METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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マザーベース:お金の使い道

 最近何かと忙しいWA2000。

 オセロットから直々に任されている新兵の訓練の他、最近はMSFに所属する人形たちの編成にも関わるようになったためプライベートな時間を取れないほど忙しく働いている。

 働き過ぎでは? そういう声も上がるが、WA2000としては遊びでMSFに所属しているわけではないという考えであり、また自分以上に忙しい身のオセロットの負担を少しでも軽くできればという思いから労力を惜しむことは無い。

 ただそんな固い決意も、目の前で呑気に暇を持て余す者を見ればついカッとなってしまう部分もある…。

 

 相変わらず最低限の仕事しかこなさないスコーピオンが呑気に鼻歌を口ずさみながら歩いてる姿を見ると、どうしてもくってかかっていってしまう…。

 

「スコーピオン! 古参のアンタがそんなだらけてたら下の者に示しがつかないでしょうが!」

 

「なにさいきなり急に。言っとくけど、ただ遊んでただけじゃないからね。研究開発班のところに行って、装備の開発の協力をしたりしてるんだから」

 

「なによそれ? 人形用の外骨格でも造ってもらってたの?」

 

「まあ、それもあるけど…じゃーん、レーザーサイトを作ってもらったんだ!」

 

 見せびらかすように取り出した銃には、真新しいレーザーサイトが取り付けられている。

 レーザーサイト、レーザー光を目標へと直接当てる照準器の一種であり、レーザー光を頼りに正しい射撃体勢以外でも正確な射撃を行うことができる。

 

「へえ、いいわね。あんた接近戦や遭遇戦が得意みたいだから理に適ってるわね…そのジャングルスタイルのマガジンは感心しないけど」

 

「えへへ、かっこいいっしょ?」

 

「確かに、テープ等でマガジンを連結してマガジン交換にかかる時間の短縮ができる。けど、マガジン内部が露出することでゴミが入りやすく、重量がかさんで最悪銃の故障につながる欠点もある」

 

「うん、そうだね。その欠点は分かってるよ」

 

「そう。じゃあどうしてそんなことを? 別にあんたの要領の良さなら、そんなことしなくてもいいでしょう?」

 

「かっこいいからに決まってるじゃん!」

 

「あ、そう…」

 

 実用性を重視するWA2000にはとても考えられないスコーピオンの思考回路に、彼女はそれ以上考えることは止めた。

 納得はいかないがただサボっているわけではないと分かった以上、それ以上責めるのは単なる八つ当たりになってしまうと考え、口やかましく言うのは止めにした。

 あまり言い過ぎると、温厚で気のいいスコーピオンもキレる時はある。

そういえばスプリングフィールドといい9A91といい、普段怒らない人形が怒るとそれは恐ろしいものだ。

 スコーピオンの場合、あからさまに怒りを表して暴力に訴えようとするので気をつけなければならない。

 エグゼは……常にキレている。

 

「あたしがこんな事言うのも何なんだけど、わーちゃん働き過ぎだよ。最近まともに休んでないでしょう?」

 

「別に、私が好きでやってることよ」

 

「オセロットも、最近期待をかけ過ぎちゃって無理させてるんじゃないかって…心配してたよ?」

 

「え? オセロットが……そう心配してくれたの?」

 

「嘘に決まってるじゃん」

 

「殺す」

 

 言って即座に逃げようとしたスコーピオンだが、WA2000の反応速度は凄まじく、呆気なく捕まってしまった。

 

「うーこのクソサソリ! 今日という今日は…この!」

「離せこの芋スナ! こいつめ…!」

 

 もみくちゃになって取っ組み合いのケンカをする二人、スコーピオンはともかくとして、訓練生の人形からは厳しくておっかない存在と認識されているWA2000の幼稚な姿に、怖い姿しか知らない人形は困惑すること間違いなしだろう。

 またやっている、そんな風に呆れて見ていたスタッフたちだが取っ組み合いをしている過程ではだけていく二人の服装に、やがて食い入るように見入るのであったが…。

 

「コラー! 二人ともこれ以上の騒ぎは止めてください!」

 

 騒ぎを聞きつけたマザーベースの警備兵であるヘイブン・トルーパーたちが駆けつけ、取っ組み合う二人をなんとか引き剥がす。

 

「コラ変態ども! 見世物じゃないんだぞ、散れ!」

 

 ヘイブン・トルーパーたちに怒鳴られ、見物していた男性スタッフたちはそそくさとその場を立ち去っていく…ヘイブン・トルーパーたちだけなら男性スタッフもスケベ心丸出しで対応しただろうが、背後で無言の圧力をかける月光を前にしてはいかに屈強なスタッフといえど逃げるしかない。

 ちなみにだが、すべての月光はストレンジラブの意向で、女性型AIプログラムを搭載している。

 

