Serial experiments □□□  ー東方偏在無ー   作:葛城

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秋の章はこれにて終了。
物語は終盤へと移る


秋の章:その3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖怪の山の頂上ではなく、その半ばにある早苗たちの守屋神社。整備された参道の終着点へと辿り着いた霊夢は、勝手知ったると言わんばかりに社の中に入ったのは、今から20分前。

 

 守屋神社は、霊夢が暮らしている博麗神社よりも一回りも二回りも大きい。というか、そもそも比べるのがおこがましいぐらいに広く、部屋の数も相応に多い。

 

 そんな場所で、案内も伴わず、敷地の何処かにいるであろうお目当ての人物を見つけ出すことが出来るのだろうか。

 

 

 答えは、出来る、だ。正確にいえば、尋常ならざる『勘』を持つ霊夢だからこそ、可能なことであった。

 

 

 人探しの術を使う必要はない。声を出して呼ぶようなことも必要ない。ただ、『勘』に任せて足を動かせばいい。それだけで、霊夢にとっては十分で……実際、十分であった。

 

「あれ、霊夢さん? こんな時間に何用――って、ちょ、霊夢さん?」

 

 出くわしたのは、廊下の途中。姿を見せたのは、日の光を浴びて煌めく若葉のような長髪をポニーテールに纏めた、霊夢より少しばかり背の高い美少女。

 

 こんな時間(まだ、朝食の時間)に姿を見せた霊夢を見て、目を瞬かせている割烹着姿の早苗(スタイルが良い為か、年齢不相応に似合っていた)の横を通り過ぎ。

 

「おや、博麗の……ん、神奈子に用でも?」

 

 出くわしたのは、和室から出てきた直後。姿を見せたのは、目玉のような何かが付いた帽子をゆらゆらと揺らす、霊夢よりかなり背の低い少女。

 

 普段からは想像が付かないぐらいに剣呑な雰囲気を漂わせている霊夢を見て、小首を傾げながら挨拶する、この神社の二つの内の一つ、神の一柱である洩矢諏訪子の傍を通り過ぎ……中に入る。

 

 そこは、霊夢の自室よりは幾らか広い和室であった。だいたい、十畳程だろうか。部屋の中央には大きな炬燵が有って、その上には三人分の食器が置かれており、既にサラダが用意されていた。

 

 他の場所とは違い、ここには何というか……生活感がある。暦表やら箪笥やらが見受けられるそこは、私室として使用されているようで、その一番奥で新聞を読んでいた女性が顔を上げ……はて、と首を傾げた。

 

「……えっと?」

 

 霊夢は、その女性……もう一つの一柱である八坂神奈子の前にて立ち止まる。神奈子は、正しく大人の女性という風貌である。スーツを着ていたら、出来る女性といった感じだろうか。

 

 だが、そんな出来る女性も、あまりに想定外の事態には弱い。博麗の巫女の突然な来訪に事態が呑み込めず、唖然としている神奈子の眼前に……妖夢より半ば強引に預かった楼観剣と白楼剣をどん、置くと。

 

「この刀が呪われているか否かを調べてちょうだい」

「……挨拶も無しにいきなり何だ。物を頼む時は相応の態度を、だな――」

「ヤルのかヤラないのか、さっさとしろ。私は今、抑えが利かないぐらいに気が立っているのよ」

「はい、やらせていただきます」

 

 

 ――あ、これはアカンやつだ。

 

 

 霊夢の背後より姿を見せた古明地こいしより、『素直にいう事を聞いておけ』という感じのジェスチャーを見て察したのか、それは神奈子以外には分からない。

 

 事実として有るのは、内心にてそんなふうに白旗を挙げて刀を受け取る神の一柱に、霊夢は有無を言わさず迫ったということだけであった。

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、今。

 

 興味を抱きつつも、着々と朝食の用意を進めてゆく早苗の視線を時折受けつつ、刀の解析を進める神奈子と諏訪子の二柱。「――呪いは私の専売特許さ!」という諏訪子の主張の元、諏訪子が主となって作業を進めた……その結果。

 

「私が調べた限り、この刀にそれらしい術や気配は感じ取れないよ。少なくとも、私が感知出来る範囲では、の話だけどね」

 

 凝った目元を解している神奈子を他所に、諏訪子はそう言って霊夢へと刀を返した。受け取った霊夢は、「それは、確かな事なのかしら?」何とも軽い調子の諏訪子を見やった。

 

「本気も本気、嘘偽りはないよ。けっこう本腰入れて調べたから……それじゃあ、はい、お疲れ」

 

 けれども、そう言われたら霊夢としては納得する他ない。まあ、疑う疑わない以前に、自身の『勘』が、諏訪子は何一つ嘘を付いていないと訴えているのだ。

 

 霊夢としても、それ以上話を引っ張るつもりはなかった。とりあえず、刀に問題がないとさえ分かれば、それで良いからだ……と。

 

「――霊夢さんたちも、一緒に食べます?」

 

 思考の坩堝に入り掛けた霊夢の意識が、浮上する。顔をあげれば、朝食を乗せた盆を持った、早苗が立っていた。

 

 尋ねられて、ようやく霊夢は辺り……というか、室内を漂う香りに気付く。ご飯やみそ汁の匂いが入り混じるそれは、自ずと食欲を誘い……意図せず、くうっと霊夢は己が腹を鳴らしてしまった。

 

「……いいの?」

 

 時に鉄面皮と揶揄されることもある霊夢とはいえ、年頃であるのは事実。プライベートな音を聞かれた事に僅かばかり頬を赤らめる霊夢を見やった早苗は、にこにこと可愛らしい笑みを浮かべた。

 

「そんな恰好で来たぐらいですから、文字通り取る物も取らずだったのでしょう? 遠慮せず、召し上がってください」

 

「……悪いわね」

「お気になさらず。お連れの妖怪さんは、もう頂いておりますから」

 

 言われて、早苗から炬燵机に目をやれば、だ。美味しそうに朝食を取る二柱の隣で、行儀よくご飯を食べているこいしの姿があった。

 

 どうやら、知らぬ間に相当考え込んでいたようだ。目が合ったこいしは特に悪びれた様子もなく、神奈子たちも気にはしていないようであった。

 

「……もう少しだけ考え事をしてからで、いいかしら?」

「構いませんけど、根を詰め過ぎても良い結果は出ませんよ……それじゃあ、霊夢さんの分はここに置いときますので」

 

 そう告げると、早苗は霊夢の分の朝食を炬燵へと並べると、その隣……自分の分の前に座り、食事を取り始めた。

 

 

 ……こうしてみると、私より5歳は年上に見えるわね。

 

 

 そう、誰に言うでもなく心の中で呟いた霊夢は……胡坐へと姿勢を変えて、再び考える。思考の再出発地点は当然、先ほどまで考えたその場所からだ。

 

 

 ……刀に問題が無いとなれば、だ。

 

 

 原因はこの刀ではなく、外部。つまり、第三者が直接何かを行っているか、あるいは……考えたくはないが、妖夢の心に問題があるという可能性が浮上する。

 

(……らしくないわね)

 

 だが、可能性としては考えられるが、霊夢は内心にてその二つの可能性を即座に切って捨てた。何故なら、どちらも言うなれば『らしくない』からだ。

 

 前者であれば、現時点で最も疑われるのは『岩倉玲音』だ。だが、これまで彼女が行ってきたやり方から考えれば、あまりに毛色が違い過ぎる。

 

 霊夢とこいし以外には全く……初めからそうであったと記憶そのものを改ざんするようなやり方に比べて、方法が直接的過ぎるし意図が読めない。

 

 

 それに、妖夢が幽々子に抱き締められながら口走っていた、幾つかの言葉。

 

 

 これまでの改ざんとは違い、穴だらけではあったが……記憶を操作されているという違和感を妖夢は覚えていた。決定的な違いがあるとすれば、そこだ。

 

(もしかして……『岩倉玲音』とは別の第三者が……?)

