METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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荒野の追跡劇

 テキサスの荒野はもう何週間も雨が降らず、渇きに弱い動植物は死に絶えその死骸を漁るハゲタカたちが群がる。

 乾燥した荒野はちょっとの風が吹くだけで砂塵がまきあげられ、赤い砂が遥か空にまで舞い上げられる。

 砂嵐が止み、風も穏やかになった頃のことだ……無風の荒野で赤い砂塵が勢いよくまきあげられている。動物の死骸に群がる鳥たちも、その砂塵と爆音に何事かと目を向けている。

 そして砂塵の中から飛来した砲弾が鳥たちのすぐそばで炸裂し、驚いた鳥たちが一斉に飛び立った。

 

 まきあげられる砂塵の中から姿を見せたのは、装甲を施された完全武装の移動要塞だ。

 甲高い汽笛の音と、砲撃の凄まじい轟音を鳴り響かせながら、装甲を施された列車は荒野を爆走する。

 

「416、車両の足を狙って!」

 

 404小隊のリーダーであるUMP45の指示にすぐさま応え、416が装甲列車の車輪めがけグレネードを撃ちこんだ。悪路を走る中で狙いはどうしてもブレてしまい、榴弾は狙いを逸れて車輪を保護するように取りつけられた鋼板の装甲に阻まれる。

 まるでビクともしない巨大兵器に舌打ちをする416、装甲列車の天井部には土嚢を積みあげた機関銃陣地が造られ、ギャングたちがお返しとばかりに機銃の斉射で応戦してくる。銃撃戦の練度において404小隊やMSFの人形たちに劣るギャングたちだが、このテキサスの荒野で暴力を糧に生き抜いてきただけのことはある。

 彼らは死をまるで恐れていない、むしろ殺しあいにスリルを感じ悦に浸ってすらいる。

 グリフィンの影の部隊として数々の戦場を渡り歩いた404小隊も、このような相手をしたことは無かった。

 

「わわ! 45姉、悪党たちに追いつかれるよ!」

 

 後方から猛スピードで追いかけてくるギャングたちにUMP9は焦りだし、後ろに跨るG11は悲鳴をあげながらもなんとか追いかけてくるギャングたちを仕留めている。だがギャングたちの勢いは凄まじく、此方の銃撃をものともせず、一発二発程度の被弾ではひるまず突っ込んでくる。

 

「なんなのこいつら、人間なの!?」

 

「クスリでもやって痛みを和らげてるんじゃないの? それより416、レールを爆破して脱線とか狙えない?」

 

「無理ね、正面にまわり込んだら機銃と砲撃で吹き飛ばされるわ! かといってこのままじゃ一方的に狙われるだけ…」

 

「じゃあ、あれに乗り込んで内側から攻略するしかないわね」

 

「何を言ってるの!? そんなことできるわけ――――」

 

 その時、二人の隣を一台のバイクが猛スピードで追い抜いていったかと思えば、ちょっとした岩場ジャンプ台に高々と飛び上がり装甲列車の屋根へと乗り込んでいった。

 

「アイツ、アルケミスト!」

 

「鉄血にできて、私に出来ないわけないよね」

 

「ちょ、やめなさい45! 止めッ……いやああぁぁっ!」

 

 アルケミストがして見せたように、UMP45が岩場を使ってバイクを高々と飛び上がらせる。

 大声で笑うUMP45に大きな声で悲鳴をあげる416……着地は、アルケミストがして見せたように綺麗なものではなく、豪快に土嚢を吹き飛ばして二人は転げ落ち、かろうじて列車の淵にしがみつく。

 

「あははは…着地成功」

 

「どう見たって失敗よ! バカ、アホ! 一回メンタル叩き直してもらった方がいいんじゃないの!?」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないわよ416、敵が来るわ!」

 

 装甲列車へ乗り込んだ敵の排除に早くもギャングたちは続々と集まってくる。

 頭蓋骨を加工したマスクを被る悪趣味な悪党たちに悪態をこぼし、416とUMP45は応戦する。

 

 

 

 

 一方のMSFの人形たちだが、先行して装甲列車に乗り込んだアルケミストの後を追っていこうとしていたが、二台の車両に両脇を挟まれるピンチにあっていた。

 

「フヘヘヘヘ! 荒野の走り方ってのはな、こうやんだよお嬢ちゃんたち!」

 

 ギャングたちは車体をぶつけ、その度に9A91は車体の体勢を立て直し横転を防ぐ。厄介なのは味方もろとも吹き飛ばそうと狙ってくる装甲列車の砲台と火炎放射器だ。命知らずなギャングたちは反撃をものともせず肉薄し、何度か危ない場面があった。

