Serial experiments □□□ ー東方偏在無ー 作:葛城
すっかり忘れ去られてしまっている誰得な続編だよ
もうすぐクライマックスだね……まあ、あとちょっと続くけどね
……。
……。
…………そうして、幾しばらく。周辺の道案内やら何やらをする合間に、とりあえず、まずは霊夢が持っている常識と、こちらの常識を擦り合わせることから始めた。
提案したのは、蓮子の方からだ。
理由は、霊夢の言動の端々から、霊夢自身が重度の、あるいは深刻な『世間知らず』であり、常識に関しては無知に等しいということを察したからである。
実際、霊夢は蓮子の目から(多少なり譲歩しても)見ても、あまりに無知過ぎた。現代社会人どころか日本に住んでいれば当たり前過ぎる家電の名称すら知らなかったのだから、早急に解決せねばならないと蓮子が思うのも、無理はない。
霊夢も、その辺に関しては思うところがあったようで。「少なくとも、最低限の常識は教えておくから」という蓮子の提案を素直に聞き入れ、真剣に外の世界の常識を学ぶことを選んだ。
ちなみに、メリーはその辺はノータッチであった。
曰く、『学ぶのは好きだけど、教えるのはどうも苦手』らしく、緊急を要する事以外は蓮子が教師となり、メリーはあくまで傍観者の立場であった。
……そんな感じで、三人(その内、一人は寛いでいるだけだが)の勉強会が合間に執り行われた。
だが、始まってすぐは……実の所、蓮子もそうだが、メリーも相当な不安を抱えていた。
何故なら、霊夢は無知だ。
使い方を知らない所の話ではなく、純粋に無知なのだ。言葉こそ通じるが、何をするにも何をさせるにも、1から10まで説明がいる。
楽しくなりそうだと思ってしばらく面倒を見ることを蓮子は選んだわけだが、蓮子もメリーも暇人というわけではない。
さすがに、四六時中ぶっ通しで勉強会というわけにはいかない。
なので、あくまで蓮子は、己が家を離れている間、霊夢一人で暇を潰せる程度の知識だけを教えた。家電の基本的な使い方を始め、一通りのインフラ設備の使い方を教えた後。
とりあえず、外に出るにしても何か有った時はこれを使えと3000円を入れた財布(小銭入れとも言う)持たせた。
そうして、蓮子とメリーは大学へと向かい……しばらくは、手持無沙汰になっているかもしれないと思って、早めに帰宅することにした。
……だが、蓮子たちはまだ霊夢という人物を知らなかった。いや、知らないというよりは、見誤っていた。
確かに、霊夢は無知である。家電はおろか、現代社会についての常識は欠片も持ち合わせていないし、携帯電話すら、その存在を認識していなかったぐらいだ。
だが、馬鹿ではない。ただ、無知なだけなのだ。
彼女たちは知る由もないことであったが、才能がそのまま人の形を取っていると紫たちから称された博麗霊夢が、本気になって何かに取り組めば……片鱗は、数日後の夜より始まった。
「──あら、お帰りなさい。聞いていたより早かったのね」
「……えっと、何やってんの?」
「何って、火熨斗(ひのし)……いえ、『あいろん』をしているのよ。あんたね、洋服は特に皺が目立つんだから、ちゃんとやんなさいよ」
少しばかり小走りで帰ってきた蓮子とメリーを(メリーの場合、帰るというよりは友人宅にお邪魔したと言う方が正しいのだが)出迎えたのは、蓮子の衣服をアイロン掛けしている霊夢であった。
ちなみに、霊夢の恰好は例の寝間着(洗濯済み)である。
蓮子より『着られそうなやつは好きに着ていい』と言われていたが、こっちの方が着慣れているからと霊夢自身が固辞した……話を戻そう。
唖然とする二人は、「早く閉めないと寒いわよ」霊夢から促されて部屋に入る。荷物をテーブルに置きがてら、しゅっしゅと湯気立つアイロンを見やった二人は、互いの顔を見合わせ……蓮子が、口を開いた。
「いちおう聞いておくけど、アイロンの使い方は知っていたの?」
「知らないわよ、だってこれ『かでん』とかいうやつでしょ」
「それじゃあ、どうやって?」
「どうやってって、見たら形とかで色々と分かるでしょ。似たようなやつは使ったことあるし……でも、コンセント差したら勝手に熱くなるのは本当に楽だわね。ほら、とりあえず皺になっているやつは全部やったわよ」
「あ、ありがとう……こっちはアイロン一式が有った事すら忘れていたわよ……」
ていうか、プロに頼んだみたいに綺麗……そう呟く蓮子たちを尻目に、霊夢は手早くアイロン台やら衣服やらを片付ける。直後、ピーッとブザーが鳴った。ビクッとする二人を他所に、「あ、炊けたようね」足早に二人の脇を通って台所へと向かい……フライパンやら何やらを取り出し、調理を始めた。
調理……あれ、台所の、特に火元回りの使い方を教えただろうか?