 

 嫌な予感に、霊夢は堪らず己が口元を手で覆った。

 

 

 ……この時、霊夢は気付いていなかった。己が口元を手で覆うという、霊夢の人生において初めてとなるその仕草は、心理学においては強い不安やストレスを覚えている時に行う仕草であった。

 

 

 ――時に、人は言葉よりも態度や仕草にその内面が強く表れる。

 

 

 視線をさ迷わせるのは考え事をしている時、掌を握り締めるのは強い緊張感や怒りを覚えている時、足先を相手から逸らした位置に置くのは苦手意識を覚えている時など、人は実に様々な内心を無意識のうちに表に出している。

 

 この時の霊夢も、言葉にこそ発しはしないものの、その内心を如実に表に出していた。それは、常勝無敗の戦績を重ねてきた霊夢が初めて覚えた……未知への、強い恐怖であった。

 

「――そうだ、その刀を見ていて一つ訂正しておくことがある。気分転換がてら、聞きなさい」

 

 掛けられた言葉に、霊夢はハッと我に返る。見やれば、味噌汁を啜っていた神奈子が、「何を悩んでいるのかは、知らないけどね」気遣うような視線を霊夢に向けていた。

 

「見た所、その楼観剣に白楼剣……だったかしら? かなりの業物であるのが見て取れる。真の力を発揮するには使い手を選ぶようだけど、それでもモノが違うわね」

「――あれ、神奈子様、けっこう刀とかに詳しかったりするんですか?」

「そりゃあ、こう見えても私は元々軍神だからね。武器に限らずその手の道具一般は……っと、早苗、今は茶々を入れるんじゃありません」

 

 当たり前のようにサラッと話に参加しかける早苗を叱りつつ、神奈子は味噌汁を置いて、こほんと一息入れる。次いで、改めて霊夢を見やって来たので……霊夢は、思い出したことを告げた。

 

「……詳しくは知らないけど、妖夢……冥界にある白玉楼の従者なんだけど、その子の家に伝わる家宝だと私は聞いているわ」

「知っているよ、早苗の友達――早苗、大人しくなさい――だからね。でも、私が言いたいのはそこじゃなくて、その刀が持つ『力』のことさ」

「『力』って、幽霊10匹を倒すとか、迷いを断つとか、そういうの?」

「魂魄家ではどのように伝えられているのかは知らないけど、その刀が持つ本当の『力』は、そのどちらも違う」

「え?」

「言葉にするのは難しいけど、その刀は共に『道を断ち切る』というのが本来の能力。幽霊10匹だとか迷いを断ち切るというのは、あくまでその能力の側面と捉えて貰っていいわよ」

「……どういうこと?」

「道というのはつまり、選択肢だ。己が選べる選択肢の先へと続く道を断ち切る……それが、その刀の本当の能力なんだよ」

「……と、いうと?」

 

 いまいち、神奈子の言わんとしていることが霊夢には分からない。「あー、なるほど、言われてみればそうか」早苗もこいしも意味が分からず首を傾げている横で、諏訪子だけが納得した様子で何度も頷いていた。

 

「そうさな、霊夢。例えば、『迷い』というのは、どういう時に生まれるモノだと思う?」

「……お茶菓子に煎餅がいいか饅頭がいいかとか、そういうとき?」

 

 しばし視線をさ迷わせて考えた、霊夢の答え。「……食い意地張り過ぎじゃないかな?」こいしからの率直な意見に、「年頃の子は、男も女も食い意地さ」諏訪子が擁護した。

 

「それじゃあ、何故その二つにしたんだい? 他にもいっぱいあるだろ? 餅でもいいし、金平糖でもいい。なのに、どうして?」

「それは……何となくよ。別にその二つでもいいけど、パッと思いついたのが煎餅と饅頭だっただけよ……ねえ、これって何の質問?」

「何って、『迷い』の質問だよ。さあ、霊夢。まだ気づいていないようだけど、お前は今4つの選択……4つの未来から、二つを選び取った。つまり、道は残り二つ……では、その二つからどちらを選ぶ?」

「……強いて挙げるなら、今の気分は饅頭かしら?」

「さて、これで道は一つとなった。つまりだな、霊夢。迷いを断ち切るという白楼剣の本当の能力は、お前が無意識のうちに選び取る以外の未来を捨てる……そう、『道を選び取る』ことなのさ」

 

 

 その言葉に、霊夢は……小首を傾げた。

 

 

 果たして、それは『迷いを断ち切る』ということと何が違うのだろうか。

 

 

 そう思って神奈子を見つめると、「似ているけど、本質は全く違うよ」当の神奈子ははっきりと霊夢の考えを否定した。

 

 

「『迷いを断つ』というのは、あくまで数ある未来から道を一つ選び取っただけだ。選び取っただけだから、道は何時でもお前の傍にあるし、その気になればすぐに別の道に行ける……ただ、その気がないから道が逸れないだけなんだよ」

「……それじゃあ、楼観剣は?」

「こっちはもっと過激で、『道を全て断ち切る』。断たれた道は、文字通り、存在しないことになる。存在していないから、迷わない。選び取る未来は一つだけ……迷うも何もないだろう?」

 

 ――理解が脳髄の奥にまで染み渡った、その瞬間。最初に霊夢が抱いた思いは……饒舌にし難い、不思議な感覚であった。

 

(……これは、なに?)

 

 そっと、霊夢は己が胸に手を当てる。女の証である膨らみの向こうにある、肋骨の硬さ。そして、その奥より伝わって来る……確かな鼓動。

 

 

 何時もよりも、すこしばかり激しくなっているような気がする。

 

 

 心を操られることへの恐怖、ではない。かといって、剣が持つ能力への好奇心でもない。安堵感でもなければ、知識欲でもない。

 

 それは、霊夢にも分からない何かであった。それはけして、喜びではない。だが、嫌ではない。理由は分からないが、とにかく嫌ではなかった。

 

「つまり、茶菓子が何も無い状態にするってこと?」

「大方その通り。厳密にいえば、ここで茶を飲むかどうかの道が生まれるけど……仮に、魂こそ内包してはいるが思念の塊でもある幽霊が、飲むのを止める道を選んだ場合……どうなると思う?」

「たぶん、成仏する?」

「成仏するならまだマシさ。肉体を持たない存在が、存在することすら放棄したら、待っているのは自滅。傍目には、切られて成仏なり何なりしているようには見えるけどね」

 

 いつの間にか再び味噌汁を啜っていた神奈子は、椀を持ったまま答えた。こで話は全て終わりなのだということを察した霊夢は、改めて己が傍に置かれた二丁の刀を見やった。

 

(『道を全て断ち切る』楼観剣、『道を選び取る』白楼剣。どちらも迷いを断ち切るものだけど、その性質は似ているようで全くの逆……ん、となると?)

