにじむ。

 恐怖心から声も出せないデストロイヤーは身体を震えさせ、命乞いするようにマチェーテを振りかざすギャングの男を見上げるが、男は残忍な笑みを浮かべるのみだった。

 

 

「もう我慢できねえッ!」

 

「ばか、エグゼ!」

 

 

 デストロイヤーの危機にエグゼはいてもたってもいられなくなり、仲間の制止を振り切り走りだし、ハンターもその後に続く。エグゼが突っ込んだ以上スコーピオンらも動かないわけにはいかない、ようやく覚悟を決めて物陰から飛び出していったが…。

 

 

「動くんじゃねえぞチビ、なるべく綺麗な状態で飾りたいからよ!」

 

 ギャングがデストロイヤーの髪を鷲掴みにして掴みあげ、彼女の顔を狙うようにマチェーテを振り上げる。

 WA2000は立ち止まりデストロイヤーを狙うギャングを狙おうとするが、間に合わない……誰もが助けられない、そう思った瞬間、物陰から凄まじい速さで飛び出したアルケミストがデストロイヤーを狙うギャングの刃を防いだ。

 アルケミストの突然の出現にギャングが驚き、その隙に彼女は持っていた銃でギャングの頭を吹き飛ばす。

 頭を吹き飛ばされた男の手からマチェーテを手に取ると、アルケミストはデストロイヤーを抑えつけていたギャングたちを瞬く間に斬り殺し、解放されたデストロイヤーの身体をその腕に抱く。

 

 

「ふん、汚い手でうちの妹分に触るんじゃないよ」

 

「アルケミスト……? 来てくれたの…?」

 

「待たせたね、デストロイヤー…安心しな、もう大丈夫だ。おっと…」

 

 

 感動の再会を果たした二人だが、仲間を目の前で殺されたギャングたちの怒りは一気に頂点へ達する。

 背後から振り下ろされたハンマーの一撃を軽く交わし、デストロイヤーを抱いたまま回し蹴りでその男の首の骨を折る。

 

 

「やろう、よくも仲間を…!テメェはそのチビと違って頑丈そうだな、手足をもぎって孕み袋にしてやろうか!?」

 

「バカかお前ら、人形のあたしらがそんな機能を持ってると思うか?」

 

「やかましい! やっちまえ!」

 

 

 その声と共に、ギャングたちの怒号が周囲に響きまわり、一斉にアルケミストめがけ凶器をかざし向かっていく。

 

 

「アルケミスト…!」

 

「大丈夫だから、目を閉じて掴まってな」

 

 

 怯えるデストロイヤーへ微笑みかけ、彼女が頷き目を閉じたのを確認すると、アルケミストは身をかがめ勢いよく走りだす。鉄血人形としての身体能力をフルに活かし、行く手を遮るギャングたちを弾き飛ばし、突破口を開く。

 だがギャングたちも負けていない、複数人の大男が行く手を阻む。

 平均的な人間より身体能力が高いとはいえ、複数人の男に抑え込まれればハイエンドモデルのアルケミストといえども抵抗はできない。

 

「デカブツが、このあたしを止められると思うなッ!」

 

 走る勢いのままジャンプし、手ごろなギャングの頭を踏み台にさらに高く跳ぶと、大男たちの頭上を飛び越えざまに脳天に銃弾を叩き込む。アルケミストの脅威的な身体能力に怯むギャングたち…。

 

 

「おいMSFのボンクラ人形ども! いつまで腰抜かしてんだ、さっさと戦え!」

 

 

 いまだ周囲を囲まれた状況の中でアルケミストは叫び、それに呼応するように現われたエグゼが豪快にブレードを振りぬき、一撃で複数人のギャングを斬り殺す。次いで現われたハンターが二丁拳銃を巧みに操り、アルケミストとデストロイヤーへの包囲をこじ開ける。

 

「遅いんだよばか」

 

「ケツの重い人形たちを蹴り上げててな……おい外道ども、オレたちを誰だと思ってんだ!?」

 

「SP721ハンター、貴様ら全員狩り尽くしてやる」

 

「頼もしいね、だが多勢に無勢だ。脱出するぞ」

 

 ハイエンドモデルが四人とはいえ、デストロイヤーの武装は破壊されており実質戦いに参加できるのは三人だ。

 屈強で命知らずのギャングたちを相手にするのには不利か…そう判断するアルケミストだったが、それはこの場にいるメンバーだけで考えた場合だ。

 

 突如、鉄血人形4人を囲むギャングたちの後方で大爆発が起こる。

 

「MSF突撃ッ! クズ共を蹴散らせ!」

 

 アルケミスト、そしてエグゼらの攻撃によってようやく重い腰をあげたスコーピオンらが包囲を外側から突き崩す。馬を走らせながらスプリングフィールドはギャングを狙い撃ち、身軽なスコーピオンがギャングたちの攻撃をかいくぐり、すり抜けざまにスコップでぶん殴っていく。

 そしてそれを援護するのはWA2000、彼女は素早く正確な狙撃で襲い掛かるギャングを仕留めていく。

 

「わたしたちも負けてられないわね」

 

「うぅ…あの人たち怖い…!」

 