「おーおー…相変わらず仲がいいなお前ら」

 

 ヘイブン・トルーパーたちに引き剥がされた二人の元にやって来たのはエグゼだ。

 ケンカをした二人とは対照的に、今日のエグゼはなんとも機嫌が良さそうだ。

 いまだケンカの余韻が冷めない二人を引き連れて向かった先…それはマザーベースへ搬入される資材が集まるプラットフォームだった。

 前までは不足しがちだった資源も、今では安定した供給を確立し、過度な開発さえ行わなければ不足することは無いだろう。

 そんな中エグゼが向かったのは、シートを被せられた奇妙な物体…何だろうと観察をする二人の前で、エグゼはシートを取りはらう。

 

「どうだ、かっこいいだろー!」

 

「うわぁ、これどうしたの!? 凄い!」

 

 シートの下から現れたのは一台の大型バイク。

 空冷4スト、艶消しブラックのネイキッドスタイル…傷一つない各金属パーツを見るに新車であることが伺える。

MSFにも運用されているオートバイはあるが、このような民間向けのデザインはなかったはずだが。

 興味津々に眺めるスコーピオンに、エグゼも気を良くして笑っている。

 

「へへ、溜まってた給料で買ってみたんだよ。アメリカでバイクに乗ってからオレも欲しくなってさ!」

 

「かっこいい! ねえ、あたしに乗らしてよ!」

 

「こけるんじゃねえぞ?」

 

「任せときなって!」

 

 意気揚々と新車のバイクへまたがると、キーを回してエンジンをかける。

 セルを回しエンジンがかかると、重低音の音が鳴り響き、スコーピオンとエグゼは大喜びしている。

 アクセルをふかしてみれば、獣じみた咆哮がけたたましく鳴り響く…早速ギアを入れて走行してみれば、リッターバイクらしい力強い走りだしにスコーピオンは驚愕する。

 さらにアクセルを回してみれば異次元の加速を見せる、それでもなお余裕を感じさせるエンジン音…最高速度を出すにはマザーベースの甲板上では足りない。 

 広いプラットフォームでいったん減速し、スコーピオンは通過した道を戻ってきた。

 

「凄い! もー最高だねこれ!」

 

「だろ!? さすがミラーのオッサン、あいつに聞いといてよかったぜ!」

 

 そこから二人はあれこれバイクを観察したりうんちくを語り始める…おかげで興味のないWA2000はすっかり蚊帳の外だ。

 まあ、バイクに興味ないくらいどうってことないか…そう思っていたところ、バイクのエンジン音を聞きつけたハンターやMG5、そのほかの人形たちも集まってきたではないか。

 

「へえ、いい買い物をしたじゃないか。お金は足りたのか?」

 

「それが少し足りなくてよ。ちっと前借しちまったぜ、しばらくはただ働きだな!」

 

「凄いよエグゼ! こんど一緒に乗せてくれない!?」

 

 意外にも多かったバイク好きの人形たちに、WA2000は疎外感を感じついつい興味も無いのにその輪へと入って行ってしまった…。

 

 それがきっかけかどうか知らないが、その後人形たちはMSFに所属することで貰っていた給料を使い始め、それぞれ思い思いの物を買ったり趣味に使用した。

 人形なのに給料をもらうという感覚がいまいち理解できず、それまで貯めるだけだった給料もこれでようやくその価値が出てきたことだろう。

 ちなみにだが、正式に所属していない404小隊は当然だが給料は貰っていない……まあ、無償で衣食住を受けられているので文句の言えた立場ではないだろうが…ただしパンツは支給されない。

 

 

 

「くっ、わたしだって趣味の一つや二つくらい…!」

 

 MSFで最も給料を貯め込む人形であるWA2000は今、必死で雑誌を読み漁り何か自分が興味を持てる趣味はないかと懸命に探していた。 

 スコーピオンはサッカーや釣り、エグゼはバイクとサッカー、9A91は家庭菜園にバードウォッチングが趣味ときたものだ…唯一、これといった趣味がないのはWA2000のみ。

 彼女としては別にそれで構わないと思っていた…思っていたのだが、最近の人形たちの趣味ブームに置いてけぼりにされることを恐れなんとか自分の趣味を探すが…。

 

「ウェスタン…銃整備…ガンプレイ……って、これ全部オセロットに影響されてるじゃない! もう、なにすればいいのよわたしは…!」

 

「まあ、そんな深く考えなくてもいいんじゃないですか? はい、コーヒーを淹れましたよ」

 

「うぅ、ありがとうスプリングフィールド……苦……」

 

 雑誌をいやいや見つめつつ、大量の砂糖をコーヒーにぶち込みかき混ぜる。

 溶け切らない砂糖が山となって残るが焦るWA2000はそんなことを気にしている余裕はないらしい…。

 