 

 妖夢は……どちらの刀で己を切っていたのだろうか。

 

 

 ふと、霊夢はその事が気になった。

 

 

 けれども、友人であるとはいえこの問題は妖夢の内心が関わっている可能性がある。己に対しても最初は隠そうとしていたあの妖夢に、果たして問い質して良いものかどうか。

 

(……まあ、それは追々でいいか)

 

 そう、霊夢は結論を出した――その、瞬間。

 

 

 “また、そうやって背を向けるの?”

 

 

「――っ!?」

 

 前触れもなく、そっと、囁くように。するりと背中に現れた気配と、耳元をくすぐった淡い声に、霊夢は――ほとんど無意識に、背後へと蹴りを放っていた。

 

 居合切りならぬ、居合蹴り。桁外れの霊力を持って強化された身体能力から繰り出された蹴りは、岩石を砕く程の威力を誇る。その一撃は、ほぼ最短ルートを辿って背後へと――だが、しかし。

 

(――外れた!?)

 

 気配は、確かに背後にいた。蹴りを繰り出す瞬間も、放った足が向かうその瞬間まで、確かに気配はそこにあった。けれども、その一撃は肉を貫くようなことはなく……虚空を蹴るだけに終わった。

 

 

 “さあ、どうする?”

 

 

「――こんのぉ!」

 

 背後へと振り返ったその瞬間、気配がまた新たな背後へと移った。苛立ちを堪えつつ、片手で畳を殴って反転し――着地する。そうしてから、振り返った霊夢は……絶句してしまった。

 

 

 普段の霊夢からすれば、それは考えられないぐらいの失態であった。

 

 

 例えそれが、早苗たちが何一つ反応せずに食事を続けているという異様な状況であったとしても。言葉を失くしてぽかんと呆けているこいしの姿がそこにあったとしても、それは間違いなく失態であった。

 

 

 けれども、それを責めるのは酷というやつだろう。

 

 

 何故なら、霊夢の前にいたのは敵意を持った妖怪でもなければ、人間でもない。ましてや、神でもない。ふふふ、と妖しく笑うその者は……霊夢、その人であったからだ。

 

「初めまして、博麗霊夢。そして、こんにちは。私は博麗靈夢。博麗の巫女を務めさせていただいている、楽園の素敵な巫女よ」

 

 何時もの特徴的な巫女服とは違う、一般的な巫女服。その違いを除けば、霊夢の眼前にて佇むそいつは、背の高さから声色まで、正しく鏡から抜け出たかのように霊夢と瓜二つであった。

 

「――霊夢!」

「あんたは私の後ろに下がっていなさい!」

 

 ハッと我に返ったこいしが、どたばたとたたらを踏んで霊夢の背後に身を隠す。片手でこいしを庇うようにしつつ……ちらりと、傍で食事を続けている早苗たちを見やった。

 

「……あんた、何をしたの?」

「ご安心を、危害なんて加えていないわ。ただ、貴女に一つばかり忠告を……」

「いや、結構――よっ!」

 

 そうなれば、もう反射的であった。傍にこいしや早苗たちがいるのは頭の隅に入ってはいたが、止まらない。「夢想――封印!」己が内より湧き出る霊力を瞬時に練り上げ、放った――はずであった。

 

「――我ながら、乱暴なやつで呆れるわね」

 

 だが、そうはならなかった。何時もと同じ手順で霊力を練って、何時もと同じ手順で術を発動し、何時もと同じようにそれを眼前のやつに放った……はずなのに、術は欠片も発動しなかったのだ。

 

 手応えは、あった。霊力の感触も、術の触りも、放った開放感も、全てが何時もと同じであった。だが、術は何一つ発動しなかった。「なっ――!?」想定外の事態に、思わず霊夢の意識が逸れた――その、時であった。

 

「霊符『夢想封印』」

「――っ!? 夢符『二重けっ――」

 

 今しがた己が放とうとした術を、そのまま相手が放った。面食らった霊夢は、反射的に結界を張ろうとしたが、一歩遅かった。辛うじてこいしへの直撃は免れたが、迫りくる七色の砲弾の内の一発が……霊夢の右胸に直撃した。

 

 ――脳天へと突き抜ける激痛を、食いしばった奥歯で堪える。ぎりりと、骨が軋む音を霊夢は聞いた。

 

 こいしの悲鳴を背中に受けた霊夢は、気合を入れて踏み止まる。ざりざりと、足裏が畳を削る感覚に痛みを覚えながら……ふう、と頬を伝う冷や汗をそのままに、霊夢は眼前の己を睨んだ。

 

「貴女が使ったのが夢想封印で良かったわ。封魔針なんて使っていたら、今頃あなたは蜂の巣になっているところよ」

「……使った技をそのまま相手に返す能力かしら?」

「違うわ、返すのではなく、貴女が自分自身に放ったのよ。だって、私は貴女だもの……ほら、見なさい」

 

 その言葉と共に、靈夢と名乗ったその少女は白い巫女服を捲り、右側の胸元を露わにした。そこは……何もしていないはずなのに、赤くなっていた。まるで、見えない攻撃を受けたかのように腫れていた。

 

「私は貴女、貴女は私。私が傷付けば、貴女も傷を負う。反対に貴女が傷を負えば、私もそうなる。私の言葉が真実であると認識しているのは、貴女よりも……ねえ、こいし?」

 

 名を呼ばれたこいしの肩が、びくん、と跳ねた。それを見て、残った左腕で庇う霊夢の背中から……「うん、分かるよ」こいしが、恐る恐るといった様子で顔を見せた。

 

「こいし、あんたは下がってなさい」

「でも、霊夢。あの人の言っていることは本当だよ……何となく、分かるよ」

 

 霊夢は、振り返ってこいしの表情を見ることはしなかった。霊夢には、分かっていた。こいしの言葉が無くとも……眼前の女の言葉が、全て真実であるということに。

 

「……だとしても、あんたが前に出る理由がないわ……なるほど、話が本当なら、あんたを倒すことは出来ないわけだ」

「自分を倒すということは、結局のところは自殺よ。私をどうにかしたいのであれば、貴女は私を受け入れなくてはならない……でも、そうね」

 

 

 ――もう猶予もないし埒が明かないから、些か強引にやりましょうか。

 

 

 身だしなみを整えた靈夢は、そう言うと……ぱちん、と指を鳴らした。その瞬間、光が……いや、光と称される何かが、霊夢の視界を埋め尽くし、反射的に霊夢とこいしは目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………フッと、目が開いた。眠気の残る頭に、視界から入る情報が入力されてゆく。

 

 

 だいたい、広さは8畳半といったところだろうか。横を向けば、立て掛けられた折りたたみの机が一つ。既に折り畳められた布団が一組。小さい箪笥が一つに、その傍には……学校の制服が取っ手に引っ掛けられていた。

 

