Serial experiments □□□  ー東方偏在無ー   作:葛城

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今回の話で、冬の章が終了


冬の章:その3

 部屋の中(つまり、蓮子の住まうマンション)は、まったりした空気が満ちていた。

 

 それは何気なく点けっぱなしになっているテレビからのBGMもそうだし、空腹が満たされた事による満足感も関係している。

 

 

 しかし、何よりも暢気な空気を生み出しているのは他でもない、博麗霊夢の存在であった。

 

 

 というのも、霊夢自身は気付いてはいなかったが、どうやら霊夢は知らず知らずのうちに張り詰めた緊張感を周囲に発していたらしい。

 

 いや、それは緊張感というよりは、焦燥感という言葉が近しいのかもしれない。

 

 

 はっきり言えば、霊夢は焦っていたのだ。当人は落ち着いて異変解決に臨んでいるつもりではあったが、外からはそう見えなかったようだ。

 

 

 てきぱきと家事をこなしてはいるが、何処となく落ち着きがなく、ともすれば視線が一定しない。

 

 考え込んでいるかと思えば気難しそうに溜息を吐き、次いでは空元気なのが丸わかりな仕草で鼻歌を歌い始め……まあ、そんな感じだ。

 

 

 だからこそ、その日、その夜。

 

 

 晩飯の用意を済ませて待っていたメリーから「あ、今日は肩の力が抜けているのね」と指摘されて、初めて己が如何に張り詰めていたのかを理解した霊夢は。

 

 

「いや、だからって、気を抜き過ぎじゃないの?」

「う~ん、もしかしたら、コレが素なのかもしれないわね」

 

 

 頬を引き攣らせている蓮子と、微笑みながらずずずとお茶を啜るメリーの視線を他所に……ソファーにごろんと横になってだらけていた。

 

 そう……傍からみれば、今の霊夢は此度の異変が起こる前には日常的な光景であった、暢気なぐうたら巫女、そのままであった。

 

 用意された晩飯を行儀良く(これに関しては蓮子とメリーの両名が、食べ方が上手と感心している)平らげ、率先して後片付けを終えた後。

 

 相談があるという言葉から始まった、博麗霊夢が今に至るまでの経緯……霊夢自身が大怪我を負ってから今に至るまでの、おおよそ一年にも達するであろう、長い話。

 

 その中身は、おおよそ現実的な話ではなかった。それは何も、幻想郷がどうとか妖怪がどうとか、そういう意味だけでの話ではない。

 

 

 有り体にいえば、荒唐無稽なのだ。

 

 

 霊夢の言い回しは非常に分かりやすく、理解はしやすかった。だが、それでもなお全容が見えない。まるで全体に薄らと霧が掛かっているかのように、点と点が繋がらない。

 

 

 最初は、霊夢の立場というか、霊夢が陥っていた状況に蓮子もメリーも深く同情した。

 

 

 突然、生死の境を行き来する大怪我を負ったかと思えば、巫女としての責務に追われ、犯人を捕まえようと思っても次から次へと問題が生じて先に進めない。

 

 相談しようにも、一年に渡って霊夢を追い詰め続けてきたと思われる『岩倉玲音』という名の少女の妨害によって、霊夢を除けば古明地こいしという妖怪少女以外の協力は得られない。

 

 そのうえ、只でさえ思うように動けないというのに邪魔ばかりがどんどん積もり積もって……終いには幻想郷からも放り出され、ホームレス状態で十数日……そして、今だ。

 

 

 なるほど、考えれば考えるほど波乱万丈だ。仮に自分たちが霊夢の立場だったなら、早々にギブアップして白旗を挙げていたであろう状況だ。

 

 

 だからこそ、蓮子とメリーは素直に霊夢に同情した……ちなみに、『岩倉玲音』の名は蓮子もメリーも忘れはしなかった。

 

 理由は、定かではない。ここが幻想郷ではないから、『岩倉玲音』の影響が及ばないからなのかもしれないが……いや、話を戻そう。

 

 とにかく、そんな話をソファーで暢気にだらけながら語られるのだ。『疲れるから、横になるわね』と言いながら……そりゃあ話を聞くとは言ったが、それでもこう……蓮子たちだけでなく、だいたいの人は思うだろう。

 

 

 ──お前、神経がワイヤーか何かで出来ているのか……と。

 