冷蔵庫の中は一部を除き自由に使って良いとは話したが……小首を傾げる蓮子を他所に、「あのー、霊夢ちゃん。何を作っているの?」メリーが率直に尋ねていた。
「何って、鮭入り焼き飯よ。冷蔵庫の奥に未開封のやつがあったから、それを使っているの」
「へえ、そうなんだ。でも、何で急に? カップ麺とか、色々手軽なやつもあったでしょ?」
「カップ……あの、お湯を入れればすぐに食べられるやつね。蓮子やメリーには悪いけど、私にとっては毒も同然なのよ。只でさえ少ない霊力を消耗してしまうから」
「れいりょ……ん~、よく分からないけど、霊夢ちゃんが食べられるやつを食べたらいいよ。ところで、それって私たちの分もある?」
「ちゃんと3人分はあるわよ。味噌汁も作ったから、テーブルを置いといてくれないかしら?」
「はーい、了解しました」
手早く調理を進める霊夢と、それを手伝うメリー。料理に関しては二人のはるか下方を飛行する蓮子が手伝える隙間はなく、とりあえずはと着替える為に自室へと向かう。
何気ない違和感に首を傾げつつ、部屋着に着替え終えた蓮子は……自室を出て、ふと、玄関脇に置いてある時計に目を向ける。
それは、半年近く前に近くのスーパーのガラガラで引き当てた時計である。一目で安物と分かるそれは、その見た目通り封を開けてからひと月で壊れ、埃被ったオブジェとなっていた……はずなのだが。
「……動いている、わよね?」
秒針が時を刻まなくなっていたはずのそれが、正常に動いている。裏の電池カバーを開けてみれば……テープを巻いて保管していたはずの電池だ。誰がこれを……考えるまでもない。気になった蓮子は、台所にいるであろう霊夢へと呼びかけ、尋ねた。
「──壊れていたようだから、直したわよ。余計なお世話なら電池を抜いておいて──え? そんなの、見たらどこが壊れているのかぐらい分かるでしょ。工具の場所はあんたが教えてくれていたし、何となくソレを入れれば動くかなって思ったけど……もしかして、壊れたままかしら?」
そしたら、霊夢からの返事がソレであった。
いや、見ただけで分かるって……もしかして、そういう技能をこいつは持っているのだろうか?
最初、蓮子はそう思った。
時計自体は大したつくりではなく、少しばかりの知識があれば直せるような状態だったのかもしれない。
そう己を納得させた蓮子は、その違和感をひとまず脇に追いやり良い匂いがする方へと向かった。
……これが、霊夢に対して抱いた最初の違和感であった。
これだけなら、霊夢はそういうことが出来るのだろうという程度に結論を出したのだが……その考えは、すぐに改められることとなった。
──次の違和感。
その日、霊夢は蓮子の古着を纏い、だぼだぼっとした格好で外出した。講義が休みらしいメリーが、同伴するとのことであった。
霊夢が何処へ向かっているのかを、蓮子は(メリーも)聞かなかった。
霊夢の行動を束縛するつもりはなかったし、そもそも霊夢が何者であるのかを詳しく知らないまま寝泊まりさせているのは、蓮子の方である。
まあ……大方、『楽園』とやらを探しに行くのだろう。
そう推測していた蓮子は、あえて尋ねるようなことはしなかった。
ただ、人様の迷惑になるようなことをしなければ良いとだけ忠告した後、大学へと向かい……夜になって、愕然とした。
「……あの、メリーさん、このお金は?」
蓮子が帰って来た時、ちょうど霊夢は入浴中であった。
なので、メリーが出迎えたのだが……そのメリーより手渡された15枚の一万円札を前に、蓮子は率直にメリーへと尋ねれば……実に言い辛そうに、メリーは事実を告げた。
「あの、蓮子が霊夢ちゃんに渡した3000円があったでしょ?」
「ああ、うん。まだ使っていなかったのね」
「そう、それでね、霊夢ちゃんと街中を歩いている時、霊夢ちゃんが突然宝くじ屋の前で立ち止まって、いきなりスクラッチくじを買って、それで……」
「あ、当てたの?」
「うん、一枚買って、一発で。一回で15万円を当てちゃった」
「…………」
「とりあえず、当分の宿代だって」
「…………」
「凄いよね、さすがは素敵な巫女さん」
「……あ、うん、そうね」
とりあえず、律儀に居候の代金を用意する辺り、根はやはり良い子なのだろう。
そんな事を脳裏で考えつつ、辛うじて……辛うじて、そう返事をするだけで精一杯であった。
……。
……。
…………さて、そんな蓮子たちの驚愕と戦慄を他所に、当の霊夢はといえば……とりあえずは、順調に回復出来ている現状を良しとしていた。
理由が定かではないが、蓮子の部屋には幻想の気配を感じ取れる。そこで、これまで……霊夢にとっては必要最低限の活動を除けばひたすら心を無にして座禅を行い、霊気を整えることが出来た。そのおかげで、多少なり霊力の方も回復することが出来た。