 それは、『幻想女学校』のものである。さすがに1年も着続ければ少しばかり古ぼけた感じになっている。けれども、まだまだ着れるそれを……霊夢は、見つめていた。

 

 

 しばしの間、霊夢は……己が状況を認識出来なかった。

 

 

 古ぼけた天井から視線を下げて……釜戸にて朝食の用意を進めている紫の後ろ姿を見やる。割烹着を見に纏った、見慣れた後ろ姿をしばしの間見つめた後……静かに、霊夢は布団から身体を起こした。

 

 途端、秋の寒気が全身を包み、思わず霊夢は肩を震わせた。

 

 ここは、長屋だ。朝から部屋を暖める火の番などいるはずもなく、外との寒さにそう違いはない。けれども、その点について、霊夢は不満を抱いてはいなかった。

 

 

 何故なら、そんな寒い中でも自分より早起きして朝食の用意をしてくれる存在がいることを知っているからだ。

 

 

 少なくとも、この件で口が零せるのは、学校を卒業して独り立ちしてからだろうか。あるいは、嫁いだ後で子供を産んでからだろうか……まあ、どちらにしても今は無理だ。

 

 頭を掻けば、ぼさぼさの髪が指に絡み付く。欠伸を零し、辺りを見回す……何故だろうか、何だか足りない気がする。足りないモノなんて無いはずなのに……いっ!?

 

(――ったいわね。何かしら……風邪?)

 

 痺れにも似た激痛が、一瞬ばかり脳裏を過った。痛みそのものは一瞬のことで、それに意識を向けた時にはもう、霊夢の頭から痛みの姿は消えていた……と。

 

「――あら、おはよう、霊夢。今日は少しお寝坊さんね」

 

 起き出した気配に気づいたのだろう。「起きたのなら、机を用意してちょうだい」振り返った紫からそう言われた霊夢は……内に籠った眠気を払うかのように大欠伸を零すと。

 

「お母さん、寝起きに急かさないでちょうだい」

 

 とりあえず、顔を洗ってからすると暗に提案した。だが、紫は笑みを浮かべながらも、有無を言わせない調子で首を横に振った。

 

「ねぼすけの貴女が悪いのよ。さあ、もうすぐ出来るから、ね」

「はいはい、分かりました。お母さんの言う通りにしますよ」

 

 けれども、口で勝てる相手でないのは分かっていた。なので、霊夢は手早く布団を片して机を用意する。次いで、手早く食器等の用意を済ませてから――炊事場の傍に置かれた釜より柄杓で水を救うと、手拭いに掛ける。

 

 冷え切った手拭いがさらに冷えて氷のように冷たくなるが、構わず揉んで水分を分散させると、それで顔を拭った。そのまま、寝間着を脱いで全身を手早く拭い、学生服に着替えた。

 

「ほら、出来たわよ。冷めないうちに、食べなさい」

「ちょっと待って、髪を纏めたら終わりだから」

 

 そこまで身支度を終えた辺りで、朝食を並べ終えた紫から催促された。幾分か慌てた様子で髪を纏めた霊夢は、紫と体面になるようにして机の前にて正座すると。

 

「――いただきます」

「はい、いただきます」

 

 紫と一緒になって、両手を合わせた。

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………建物に遮られていた秋風が、もろに肌を撫でて行く。「はあ、もうすぐ雪でも降りそうな寒さだわ」さすがに身震いした霊夢は、スカートを風になびかせながら、走り出そうとする列車に飛び乗った。

 

 この列車は、幻想郷の中で唯一の列車であり、ぐるりと幻想郷の主要な建物を一周するようにして線路が引かれている。本数は朝と晩の二本だけ、一本でも逃すと遅刻諸々が確定な為か、朝とはいえ列車内は相当に混んでいた。

 

 

 ……毎朝の事とはいえ、嫌になるわね。

 

 

 その中を、霊夢は進む。当然、進む度に乗客を押し退けて進まなければならないわけで、これまた当然、嫌な顔をされたりするが……構わず、霊夢は列車の中ほどへと進む。

 

 霊夢がそうするにも、理由がある。何故かといえば、霊夢が通っている幻想女学校は、乗車駅より6駅先。つまり、時間にして50分強は掛かる場所にある。

 

 出入り口近くで待っていた方が出る時は楽なのだが、駅に止まるたびにおしくら饅頭は御免である。出る時に少しばかり疲れはするが、それでも中ほどに移動した方が、道中は楽なのであった……と。

 

「お、霊夢じゃん。今日は同じ列車だな」

「あら、魔理沙。ちょうどいい所に出くわしたわね」

 

 途中、席に座っている魔理沙と遭遇した。霊夢と同じ制服を見に纏った魔理沙はよいしょと腰を上げた。それを見て、霊夢は通路側に座っている客たちの前を通り……素早く、空いた場所に尻を滑り込ませた。

 

 その膝の上に、魔理沙が腰を下ろした。客観的に見れば、座った霊夢の膝に魔理沙が座り込んだ状態である。これは二人が特に親密……というわけではなく、純粋に車内が狭いからである。

 

 外の世界とは違い、幻想郷内を走る列車の本数そのものは少なく、車両の数も少ない。人口比も相応に少ないが、それを差し引いても、列車の本数自体が足りていないのだ。

 

 故に、列車内は朝晩に限らず、すし詰め状態。少しでも乗員出来る数を増やす為に、お客同士が協力しなければならない。いわゆる暗黙の了解というやつで、知り合いなり何なりと居合わせた時などは、こうして隙間を開けるのであった。

 

 なので、霊夢と魔理沙の二人だけに限らず、歳の近しい者同士は自ずと同じ体勢となっている場合が多い。実際、通路を挟んだ反対側の席では、男性同士が同じような状態になっていた。

 

「はあ~、やっぱ霊夢の太ももはあったけえや。張りもあるし、下手な座布団よりもずっと座り心地がいいぜ」

「乙女の柔肌が座布団に負けたら、さすがの私も凹むわよ。ていうか、あんたの尻ってば冷たいわね。席も冷たいし、良い物食べているんだから尻ぐらい温かくしなさいよ」

「ひと肌の気味悪さを欠片も気にしない、その図太さには相変わらず感嘆するよ。それと、良い物食って尻が温かくなるものなのか?」

「さあ、知らないわ。それを検証したいから、今度奢りなさい。特別にきつねうどんで勘弁してあげるから」

「あいにく、今月の小遣いはもう心許なくてな。家に遊びに来てくれた時はお母様が茶菓子を用意してくれるから、それで手を打て」

 

 己の母親を、お母様(かあさま)と呼ぶ。察しの通り、魔理沙は良い所のお嬢さんである。霧雨商店という里でも有数な店の一人娘であり、家では魔理沙お嬢様と呼ばれているのだとか。

 

 ちなみに、父親からは目に入れても痛くないというぐらいに溺愛されているらしい……というか、溺愛されている。魔理沙曰く『こっちが自制しないと際限なく飴をくれる』とのことで、嬉しい反面気を使うこともあるのだとか。

 

「前から思っていたけど、あんたの所の母親、小遣いを定額にするわりには変な所であんたに甘いわね。友達が来たからとはいえ、わざわざ茶菓子なんて用意したりはしないわよ」

「〆るところはきっちり〆るお人ではあるけどな。優しいけど、凄く厳しいんだぜ。食べ方一つ、足運び一つ、ちょっとでも作法を誤ると怒られるからな」

「うへぇ、考えただけで嫌気が差しそうだわ」

「私からすれば、紫さんの方がずっと手厳しそうな気がするけどな」

「母さんが? いやいや、母さんもけっこう溺愛してくる方よ」

「いやいやそれは違うって。作法でも勉強でも、霊夢はさらさらっと覚えてこなすから怒らないだけだと思うぞ」

 

 そうかしら……魔理沙の言葉に、何気なく霊夢は彼女の両親の顔を思い浮かべる。以前にも何度か顔を合わせたことはあるが、霊夢の目に映る限りでは、二人とも魔理沙の事を溺愛しているように見えたが……ん?