「覚悟を決めて頑張ろG11! 45姉、わたしたちも行こ!」

 

「そうね。死なない程度に頑張ってね」

 

 事態を静観していた404小隊も動きだしたことでギャングたちの包囲も崩され、囲まれていたアルケミストらも脱出に成功する。

 彼女たちはギャングたちが持っていた車両やバイクを強奪しエンジンをかける。

 

「目的は達した、脱出するよ! まあ殲滅したいって言うならあんたらの勝手だがね」

 

「冗談でしょ、こんな変態どもに構ってられるかッ!」

 

 岩陰に隠れ撃って来るギャングに手榴弾を投げつけ、爆発と同時にスコーピオンらは奪い取った車両へと転がり込む。そこへ他のメンバーも合流し、それを見届けたアルケミストはその場から一気に離脱する。

 

「ふぅ、危なかった…」

 

「安心するのはまだ早いです」

 

 車を操縦する9A91はミラーで追いかけてくるギャングたちの軍団を目にする。

 相手はこのテキサスの荒野を走り慣れた集団だ、逃走する彼女たちとの距離をどんどん詰めていく。

 

「逃がすかメスどもがッ!」

 

 車の隣にバイクを並びつけたギャングがバイクを踏み台に車に飛びついて来ようとしたが、それを416が仕留める。バイクに乗るギャングは機動性において厄介だがまだ問題にはならない、問題なのは…。

 

「9A91、狙われてるぞッ!」

 

「分かってます!」

 

 後方の車から機関銃を乱射するギャングたち、狙いを絞らせまいと9A91がなんとかハンドルを操る。奪いとった車両も鉄板が打ちつけられているが、いつまでも銃弾を防ぐことはできない。

 何より敵の集団がどんどんとその規模を増していく。

 

「やろう、しつこい連中だ…ん?」

 

「どうした処刑人?」

 

 ふと、ハンターの運転するバイクの後ろに座るエグゼがまきあげられる砂塵の中に何かを見つける。

 それは凄まじい速度で逃走する彼女たちへ近づいてくるではないか…そしてその恐ろしい姿がはっきりと見え始めた時、ソレは轟音を鳴らして地面を吹き飛ばした。

 

 

「な、なんだありゃ!?」

 

「あぁ? うわ、なんだあれは!?」

 

 

 エグゼの驚く声に振り返ったハンターもまた、彼女と同じような反応を見せる。

 荒野に敷かれた鉄道の上を走る長く巨大な車両…車体を鋼板で補強し、多数の機関銃や火炎放射器、貨物車両に戦車や砲台を乗せた巨大兵器。その恐ろしい存在に他の人形たちも気がついた。

 

「冗談だろ、装甲列車なんて…!」

 

 装甲列車にはさらに多くのギャングたちが乗り込み、戦闘態勢を取っている。

 鉄道から逃れようにもテキサスの荒野は遮蔽物もなく、少しでも距離を離せば無数の銃砲火に晒されてしまう。貨物車両に載せられた戦車の砲台が動きだし、その砲口から恐ろしい威力の砲弾が撃ち込まれる。

 

 幸い、ギリギリのところで回避が間に合ったが、爆風で9A91らの乗る車両の装甲が吹き飛ばされてしまった。

 

「くそ…どうしたらいい…」

 

 危機的な状況にアルケミストは焦りを感じていた。

 そんな時、後ろでしがみつくデストロイヤーは銃声や爆音にかき消されないよう大声で叫んだ。

 

「このまままっすぐ進んで!」

 

「お前、正気か!?」

 

「うん、このまままっすぐ行って…このまま行けば、"南部連合"の領域に入るんだ!」

 

「南部連合?」

 

「そう、前にわたしの事を助けてくれたの……この国に秩序を取り戻そうとしてる組織だよ、アルケミスト、信用できるよ!」

 

「そうか、お前が言うんだからそうなんだろうな。乗ったよ、そうなるとあのバカどもをどうにかしないとな……全員聞こえるかい、このまま鉄道にそって突っ走れ。度胸のある奴はあの装甲列車の攻略に手を貸しな、以上!」

 

 アルケミストはI.O.Pの戦術人形にも拾える通信回線で指示を送る…混乱する人形たちの慌しい返信が返ってくるがそれらすべてを無視する。

 振り返り、もう一度見た装甲列車にアルケミストは苦笑する。

 

 

「あー…代理人にお別れ言っとけば良かったね」

 

「何言ってんの、わたしのこと助けに来てくれたんでしょ! 絶対に生きて帰るんだから!」

 

「やるしかないよな……ハハ」

 

 

 後方から猛然と近づいてくる巨大兵器に、アルケミストは珍しく胆を冷やしていた…。




負けたら薄い本(白目)


※登場した装甲列車は民間の貨物列車に鋼板を溶接したものであります!
レイダー共が生き生きしてて草も生えませんよ。


キャラに過去を付け加えると深みが増すという話しを聞いたことがあります。
というわけでアルケミストの過去を考えていたら投稿が遅れてしまった…。
この章のラストに番外編みたいなかんじで過去のお話を投稿したいな…。

アルケミストが仲間を大事にする理由、敵対者に残虐になれる理由を描く予定です。
美しくも哀しい、そんなお話

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