 

 ギャップどころか、もう別人と判断されても何ら不思議ではない。少なくとも、短い間とはいえ寝食を共にした蓮子(次いで、メリーも)は、思った。

 

 

 ──こいつ、小一時間ぐらい前までは泣いていたよな……と。

 

 

 開き直っているようには見えない。メリーが先ほど評したように、肩の力が抜けた……つまり、これが博麗霊夢の本来の性格というやつなのだろう。

 

 

「……あんたも大変だったのね」

「まあ、それなりには大変だったわよ」

 

 

 とりあえず、テレビに目を向けながらも返事だけはしっかりする辺り、完全に気が抜けているわけではないのが分かった……ので。

 

 

「それで、あんたはどうしたいの?」

「決着をつける」

「……即答ね。復讐のつもりなら、覚悟をしないと駄目よ」

 

 

 間髪入れずの返答に、蓮子は率直に尋ねた。

 

 霊夢の説明を聞く限りでは、もう霊夢が守ろうとしていた幻想郷は存在していない。言うなれば、ここから先は蛇足……BADエンドを迎えた後なのだ。

 

 

 ──全て、終わってしまった。

 

 

 それは、霊夢も口にしていた。霊夢自身が、認めてしまった。幻想郷は消え、霊夢の友人たちはこちらの世界の住人となり、霊夢の事は欠片も覚えていない。

 

 

 もはや、幻想郷が有った事を知っているのは霊夢のみ。

 

 

 そんな状況になってもまだ、戦うつもりなのか。それをやったところで、霊夢に残るモノは何も無い。これ以上は、何をやっても徒労に終わるだけではないか。

 

 

「復讐なんて私の柄じゃないわ」

 

 

 そう思って尋ねてみたのだが、霊夢の返答は、蓮子が抱いていた予想とは異なっていた。

 

 

「……それじゃあ、どうして?」

「博麗の巫女としての、最後の意地よ」

「その、幻想郷とやらは無くなってしまっているのに?」

「負けっぱなしは性に合わないのよ。それに、やり掛けた仕事を放って置くのも嫌なの」

 

 

 そう答えた霊夢の目には、少しばかりの諦観と……僅かな光が込められているように蓮子には見えた。

 

 ……ただ、寝転んだ体勢で凄まれても……まあ、それが博麗霊夢なのだろう。

 

 

「──とりあえず、経緯を聞いたうえで思ったことを言っていいかしら」

「もちろん、いいわよ」

 

 

 この子はもう、覚悟を固めた。ならば、いちいち気にするだけ無駄だな。

 

 そう判断した蓮子は、さっさと気持ちを切り替えて、霊夢が語ったこれまでの話を頭の中で簡単に纏める。次いで、思考を始め……ふむ、と頷いてから。

 

 

「……あんた、何でもかんでも直感で物事を決める方でしょ。そんで、そもそも情報を一つ一つ整理して考えるのが嫌いな性質……違うかしら?」

 

 

 まず、最初に思い浮かんだ事を訪ねた。いや、それは尋ねたというよりは、確認というか指摘という意味合いが強い口調であった。

 

 

「……それがどうかしたの?」

 

 

 霊夢も、実は自覚していたというか、思うところがあったのだろう。蓮子の指摘を否定するわけでもなければ肯定するわけでもなく、逆に問い掛けた。

 

 それが言外の肯定であるのは、霊夢に限らずこの場の誰もが理解し……あ、いや、「この芸人きらーい」一人マイペースにテレビのチャンネルを切り替えているメリー以外は……まあいい。

 

 

「良いか悪いかは置いといて、まず私が思ったのは……そもそも、『岩倉玲音』が諸悪の根源なのかってことよ」

「それは──」

「分かっている、それはあんたの御大層な『勘』が、『岩倉玲音』が全てにおいて関与していると判断した……それは私もそう思う。でも、それだけじゃない」

 

 

 むくりと身体を起こした霊夢を制するように、蓮子は掌を霊夢に向けた。

 

 

「否定しているわけじゃない。むしろ、此度の根源は『岩倉玲音』であるのは間違いではない。そいつが何を考えてそうしたのかは別として、その点については私も同意見よ」

 

 