 

「――そういえば、あんたの所の母親、病気になったってこの前話していなかったかしら? もう、それはいいの?」

「ああ、その事か。それならもう大丈夫だ。博麗の巫女様が、気質を整えてくれる札を用意してくれてな。贔屓の薬屋の協力もあって、今はすっかり元気だよ」

「そう、それは良かったわね」

 

 満面の笑みで……それはもう嬉しそうにニコニコと微笑む魔理沙を見やって、霊夢も微笑んだ。

 

 一時は最悪を覚悟しなければと医師から宣告されて、毎日不安で泣いていた魔理沙を慰めていたのは記憶に新しい。その事を思えば、今の魔理沙の微笑みを見ているだけで……霊夢も胸がいっぱいになりそうで――うっ!?

 

 

(――まっ、た?)

 

 

 寝起きの時に感じた激痛が、再び霊夢の脳裏を過った。思わず顔をしかめてしまうぐらいの痛みではあるが、今度の痛みも一瞬のことで。フッと意識を向けた時にはもう、名残すらそこにはなかった。

 

「……霊夢、どうしたんだ?」

「な、何が……」

「いや、何か顔色が蒼くなっているぞ。具合が悪いのなら、私が下になるぞ」

 

 異変に、魔理沙も気付いたのだろう。今しがたまで浮かべていた笑みを引っ込め、心配そうに霊夢へと振り返っていた。

 

「心配しなくていいわよ。首でも寝違えたのか、朝から頭痛がするのよ」

「そうか、それならいいんだが……」

「そんなことより……ねえ、魔理沙。あんたは今、幸せかしら?」

 

 

 そう尋ねた瞬間、霊夢は思わず目を瞬かせた。何故、前ふりもなくこんなことを尋ねたのか、霊夢自身分からなかったからだ。

 

 

 言うなれば、そう、気付けば口走っていた。無意識の問い掛けが故に混乱する霊夢を尻目に、「え、そりゃあ、お前……」尋ねられた魔理沙も困惑した様子で目を瞬かせた。

 

「私個人としては、幸せだぞ。お母様も元気になったし、お父様も元気だし、皆も元気だしな……どうしたんだ、いきなり?」

「……どうしたのかしらね?」

 

 訝しむ魔理沙の視線から逃れるかのように、霊夢は目を逸らした。どうしてか、先ほどとは違って今の魔理沙とは……目を合わせられなかった。

 

 

 

 

 

 ……時刻は、昼。

 

 

 午前の授業を終えた霊夢と魔理沙(二人は、クラスメイトだ)は同じ机に弁当箱を置くと、早速昼食を済ませようと蓋を開けた――その時であった。

 

「――ああ、いたいた」

 

 人間やら妖怪やらが入り混じってごった返す廊下の向こうから姿を見せたのは、制服姿の咲夜であった。

 

 霊夢たちよりも頭一つ分は高い背丈の彼女は流れるように教室内に入ると、コンパスのようにすらっとした歩調で二人の前に立った。

 

「おや、誰かと思えば咲夜じゃん。どうした、今日はこっちで食べるのか?」

 

 先に気付いた魔理沙が、場所を開けようと椅子をずらす。「ああ、違うわよ」それを見て、咲夜は些か慌てた様子で椅子の背もたれを掴んで止めた。

 

「それも魅力的だけど、今日は美鈴と一緒にレミリア先輩たちとお茶をする約束だから……っと、本題はこれよ」

 

 そう言うと、咲夜は机の上に……何かを包んだハンカチを置いた。何だと思って霊夢が見上げれば、咲夜は何も言わない。「よし、魔理沙様に任せろ」なので、好奇心の塊である魔理沙がサッと包みに手を掛け……開けた。

 

 途端――魔理沙だけでなく、霊夢も歓声を上げた。何故かといえば、ハンカチの包みの中に有ったのは、四枚のクッキーであったからだ。

 

「皆と一緒に作ったのよ。後日、感想を聞かせて貰えないかしら?」

「いいわね、タダでくれるものなら力いっぱい感想を叩きつけてあげるわよ」

「程々の力加減にしてもらえないかしら。私としては、そっちの方が有り難いわね」

 

 今にも星々が零れ落ちんばかりに目を輝かせる霊夢に、「ハンカチは、その時でいいから」咲夜は自重するようお願いした後、そう言い残し颯爽と教室を出て行った。

 

 本当に、用件だけを伝えに来たのだろう。その足取りには何の迷いもなく、いや、どちらかといえば、レミリア先輩とやらのお茶会を楽しみにしているのが見て取れた。

 

「……相変わらず、咲夜のやつはレミリア先輩とやらが大好きなんだな」

「何だっていいわ。幸せそうだし、こっちもクッキーがもら――つっ、つっ……貰えて幸せだからね」

 

 また、痛みが走った。思わず顔をしかめる霊夢の頭に、魔理沙の手が置かれる。「お前、変な所で食い意地張っているよな」苦笑しながら摩られる掌を、霊夢は大丈夫だと外してやった。

 

「食い意地は若者の特権よ。爺婆になったら食えなくなるし、こういうのは若いうちに食べておいた方がいいのよ」

「その点に関しては私も同感かな。しかし、咲夜のやつは相変わらず料理が上手い……ところで、これは何味のクッキーだと思う?」

 

 手に取った黄色のクッキーを、ひらひらと見せる。クッキーは四枚だが、種類は二つ。赤色と黄色が二枚ずつ。「さあ、甘ければ何味でも構わないわ」その言葉通り、霊夢は手元に近い赤色を、ポイッと口内に放り込み……直後、形容しがたい表情を浮かべた。

 

「どうした、食える味か? 弁当箱の蓋は必要か?」

「おそらくだけど、スッポンの血の味クッキー。蓋はいらない、意地でも消化してやるから」

 

 スッポンと聞いた瞬間、魔理沙の頬が引き攣った。

 

「……参考までに聞くけど、どんな感じだ?」

「自分の血液を粉末にして食べてみたら分かるわ……まだ何も腹に入れてなくて良かった。少しでも腹に何か入っていたら、蓋が活躍していたところよ」

「そ、そうか……おい、何でそこから黄色のクッキーに手を伸ばす? どう考えてもまともな味をしていないと思うが?」

「食べてみないと味は分からない。分からないからこそ、食べてみるのよ……っ!」

 

