METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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マザーベース:舞い込む仕事

 MSFの創始者であり組織のカリスマ的存在であるビッグボスことスネーク。

 そのカリスマを隣で支え、MSFをビジネスの軌道に乗せ大きく成長させたミラー。

 MSFへ正式加入はしていないが、今やMSFには欠かせない存在となっているオセロット。

 

 人間や人形を含め、MSFに属する者からは畏敬の念を抱かれる組織の重要人物である彼らは今、マザーベースの司令部に集まり最近提出された報告書を読んでいた。 

 それは先日帰還したアメリカ遠征隊の作戦報告であり、オセロットの希望で纏め上げられた資料である。

 ちなみに最初はスコーピオンが報告書をあげたのだが、その内容というのがあまりにも酷く余白部分に"アメリカは凄かった!"という、ガキでも書ける中身のない内容であった…提出して即座に、目の前でオセロットにびりびりに破かれたことは言うまでもない。

 

 他にも9A91やスプリングフィールドの報告書も挙げられていたが、情報が多く参考にできる資料を付随して提出されたWA2000の報告書が選ばれてMSFトップスリーに閲覧されている。

 

「現地の様子はオレたちが想像しているよりも遥かに過酷な環境のようだ。E.L.I.Dの汚染は他の地域と比べ少ないようだが、放射能汚染は欧州とは比較にならないほどだ。場所によっては数秒で人間が死に至るほどの重度の汚染地帯も存在する」

 

「世界が違うとはいえ、オレたちの育った国が崩壊しているさまを見るのは胸に来るものがあるな」

 

「核戦争が止められなかった世界、だが核は人類の争いの歴史に終止符を打てなかった。人はまだ戦争を続けている、秩序が失われたことで世界中で紛争が起こっている。こんな形でオレたち兵士の需要が高まるとは、皮肉なものだ」

 

 スネークの言葉にミラーは頷く…だがその兵士すらも、この世界では戦術人形という存在が生み出されて代替されている。戦争の張本人である人類が安全な都市に立てこもり、生み出された機械の兵士たちが人類に変わって戦う…ある種の代理戦争が行われている。

 

「核で崩壊したアメリカだが、一応生き残りの組織などがあるようだ。無法をいいことに略奪に手を染める野盗、ワルサーらも交戦した連中だ。それと、この南部連合という組織」

 

 WA2000以外の報告書にも名前が挙げられている南部連合という組織。

 調査した末に分かったことだが、彼ら自身は南部連合という呼称は使わず単に旧アメリカ軍と名乗り秩序の回復を願い勢力圏を広げているらしい。

 テキサスからフロリダの一部までを版図におさめる彼らは、間違いなく現在のアメリカで最大の勢力だろう。

 

「面白い連中だ。元はアメリカ合衆国陸軍の軍用人形が、何らかのエラーで国旗を星条旗ではなく南部連合旗と認識しているらしいな。リンカーンが見たらさぞ驚くだろうな…スネーク、みんなからの情報では彼らは風変りだが比較的穏健な組織らしいな。もしまたアメリカに行く機会があったら、彼らを頼ってみてもいいんじゃないか?」

 

「そうだな、だが危険で実入りの少ない場所に何度も行かせるもんじゃない。任務中も何度か危ない目に合ったと聞いたぞ」

 

「まあ、それもそうだな。MSFとしてはまだ優先的にやらなければならないことも多い、他の事に気を配っている余裕もないだろうからな」

 

 バルカン半島で落ちてしまった戦力の補強、MSFの抑止力たるサヘラントロプスの建造、そしてそれを可能とするための資金の獲得…つまりは兵士たちの戦場への派遣だ。

 幸い…と言っていいのか微妙なところだが、世界にはまだまだ争いの種が尽きることは無い。

 争いがある限り、MSFには絶えず仕事が舞い込んでくる。

 

 そんな中でMSFの運営を取り仕切るミラーが最近頭を悩ませるのが、とある国家から依頼されたこの世界ならではの仕事…すなわち都市運営だ。

 大戦後、行政を行う力を失った国家に替わって地方都市の運営や治安維持を行うようになったのがPMCだ。

 通常なら入札でその権利を獲得するらしいのだが、某国から直々に名指しでMSFが指名され、今はミラーとスネークが慎重に協議を進めている……もしも都市運営に携われば安定した資金の獲得源になるが、MSFが掲げる理想を考慮し辞退するべきではという考えもある。