 けれども……そう言葉を続けた蓮子は、テレビを見ているメリーの肩を叩く。すると何かを察したのか、立ち上がって押入れの方へと向かい……何かを引っ張り出す。

 

 

「でもね、私にはどうにも腑に落ちない点が幾つかあるのよ。それをふまえて、これまであんたに行われてきた数々の助言から推測する限り……私の仮説は、これ」

 

 

 はい、と。メリーより手渡されたのは……大きなスケッチブックであった。それをぱらりと開いた蓮子は、同じく手渡されたマジックペンをきゅきゅっと走らせると。

 

 

「『岩倉玲音が原因であるのは間違いないが、そうなる為の引き金(トリガー)が別に存在している』。そう、これが私の現時点での仮説よ」

 

 

 大きく記したその仮説を、霊夢に見えるように向きを変えて見せた。

 

 

「……つまり、『岩倉玲音』はある意味では利用されているだけで、黒幕は他にもいるってわけ?」

 

 

 それを目にした霊夢はしばしの間、記された一文に目を瞬かせながら何度も目を通した後……そう、ぽつりと零した。

 

 

「あくまで可能性の話よ、いきなり結論を出しては駄目。これから要点を整理していくんだから……ていうか、霊夢の『勘』ではそういう感じではなさそうなのでしょう?」

「まあ、そうね。あくまで『勘』だけど、利用されているっていうのとは少し違う気がするわね」

「黒幕っていうものでもないし、利用されているわけでもない。そして、『少し違う』とあんたは思った……じゃあ、一方ではなく、両方が利用し合っている場合は?」

「……それも、少し違う気がする」

 

 

 蓮子の持論を前に、特に霊夢は驚かなかった。理論を立てて考える性質ではないと指摘されたのは別としても、全く考えないわけではない。

 

 

 ……霊夢とて、此度の異変が『岩倉玲音』による単独犯ではない可能性も、当然ながら考えていた。

 

 

 何せ、記憶だけでなく物質の改変を幻想郷の全てに行うのだ。それも、一般人だけではない。名のある実力者……すなわち、その中には妖怪や神々すらも含まれていたからだ。

 

 

 ──というのも、だ。

 

 

 肉体に依存する人間とは異なり、妖怪や神々というものは精神……目に見えない不可思議な力、はっきり言い直せば、人間が生み出す様々な感情によってその存在を形作られている。

 

 故に、その精神構造は人間とは大きく異なる。何せ、父が居て母が居て、遺伝子を繋いで産み落とされる人間とは違い、そういた存在というのはある日突然生まれ、ある日突然……消え去る定めなのだ。

 

 そんな存在だから、人間に比べて精神操作……特に、記憶等への改変には非常に強い耐性を持っている。だからこそ、霊夢も『岩倉玲音』以外にも此度の異変に関与している協力者の事を考えはした。

 

 

 ……だが、仮に『岩倉玲音』に加担している協力者がいるとして、だ。

 

 

 いったい、その協力者の目的は何なのだろうか。何故、『岩倉玲音』に力を貸す必要があるのだろうか。あるいは、『岩倉玲音』はそいつと協力しているのか。

 

 

 それが全く思いつかなかったし、何よりも『勘』が違うのだと訴えていたから、霊夢は協力者がいるという仮説を排除した。

 

 何せ、双方が、居るのか分からない協力者か、あるいは『岩倉玲音』自身が、幻想郷の全てに影響を及ぼすような能力を持つ存在だ。

 

 見方を考えれば、双方はわざわざ協力し合う必要などないのだ。

 

 何故なら、お互いが同程度の実力ならば、仲違いの危険性がある。片方に実力が傾いているのならば、わざわざお荷物を抱える必要がないからだ。

 

 

「でも、『岩倉玲音』が関与しているのは確かよ。それだけは、最初から一貫して私の『勘』がそう言っているわ……たとえ、皆が違うと話していても、私はアイツが鍵を握っていると思っている」

「ええ、そうね。あんたから聞いた、『岩倉玲音』について語った者たちの証言全てが『岩倉玲音の仕業ではない』と口を揃えた。けれども、『岩倉玲音』は関与していないとは誰も言わなかった以上、その子が関与しているのは確実と思っていい……さて、そのうえで、よ」

 

 

 きゅきゅっ、と。サインペンがスケッチブックの紙面を滑り……どん、と新たに記したソレを、霊夢へと見せた。

 