 そう言い終えた直後、「――南無三!」目を瞑った霊夢は黄色いソレをばりぼりと噛んで、ごくりと呑み込んだ。「……感想は?」そっと差し出される蓋を手で払った霊夢は……静かに、額を机に乗せた。

 

「…………」

「……霊夢、お~い、霊夢?」

「…………」

「……先に昼ごはん、食べているからな」

 

 いちおうは気を使ってゆっくりと食べ始める魔理沙を他所に、霊夢は無言であった。言わんこっちゃないという視線を向けつつも、心配そうにする魔理沙の様子には気付いていたが、霊夢は何も言えなかった。

 

 

 ぶっちゃけ、口を開いたら今しがた飲み込んだ物を吐きそうだからだ。

 

 

 とはいえ、胃袋全般が常人のソレではないと噂されている霊夢である。しばしの間我慢していれば、自然と吐き気は治まった。お前の胃袋はどうなっているんだと、何やら魔理沙は呆れた様子であったが……と。

 

「――霊夢、ちょっといいかしら?」

 

 また、客が教室内に入って来た。姿を見せたのは、隣のクラスに所属する妖夢であった。その後ろには早苗もいて、二人の手には弁当箱があった。

 

 妖夢と早苗の二人とは友人関係であるが、所属するクラスが違う為、毎日一緒に食べるということはない。

 

 だいたいは誰かが休んで一人になった時はどちらかの所へ行くというのが流れとなっている為か、二人同時にこっちに来るのはけっこう珍しかった。

 

 二人は勝手知ったる何とやらと言わんばかりに霊夢たちの元へ来ると、弁当箱を置いた。二人が入れるように場所を開けはしたが、さすがに一つの机を四人で使うのは狭い。

 

 それじゃあ、こっちを使いましょう。そう言って、早苗は隣の机を動かしくっ付けた。「え、あの、いいの?」気が咎めるのか、妖夢は困った顔をした……が。

 

「椅子を使って机を使ってはいけないという話も変でしょう。椅子と机はセット、二つ揃って一心同体……ね?」

「なるほど、言い得て妙ですね」

「よく分からん理論でよく分からん納得をする辺り、お前ら二人は変な所で似た者同士だな」

 

 早苗の説得を受けて、妖夢はあっさり腰を下ろしてしまった。何やら魔理沙から笑み混じりの呆れた視線を向けられるが、早苗と妖夢は意味が分からず小首を傾げ……さっさと、弁当箱を開いた。

 

「……で、私に何か用でもあるの?」

 

 ちらりと妖夢を見やれば、妖夢は煮物を一口齧った後……また困った様子で小首を傾げた。

 

「ん~、用って言える程のものでもないんだけど、ちょっと探し物を手伝ってほしいの」

「探し物? 何で私に?」

「家の中は探したけど、見つからなくて……霊夢なら、お得意の『勘』で見付けてくれるかなって思って」

「私を犬か何かと勘違いしてない? いやまあ、保証はしないけど考えて見るわよ……それで、何を探して欲しいの?」

「家に伝わる家宝の刀。楼観剣と白楼剣が、いつの間にか見当たらなくなっているのよ」

 

 

 ――思わず、霊夢は弁当箱に伸ばしていた箸を止めた。それは傍で聞いていた魔理沙も同様であり、例外なのは事前に話を聞いていた様子の早苗だけであった。

 

 

「……いや、それは失せ物探し以前に、警察に任せればいいんじゃないの? どう考えても、それって窃盗とかそういうレベルの話でしょ?」

「警察には、もう頼んだよ。でも、警察からはまず見つからないだろうって言われちゃって……お爺ちゃんも、そのせいで凄く気落ちしているから、どうにかなんないかなあ……って思って」

「え、あの妖忌さんが落ち込んでいるの? 熊を投げ飛ばした挙句、そのまま首を切り落としたっていう、あの爺さんが?」

 

 妖忌とは、妖夢の爺さんに当たる人物だ。老年の武士という言葉そのままの人物であり、霊夢を始めとした女子や男子には比較的甘い対応をするが……怒らせると滅茶苦茶怖い人である。

 

 その妖忌が、落ち込んでいる。なるほど、妖夢が動く理由は分かる。軽い口調でお願いしてきてはいるが、妖夢はけっこうなお爺ちゃん子だ。大方、気落ちしている妖忌を見て居ても立ってもいられなくなったのだろう。

 

「それなら私じゃなく、早苗に頼んだら? 何時ものミラクルパワーとやらで見つけてやればいいじゃない」

 

 けれども、だ。頼ってくれるのは嬉しいが、霊夢自身に失せ物探しの心得はない。そりゃあ人よりも『勘』が鋭いとは自身も思ってはいるが、適任は自分よりも、傍の緑髪の友人ではなかろうか……と、霊夢は思った。

 

 ……ちなみに、霊夢が口にしたミラクルパワーとは早苗が自称かつ所有している『奇跡の力』のことである。その詳細は早苗以外は誰も知らず、霊夢たちとて間近でそれを見たのは小学生の時が最後だ。

 

 リピドーの赴くままに呪文(傍から見れば、何やら念仏っぽい何かを唱えているようにしか聞こえない)を唱えると、色々と不思議なことが起こるのだとか……いや、まあそれはいいとして。

 

「あ、もう私は試しましたよ。それで、出てきた道具が……これです」

 

 当の早苗が制服のポケットより取り出したのは、掌に収まるサイズの……小さな鏡であった。「……何これ?」小首を傾げる魔理沙を他所に、早苗はそれをズイッと霊夢に突きつけた。

 

「はい、あげます。何でかは分かりませんけど、これは霊夢さんが持った方がいいと思いますので」

「は? 鏡はもう家にあるからいらないわよ……まあ、貰うけど」

「貰うんかい……いや、私はいらねえよ」

 

 呆れた様子でツッコミを入れる魔理沙を意図的に無視して鏡をポケットに入れる。次いで、霊夢は妖夢の視線を受けて……一つため息を零すと、刀はどこにあるのかと『勘』を頼りに考えてみた。

 

「……たぶんだけど、刀はまだ有るわ。折られてもいないし、溶かされてもいない……でも、すぐに見つかるものでもない。いずれ、戻って来る……何となくだけど、そんな気がする」

 

 そうして思い浮かんだのは、そんな内容であった。ぶっちゃけ、これでは妖夢の期待に応えられないので口に出すことを躊躇ったが……何故か、当の妖夢は気にした様子もなく、「そう、分かった」平気な顔をしていた。

 

 

 これには、霊夢の方が首を傾げた。

 

 

 何故なら、妖夢の性格を霊夢は知っている。大好きな爺ちゃんが気落ちしているのを見て、自分の気落ちするような子だから、今の言葉を聞いて落ち込むものだとばかり思っていたからだ。

 

「いや、そりゃあ残念には思うけど……霊夢は、いずれ戻って来ると思ったんでしょう?」

「思ったけど、あくまで思っただけよ」

「霊夢がそう思ったのなら、刀は必要な場所に必要な分だけ有るってことでしょ。それならお爺ちゃんも納得するだろうから、それだけで十分だよ」

「……信頼してくれるのは嬉しいけど、信頼され過ぎるのも――っ、ちっ、うっ、くっ……!」

 

 三度目となる、突然の頭痛。今度は、これまでよりもはるかに痛い。あまりの激痛に、持っていた箸がぽろりと零れる。気絶しないのが不思議なぐらいの痛みに、ぐらりと視界が揺れた。

 

「え、ちょ、あの――」

 

 魔理沙は既に見ていたのでそこまで動揺はしなかったが、初見の二人は違う。なので、狼狽する二人を霊夢は宥め……痛みが去った後でようやく、今朝から続く頭痛の事を話した。

 

「……医者じゃないのであまり強くは言いませんけど、無理をせず保健室で休んだ方がいいんじゃないですか?」

「……そうね、そうさせてもらうわ」

 

 頭痛事態はすぐに治まるとはいえ、これで四回目。しかも、回数を増す度に痛みの強さがはっきりと増している。魔理沙たちの提案に珍しく素直に首を手に振った霊夢は、弁当箱の片づけを任せて、保健室へと向かう。

 

 ……幸いにも、廊下は既に人の行き交いは少ない。購買に向かう者と弁当持っている者、食堂に向かう者とで、既に移動が終わっているおかげ――いっ!?