「あんたはいいよね…こういうカフェ経営が趣味で出来るからさ……甘い…」

 

「カフェに来る人を観察するのが楽しいんですよ。落ち込んだ様子で来たお客さんが、店を出る時には笑顔で出ていく…そんなのを見ると、やって良かったなと思えます」

 

「はぁ…立派なものね」

 

 ため息を一つこぼし、くたびれたようにWA2000はカウンターに突っ伏した。

 趣味探しの焦りだけじゃなく、日頃の疲れも溜まっているのだろう…身体は大丈夫だと思っても、心が休まらないこともある。

 真面目な彼女ならなおさらこう言った症状に悩まされるのだろう。

 

「たまにスコーピオンが羨ましいわ…」

 

「あら」

 

「ただの独り言だから聞き流してね……わたしもアイツみたいに素直になれればって思うわ。アイツみたいにみんなの輪の中にいて、みんなを笑顔にしてさ。憎まれ役を引き受けてるオセロットの負担を少しでも減らせたらなと思って、厳しいことも言ってるけどさ……相当メンタル強くないと務まらないわ」

 

 WA2000の気弱な独白を、スプリングフィールドは静かに聞いていた。 

 店内には他に誰もいない、そんな中でもこういった独り言でしか自分の悩みを吐きだせない不器用さに彼女自身が思い悩んでいた。

 ここまで言っておきながらも、きっとWA2000は今までの生き方を変えるつもりはないだろう…彼女が胸の内に秘めている想い、それはあの人のために向けられているのだから。

 今はただ溜まっていた毒を抜いているだけ、それを分かっているからこそスプリングフィールドは彼女の言葉を否定も肯定もせずに受け止める。

 

「ま、別に働くのは嫌いじゃないからいいんだけどさ……悪かったわね、変な話し聞かせちゃって」

 

「いえ、いいんですよ……ねえワルサー、趣味を探しているのなら週末に前哨基地の外れに来ていただけないでしょうか? もしかしたら、お気に召すかもしれませんよ」

 

「うーん…別にいいけど、なんなの?」

 

「ふふ…来てのお楽しみです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 週末、WA2000はその日の仕事を片付けるとスプリングフィールドと約束した前哨基地のはずれへと赴く。

 一時の猛吹雪はやみ、天候は安定しているがまだまだ気温は低く降り積もった雪は溶けずに残っている。

 指定された場所へやって来たWA2000はスプリングフィールドの姿を探していると、馬のいななく声を聞き、声のした方へとWA2000は振り返る。

雪が降り積もった小高い丘の上、そこに佇む一頭の白馬。

夕陽の逆光を浴びるその姿はどこか神々しく、神秘さを感じさせた。

白馬らゆっくりとした足取りでWA2000のそばまで歩み寄る…間近で見る白馬は彼女がこれまで見てきた生き物の中で最も美しく、気高い印象を受ける。

ほとんど無意識に撫でた白馬のたてがみは絹のように滑らかで、かき分ける指の間をすり抜ける。

撫でるWA2000に白馬もそっと身を預け、穏やかな目で彼女を見つめている…。

 

 

「綺麗ね…」

 

そばにいるだけで心が洗われる、そんな感覚を感じていると、そんな様子に微笑むスプリングフィールドがやって来る。

 

「お気に召したようですね。その白馬は最近この辺に現れるようになったんですよ。それにしても凄いですね、私ですらなかなか触れさせてくれなかったのに、ワルサーには一回で触れさせてくれるなんて」

 

「そうなの? でもいい子ね…それに、なんだか暖かい…」

 

「やっぱり思った通りでした。ワルサー、もしよかったらこの白馬のお世話をしてみませんか?」

 

「え? わたしが?」

 

「変な感じですけど、この馬にはなんだか縁を感じまして…」

 

「そう。まあ、いいわ…こんなに懐いてくれるんだもの、私もなにか縁を感じる。この子は…」

 

「おそらく"アンダルシアン"、美しい馬ですね。とても似合ってますよ」

 

「ふふ、気に入ったわ…! それに、なんだかこの子の目、子を見守るお母さんみたいに優しい…きっと、素晴らしい親か飼い主がいたのね…」

 

 

 




WA2000「なんだかお母さんみたい」

だってそれ、オセロットのママの愛馬だもん…。

というわけで、ザ・ボスの愛馬登場です…本当にザ・ボスの愛馬と同一個体か分からないけど、どこか似ているって設定ですかね。
当初はスプリングフィールドに乗せるつもりだったけど、オセロットの繋がりからWA2000にしてみたよ。
ザ・ボスは登場出来ないけど、その愛馬は登場させられた…我が子を支えるわーちゃんのことを何となく分かったんやなって…(涙)

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