 まあ、現状MSFとしてはエグゼがかつて占領していた工場地帯をそのまま占有し実行支配していたりと、それなりにやることはやっているので今更ではあるのだが…。

 

 

「とにかく、アメリカについては今は手だししない。しばらくは――――」

 

「あら、せっかく面白い発見があったのに手を引いちゃうの?」

 

 

 耳元をくすぐるようなその声に、三人は司令部の入り口へ振り返る。

 そこにいたのは404小隊のリーダーUMP45。

 最近アメリカから奇妙なやかましい軍用人形を連れ込んだとして、オセロットとWA2000に睨まれているが…。

 

「UMP45…お前、何を勝手に―――」

「いらっしゃい45ちゃん! さぁさぁそんなとこにいないで、こっちに来て一緒にコーヒーでもどうだい!?」

 

 邪険に扱うオセロットとは対照的に、ミラーは現われたUMP45に大はしゃぎで席を用意しどこからかお菓子とコーヒーを用意する。

 先ほどまで真面目に協議していた男の変貌に、オセロットとスネークはあきれ果てているが、ミラーは全くお構いなしだ。

 

「それじゃお邪魔しまーす」

 

「邪魔だ失せろ」

 

「オセロット、レディーにそんなこと言っちゃいけないじゃないか。そんなんじゃ、モテないぞ?」

 

「どうでもいいことだ。ミラーでは話しにならん、ボス…前々から忠告しているがこの人形を野放しにしておいていいことは無いぞ」

 

「お前の言いたいことも分かるが、少なくとも彼女たちはスコーピオンたちを助けてくれた。あまり邪険にすることもないだろう。だが忠告は覚えておく、油断はするつもりはない」

 

「それならいい。で、何をしに来たんだ?」

 

 ミラーが用意した席に座り早速コーヒーをすするUMP45に厳しい視線を向けるオセロットだが、UMP45は予想よりも苦いコーヒーに渋い顔をしている。

 苦いコーヒーをそっとテーブルに置いたUMP45はポケットから一枚のディスクを取り出しテーブルに置いた。

 

「なんだこれは?」

 

「なんだと思う? 知ればあなたたち、いやあらゆる組織が欲しがる情報がここにあるわ」

 

「45ちゃん、もったいぶらずに教えてくれ、それは一体何なんだい?」

 

「わたしも偶然手に入れたもの……合衆国の"遺産"よ」

 

 遺産…その単語に何か思い当たる節があったのだろう、一瞬スネークとオセロットは目を見合わせた。

 それまでUMP45を邪険に扱っていたオセロットの目が変わったことはUMP45も分かったのだろう、話しを聞いてくれる状態になってくれたことに気を良くしたのかにっこりと笑う。

 

「アメリカの任務は鉄血のデストロイヤーを助けて、その見返りに97式を解放するのが条件だったよね。でもわたしは何故デストロイヤーが、アメリカに行っていたか気になっててさ……こっそりデストロイヤーの荷物を拝借したの」

 

「それが、このディスクか?」

 

「まあ、本物は返してこれは複製だけどね。怪しまれたらアルケミストに殺されてたかもしれないしさ。ねえ、知りたいと思わない? 鉄血のハイエンドモデルが、危険を冒してまで手に入れようとしたこの情報をさ」

 

「何を見返りに求めるつもりだ?」

 

「オセロット、やっぱりあなたとは気が合うのね。そうね、ただではこの情報をあなたたちにあげられない。ちゃんとした仲間じゃないしね」

 

 やはり、UMP45は手に入れたその情報を簡単に手渡したりはしない。

 オセロットとしても目の前の人形が損得抜きの善意で協力をしないと分かっているからこそ、常に目を光らせ、一番の教え子であるWA2000にもそう言い聞かせている。

 気になるのはUMP45が持ちかける取引の内容だ。

 404小隊がグリフィンから報酬として受け取っているものがなんなのかは分からなかったが、おそらくは資金や物資、資材といった活動をするのに欠かせないものだろうとオセロットは考える…だが、UMP45が提示した取引は、彼の予想外のものであった。

 

 

「わたしが見返りに求めるもの、それはわたしたちとの同盟よ」

 

「同盟だって? 一体何を…それは、グリフィンとの同盟ということか? 生憎だがそれは無理だ、MSFが掲げる理想は君も知っているだろう。オレたちは如何なる国家、組織、思想、イデオロギーに囚われない。協定を守るグリフィンとの同盟は、その思想と相反するものだ」