そうして、すっかり元気になった霊夢は、蓮子の住まうマンションを離れ……近場の商店街を歩いていた。その恰好は、だぼっとしたジャンパーの……まあ、言ってしまえば蓮子の古着であった。
どうして霊夢が蓮子のお古を着ているのかといえば、蓮子の方から『その恰好(襦袢)は目立つから、外を出歩く際は私のを着ろ』と厳命されたからで……霊夢自身も、言われてみたらそうだと納得したからであった。
それに、幻想郷においても襦袢は出歩く際の恰好ではない。どうしても襦袢で出る際は、その上に何かを羽織ってから出るのが常識である。
いくらお洒落に疎く何事もぐうたらかつ暢気な性格の霊夢であるとはいえ、年頃は年頃。恰好に気を回せる余裕が出れば、羞恥心を覚えて当然であった。
(……不満というわけじゃないけど、これがこっちでの普通の恰好なのかしら……何だか、男物を着せられているみたいで嫌だわ)
言葉にも態度にも出さなかったが、それが霊夢の偽りない感想であった。霊夢の感性からすれば、今の恰好もけっこう恥ずかしいと思えてしまう。
それは、蓮子より渡されたジャンパーの下がいわゆるダサT(ダサいTシャツの略)だからではない。それ以前の話であり、霊夢の感性からすればソレは、男の子が着ていそうな代物であったからだった。
そう……霊夢は知らなかった。
現代では男の体型に合う服や女の体型に合う服とは別に、どちらが着ても何ら問題はないし目立たないタイプの服装というものが存在するということに。
霊夢が暮らしていた幻想郷では、そんなどちらが着ても違和感のない服装などはない。
男物と女物はきっちり区別されていて……7,8つぐらいの童ならばまあ問題はないだろうという程度の違いが、せいぜいだろうか。
ちなみに、霊夢が男物であると判断した理由は、蓮子より渡された服のサイズが大き過ぎたからだろう……まあ、それは致し方ない話である。
首回りから肩が出たり裾を縛っていたりと明らかにサイズ違いではある点を差し引いても、同じ女性とはいえ、蓮子と霊夢ではそもそも体型が違い過ぎる。
単純に大人と子供だけでなく、胸とか……まあ、色々と大きさが異なる。そのうえ、飽食とは言い難い幻想郷で育った霊夢の体格は平均から見ても華奢であり、霊夢に合う服がないのが当たり前……まあ、いい。
話を戻そう……時刻は、昼過ぎ。
比較的活気のある商店街なのか、通りには大勢の人々が行き交いしている。何処からともなく漂ってくる匂いは香ばしく、ともすれば食欲を誘われそうになる。
その中を、霊夢は辺りを見回しながら歩く。今朝方、蓮子より『何か有った時の為に持っておきなさい』と言われて渡された小銭入れ(3000円入り)があるが……さて。
(……ただ闇雲に結界の穴を探しているだけだと、何時まで掛かるか分かったものじゃない。少しばかり、やり方を変えた方がいいわね)
極限状態を脱し、体力を回復させ、そのうえで霊力も少しばかり戻ってきた。そして、飢え死にの心配をしなくて済む様になったこともあるのだろう。
けして晴れ晴れとした気分ではない。しかし、先日よりも色々と頭が動いてくれて、考えることが出来るようになっているのを霊夢は自覚していた。
(この際、霊力の消耗は受け入れましょう。私が私としてある限りは、最低限の霊力は常に生み出している。必要なときに、必要な分だけ霊力を回復する……ひとまず、回復する方法を幾つか見つけておきましょう)
故に、霊夢はひとまずの基準を定めた。
実際、今の霊夢は幻想郷に居た時に比べて霊力の総量が、だいたい2割程度だ。体力が回復させ、座禅を組んで回復に努めたとはいえ、それでも2割なのだ。おそらく、あの部屋ではそれ以上の回復は見込めない。
その2割とて、今後はどんどん消耗される。新たな手段を見付けなければ、その内、空も満足に飛べなくなるだろう。
そうなれば、幻想郷のように自由な行動は出来なくなるだけでなく、結界操作すら難しくなる。戻れるチャンスを得てもそこに辿り着けないのでは、穴を探す意味がない。
だから、霊夢はこうして(いちおう、幻想郷へと続く結界の穴は探し続けてはいるが)霊力の回復方法を模索するついでに、目的地へと目指して歩いているのであった……そうして、商店街を抜けた後。
(無難なのは食べ物からだけど、止めておきましょう……今にして思えば、紫の持って来た食材は高価なだけじゃなくて希少なやつだったのね。アレが今、ここにあれば……無い物強請りでしかないわね)
一つ、ため息を零して結論を出した。その時点で霊夢は、食べ物による回復は難しいと判断した。
理由は幾つかある。その中でも最大の理由はやはり、得られる霊力が少なすぎるせいだ。予感はしていたが、やはり結果はどんぐりの背比べであった
