METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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大連続狩猟クエスト:怪物の島の生態系

 先の見えない深い霧の中を、一隻のボートがゆっくりと進む。

 ボートを漕ぐのはヘルメットを被った奇妙な猫ことトレニャー…トレニャーが操舵するボート上には、代理人を筆頭にアルケミスト、デストロイヤー、エグゼ、ハンターの鉄血ハイエンドモデルたちが乗っている。

 小難しそうな本を読んでいる代理人以外のメンバーは、船上でカードゲームに興じて船が目的地に到達するまでの暇つぶしを行っている。エグゼもアメリカでの一件以来、落ち着いて話すことのできなかったアルケミストらと今はのんびり会話をしているが…時折代理人が気になるのか、エグゼは冷や冷やしている。

 

「(そろそろ到着ニャ)」

 

 トレニャーの言葉を代理人が通訳し、彼女は呼んでいた本を閉じてどこかへしまい込む。

 霧が薄くなり、太陽の光が徐々にボートに乗る彼女たちを照らしていく…霧が晴れると見えてきたのは高くそびえる山を有する大きな島。

 見覚えのある光景に、大きなため息をエグゼはこぼすが狩猟本能を刺激されているのか、ハンターは目を輝かせエグゼとは正反対の反応を見せている。

 島へボートを乗りつけると真っ先に飛び出していったのはデストロイヤーだ。

 

「んん~! いい風ね、それになんか面白そうなところだし!」

 

 窮屈なボートから降りれた開放感からか、デストロイヤーは降り立った海岸をトコトコ走って行く。

 海岸には早速、"アプトノス"という名のこの島独自の生物が小さな群れを形成しており、警戒心があまりないのかそれとも油断しているのか、近付いて来たデストロイヤーを意に介さず草を食べている。

 

「おいデストロイヤー、あんまり近付くなよ! こんな生物知らないぞ!?」

 

「えー、でもこの子たち大人しいよ?」

 

「よく分からないものに近付くなって、マスターが言ってたろ?」

 

 アルケミストの戒めにデストロイヤーは名残惜し気にアプトノスたちから離れていく…ホッと一安心するアルケミストだが、ニヤニヤと見つめているエグゼに気がついた。

 

「なんだよ、なに笑ってるんだ?」

 

「いや、姉貴もしかしてビビってるのか?」

 

「なっ、ビビってるわけないだろ! こんなよく分からない島に…ビビるわけないだろ…!」

 

「あぁ!! 化物が出たぞッ!」

 

「んなっ!?」

 

「嘘に決まってんだろ、わはははは! やっぱビビってんじゃねえか!」

 

 エグゼに大笑いされたアルケミストは珍しく顔を真っ赤にして激高し、腹を抱えて大笑いするエグゼを捕まえて締め上げる。

 しかしアルケミストの警戒心はこの島で生き延びるのには必要なことだ。

 この島に足を踏み入れたその瞬間から、問答無用の弱肉強食の摂理に否応なしに関わることとなっているのだから…。

 そしてその空気を真っ先に感じ取ったのは、代理人であった。

 彼女は上陸後まもなく、自身らに向けられる敵意の眼差しを感じていた…見つめた先の小高い丘、そこには代理人らを見下ろす奇妙な一団がいる。

 それは一見トレニャーと同じような種族に見えるが…。

 

「あー代理人…あいつらには関わるな、めんどくさいことになるぞ」

 

「あなたの言うことなら、ハンター。それよりここで何をすればいいのです?」

 

 その場のノリで着いてきてしまった代理人だが、いまいち今回の趣旨は理解していなかった。

 トレニャーの口車に乗せられ、他のメンバーのノリについてきただけで今のこの状況に内心困惑しているのだが、微動だにしないその表情からそんな心情を他のメンバーが知ることは出来ない。

 まあ、代理人は冗談は通じないかもしれないが、空気が読めないわけではないということだ。

 

「(ニャー。ひとまずハンターさんたちにはモンスターを探してやっつけてもらうといいニャ。でも注意した様に、5人で狩りに行くのは基本的にタブーなのニャ。だから注意するのニャ)」

 

「忠告は感謝する。ひとまずわたしとしては以前狩り逃したディアブロスを倒したいところだな…おーい、二人ともケンカはやめるんだ。出発だぞ」

 

 取っ組み合いのケンカをしているアルケミストとエグゼを落ち着かせた後で、トレニャーを道案内に5人は島の砂原へと進んでいくのであった。

 

 

 さて、この島でモンスターハンティングをするにあたってまず初めに行うべきことは何か…?