 

「そうじゃないわミラーさん…わたしたちというのは"404小隊"っていう意味。ご存知わたしたちはグリフィンでは"存在しない部隊(404 not found)"、グリフィンの正規の部隊の影で活動する私たちはグリフィンの支援を受けられない場合もある。今まではそれでもうまくいっていたけれど、これから先はどうなるか分からない」

 

「グリフィンという上部組織を抜きにして、部隊としてオレたちと取引をしたいというわけか」

 

「そう言うこと。グリフィンは今鉄血の問題で躍起になってるけれど、もっと大きな出来事がこれから起こるかもしれない。そうなった時、協定に縛られたグリフィンでは対応が遅くなる場合がある。そんな時のために、わたしたちはMSFとの繋がりが欲しいの」

 

「なるほど……オレたちとしては不用意にグリフィン側といざこざを起こしさえしなければ構わないと思うが…」

 

 常日頃からUMP45にメロメロで骨抜きにされてしまっているミラーであるが、今回は真面目に考えての結論だろう。意見を求められたスネークも少しの間悩む素振りを見せ、ミラーに同意…つまりUMP45の取引を受け入れる。

 後はオセロット一人…とは言っても、彼もまたMSFという組織には正式加入していない客人という立場であるため、組織のツートップが受け入れた以上は口出しすることは出来ないのだが…。

 

「ボスとミラーが決めた以上、オレは口出ししない。だがこれだけは言っておく……お前がボスに不利益を与えると思った時、オレがお前を排除するべきだと考えた時、お前を完全に信用できなくなった時は容赦しない。例えそのことでボスを怒らせることになったとしても、オレは確実にお前を殺す」

 

「ええ…理解してるつもり。まだ死にたくないからね」

 

 オセロットの言葉にUMP45はいまだ愛嬌のある笑顔を浮かべていたが、内心では彼の放つ威圧感に圧倒されていた。隠密や諜報は404小隊にとって得意分野だと自負していたが、上には上がいる…そう思う理由が彼の存在にあった。

 そしてUMP45が敵わないと思う理由が、オセロットのビッグボスへの信仰めいた崇拝にある。

 買収も脅迫も通用しない、仲間ではないが少なくとも敵ではないこの状況にUMP45は安堵する。

 

 

「まあそれはいいとして、この中にはなんの情報が入っているんだ? ただのコメディー映画だとか、そういうオチはないだろうな?」

 

「わたしも中身を探ろうとしたんだけど、暗号化されて解読できなかったの。でもここにはストレンジラブ博士とかヒューイ博士とか居るでしょう? あの人たちなら解読できるんじゃないかな……ま、盗み聞きした限りでデストロイヤーは古いアメリカ軍基地で入手した情報らしいから重要なデータに違いないわ。なんて言ってたかしら…ダルフィーだったか、ネバダのグルーム…?」

 

「グルーム・レイク空軍基地か?」

 

「あ、そうそうそれ! 確かそう言ってたわ、ミラーさん知ってるの?」

 

「あぁ。グルーム・レイク空軍基地、またの名をエリア51…多くの極秘実験をしていたとされる基地だ。基地の詳細は国家機密で、よく陰謀論の的にされる基地だ。まあ、実際の基地の内容と比べ噂は誇張されているんだろうがな」

 

「ニカラグアでピースウォーカーが造られていたくらいだ。アメリカ本土で秘密兵器が造られてるくらいじゃ驚きもしない。カズ、ひとまずこいつはストレンジラブのところにでも送っておこう。何かしらの情報は見つかるかもしれない」

 

 スネークがいた元いた世界から100年近い未来の技術を解析できれば、これからのMSFへの発展にもおおいに役立つことだろう。サヘラントロプスの開発に難儀しているヒューイへの大きな活力になるかもしれない。

 ひとまず思い通りに事を運ぶことができたUMP45は相変わらずの笑みを浮かべ、司令部に集まる三人へ手を振り立ち去ろうとする。

 

「UMP45、オレがさっき言った言葉を忘れるな」

 

「ええ、もちろんよオセロット。これからも仲良くしましょうね」

 

 互いにけん制し合うように視線を交わし、UMP45が司令部の扉に手をかけた時だった…。

 

 

 

 

「ハローハロー! スネークにミラーのおっさん! わお、それにオセロットまで! 今日は何の会議かな!?」

 