その中には幾つかコレはという物はあったが、そういうのはだいたい値段が高い。この辺りの物価には詳しくない霊夢の目から見ても、『お高い』というのが分かるぐらいに。
少なくとも、回復手段とするには……懐に厳し過ぎるというか、効率が悪すぎる。
……ちなみに、安いのはだいたい論外だ。
見た目には分からないが、何か色々なモノ(霊夢は知らなかったが、いわゆる保存料を始めとした調味料だ)が混ぜられているようだ。
体力維持の為にはこれでもいいが、これは目先に垂らした甘露な毒である。霊力回復の点から考えれば、今後も出来る限り摂取しない方が……と。
「……ここよね?」
目的地へと到着した霊夢は、眼前の光景に目を瞬かせた後……はて、と小首を傾げた。
霊夢が向かっていたのは、蓮子の家から最も近い場所にある、小さい神社であった。
その神社は、スマホのナビにも表示されない寂れた神社である。
本殿まで数メートルしかない境内に散らばる落ち葉の数が少ない辺り、定期的に掃除は成されているようだ。
(うちの神社より酷い有様だわ)
ただ……掃除程度のことしかしていないようで、眼前の神社からは何の神威も感じ取れなかった。
これは駄目かも分からない……そう思いつつ、礼をしてから中に入り、社の前にて手を合わせ……やはり駄目かと霊夢はため息を零した。
(欠片も神気が残っていない……ここを離れて、けっこうな年月が経っているようね)
この様子だと、他へ出向いているというわけではなさそうだ……仕方ない。
大して期待はしていなかったが、全く期待していなかったわけではない。幾分か気落ちしながらも、霊夢は次の神社へと足を進める。
とりあえず、日が暮れるまで回り続けよう。
そうして、二つ目、三つ目、四つ目、五つ目と、日が暮れるまで労力を注いだ結果は……良いモノではなかった。
一日でいきなり解決するとは思っていなかったが、まさか全部大外れになるとは思っていなくて……正直、落胆の思いを抑えられなかった。
けれども、まだ初日。そう、己に言い聞かせた霊夢は、その翌日も神社めぐりに勤しみ……そうして。
──あっという間に、月日が過ぎていった。
……。
……。
…………大通りを歩く霊夢の傍を、車が通り過ぎてゆく。
その度に漂う排気ガスの臭いに、思わず霊夢は顔をしかめる。それでも我慢しきれず咳き込む霊夢を他所に、次から次へと通り過ぎてゆくロービームの光。
こればっかりは、未だに慣れる気配がない。
蓮子たちより受けた、『住宅街は避けて、極力人の目が入り易い大通りを歩け』という厳命があるから、仕方なく交通量の多い大通りを歩いてはいるが……やはり、辛い。
現代人から見れば『気にし過ぎ』と言われそうだが、霊夢のこれまでを考えれば、そうまで過敏になるのは致し方ない話だ。
何せ、排気ガスとは無縁の、幻想郷の空気の中で育ったのだ。こちらに来てけっこうな日数が経過してはいるが、それでも霊夢にとっては、こっちの空気はガス臭くて堪らない。
よくもまあ、こんな酷い臭いの中で平気な顔が出来るモノだわ。
これまで何十回と抱いた愚痴を胸中にて零しつつ……堪らず、道路側から離れる。距離にすればたった2メートル程度の違いしかないが、それでも気分的には幾らかマシにはなる。
そうしてから、顔を上げてみれば……己より数十メートル先にて歩いている、己よりも少しばかり年若い子供の後ろ姿が見えた。
……幻想郷とは違い、幻想が否定されたこちらの世界では夜道に子供が歩いていてもそこまで珍しい光景ではない。
パッと辺りを見回しただけでも、一人か二人は歩いているのが確認出来る。最初は面食らったが、『え、今時そんなの当たり前でしょ』という蓮子たちの話を聞いて……納得はしている。
他にも、目に付いた点は幾つかある。けれども、それがこっちでは普通であって、己が異端でしかない。己が、間違っているのだ。
そういう細かい所に、ああここは幻想郷ではないのかと思い知らされるような気がして……自然と、霊夢は己の気分が落ち込んでゆくのを自覚した。
……とぼとぼ、と。
日も落ちてすっかり暗くなった夜道を歩く。ぶおん、と大型トラックが通り過ぎてゆく。ごほん、と咽た……土地勘の無い場所とはいえ、生来から勘の鋭い霊夢は道を間違えることなく帰路についていた。
けれども……その足取りは御世辞にも力強いとは言い難い。
今日も今日とて、一日を通して歩きっぱなしだったから疲れているのもあるのだろう。しかし、そんな事よりもずっと霊夢の肩に圧し掛かっているのは……落胆の二文字であった。
……いや、正確には少しばかり違う。
本当は落胆ではなく、想定通り。というのも、薄々ではあるが察してはいたのだ。ここにはもう、己に『力』を貸してくれる神霊などいないということに。