 前回来た経験のあるエグゼとハンターの二人は、フィールドに残されているモンスターの痕跡を探すところから始まるのであった。

 足跡、糞、ひっかき傷、鱗など…フィールドをくまなく探せばモンスターの残した痕跡を見つけることができる。

 狩りの達人であるハンターが痕跡を探す中で、以外にも真っ先にモンスターの痕跡を最初に見つけたのはデストロイヤーであった……しかしその痕跡の見つけ方が残念なもので…。

 

 

「うわーん! 誰か助けてぇ!」

 

「なにやってんだアイツ?」

 

 

 悲鳴を聞いて見てみれば、デストロイヤーが岩場にこびり付いていた粘度の高い泥に足をとられもがいているではないか。

 そのまま放っておいても良かったのだが、顔面も泥に埋もれさせて窒息しそうになったのでしょうがなく助けてやる…それはさておいて、トレニャー曰く、この粘度は立派なモンスターの痕跡だという。

 そしてその正体というのが…。

 

 

「(これは主に砂原に生息する"ボルボロス"の痕跡なのニャ!)」

 

「ウロボロスだぁ!?」

「あぁ、あのクソッたれのうぬぼれ屋の恥知らずか」

「わたしあいつ嫌い、なんかむかつくもん」

「まったくあなたたち、もう少し綺麗な言葉で罵れませんかね?」

「お前ら…」

 

 

 

―――――――――

 

 

アフリカ大陸中央部 サバンナ

 

「ぶえっくしッ!!」

 

「どうしたウロボロス、風邪でもひいたのか?」

 

「人形が風邪をひくわけがなかろう。ところでフォックスお兄ちゃん、何故わたしたちはアフリカにいるんだ?」

 

「お前がシマウマを見たいと言ったからだろう」

 

「違う! 私が見たかったのはトラだ! 同じ縞模様でもシマウマは草食動物であろうが!」

 

「なら勝手にしろ、オレはもう帰る」

 

「ふぇ…!? ま、待ってくれフォックスお兄ちゃん…!」

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 痕跡を辿り砂原をつき進んでいくと、ドスッドスッと大きな生物が近寄ってくる気配を感じ5人は即座に付近の岩場に身を隠す。

 岩陰からそっと顔を覗かせてみると、砂原の奥から大きな身体を揺すりながらその生物は姿を現した。

 

「(あれがウロボロス…じゃニャい、ボルボロスなのニャ!)」

 

「あれがウロボ…コホン、ボルボロスか。ふん、ディアブロスと比べたら弱そうだな」

 

「あれが弱そうって…お前ら一体何と戦ったんだよ…」

 

 ディアブロスの印象が強すぎるエグゼとしては、現われたボルボロスに対しそこまでの警戒感は抱かない。 

 だがこの島で初めて大型モンスターを見たアルケミストは顔が引き攣り、デストロイヤーはプルプルと震えている…代理人は、目を閉じて何か考え事をしているようだ。

 

「まあいいさ、ちゃちゃっとやっつけようぜ!」

 

「ああ、狩りの始まりだ!」

 

 この島の常識(モンハン)に慣れたエグゼとハンターを先頭に、岩場から飛び出す…怖気づいていたアルケミストとデストロイヤーも覚悟を決めたようだ。

 

「オレ様の参上だ! 覚悟しなウロボロス!」

 

「ボルボロスだぞエグゼ」

 

「あ、そうだった」

 

 飛び出してきた5人をボルボロスも認識し、脚で地面をひっかいて威嚇し大きな咆哮をあげる。

 血気盛んな二人のハイエンドモデルは恐れることなく接近していくが……突如、地面が揺れて前のめりに転倒する。

 大型モンスターを目の前にして隙を見せてしまい焦る二人だが、ボルボロスもまた突然の揺れに動揺しているようであった。

 

 そして次の瞬間、足下の地面が大きく吹き飛ばされ大量の土砂が空高く打ち上げられる。

 足元が大きく崩れ、砂は流砂となって5人を穴の中へと引きずり込んでいく……穴は砂原の地下に通じており、流砂に足をとられた5人は抗うこともできず地下へと落下していった。

 

 

「痛ッ……なんだってんだい…!? デストロイヤー、大丈夫か?」

 

「うぅ……首が…」

 

 全身を砂まれにしたアルケミストは、なんとか砂に埋もれているデストロイヤーを引っ張り上げるが、落下した時に身体を痛めたらしい。エグゼとハンターもなんとか無事だ、代理人に至っては綺麗に着地し身体に付いた砂も最小限にとどめている。

 