 

「このままじゃやられちゃう!」

 

「わたしに任せて!」

 

 危機的な状況にWA2000が立ち上がる。

 猛スピードで走る車両の荷台へと這い上がると、両隣を並走するギャングに狙いをつける。装甲板でカバーされた運転席は生半可な銃弾ではびくともしない…だがWA2000は極めて冷静に狙いをつけ、引き金を引く。

 装填された徹甲弾は装甲の比較的薄い溶接箇所を貫き、車内の運転席と助手席にいたギャングの側頭部を同時に撃ち抜いて見せた。制御を失った車両は蛇行し、岩場に勢いよく衝突し、舞い上がる砂塵の中にその姿を消す。

 

「わーちゃん! 砲台が狙ってる!」

 

 スコーピオンの声にすぐさまWA2000は反応し、銃口を装甲列車の砲台へと向ける。

 装甲列車の砲口は真っ直ぐにスコーピオンらの乗る車両へと向けられていた…もう一台の車両が今だはり付く中で回避行動もまともに取ることができない。緊迫した状況の中で、WA2000は瞬時に砲台の覗き穴へと狙いを絞ると、一瞬の迷いもなく弾丸を放つ。

 放たれた弾丸は覗き穴を見事貫通し、血飛沫が小さな覗き穴から吹きだす。

 さらに数秒後、大きな爆発を起こし砲塔が勢いよく吹き飛んだ…どうやら中の砲弾か何かに命中し砲塔内部での爆発を招いたのだろう。大物を仕留めてもWA2000は慢心せず、いまだ隣を並走する車両の運転手を狙い撃って排除した。

 

「流石ですねワルサーさん、わたしも負けていられません!」

 

 同じ狙撃手としての血が騒いだのか、スプリングフィールドもまた荷台へと躍り出ると装甲列車の屋根から撃って来るギャングたちを狙い撃つ。機関銃の弾幕は厄介だが、機銃手が弾を撃ち尽くしたと見るや身を起こし、正確な射撃で目障りだった機関銃手を射殺する。

 

「邪魔者排除! 9A91、列車に横付けして!」

 

「分かりました!」

 

 9A91がハンドルを切って車両を横付けすると、スコーピオンらは素早く装甲列車へと乗り込んでいく。運転をしていた9A91はそばにあった鉄パイプでハンドルを固定し、一緒に乗っていた97式を伴い列車へと飛び移る。

 

「みんな無事だね!? じゃあ行くよ、トレインジャック作戦開始だーッ!」

 

 スコーピオンを斬り込み隊長に、MSF人形部隊は勇猛果敢に突撃を開始する。

 それまで牽制程度の射撃しかできていなかったスコーピオンであったが、不安定な列車場とはいえ確かな足場を得た彼女は得意のフットワークを十分に活かしギャングたちの攻撃をかいくぐり至近距離からの連射、あるいは特製スコップで殴り倒していく。

 

「どりゃーーッ!」

 

「ちくしょう、なんだこいつらは!? ええいなんとかしやがれ!」

 

 列車に乗り込まれたことで焦りを感じていたギャングたちは人形たちの猛攻に怯みつつある。

 銃剣を装着し近接戦にも対応するスプリングフィールド、先ほどまで運転に集中していた9A91もまたそれまでの鬱憤を晴らすかのように獅子奮迅の活躍を見せる。

 

「アバズレ共が、調子に乗りやがって!」

 

「やかましい! 全員ぶちのめしてやる!」

 

 列車の屋根で繰り広げられる激しい銃撃戦、そして車両の中でもまた404小隊のメンバーが熾烈な撃ち合いを続けている。ギャングたちが接近戦を控え、銃撃戦に集中するようになると人形たちの快進撃も止まってしまう。

 さらに悪いのは、銃撃で足を止められれば背後から彼女たちがして見せたように、ギャングたちが列車に乗り込んで来て挟みうちにされていく状況だ。

 

「まずいわ、どんどんあいつらが乗り込んでくる!」

 

 後続車両には次々にギャングたちが乗り込んで来ては、その度に銃撃が激しくなってくる。勢いづいたギャングたちも徐々に距離を詰めていく…ゆっくりと、確実に追い詰められていく人形たちにも焦りが見えはじめる。

 逃げ場のない状況の中でスコーピオンは、ギャングたちの中から異様な姿をした巨漢を目にする。

 大きな牛の頭蓋骨を被り、鋼板を削り加工した粗雑なアーマーで身を固め、手には巨大な斧が握られている。

 