ここは……幻想を否定した代わりにそれ以外が発展した世界だ。
当然、人々の信仰によって文字通りに存在を支えられている神々が、何時までもこんな場所に留まっているわけがない。
有名な神々の元に参るか、留まって消滅するか……あるいは、幻想郷へと逃れて来るか。世知辛い話だが、神々とて必死なのだ。
何せ、幻想郷に住まう神々の幾らかは、こちらから流れてきたものたちだ。あの八坂ですら、消滅の危機に瀕して幻想郷に移住してきたぐらいで……如何にこちらでは幻想が存在していないかが、窺い知れよう。
故に……『勘』を使うまでもなく、霊夢とて分かってはいたのだ。いくら足を棒にして捜し歩いたとしても、己の望む結果は存在していないということに。
それならば、もっと大きな有名所に……いや、無理だろう。内心にて、霊夢は首を横に振る。
これまで小さな神社等を回ったのは、何も距離が近しいからというだけが理由ではない。こちらにも名の知れた大御所相手では、さすがの霊夢も門前払いが関の山だと分かっているからだ。
本来、神様というのは博愛であり贔屓はしない。と、同時に、だいたい気位が高いのだ。
なので、血の繋がる身内や所縁(ゆかり)が有ればまだしも、巫女とはいえ自分たちとは何の関係もない小娘がお願いしたところで、話すら聞いてはくれないだろう。
幻想郷に住まう神々とて、それは同じだ。人間に対して気楽な態度で接する神だっているには居るが、それはあの楽園特有の暢気な空気に身を浸したからであって、だいたいは気位が高いのだ。
それを知っているからこそ、霊夢は比較的気位の低い(つまり、背に腹は代えられない状況の神々)やつに狙いを定め、お供えやら何やらで煽てて『力』を分けて貰おうと考えていたが……それも、駄目だった。
そう、駄目だった……文字通り、万策が尽きた。八方ふさがり、詰みになり掛けているのを霊夢は自覚し始めていた。
けれども、霊夢はそれを認めたくはなかった。認めたら……もう、霊夢に出来ることは何もなくなるから。
幻想郷へ帰る手段は見つからず、霊力を回復するのも頭打ち、残してきたみんなの行方も分からず、そもそもの此度の『異変』は何一つ解決しないまま……こうなってしまった。
……敗北だ。完全な、これ以上ないぐらいの敗北。そう、霊夢は感じずにはいられなかった。
これ以上、何をどうしたらいいのか……霊夢は分からなくなっていた。分からないけれども、黙って見て見ぬふりのまま決着をつけたくはない。
だからこそ、無駄に終わると『勘』が訴えてきてもなお、霊夢はその無駄に執着した。そうしなければ、霊夢は……今度こそ、己を見失ってしまうと思ったからだった。
「……ここは?」
と、不意に。ちりり、と。己の中にある『勘』が疼いたのを感じ取った霊夢は足を止めた。気づけば、排気ガスの臭いは幾らかマシになっていた。
辺りを見回せば、傍には公演がある。見覚えのあるソレは、寝泊まりしている家から少しばかり離れた場所にある公園であり、何度か傍を通り過ぎた覚えがあった。
……中に入ってみようと思った。特に理由などない。ただ、そうした方が良いと思ったからだった。
柵一つない公園の中は、外から見ても分かる通りの広さしかなかった。噴水等という洒落た物はなくて、有るのはベンチとブランコと滑り台……後は、小さい柵で囲われた、これまた小さい砂場が一つであった。
時刻はそれほど遅くはない(霊夢の感覚では、夜も更けたという時間帯だが)が、遊び回るには小さく、設置された遊具で遊ぶ年代の子供には遅すぎるからだろう。
後はまあ、時期が悪いのもそうだが……当然という言い方も変な話だが、公園の中に人気は無かった。
その、人気が無い静かな園内へと足を進め……砂埃が掛かったベンチに腰を下ろす。ぽつん、と照らしている園内唯一の外灯の光が、霊夢の頭から降り注いでいた。
……。
……。
…………静かだった。本当に、静かだと霊夢は思った。
その静けさの中で、緩やかに霊夢は目を瞑る。合わせて、深呼吸をする。己の内に貯蔵してある霊力を循環させ、丹田を介して全身の隅々へと行き渡らせる。
すると……ふわりと、己の身体が浮き上がるような感覚を、霊夢は覚える。実際に浮き上がったわけではない。ただ、そんな感覚を覚えるだけである。
行うのは……探知の術。幻想郷へと通じる穴を探す為の術。霊夢がこの地に降り立ったその時から、幾度となく使用してきた、あの術だ。
霊夢自身を中心にして波紋のように広がる力。髪が、僅かに逆立つ。ふわりふわりと、履いているスカートの裾も舞う。ふわりふわりと、心が飛んでゆく。
ここは、幻想郷ではない。だから、幻想郷の時にあった爽快感は欠片もない。有るのは、肌にへばり付く何とも言えない感覚だけ。
けれども、同じ空の下であるのは確かなのだろう。