「やろう、ウロボロスめ…って、あれ?」

 

 一緒に穴に落ちたであろうボルボロスの姿を探し、それはすぐに見つかったのだがなにか様子がおかしい。

 頭上にぽっかりと空いた大きな穴、その真下で横たわるボルボロスはピクリとも動かない……落下の衝撃で気絶しているのか、そう思ったが地下空間に響く不気味な唸り声に一同戦慄する。

 頭上に空いた穴から落ちる流砂が滝のように落ち、その砂の滝から鋭利な二本の突起物が突き出てきたではないか。

 

 砂の滝からゆっくりと姿を見せる巨大なモンスター。

 

「ディ、ディアブロス…!」

 

「いや、待て! なんかこいつ黒いぞ!?」

 

 以前この島で対峙したディアブロスは砂と同色の身体であったはずだが、この場に現われたディアブロスは全身真っ黒で凶悪な目を赤黒く光らせる悪魔のようないでたちであった。

 ただならぬ雰囲気…絶対にヤバい奴に決まっている。

 二人は知らないことだが、それはディアブロスが繁殖期に見せるもう一つの姿であり同一個体なのである。

 だがその凶暴性は平常時の比ではなく、自らのテリトリーに足を踏み入れた者には圧倒的な力を行使し徹底的に破壊を振りまくまさに砂漠の暴君と呼ぶにふさわしい存在なのだ。

 

 黒いディアブロスは既に5人を縄張りへの侵入者とみなし、獰猛な唸り声をあげている…。

 

「おい処刑人、慣れてるんだろ…? はやくやっつけろよ…」

 

「冗談じゃねえぞ姉貴、ありゃどう考えても核兵器並の凶悪さだぜ…!」

 

「ど、どうするのよ…! 代理人、なにかいい考えはないの!?」

 

「そうですね……ひとまず冷静になることから始めてみましょうか?」

 

「気圧されるなみんな、所詮色が変わっただけのディアブロスだ。真のハンターは獲物から逃げはしない!」

 

 全員が怖気づく場面で果敢に前に出たハンターを、他のメンバーは尊敬のまなざしで見つめる。

 強大な相手を前にしてハンターの狩猟本能がかつてないほどに高まっている、相手にとって不足はない…駆け出したハンターを4人で応援し始めるが…。

 接近してきたハンターに黒ディアブロスはいきなり激高し、耳をつんざくほどの大咆哮をあげる。

 地下空間で黒ディアブロスのただでさえ大きな咆哮が反響し、耳を抑えなければ立っていられないほどの音量へと変わる…激高した黒ディアブロスの悪魔的形相、それを見たハンターはいきなり踵を返して走り去っていくではないか。

 

「おい! 真のハンターは逃げないんじゃないのか!?」

 

「戦略的撤退だ! お前らも撤退しろ!」

 

 これはもうダメだ、恥もプライドも投げ捨て5人は全速力でその場から逃げ去るが、縄張りを侵された黒ディアブロスの怒りは凄まじく、その巨体からは想像もできないほどの速さで追いかけてくる。

 障害となる岩石を体当たりで粉々にする…あんなものを直にくらってしまったら鉄血のハイエンドモデルといえどもひとたまりもない。

 

「代理人、なんかアドバイスねえか!?」

 

「…三十六計逃げるに如かず、ですわ」

 

「これ以上最善の策はないってことか! 役に立たない助言ありがとよ!」

 

「冗談言ってる場合か! 追いつかれるぞ、ここは各個別れてかく乱させよう!」

 

 アルケミストの作戦に全員が頷き、合図と同時に5人は別々の方向へと散り散りになる。

 同じタイミングで散開した5人に黒ディアブロスは一瞬戸惑いを見せたが、すぐに目標を一つに定めると再び走りだす。

 

 

「なんでわたしを追ってくるの!?」

 

 

 かわいそうなことに、狙われたのはデストロイヤー…5人の中で一番足が遅かったので仕方がない。

 だが黒ディアブロスの狙いが一つに絞られている今こそ、攻撃のチャンス。

 絶好のタイミングに、黒ディアブロスの足元に一気に接近したエグゼがブレードを振りぬき頑強なその足を斬り裂いた。

 筋肉質の脚部はエグゼのブレードをもってしても完全に切断することは出来ないが、その攻撃によって怯ませることは出来た。

 

「来いよデカブツ、オレ様が相手だ!」

 