 

「『そもそも、『岩倉玲音』とは何者で、何が目的なのか』……これが重要になってくるわね」

「……それについては、ずーっと調べ続けてきたんだけれど」

「調べ方が悪いわ。いきなり本丸を攻めて黒幕にズドンなんて、そんな漫画みたいな……ああ、あんたには『勘』なんていうオカルトパワーが有ったわね。そりゃあ、見付けられないわけだわ」

「い、今まではそれで上手くいったのよ! ていうか、それが分からないから私が苦労してきたんでしょうが!」

 

 

 少しばかり頬を染めて吼える霊夢に、「どうどう、落ち着きなさいな」蓮子は苦笑しながら話を進めた。

 

 

「さて、かの堅牢な大阪城は堀を埋められて攻略された。それと同じく、本丸を攻めるにはまず、その堅牢な防御を一つ一つ崩していくしかないわけよ」

「……で?」

「将を落とすなら馬が先。そうね……とりあえず、証言の中にあった固有名詞と思われるモノから攻略して行くとしますか」

 

 

 きゅきゅっと、スケッチブックに記されたのは……『ワイヤード』という単語であった。

 

 

「それが、何よ」

「これ、いわゆるIT用語っていうやつでね。『インターネット接続環境にある人々』というのを差す言葉らしいわ」

「……なに、その、あいてぃようご、っていうのは?」

「そういう言葉があるってだけよ。それでね、興味深いのは、この『ワイヤード』が持つ本来の意味である『繋がる』、『繋がれたもの』……そう、あんたの友達が残した証言の方ね」

 

 

 きゅきゅきゅっ、と。紙面の上に新たに記されたのは、『ワイヤードとは?』の一文であった。

 

 

「証言が真実であるならば、『ワイヤード』と呼ばれる世界が、この世界には存在していることになる。けれども、少なくとも私はそんな世界があることは知らない。あくまで、数ある用語の一つとして『ワイヤード』というモノが存在しているというだけ」

「……あいつらが嘘をついていたってこと?」

「いえ、違うわ。むしろ、証言の多さから考えれば逆よ。本当にあると考えるべきよ、『ワイヤード』と呼ばれる薄っぺらく広大な世界が……でも、私が気になるのは存在の有無じゃない。むしろ、本来の言葉の、その意味と……ああ、違う、そうじゃないわね」

 

 

 そこまで話した辺りで、蓮子は自らの頭を叩いた。そうしてから、絡まり始めた思考を解き解すかのように、大きく息を吐いた。

 

 

「……そうね、順を追って、まずは各々の証言を纏めましょう。違うと思ったら、その都度修正するから」

『ワイヤード』の文字の横に箇条書きで記される。それは、名前であった。

「まずは、古明地さとりという少女が残した証言」

 

 

『岩倉玲音はこの世界にはいない』 

 

 ← 『この世界』がどの世界を差すのかは不明。可能性としては、『幻想郷にはいない』というのが高い。

 

 

『岩倉玲音は私たちの中にいる』

 

 ← 身体の中ではなく、もっと奥底(抽象的?)の無意識の海辺(この部分は何かの比喩?)にいる? 

 

 

『岩倉玲音は人の数だけ存在する』

 

 ← 心の数という言い回しから察するに、もっと多い? もしかしたら、特定の共通項を持つ者が『岩倉玲音』と名乗っている? 

 

 

『岩倉玲音に害意や敵意はない』

 

 ← 霊夢の現状からすれば必ずしもそうではないのかもしれないが、少なくとも命を奪いに来るといった行動は見られない。

 

 

 

 

 ……と。

 

 

 

 そこまで記した辺りで、不意に蓮子は手を止めた。

 

 どうしたのかと霊夢の視線を受けた蓮子は、何かを考え込むかのように、たんたんと紙面に黒い点を打った。

 

 

「……おそらく、あんたを除けば、古明地さとりこそが『岩倉玲音』に最も近付き、最初に真実へと辿り着いた者と考えて間違いないわ」

 

 

 ──そう呟かれた蓮子の言葉を前に、霊夢は特に驚きはしなかった。霊夢も、その点については考えていたからだ。

 

 

「何で、そう思ったの?」

「幾つかあるけど、古明地さとりの証言がレミリア・スカーレットのモノと比べて具体的かつ、『岩倉玲音』そのものを示したり示唆したりする部分が多いから……特に、ここよ」