「ヤバい!なんかヤバそうなの来たよ!」

 

「屈んでなさい!」

 

 WA2000はライフルを構え、近付く巨漢に狙いを定めようとしたが、車両をよじ登ってきたギャングの一人に組みつかれて阻止される。

 

「捕まえたぜ! ハハ、やっぱり上物だ! 手足を斬りおとしておもちゃにしてやるぜ!」

 

 ギャングたちが身体にまとわりつかせる腐肉の悪臭にWA2000は思わず顔をしかめる。

 その表情が怯えている者だと勘違いし、相手は所詮女だと油断しているようだったがその男は知らなかった……組みつくその人形が、MSFでも五本の指に入るほどの実力者であることを。

 戦闘の素人風情が、何より……オセロット以外の男にまとわりつかれたこの状況に、WA2000は激怒し、組みつくギャングの顔面に拳を叩き込み、のけぞったところに渾身の回し蹴りを放つ。彼女に組みついていたギャングは情けない声をあげて、車両から叩き落されていった。

 

「もう…頭に来たわ! 全員仕留めてやるわ!」

 

「うわ、わーちゃんがキレた!」

 

 オセロット以外の男に触られたことで彼女の怒りは一気に頂点へと達し、その怒りの矛先は前方から接近する斧を持った巨漢へと向けられる。

 

「こんのデカブツめ! さっさと死ね!」

 

 接近する巨漢の頭部めがけ銃弾を放ったが、頭部の被り物が放たれた弾丸を弾いた。

 驚き目を見開くWA2000…どうやら頭部の被り物は骨ではなく、頭蓋骨を模した鋼鉄のヘルメットであったようだ。滑らかな曲線に加工されたマスクは徹甲弾の一撃を弾き、クスリで鈍感になった痛覚はアーマーを貫通する銃撃でも止められない。

 猛牛のような雄たけびをあげて、巨漢のギャングは斧を振りかざして突っ込んでくると、その凶悪な一撃を振り下ろす。

 重量のある斧の一撃は鋼鉄の車体を一発で吹き飛ばし、大きな亀裂を生じさせる。

 下で戦っていた404小隊も突然の衝撃に驚いたことだろう。

 

「化物め…! さすがアメリカね!」

 

 人間とは思えない威圧感に冷や汗を流す。

 獣のような咆哮と共に巨漢は斧を振り回し、スコーピオンらの隠れる土嚢ごと破壊し暴れまわる。こいつだけを相手にできれば状況も変わるのだろうが、後方からは武装したギャングたちが接近しつつある。

 絶体絶命だ……だが…。

 

「うぐっ!?」

 

 突如、巨漢のギャングの動きが止まる。

 見れば、男の首元から血に濡れたブレードが突きでているではないか。

 

「大物ゲットだクソッたれ!」

 

「エグゼ! やっちまえ!」

 

 仲間の危機に駆けつけたのはエグゼだ。

 首を貫かれた苦痛に膝をついた巨漢、エグゼは男の首を絞めあげるとギリギリと捩じ上げる…断末魔の叫び声をあげる男にエグゼは笑みを浮かべ、ブレードの刃をねじり、一気に力を込める。

 ブレードに斬り裂かれた首の肉がズタズタに引き裂かれ、男の首が脊髄ごと引きちぎられる。

 

「っしゃおら! やったぜ!」

 

「エグゼ…やれって言ったけどさぁ…」

 

 脊髄をぶら下げる生首を掲げるエグゼに、スコーピオンらは顔を真っ青にさせていた…。

 

 それはともかくとして、エグゼとハンター、そしてアルケミストが装甲列車の前方から敵を駆逐してきたおかげで挟みうちの状況は打破される。とはいえまだまだ危機的な状況に変わりは無い。

 際限なく現れるギャングたちに、一体どれだけの規模の集団なのだと、考えるだけで恐ろしくなってくる。

 テキサスの荒野に君臨する一大勢力という話しもあながち間違いではなさそうだ…。

 

「ちっ、キリがないな…!」

 

「そうでもないよ」

 

 愚痴をこぼすハンターに対し、デストロイヤーは妙に勝ち誇った表情でそう呟いた。

 何がそんなに自信があるのかと疑うハンターは、デストロイヤーが見つめる一点へと視線を向けた…。

 

「あれは……なんだ?」

 

 広大なテキサスの荒野の先に、ギャングたちとはまた違った車両の集団が見えた。

 目をこらし見て見れば、それらの車両はギャングたちが使っているような粗末な装甲車ではなく、軍事用に作られた正真正銘の装甲車であった。

 謎の集団が掲げているのは、赤字に青のサザンクロスが描かれた旗であった。

 