 

(――っ、気を抜いたかしら、また頭痛が……!)

 

 これまでの痛みが一発の砲弾なら、今度のは連続パンチといったところだろうか。十分に耐えられる痛みだが、苦痛であるのは事実。自然としかめてしまう顔を手で隠しつつ、階段を下りて廊下を進み……保健室の扉を叩いた

 

 返事を聞く間も無く、中に入る。中にいたのは、白衣を身に纏った女学校の保険医……永琳であった。近隣からは美人の女医として有名らしい永琳は、入室してきた霊夢を見て、意外そうに眼を瞬かせた。

 

「健康優良児の貴女が此処に来る日が来ようとは……で、どうしたの?」

「ただの頭痛よ。ちょっと程度が酷いから、横になって休ませてちょうだい」

「頭痛? いちおう聞いておくけど、生理が近いとかではないわよね?」

「お生憎様、まだ始まって……いっ、つ……!」

 

 

 連続パンチだったのが、前触れもなくいきなり連続ハンマーになった。

 

 

 さすがに動くのが辛くなった霊夢は、そのまま倒れ込む様に病人用のベッドへと倒れ込む。たったそれだけでも相応の苦痛が生じたが、横になったおかげで少しは楽になった。

 

 それを見た永琳は、机の上に置かれている電話機を手に取る。「――鈴仙、急患が入ったから、大至急来てちょうだい」連絡を終えた後は次いで、戸棚から手早く薬品等を取り出して行く。

 

 そうして準備を終えた永琳は、横になっている霊夢の元へと寄る。ぐったりとしている霊夢の脇に体温計を挟むと、髪を纏めているリボンやら履きっぱなしの靴やらを外してやる。

 

「診察するから、服を脱がすわよ」

 

 その言葉と共に、永琳はカーテンを閉める。簡易的に用意された閉ざされた空間に、霊夢の荒い呼吸が響く。「じゃあ、ボタンを外すから」辛うじて霊夢が頷いたのを見やった永琳は……そうしてから、おや、と目を瞬かせた。

 

「霊夢、あなたこの傷はどうしたの?」

 

 ――『傷』。その言葉に、「はあ、はあ……傷って?」霊夢は頭痛が酷くなったのを実感した。

 

「胸の傷よ。位置的に、心臓の真上かしら……かなり深い傷痕だわ。完治しているけど、痕が新しい……ここ1年以内に付いた傷よ、これ」

「何それ、生まれてこの方そんな傷なんて作った覚えは……」

「いや、でもこれは見間違いなんてものじゃ……ほら、見てみなさい」

 

 見てみなさいと言われても……そう思いつつ、差し出された手鏡に視線を向ける。その瞬間――鏡に映る己が胸元を見やった霊夢は、痛みすら忘れて絶句した。

 

 確かに、そこには傷痕があった。直径にして数センチ程度の、刃物が突き刺さったかのような傷痕だ……が、しかし。有り得ない、と霊夢は思った。

 

 何故なら、霊夢の記憶には、その痕を作り出すような事は何一つ存在していないからだ。少なくとも、昨日までの己の胸には、このような傷痕なんて――ん?

 

 

(……昨日? 待って、そういえば昨日の私は何を――ぎぃ、いぃぃ!?)

 

 

 頭が破裂したかのような、強烈な激痛。痛みに強い霊夢ですら、一瞬ばかり気絶してしまった程の痛み。けれども、その痛みによって……霊夢は、思い出した。

 

 

(そ、そうだ、あの後……ど、どうなった?)

 

 何とか身体を起こす。「永琳は、離れていて!」寝かしつけようとする永琳を跳ね除け、ベッドから降りる。がくん、と膝から崩れ落ちそうになるのを、ベッドの柵を掴んで留まる。

 

 体調は……最悪だ。かつての心臓破損の時とは違い物理的な損傷こそないが、痛みの度合いはあの時と同じくらいに酷い。とてもではないが、まともに動けない状態……だが、そうも言ってはいられない。

 

 

 自覚すら出来ない改変が――ついに、己にも行われてしまっていた。

 

 

 その事実は、霊夢を動揺させるに十分であった。胸の傷が切っ掛けで己への改変に気付くことは出来たが、それはただの偶然だ。おそらく、頭痛という副次的な要素がなかったら、胸の傷を見ても霊夢は気付けなかっただろう。

 

 記憶の改変を体感したことで、初めて霊夢はその本当の恐ろしさを認識した。道理で、誰も気付けないわけだ……術だとか能力だとか、そんな程度の話じゃない。

 

 文字通り、挿げ替えられているのだ。記憶という名の箪笥から、引き出し事ごっそり入れ替えられる。昨日今日ではなく、最初からそうであったと元々から入れ替わるのだ……気付けるわけがない。

 

「こ、こいしは……こいしは、どこに……?」

 

 己が改変されているのであれば、こいしも同じような状況だろう。最悪、今後は己一人で異変解決に行かねばならない……そう、霊夢が思った、その時であった。

 

「――あらあら、半日も持たないなんて……さすがは、博麗の巫女だわ」

「あ、あんた……」

「でも、その様子だとまだ向かい合えてはいないようね。本当、我ながら頑固で意地っ張りな性格をしているわね」

 

 何時の間に、保健室の中に入り込んでいたのだろうか。ぐらりと歪む視界の中に、己と同じ姿をした……いや、違う。かつての霊夢と同じ、博麗の巫女としての出で立ちとなった博麗靈夢が、そこに立っていた。

 

「あら、靈夢、いったいどうしたの? もしかして、ここに『異変』でも? 悪いけど、今は霊夢の体調が悪いから、博麗の巫女としての仕事なら違う場所で――」

「大丈夫、何も起こっていないし、貴女も普段通り……でしょ?」

 

 言い聞かせるように靈夢が呟けば、永琳はしばし目を瞬かせた後……ハッと我に返った。そうなれば、もう永琳の視線は霊夢にも、ましてや靈夢にも向いていなかった。

 

 まるで、始めから此処では何も起こっていないかのように元の場所に戻ると……書き物を始めた。何一つ不自然さに気付いている様子のないその目を見た霊夢は……一つ舌打ちを零すと、靈夢を睨みつけた。

 

「私に成り代わって、目的はなに?」

 

 霊夢からすれば、当然な質問であったが……靈夢の返答は、これでもかと憐憫が込められた溜め息であった。

 

「ああ、もう駄目ね。これでも駄目なら、もう私にはどうしたらいいか分からないわ……ねえ、貴女もそう思うでしょ……古明地こいし?」

「――えっ」

 

 靈夢の口から零れたその名に、霊夢は目を見開いた。そして、動揺する霊夢を他所に、靈夢の背後からするりと姿を見せたのは……霊夢が探そうとしてた、こいしであった。

 

 こいしは、制服姿ではなかった。記憶にある通りの、何時もの恰好であった。だが、霊夢を見ていない。いったい何があったのか……何をされたのか、霊夢の視線から逃れる様に俯いていた。

 

 

 こいしが……何故?