何もかもが違うけれども、どこか……そう、ほんの僅かな部分だけれども、似ている部分がある気がしてならない。どうしてかは分からないけれども、霊夢はそう思えてならなかった。
……そうして、探し続けること、5分ほど。
霊力の残量にも気を配らない以上、長くは出来ない。何時もと同じくまるで手応えを感じなかったことに溜息を零しつつ、霊夢は巡らせていた霊力の流れを抑え……おもむろに目を開けた。
「あ、起きた」
その瞬間──霊夢の眼前に現れたのは。
「──ま、りさ?」
「……あ? あんた誰? 何で私の事を知ってんの?」
興味深そうにこちらを見つめていたらしい少女の……見覚えが有り過ぎて、まるで当人が下手くそな変装をしているかのような少女の……訝しむ視線であった。
……。
……。
…………おそらく、数回に渡って声を掛けられ続けたのだろう。
「お、おい、大丈夫か?」
「──え、あ、ああ、うん」
肩に手を掛けられ、揺さぶられたことで、ようやく。驚愕のあまり停止していた頭が動き出し、我に返った霊夢は……辛うじて、そう答えるので精一杯であった。
大丈夫、大丈夫……そう己に言い聞かせ、あるいは眼前の少女に言い聞かせながら、肩に乗せられた少女の手を外す。
少女は、特に抵抗はしなかった。まあ、当然だろう。
むしろ、わざわざ安否を気遣うあたり、眼前の少女はお人好しな部類に属する……ああ、いや、そんな事よりも、だ。
「……で、あんた誰?」
眼前の少女……曖昧な言い回しは止めよう。霊夢の友人であり幼馴染でもある霧雨魔理沙に良く似た……もはや生き写しといっても過言ではない少女の全身に視線を向ける。
その少女は、顔立ちや声色や背丈はもちろん、雰囲気までもが魔理沙そっくりであった……とはいえ、何もかもが霊夢の記憶の中にある彼女のままではない。
パッと見た限りでは、身に纏っている衣服が違う。
妖怪や大人にナメられないよう男っぽい話し方を意識する彼女だが、その性根は霊夢よりもずっと乙女である。眼前の少女のような、男物と思わしきズボンなどは基本的に履かない。
帽子を被って分厚いジャンパーを身に纏ってはいるが、違う。霊夢の知る魔理沙は、意外と好みが激しく拘りも強い。特に、こういった外から一番見られやすい部分に関しては。
けれども……そんな事よりも、何よりも。霊夢が『彼女は魔理沙ではない』と判断した理由は……霊夢自身にも上手く説明の出来ない感覚で。
「……初めまして、私は博麗霊夢よ」
それは『勘』でもなければ、思いつきでもない。ただ、何となくではあるが……眼前の少女は、己の知る彼女とは違うのだという感覚であった。
「はくれい……れいむ。変な名前だな……で、何であんたは私の名を知っているんだ?」
「特に大した理由じゃないの。あんたがあまりにも私の知り合いに似ていたからよ。まるで生き写しだわ」
「へえ、それは凄い偶然だな。それで、名前の理由は?」
「それも凄い偶然ってことでしょ」
「ほうほう、そうかい。たまたま何時もとは違う帰り道を通っていて、たまたま名前も顔も瓜二つのやつがいたってわけか」
「偶然が二回や三回続いたって、偶然は偶然でしょ。むしろ、その方がお得なんだから喜びなさいよ」
「ははは、こやつめ、中々言いよる……お前、それで私が納得するとでも──っ!?」
そこまで少女が口走った辺りで、止まった。
いったいどうしたのかと首を傾げれば、「お前……気付いていないのか?」困惑した様子の少女が……おもむろにこちらを指差す。
促されるがまま、霊夢は指差された己の頬に手を当て……指先を伝わる滴の感触に、えっ、と目を瞬かせた。
「……いきなりどうした? 何で泣いているんだ?」
尋ねられて、霊夢はようやく気付いた。自身の頬を伝う……瞳より溢れ出す幾度もの涙の存在に。
「……さあ、何でかしら。ただ、寂しくなっただけかもね」
「……よく分からんが、元気出せよ」
迂闊に首を突っ込んではいけない、ワケ有りと判断したのだろう。
それ以上、少女は踏み込むこともなく、「じゃあな」と霊夢に背を向け──た、ところで。
「──そうだ。慰めってわけじゃないけど、これやるよ。景品で貰ったけど、私は基本的に飲まないからさ」
あ、そうそう。そんな感じで、少女は霊夢に何かを放る。反射的に受け取った霊夢は「……何これ?」涙で潤んだ眼差しをソレに向けた。
「何って、缶コーヒーだよ。何だお前、見た事ないのか?」
「……西洋文化には疎いのよ。興味もないしね」
「西洋って……もしかして御令嬢ってやつ? 事情は知らんが、家出したんなら事件に巻き込まれる前に帰りなよ」
そう言うと、今度こそ少女は……魔理沙に良く似ているどころか生き写しといっても過言ではない少女は、一度も振り返ることなく……夜の向こうへと消えて行った。