 

「南部連合だッ! ディキシー共が来やがった!」

 

 

 ギャングのうちの誰かがそう叫ぶ。

 すると途端にギャングたちは人形たちへの攻撃の手を止め、接近する別な車両の集団へと意識を集中させた。

 

「おいデストロイヤー、あいつらはなんなんだ!? あれがお前が言ってた南部連合か!?」

 

「そ、そうだよ! たぶん助けてくれると思うんだけど…」

 

 そう言った矢先、荒野の先できらりと何かが光ったかと思った次の瞬間、装甲列車の後続車両の一つが大爆発を起こし吹き飛んでいった。

 

「おい攻撃してきたぞ!? どーすんだよ!?」

 

「う、わたしも知らないよ!」

 

「ちっ、使えねえ!」

 

 南部連合と思われる勢力からの砲撃はさらに続き、その砲撃はギャングたちを狙っているのは明らかなのだが、列車に乗る人形たちの事は認識していないのか列車に対しても容赦なく砲撃を浴びせてくる。

 このままでは砲撃の餌食にされる……。

 

「連結部よ、車両を切り離すわよ!」

 

「それだ、みんな手をかして!」

 

 装甲列車を切り離せば相手も何らかの異変があることに気付いてくれるはず…そんな淡い期待を込めて人形たちは前方の車両を目指し、一部は残ったギャングの掃討にうつる。

 

「こいつを切り離せばいいんだな」

 

「いくよ、せーのッ!」

 

「うりゃーーーッ!」

 

 錆びつき固く連結された車両を、エグゼ、スコーピオン、ハンターの三人がかりで引き離す。

 もたもたしていればギャング共々吹き飛ばされてしまう、そんな思いからか普段以上の力を発揮して見せるがあと少しのところで届かない。そんな時、97式が駆けつけ微力ながら力を貸した。

 終始怯えてばかりだった彼女であるが、戦術人形としての力を活かし、それが加わった結果ようやく連結部が離れだす。

 

「ふー…ありがとうね97式!」

 

「い、いえ…きゃ!?」

 

 ホッと安堵した瞬間、97式の身体が引き離された車両へと引きずり込まれる。

 

「逃がすかよ…テメェら、南部連合とグルだったのか!? 許さねえ、八つ裂きにしてやるぜ!」

 

 97式を捕まえたギャングが拳銃を彼女の頭につきつけたが、その引き金が引かれる前にハンターの銃弾が男の眉間を撃ち抜いた。解放され、へたり込む97式…。

 

「97式、早くこっちに跳ぶんだ!」

 

 連結を解除された車両は徐々に離れていく。

 南部連合からの砲撃も激しさを増し、いつ砲弾が命中してもおかしくはない。必死に手をのばすスコーピオンであったが、97式は何かを躊躇うように顔を俯かせている。

 

「97式早く!」

 

「スコーピオン…! アイツは」

 

「うるさい! 97式、なに考えてるか知らないけど、考えるのは後にして!」

 

「スコーピオン…あたし……」

 

「こんなところで終わっちゃダメだ! 諦めるなっ! 97式…!」

 

 スコーピオンの必死の呼びかけにもまだ97式は足を踏み出せないでいる……彼女のそんな姿に、スコーピオンはこの前UMP45に言われた言葉を思いだす…。

 

 

"大切な家族や仲間たちをみんな失って、毎日毎日救えなかった命を悔やむ日々…苦しみに苦しみを重ねた末に誰もが考えることだと思うの、こんな苦しみから解放されたいって。そしてそれを解決する方法は一つ…"

 

 

 今の97式が何を考えているのか、理解できた…だがそれは、絶対にあってはならないことだ。

 迷う97式に、スコーピオンは微笑みかける。

 

 

「辛いよね、全部投げ出して終わりにしちゃいたい気持ちもわかるよ……過去は変えられないよ、それは事実だ。だけど、未来なら変えられるんだ。明るくて楽しくて幸せな未来を作ることだってできる。そしてそれはほんの小さな勇気で叶えられるんだ……97式、あんたの勇気を見せてよ」

 

 微笑みかけるスコーピオンの言葉に、97式は泣きそうな顔で唇を噛み締める……そうしている間にも車両は少しずつ離れていく。もう助けられない…そう小声で諭すエグゼだが、スコーピオンは諦めず97式を真っ直ぐに見続ける。

 彼女の勇気を信じ続けて…。

 そして…。

 

 

「スコーピオン…あたし……!」

 