 

 

 思わず、霊夢は己が状況を忘れて言葉を失くした。もしかして、こいしも己と同じく記憶を改変されてしまったのだろうか。「――あんた!」沸き起こる怒りをそのままに、霊夢は霊力を練り上げ――。

 

「……もう、いいよ。霊夢、もう頑張らなくていいよ」

 

 ――る前に、当のこいしが、そうさせなかった。「……え?」意味が分からず呆然とする霊夢を尻目に、こいしは静かに首を横に振ると……そこで初めて、霊夢へと視線を向けた。

 

 

 瞬間、霊夢は……呼吸することすら忘れてしまった。

 

 

 何故なら、こいしの目には大粒の涙が浮かんでいたからだ。辛うじて零れていないのは、こいしが必死になって堪えているからだろうか。立ち尽くすしか出来ない霊夢は……もう、霊力を練る余裕はなかった。

 

「霊夢の望む世界は、ここ。霊夢が願う世界は、ここ。ここは、霊夢がそうであって欲しいという思いが形になった世界」

「こ、こいし……あんた……何時からなの? 何時から、あんたはこの『異変』の正体に、『岩倉玲音』に気付いていたの!?」

「お姉ちゃんに助けられた、あの時からだよ、霊夢。でも、それを責めるのはお門違い……だって、霊夢も本当は気付いていたでしょ? お得意の、『勘』でね」

 

 

 ――そんなわけ、ない。

 

 

 そう言い掛けた霊夢は……それ以上の言葉を言えなかった。どうしてか、言葉が喉に引っかかってそれ以上を出せなかった。

 

「私にだって、分かることはあるよ、霊夢……とても楽しそうだった。お母さんがいて、友達がいて、学校に通って……それが、霊夢の無意識なんだよ」

「……それ、でも。それでも――それだとしても、私は博麗の巫女よ! 『異変』を解決する、博麗の巫女……博麗霊夢! それが、私よ!」

「駄目、それじゃあ駄目……それじゃあ、霊夢は負ける。lainは、力でどうこう出来る相手じゃない。必要なのは、自分の無意識に目を向けることだよ、霊夢」

 

 その言葉と共に、こいしは霊夢に背を向ける。反射的に伸ばした霊夢の手は、「――私は、私が出来ることをするから」こいしの方から振り払われてしまった。

 

「『ワイヤード』への入口は、私が用意しておく。でも、無理はしなくていい。誰も、霊夢を責めたりはしないから」

「待って、こいし!」

「それじゃあ、霊夢……また、いつか」

 

 

 そう、こいしが呟いた、直後。霊夢の視界が、ぶれた。

 

 

 何が起ころうとしているかが分からないまま、世界が動く。微笑みながら手を振る靈夢の姿が、ぶれる。

 

 カラーから、モノクロへ。三次元から、二次元へ。線は点となって、点は暗闇へと消えて……その向こうに、霊夢の意識も……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………雪が、降っている。もう、冬が来たのだろう。

 

 

 片手の数に収まる程度の、辛うじて確認出来る程度の輝き。その暗闇の向こうから降り注ぎ続ける白い結晶が……頬に当たっている。

 

 冷たいとは思うが、寒くはない。体内より、丹田より生み出される膨大な霊力は、外気をも遮断する。炎の中でも平気というわけではないが、冬の寒さ程度なら何の問題もない。

 

 なので、今の恰好……制服ではない。記憶が改変される前の、寝間着姿であっても、霊夢は欠片も凍えていなかった。傍目からみれば寒そうでも、当の霊夢は平気であった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………だが、何故だろうか。霊夢は、とても寒いと思っていた。そのうえ、酷く臭いとも思っていた。

 

 

 むくりと身体を起こした霊夢は、己が横になっていたベンチを見やる。幾らかペンキの剥がれたそれは、設置されて相応の年数が経過しているのが見て取れた。

 

(……臭い)

 

 鼻腔をくすぐる異質な臭いに、顔をしかめる。霊夢は分からないことではあるが、この臭いの正体は……排気ガスを始めとした、機械文明の臭いであった。

 

 辺りを見回せば……こちらを見ている者たちがいる。見返せば、その者たちは一斉に視線を逸らし……直後、またこちらを見て来た。そこに、老若男女の区別はない。

 

 恰好は、霊夢とは根本から異なる。洋服……洋服だろうか。以前、紫から外の世界の服を幾つか見せられた覚えはあった。それらに少しばかり似ているような気はするが……どうも、同じ服には思えない。

 

 

 ……無言のままに、ベンチから腰を上げた霊夢は歩き出す。

 

 

 行く当ては、特にない。何せ、こちらの土地勘など欠片もない。話にしか聞いたことはない場所だ。いくら霊夢とはいえ、それで土地勘を養えという方が、無理なのだ。

 

 でも、歩くしかない。あそこにいたって事態が好転するわけがないし、下手に警邏の者に見つかると面倒だ。幻想郷の話をしたって、通じるわけがないからだ。

 

 

 ふう、ふう、ふう。

 

 

 零れた吐息が、白いモヤとなって頭上へと立ち昇って行く。そのモヤを追いかけて視線を向ければ……目に止まるのは、大きな建物。幻想郷には存在していない、鉄筋コンクリートの建物。

 

 ちらほらと見えるネオンは、昼間のように眩しく。おそらくは英語で記された看板から放たれる明かりは、霊夢が知る明かりよりも10倍は強く……見ているだけで、目が眩む。

 

(……私は)

 

 徐々に、降り続ける雪の勢いが増してゆく。雪は、寒くない。でも、寒い。歩いているのに、足場が消えてしまったかのような……そんな気がして。

 

「何をしたらいいの……何をすればいいの……」

 

 生まれて初めてとなる、外の大地。固いアスファルトを踏みしめた霊夢は……ただ、途方に暮れることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 




80年代アニメ風の次回予告




何もかもが分からないまま、霊夢はついに幻想郷から放り出されてしまった

でも、分からないと言い続けているのは霊夢だけ

消えたレミリアも、レインも、靈夢も、こいしまでも、分からないフリをしているだけだと口を揃える


果たして、霊夢の無意識が気づいている真実とは、いったい何なのか。霊夢が目をそらし続けている真実とは、いったい何なのか

今、霊夢は、己と向き合わなければならない


次回、Serial experiments □□□  ー東方偏在無ー  冬の章:その1


その答えを、霊夢はまだ知らない

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