……。
……。
…………しばしの間、霊夢は受け取った缶コーヒーを黙って見つめていた。ぽたり、と、滴が缶の側面を滑って落ちた。
それは少しばかり冷たいと判断される程度の温もりであった。景品という言葉が嘘ではないのが、察せられる冷たさだった。
(……ああ、なるほど)
その冷たさを、それよりも更に冷えている指先でなぞりながら……霊夢は、次々に溢れ出す涙を抑える事が出来なかった。
……何故、魔理沙に良く似た少女がいたのか。
ワケが分からなかった……そう、霊夢は言いたかった。けれども、霊夢にはそれが出来なかった。そこまで、霊夢は目を逸らす勇気がなかったから。
どうして泣いているのか……その事に思いを馳せる必要はなかった。己の『勘』が、その答えを瞬時に教えてくれたから。
(私は……結局のところ、間に合わなかったのね)
そして、『勘』が導き出した答えを、言葉に言い表すのであれば。
(博麗の巫女は消え去り、今の私はただの霊夢……博麗霊夢、ただそれだけになってしまったのね)
心のどこかで、楽観視していたのだろう。レミリアが残した、『己の死が博麗大結界の崩壊を招く』という言葉に。
己さえ死ななければ、博麗大結界は崩壊しない。己さえ無事なら、幻想郷そのものは大丈夫だと……高を括っていた。
だが、そうじゃなかった。
博麗霊夢は、敗北した。ぐずぐず手をこまねいている間に此度の異変解決は失敗に終わり、幻想郷は失われた。
あの、魔理沙に良く似た少女がその証拠。あの魔理沙は、己の知る魔理沙ではない。あの少女は、幻想郷ではなく、こちらの世界で生まれて育った場合の魔理沙だ。
それすなわち、幻想郷とこちらの世界を隔てる結界……博麗大結界が失われたということ。
幻想と現実の境が消失し、もはや幻想は幻想足り得なくなった。現実の持つ力は幻想とは比べ物にならず、幻想は現実に飲み込まれ……現実の一つとして、再構成された。
それが、あの魔理沙だ。己の知らない、己の中にはいない……魔理沙だ。
証拠など無い。だが、分かるのだ。霊夢には、分かってしまう。アレは魔理沙であって魔理沙ではない。己の知る魔理沙とは異なる世界を生きてきた、魔理沙であるということが。
それは……おそらく魔理沙だけではない。
全てがそうではないだろうけれども、何らかの形でこちらに再構成されているはずだ。少なくとも、人間であったならば……魔理沙のように、再構成されているはず……だが、しかし。
(……生まれたその時より妖怪だったやつは、再構成もされないのでしょうね)
認めたくはないが、それは非常に可能性の高い推測……ぽろり、と。新たな涙が零れ出る……本当に、認めたくない現実であった。
霊夢の脳裏を過るのは……これまでに出会ってきた人々と……妖怪たち。
もはや、己が育ったあの世界は……この世の何処にも存在しない。己が愛したあの場所はもう無いのだという、認めたくない現実であった。
……。
……。
…………そうして、そのままどれぐらいの間、ベンチに腰を下ろしていた事だろうか。少なくとも、霊夢自身の体感では、数分程度の感覚であった。
「──この、家出娘。あんた、こんな時間まで何やっているのよ」
「……蓮子?」
「心配かけさせるんじゃないわよ。出て行くなら出て行くって書置きしてから行きなさいな」
なので、掛けられた声に顔を上げた時、そこに立っていた蓮子の胡乱げな視線の意味が、霊夢には分からなかった。
とはいえ、その視線の意味はすぐに分かった。
単に、いちおうの門限である6時を1時間近くも過ぎていたからだ。ああ、それは悪い事をしたなと霊夢は素直に謝罪した。
蓮子も、そこまでは怒っていなかったのだろう。「小生意気なあんたが素直に頭を下げるとはねえ……」そう呟きながら、蓮子はため息と共に霊夢の隣に腰を下ろした。
少しばかりの間を置いて、「──あ、もしもし」蓮子は取り出したスマホで何処ぞへと連絡を取り始めた……考えるまでもなく、相手はメリーだろう。
霊夢は興味を覚えていないから会話の中身を知ろうとはしなかったが、通話の向こうにいるメリーはかなりの興奮状態にあるのだけは分かる。
何せ、スマホを耳から少しばかり離した状態で会話をしているだけでなく、蓮子の返事がおざなりになっているからだ。
けれども、最低限の会話は通じているのだろう。しばしの間相槌を繰り返していた蓮子だが、「それじゃあ、準備をよろしく~」最後にそう答えてから、さっさと通話を切り上げてしまった。
……。
……。
…………それから、大きく蓮子はため息を零して。そのまま、霊夢に対しては何も言わなかった。
しかし、それは無関心からくる沈黙ではない。その証拠に、蓮子の視線はちらちらと霊夢へと向けられている……当の霊夢は、あえて無視しているけれども。