 挑発するエグゼに対し、黒ディアブロスは振りかえりざまに角を振りぬき、寸でのところでエグゼは避けることができたが、怒り狂う黒ディアブロスは素早く尻尾を振りぬく。 

 重厚でハンマーのような黒ディアブロスの尻尾の一撃は、遠心力も加わり恐るべき一撃となってエグゼを捉える。

 咄嗟にとったガードもほとんど意味をなさず、エグゼは尻尾に弾き飛ばされ壁に叩き付けられた…。

 

「処刑人…! く、冗談じゃないよ!」

 

「この場所は不利だ、一旦地上へと脱出しよう!」

 

「そうね! とりあえずこれでもくらえ!」

 

 咄嗟にデストロイヤーが投げたのはスタングレネード。

 闇雲に投げたスタングレネードは黒ディアブロスに効果があり、強烈な音と光に視覚と聴覚を塞がれたディアブロスは大きく怯む。

 その隙に悶絶するエグゼを回収し、砂原の地上へと脱出する。

 

 

「ここまでくれば――――!!」

 

 

 地上へと到達して間もなく、地面が大きく揺れ、黒ディアブロスが砂の中かから勢いよく飛び出し姿を現す。

 意表を突かれたことで黒ディアブロスの怒りはさらに高まり、明確な殺意にエグゼらは戦慄する。

 

 

「か、覚悟決めろよみんな…! オレたちの力を合わせれば絶対になんとかなるって!」

 

「そうだ、エグゼの言う通りだ」

 

「やるしかない…か。やってやろうじゃないか」

 

「怖いけど、やるしかないんだよね!?」

 

「頑張ってください」

 

 

 若干一名を除き、ハイエンドモデルたちはこの強大な相手を前に戦う決意を固めて挑む。

 立ちはだかるどんな強敵も、力を合わせれば絶対に勝てる……そう思っていた矢先のことであった…。

 

 

「(ニャーニャー! 大変ニャ! ハンターさんたち、急いで逃げるのニャ!)」

 

 その場に大慌ての様子で駆けつけてきたトレニャー。

 黒ディアブロスを前にして一瞬も気を緩められない彼女たちは無視していたが、突然響くおぞましい咆哮に、また何か来たのかと狼狽する。

 その咆哮は黒ディアブロスの注意も引き、黒ディアブロスはその目を岩場へと向けていた。

 

「(やっぱり5人でなんか来るべきじゃなかったのニャ!)」

 

「おい、なんだってんだよトレニャー!」

 

「お、おい…! あれはなんだ!?」

 

 アルケミストの震える声に咄嗟に振り返る…。

 

 岩場から姿を見せた恐ろしいモンスターの姿に、5人は呆気にとられる…。

 

 暗緑色の鱗に覆われた体躯、異様に太く強靭に発達した後脚と尻尾、それらと比較して異様に小さな前脚…首元まで裂けた巨大な口には無数の棘が並んでいる。

 現われた巨大なモンスターは黒ディアブロスを見るや否やその裂けた巨大な口を大きく開き、おぞましい咆哮をあげる。

 対峙している黒ディアブロスは意識をエグゼらからそのモンスターへと向け、唸り声をあげながら強靭な脚力でもって大地を蹴り上げ突進する。

 

 地下空間で制限されていた機動力と瞬発力をフルに活かす…地上へと出て有利になるのは黒ディアブロスにとっても同じ、弾丸…いや、キャノン砲のように突進する黒ディアブロスの一撃に現われたモンスターは吹き飛ばされる、そう誰もが思った。

 

 

 だが、巨大な顎をもつモンスターが黒ディアブロスの破壊的な突進を、角に食らいつくことで押しとめてしまったではないか。

 わずかに後方に押されたばかりで、そのモンスターは逆に黒ディアブロスを圧倒…なんと角に食らいついたまま黒ディアブロスの巨体を宙に浮かせ、勢いよく地面に叩き付けその角をへし折って見せた。

 投げ飛ばした黒ディアブロスの首元に即座に食らいつくと、その驚異的な咬筋力で易々と喰いちぎる……。

 絶命する黒ディアブロスはそのモンスターにとってもはや単なる食糧源、堅い甲殻ごと噛み砕き喰っていく。

 

 

「(ニャニャニャ…! なに固まってるのニャ、みんな今のうちに逃げるのニャ!)」

 

「トレニャー、あいつはなんなんだ!?」

 

「(あれは全ての生態系を破壊する存在ニャ…! "恐暴竜イビルジョー"それがやつの名前ニャ…!)」

 

 

 

 




イビルジョー「よろしくニキwwww」
黒ディア「…チ~ン……」


ただじゃ終わらないって言っただろ(ゲス顔)
とりあえず代理人は仕事して(懇願)

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