 

 

 たん、とペンが叩いたのは、『岩倉玲音は人の数だけ存在する』の一文だった。

 

 

「あんたは、『岩倉玲音』と同じ姿をした『レイン』と名乗る少女と接触した。その際、その『レイン』はこう話したのよね……『あんたが作り出した岩倉玲音の一つの形』だと」

「……そうだったと思うわよ」

「なら、おかしいじゃないの。仮に、本当に人の数だけ存在するのならば、どうして古明地さとりは、おそらくはオリジナルである『岩倉玲音』を知っていたのか。発言の中身から考えて、彼女は『異なるレイン』の存在に気付いていた……では、どうやって彼女はそれがオリジナルではないと気付けたのか」

「──え?」

「誰も、『岩倉玲音』を認識出来なかった。その、唯一認識出来たあんただけでなく幻想郷の全てを自在に操って翻弄した『岩倉玲音』が、古明地さとりに対してだけは他とは違う結果を残した……改変ではなく、行方不明……失踪という形で」

 

 

 その言葉と共に……蓮子は、霊夢の胸元を指差した。

 

 

「では、どうして古明地さとりだけが他とは違ったのか……これもまた推測に過ぎないけど、おそらくはオリジナルである『岩倉玲音』と接触を果たしてしまったからよ」

 

 

 指差した指先が……とん、と。優しく、霊夢の胸元を押した。

 

 

「あんたの中にいる、『岩倉玲音』とね」

「──っ」

 

 

 その、瞬間。閃光にも似たナニカが、脳天から全身を駆け巡る感覚を霊夢は覚えた。

 

 

 そして、その直後……霊夢の脳裏を過ったそれを……霊夢自身、どう言葉に言い表せば良いのか分からなかった。

 

 

 まるで、絡みに絡み合っていた糸屑の一辺が解けたかのような……がんじがらめになっていた鎖の一つが外れ落ちたかのような感覚であった。

 

 

 

 

「……なるほど、ここにいたってわけか」

 

 

 

 

 と、同時に、霊夢は……そっと手を宛がう。伝わって来るのは鼓動だけであり、それ以外の不自然な気配は何も感じ取れなかった。

 

 

 なるほど……なるほど、だ。

 

 

 道理で、見つからぬわけだ。何時もであればまっすぐに黒幕へと直行出来る『勘』が働かないわけだ。何せ、己の中にいるの──っ!? 

 

 そこまで考えた辺りで、頭を軽く叩かれた。

 

 ハッと我に返った霊夢が目にしたのは、「……あんた、結論を出すのが早すぎよ」呆れた様子の蓮子の眼差しであった。

 

 

「みんなの証言を思い出しなさい。確かに、あんたの中に『岩倉玲音』はいた。けれども、古明地さとりはこうも答えた……私たちの中にいる、と」

 

 

 ……そういえば、そうだった。

 

 思わず目を瞬かせる霊夢を見て、蓮子はスケッチブックを捲り……新たな紙面にペンを滑らせると、ソレを霊夢に見せた。

 

 

「……『集合的無意識』?」

「ユングってやつが考えた用語なんだけどね。意味は、個人の意識を超えた、民族や集団、あるいは人々が持つ潜在的な無意識のことよ」

 

 

 続いて、ペンが紙面を走る。霊夢、蓮子、メリー……他にも霊夢が語った様々な人や妖怪の名が記され、その下に横線が引かれ……更に下に、『集合的無意識』の文字がくるようにされた。

 

 

「例えば、古来より人々は天災を恐れた。故に、人々は天災を鎮める為に様々な方法を取った……人や獣を生贄として捧げたり、巨大な自然物を神聖なモノとして祀ったり、あるいは『神』を具現化したりもした」

「あー……なんか聞いたことがある。御岩様とか大岩様とか、御岩信仰ってやつよね」

「そうよ……さて、ここで問題。これら天災を鎮める為に行われた行為は、かつて世界中で行われていたし、今も行われている地域もある。では、何故それらが世界中で行われたのか……分かるかしら?」

「そんなの知らないわよ。どこかが初めて、それが広がったんじゃないの」

 

 