 彼女の目には迷いがあった、ただそんな中に、生きていたいという確かな意思を感じ取る。意を決して跳んだ彼女であったが飛距離が足りない…その足りない分を、スコーピオンが命がけで手を伸ばして補う。

 スコーピオンの手が97式を掴んだとき、エグゼが勢いよく二人を列車へと引っ張り込む。

 

 

「こんのバカ野郎! 危ないだろアホ! お前が死んだらスネークにどんな顔して会いに行けってんだよ!」

 

「アハハハ、結果オーライだってば……」

 

「うるせぇ! ったくこいつだけはまったく…」

 

 

 怒りながら立ち去るエグゼを見届けた後、スコーピオンは未だ息を乱す97式をそっと抱きしめ、その髪を撫でてあげる。

 

「頑張ったね97式…えらいえらい」

 

 震える彼女の身体を抱きしめると、97式は小さくすすり泣く。彼女が見せた小さな勇気…それはちっぽけなものだったが、何よりもそれがスコーピオンに取って嬉しかった。

 

 引き離された車両と距離が開き、そのうち砲撃が命中し吹き飛ばされる。

 南部連合の砲撃はどうやらスコーピオンらを狙っていないようだ…。

 そのうち砲撃も銃声も聞こえなくなり、ただ列車がレールの上を走る音だけが鳴り響く……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、列車はテキサスの荒野を抜け、ある駅舎で停車した。

 駅のホームには武装した兵士たちがずらりと並んでいる……個体差はあるが人間の兵士ではない。鉄血が扱う装甲人形Aegisに似た外見だ。

 駅のホームに停まった車両を取り囲むが、そこに威圧感はなく逆に歓迎のムードがある。

 

 緊張した面持ちで降り立つ人形たちを前にして、相手方の人形たちは手を広げ歓迎の意思を示す。

 

 

「ようこそアメリカへ、我々はあなた方を歓迎します…あぁ、なんと…デストロイヤーさん。お久しぶりですね」

 

「や、やぁ」

 

 

 声をかけられたデストロイヤーは気まずそうに手をひらひらと振る。

 そのとたん、取り囲む装甲人形たちが和んだように感じられる。

 

 

「道中は大変でしたね。どうぞこちらへ、ゆっくりお休みください」

 

「待って、歓迎ムードは嬉しいけどアンタたちは何者なの?」

 

 WA2000の問いかけに、その装甲人形はぺこりと頭を下げて謝罪する。

 

「これは失礼しました。我々は旧アメリカ合衆国陸軍第1機甲師団の軍用人形です。仕えるべき政府は無くなってしまいましたがね…」

 

「ここに居るのは、人形たちだけなの?」

 

「はい、そうです。他にも欧州から渡って来た自立人形もおりますよ。今はあの栄光ある旗の下、法と秩序を取り戻そうと活動しているところです。さあ、お疲れでしょうからこちらへ…暖かいベッドやお食事を用意しますよ」

 

 

 妙に好意的な人形たちに、逆に疑ってしまうが、おそらく本当に善意なのだろう…。

 ひとまず警戒をしつつ、彼らに付き従うこととする…。

 ふと、WA2000は先ほど人形が指さした旗を見上げる……。

 

 

「勘違いしてるのかしら? いや、本気で信じてるなら言わない方がいいのかしら…」

 

「どうしたのわーちゃん?」

 

「なんでもないわ、行きましょう」

 

 

 駅のホームにひるがえる旗、それはかつてこの国を二分したもう一つの国家の旗印であった。




ちょっとわーちゃん強すぎんかな…。

この作品において命を助けるのはスネークだけど、心を救うのはスコーピオンが最多かな?
ともかく、97式は一歩踏み出せたね…。


さてアメリカ第二の勢力、南部連合の簡単な説明

旧アメリカ合衆国陸軍第一機甲師団の生き残りが主体となって造り上げた組織で、アメリカ軍の装備を持ち最も強力な軍事力を持つ勢力の一つ。
他にも警察組織や移民などをくわえて構成しているが、特色はそのすべてが自律人形及び軍用人形で構成されていること。移民の中には欧州のロボット人権団体がアメリカ大陸へ渡らせた個体もいる。
旧軍の残党ということで、旧政府の意思を引き継ぎ法と秩序の回復に邁進し、自由と平等を掲げる……が、バグか勘違いか掲げるべき国旗を間違えている。
皮肉にも本来の星条旗ではなく、南部連合旗をシンボルとして掲げてしまっている。

※南部連合旗=南北戦争時に南軍が掲げた国旗
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