傍からみれば、それは何とも奇妙な光景に映ったことだろう。
共に、街中でも中々見掛けないレベルの美貌だ。特に、霊夢の方は桁が違う。蓮子も十分過ぎる美人ではあるが、霊夢に比べたら……という具合だから、その程が伺えよう。
そんな二人が、何をするわけでもなく人気のないベンチに並んで腰を下ろしている。
なるほど、非常に奇妙な光景だ。傍目にも分かるぐらいに張り詰めた緊張感と、どう声を掛ければいいのか分からず百面相になっている蓮子の姿が、それを後押し……と、その時であった。
「──ああもう無理。もう我慢出来ない。この際だから、はっきり言わせてもらうわ」
ぱしん、と。自らの両頬を叩いて気合を入れた蓮子が立ち上がる。
突然の事に、きょとん、としている霊夢を他所に、蓮子は大きく深呼吸をすると、おもむろに霊夢の前に立って──。
「闘魂注入!」
──有無を言わさず、ぱしん、と霊夢の頬を張った。
「──っ!?」
これには、さすがの霊夢も思わず涙を止めたぐらいに驚き、目を見開いた。困惑のあまり、頬を叩かれた事による怒りすら湧かなかった。
「あんた、もうほんとメソメソめそめそと、鬱陶しいのよ! 助けて欲しいなら助けてって言いなさい! 1人で抱え込むなら、最後まで抱え込みなさいよ!」
「…………」
「あんた、多分だけど、他の人にも言われたことあるでしょ。苦しい時は苦しいって話せって。あのね、私がこの世で最も嫌いなのは無知な馬鹿じゃなくて、『察してちょうだい』っていう大馬鹿野郎なのよ」
「──っ!」
いや、というより……蓮子のその言葉が、あまりに図星を差され過ぎて……怒る余裕すらなくなっていたのが正しかった。
「……そりゃあ、あんたと私の付き合いなんて、そう長いわけじゃないわよ」
そんな、霊夢の肩に乗せられたのは……蓮子の両手。目を瞬かせる霊夢の目に、グイッと蓮子は顔を近づけた。
「でもね、何となくだけど分かるの。あんたは、悪い子じゃない。ううん、むしろ良い子よ。口は悪いし態度も悪いし横柄で暢気でぐうたらな性格しているけど、根は凄く優しくて責任感のある子だと私は思っている」
だからこそ……そう、蓮子は言葉を続けた。
「こっちは歯痒いのよ。あんたは何かに思い悩んでいる。でも、けして相談はしない。これは自分の役目だから、自分の仕事だからと線引きして、それをおくびにも出さない……それが、私には歯痒いのよ」
「…………それは」
「みなまで言わなくていい、言いたい事は分かるわよ。確かに、相談されたって私に出来る事なんて高が知れている。というか、ほぼ出来ないことしかないのも分かっている……でもね」
──話を聞くだけなら。あんたの悩みにヒントを与えるキッカケぐらいになら。
「それぐらいなら、私にも出来る。メリーは私よりもずっとドライな面もあるけど、無下にはしない。あいつなりのアドバイスはしてくれる。それはたぶん……あんたの、霊夢のお友達も、そうだったんじゃなくて?」
「──っ!」
「霊夢……少しは周りを頼りなさい。私も通った道だから少しは分かる。あんたぐらいの年頃の子に、周りを頼れって言われて、ハイ分かりましたっていうのはプライドが許さないっていうのも分かる」
その言葉と共に、グイッと……肩に乗せられた手が、霊夢の頬を濡らしている涙を拭った。
「でもね、ただ見てやるしか出来ないこっちの身にもなりなさい。あんたがどう思っていようが、こっちはもう情が湧いちゃっているんだから」
「…………」
その言葉に対して……霊夢はしばしの間、何も答えられなかった。
もしかしたら、初めてかもしれない。
異変の為だとか何だとか理由を付けず、ただ心に圧し掛かった苦しみを他者に見せようとしているのは。
その相手が、知り合って一ヵ月も経っていない人物なのは……まあ、あれだ。まだそこまで仲良くなっていなかったから、なのだろう。
……まあ、つまるところは、だ。
歴代最強の博麗の巫女、『楽園の素敵で暢気な巫女』の異名を持つ博麗霊夢という名の少女は……何てことはない。
最後の最後にきて、ようやく。
二進も三進も行かなくなってボロボロに涙を零し始めてからようやく、周りに相談し始めるぐらいの……大そう頑固な意地っ張りなわけであって。
「……相談しても、いいの?」
「むしろ、霊夢は一人で抱え込み過ぎなのよ」
辛うじて、そう答えただけでも……霊夢を良く知る者からすれば、大そう驚かれたであろう瞬間であった。
次回、説明会というか、ようやく順序だてて考えてくれるブレインの本領発揮かな
原作設定見る限りだと、宇佐美蓮子ってめちゃくちゃ頭良い感じなんだよね・・・
ちなみに、気づいているかな
既に、レミリアが予知した運命のレールから霊夢が外れているということに・・・