 霊夢の最もな返答に、「そうね、常識的に考えればそうなるわね」蓮子は気を悪くした様子もなく、ペンで紙面を叩いた。

 

 

「なら、そうじゃないとしたら」

「……は?」

「仮に、よ。人々の中には、人々には感知出来ない大きな無意識が有って、その無意識は全ての人々の無意識に繋がり、共有されている……としたなら、どうなるかしら」

「どうなるって、それは……」

「例えば……偶然だとしても、何処かの部族が生贄を行ったことによって天災を乗り越えられたという主観的記憶が、その無意識を通じて他者の無意識に流れ込み……その結果、人々の無意識の内に『生贄をすれば天災は防げる』というのが植えつけられたのだとしたら?」

 

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい。そ、それじゃあ、『岩倉玲音』は……」

 

 

「そう、古明地さとりの証言から推測出来る『岩倉玲音』の正体は……『集合的無意識』そのもの。あるいは、ソレに近しい性質を持った存在だと思われるわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 

 …………否定の言葉を、霊夢は震える唇から先に出すことが出来なかった。

 

 

 何故なら、蓮子の言わんとしている事が仮に事実なのだとしたら。それはもう、霊夢が手におえる相手ではないからだ。

 

 人々の無意識……それすなわち、人類全ての根源。そんなの、勝てる勝てないの話ではない、勝負にすらならない。

 

 だから、霊夢は何とか違う答えを捻り出そうとした。けれども、答えは出せなかったし、誤魔化しも言えなかった。

 

 当の霊夢が、蓮子の仮説を頭の中では認めていたからだ。付け加えるなら、霊夢の『勘』も同じく、それが真実であると判断していたからだった。

 

 

「……そこから考えて、古明地さとりが語った『ワイヤード』と呼ばれる世界があるのは……おそらく、ここよ」

 

 

 さすがに動揺を隠しきれない霊夢を他所に、蓮子は止まっていた推測を進める。きゅきゅっと、人々と集合的無意識の間に記されたのは……○で囲った『ワイヤード』の五文字。

 

 

「人々の表面意識と集合的無意識の境目。あるいは、限りなく集合的無意識に近しい辺り……『岩倉玲音』がいる場所はそこらになると思われるわ」

「…………」

 

 

 しばしの間、霊夢は紙面を見つめた。

 

 地頭が悪いわけではないが、知識の層が違い過ぎた。「……こう、概念的というか、そういう話なのよね?」辛うじて、そう答えるのが精いっぱいであった。

 

 

「──へえ、分かっているじゃないの。まあ、そんな感じに思ってくれていいわよ。意外と幻想郷ってやつにも学問が発達しているのね。ちょいと見直したわよ」

「え、あ、いや、そう……私は大して興味が無かったから知らないけど、有るんじゃないかしら……魔法があるくらいだし」

「なるほど、魔法か……今更だけど、その断片でも触れてみたかったわね」

 

 

 まあ、まるっきり分からない最悪でも、奇しくも当たらずとも遠からずを引いてしまうのが、博麗霊夢というやつなのだろうが……まあ、それはいい。

 

 

 ──さあ、話を戻すわよ。

 

 

 一瞬ばかり緩んだ空気を引き締めるかのように蓮子は、「さっきも言ったけど、結論はまだ出す段階じゃない。あくまで、仮説よ」先ほどの推測に続けて、新たな仮説を重ねた。

 

 

「古明地さとりは、他にも重要と思われる発言をしているわ。それは、『ワイヤードは他の世界と一度重なって、今は離れている』ということ。加えて、こうも言っている……『幻想郷とは異なる世界』だと」

 

 

 ○で囲われたワイヤードの隣に、○で囲った『幻想郷』が記された。

 

 

「腑に落ちない点の一つが、ここ。どうして、幻想郷とは異なるなんて発言をしたのかということ。何なら、『ココとは異なる』って言えばいいのに何故、『幻想郷とは異なる』なんて言い回しにしたのか」

「そこに、意味が有ると?」

「ええ、有るわね。よく思い出してみなさい、あんたの発言から想像出来る限りでは、その時の古明地こいしはかなり衰弱していたのでしょう?」

 

 

 言われて、霊夢は記憶の奥底より当時の光景を引っ張り出す……言われてみれば、そうだったと手を叩く。

 

 