 突如として司令部の扉が勢いよく開かれ、扉の前に立っていたUMP45は顔面を思い切り扉にぶつけ吹っ飛んでいった。

 現われたのはMSFナンバーワンのトラブルメーカーことスコーピオン、その後ろにはおどおどした様子の97式がいる。

 

「あれ、45じゃん。どうしたのそんなところで悶絶して?」

 

 顔面を強打したUMP45はあまりの痛みに話すこともできないようで、鼻を押さえて悶絶している。

 彼女の身を案じるスコーピオンだが、UMP45はよろよろと立ち上がり、手のひらから血を垂れ流しながら退出……だがそこから数メートル歩いたところで限界が来たのだろう、その場で倒れ痙攣している。

 

「スコーピオン…今回ばかりはお前を全力で褒めてやりたい、いいセンスだ」

 

「え? あ、うん。ありがとうねオセロット」

 

「…って、そうじゃないだろお前ら! 45ちゃん、大丈夫か!? メディーーック!」

 

 放置されているUMP45に駆け寄るミラーは手際よく人工呼吸の体勢に入るが、どこからか駆けつけたアメリカ製装甲人形たちの無言の圧力をうけてすごすごと引き下がる。その後は装甲人形たちが発狂した様子で気絶したUMP45をどこかに連れていってしまった。

 

「まあそれはさておき、97式のことで相談があって来たんだ」

 

 スコーピオンが切りだしたのは先日アルケミストの手から解放し、今はMSFの庇護下にある戦術人形97式の事についてだ。

 ここに来てからは、それまでの奴隷同然の扱いから解放され自由を与えられているのだが、97式はいきなり与えられた自由に戸惑っていた。

 哀しいことに、それまでの奴隷生活が身に沁みついてしまった97式にとって何もしないという状態がとても恐ろしいことに思えてしまうようで、度々スコーピオンに仕事を求めていたのだ。

 

「97式は戦場にはとても出せないけど、働きたいって言うんだ。だから、この子にも何か出来ることがないかな?」

 

「そんな気にすることはないんだぞ97式、やっと手に入れた自由なんだ。気ままに生きていたって、文句を言う奴はここにはいない」

 

「はい……でも、落ち着かなくて…どんな雑用でもいいです、働かせてください」

 

 97式は元々は外で遊ぶことが大好きな元気いっぱいの女の子だった…97式の昔のころを知っているスコーピオンはもちろん、虐待と拷問の末にメンタルを病んでしまった彼女の姿にミラーとスネークは同情していた。

 

「雑用と言ってもな…甲板の掃除くらいしかないが…」

 

「果てしないものになってしまうな。そうだカズ、お前…最近助手が欲しいと言ってなかったか? この子に任せて見たらどうだ?」

 

「うん? まあ確かに助手は欲しいと思っていたところだが」

 

「ならそれでいいじゃないか。いずれ誰かしら任せようとは思っていたところだ」

 

「あんたがそう言うなら、オレとしては断る理由もない。よし、そうと決まれば…」

 

「カズ。分かっているだろうな…? 97式、あの子はオレの目から見ても可愛い少女だ。お前があの子の弱みにつけ込んでよこしまなことをしてみろ……握りつぶすぞ」

 

「あー、ボス? オレはそんなに信用がないのか? まったく心外だな…とにかく後は任せろ、オレもゲスではない」

 

 いまだスコーピオンの冷めた目が突き刺さったままだが、これから長い付き合いになる97式と握手を交わしあう。

 普段から女癖の悪いミラーに預けるのはとても心配なスコーピオンだが、ここにスネークとオセロットもいるので下手な真似はしないだろうと無理矢理に自分を納得させる。

 

 

 だがその後、この出会いがまさかあんなことになってしまうとは……この時のスコーピオンは知る由もなかったのである。




カズ「手を出さないと言ったな…アレは嘘だ!」
97式「や、やめて…!」
カズ「ぐへへ…まずはその汚れた身体を風呂場できれいにしてもらおうか、それからぼろぼろのその服を捨ててこの真新しい制服に着替えてもらうぞ! そうしたらオレの特製ハンバーガーをたらふく食べて痩せた身体を太らしてやるからな! あ、何か嫌いな食材とかある?」

おのれミラーのオッサン…なんて外道な!


というわけで、前々から予告していたミラーのヒロイン来ましたね…そうです97式です(笑)

シリアスとギャグを両立する45姉好き

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