「声一つ出すだけでも辛い時に、そんな謎掛けみたいなことをすると思う? 少なくとも、私はしないわ。少しでも正確に伝わるように言葉を選ぶか、あるいは伝えたい事を片っ端から伝えるわね」

 

 

 それも、蓮子の言う通りだと霊夢は思った。あの時のさとりは衰弱していた。そんな状態で、わざわざ洒落た言い回しをするだろうか……いや、しないだろう。

 

 少なくとも、霊夢が知る古明地さとりはそんなことをする性格ではなかった。

 

 素直な性格ではないし種族的な特性から皮肉屋な部分はあった。とはいえ、だからといって回りくどいやり方は嫌う性質だったと……霊夢は思い出していた。

 

 

「そこから推測出来る事は、ただ一つ。それは、ワイヤードと幻想郷とに共通する事柄があって、それを区別する意味合いがあった」

「幻想郷と、ワイヤードが……?」

「でなければ、幻想郷とは……なんて言い回しはしないでしょう。さて、問題は、その共通するのが何かってところね……」

 

 

 そんな霊夢の内心を肯定するかのように、あるいは補足するかのように、蓮子は力強く傾き……次いで、ふむ、と『幻想郷』の文字を叩いた。

 

 

「現時点で確定しているのは、幻想郷もワイヤードも、共に秘匿された世界であるということね。ただ、一度だけ……その世界が、他の世界に重なった」

「……それが、幻想郷だと?」

「断言は出来ないけど、違うわ。おそらく、重なったのは私たちが暮らしているこの世界の方よ。仮に幻想郷の方が重なったのだとしたら、どうしてあんたがその事を覚えていないのかが説明出来ない」

「その時は記憶を改変されたからじゃないの?」

 

 

 霊夢の質問に、「そうなると、前回と今回とで対応の差が大き過ぎて不自然よ」蓮子は首を横に振った。

 

 

「どうして今回はあんたに対して中途半端な改変をするのか、そこに矛盾が生まれる。仮に、目的が幻想郷の乗っ取りなのだとしたら、なおさら……でも、そうじゃない。それは、あんたの話を聞いてすぐに推測出来た」

 

 

 そこまで話した辺りで、「さあ、次に移るわよ」蓮子はスケッチブックを捲る。新たな紙面に記したのは、『レミリア・スカーレット』の名前であった。

 

 

「レミリア・スカーレットが残した発言は、前述した古明地さとりとは少し違う。古明地さとりは主に『岩倉玲音』について語っていたが、レミリア・スカーレットは博麗霊夢と幻想郷の行く末についてが主だった」

「……言われてみれば、そうね」

 

 

 確かに……改めて指摘されてみれば、レミリアの言葉は『岩倉玲音』に対してというよりは、幻想郷……並びに、霊夢自身に関する事が多かったように思える。

 

 性格が悪いわけではないのだが、こう、悪魔としての矜持がそうさせるのだろうか。回りくどく気障な言い回しをすることも多く、蓮子の指摘した部分についてはそこまで深く考えてはいなかった。

 

 

「また、古明地さとりとは状況が異なっていた可能性が非常に高く、切羽詰まっていたのは間違いないわね。『勘』が鋭くて記憶の改変を受けていないあんただけが発見出来るような仕掛けを用意はしたけど、そこが限界だった辺り……まあ、その辺は重要ではないわね」

「え、そうなの?」

「記憶も物質も改変出来る相手なら、それこそ切羽詰まった状況に陥ってもおかしくないでしょ。当人だって、どうしたらいいか分からんって話したぐらいだし……そっちよりも重要なのは、彼女が示した博麗霊夢の数多の運命の方よ」

 

 

 その言葉と共に、蓮子はレミリアの名から←を引いて……大きく『博麗霊夢・自殺』の一文を書いて○で囲うと、その隣に『霊夢死亡=幻想郷崩壊』の一文を記した。

 

 

「私の予想だと、彼女が見たのは運命というよりは、数多の並行世界の……まあいいわ。とにかく、彼女の話だと幻想郷の崩壊と博麗霊夢の死はほぼ同時に起こる話だった。時期にはかなり誤差があるようだけど、この二つは全ての運命に共通しているはずだった」

 

 

 ──でも、そうはなっていない。続けられた蓮子のその一言に、霊夢は軽く頷いた。

 

 

「博麗霊夢は今も生きている。なのに、幻想郷は崩壊した。既にここで矛盾が生じている。それだけは全てにおいて共通していたのに、それが起こっていない。加えて、レミリア・スカーレットは興味深い発言を残した」

 

 

『これでは足りない』

 

『これでは辿り着けない』

 

 

 紙面に記したその言葉は、レミリアが見た数多の運命の先にいる……全ての博麗霊夢が自死する時に呟いたとされる言葉であった。

 

 

「この発言から考えて、博麗霊夢が自死する並行世界……彼女の言葉を借りるのならば、数多の運命の中にいた博麗霊夢は……おそらく、『岩倉玲音』の下へと向かう手段を見つけ出していた可能性が高い」

「…………」

 

 

 その言葉を霊夢が受け入れるには、少しばかりの間を要した。

 

 何せ、他の運命の中では見付けられたソレを、己は見付けられていない。出来ているはずのソレが出来ていない……言い換えれば、その分だけ己の不甲斐なさを見せ付けられる思いであったからだ。

 

 

「……この二つの単語から推測出来る状況はただ一つ、手段を見つけ出したまでは良いものの、そこから先……つまり、『岩倉玲音』の下へ向かうまでの準備が間に合わなかったということ」

 

 

 忸怩たる思いで唇を噛み締めている霊夢の様子から、蓮子もすぐに察した。

 

 けれども、霊夢は気休め程度の慰めなど欲してはいない。むしろ、それを侮辱だと捉えるであろうことも察していた蓮子は、そのまま話を続けた。

 

 ペンを走らせ、二つの単語を○で囲って矢印を引き、そこに『何が足りなかったのか?』、『そのせいで(岩倉玲音の下に)辿り着けなかった?』の二つを付け足した。

 

 

「重要なのは、この二つ。ここが問題なのよ……ここだけは情報が少なすぎて推測も出来ないわね」

 

 

 続けて、『『これ』とは何か?』という一文が書き記された。

 

 

「『これ』という言葉が付く辺り、手段の為のナニカを手にしていた可能性はある。けれども、そもそもソレが間違っていたか、あるいは純粋に足りなかったのか……それは現時点では」

「──足りなかったのだと思うわ」

「分からな……それは、『勘』なのかしら?」

「『勘』よ。何となくだけど、そんな気がする」

 

 

 蓮子の言葉を遮って霊夢が言い放てば、蓮子はしばし目を瞬かせた後……「なら、そうなんでしょうね」そう、あっさり納得して『純粋に足りない』という一文を付けたし、三重に○で囲った。

 

 

「……さて、これで古明地さとりとレミリア・スカーレットの発言が纏まった。古明地さとりは『岩倉玲音』を、レミリア・スカーレットは『博麗霊夢』を……次は、もう想像付いているでしょ」

「……馬鹿にしないでちょうだい。私が作り出したっていう、『レイン』のことでしょ」

 

 

 少しばかり眉根をしかめた霊夢の視線に、「う~ん、惜しい、半分正解」蓮子はかりかりと己の頭を掻いた。

 

 

「もちろん、その『レイン』の発言も無視出来ないわね。でも、発言内容からは現時点では不明な点が多過ぎる……そっちよりも、あんたそっくりの姿をしていた、『靈夢』の方よ」

 

 

 ──便宜上、こっちの文字で書かせてもらうわね。

 

 

 その言葉と共に書き記された文字は、なるほど、それもレイムと読める。何でわざわざ漢字にするのかとも霊夢は思ったが、あえて触れずに「……それで?」続きを催促した。

 

 

「こっちも大概な内容だけど、こっちは前の二人とはまた違う。何故かは……分かるかしら?」

「……『忠告』でしょ。こいつだけは、はっきりと私にそう言ってきたからでしょ」

 

 

 正直、霊夢にとってはあまり思い出したくはない記憶ではある。何故なら、ある意味では霊夢が最初から最後まで一方的に翻弄された相手だからだ。

 

 何といえばいいのか……相手が『岩倉玲音』相手なら、まだそこまでは思わない。

 

 記憶や物質を改変すると思われる能力もそうだが、何よりも直接相対さえ出来れば……という思いが心のどこかにあるからだ。

 

 

 だが、この靈夢は違う。霊夢本人が、直接相対したからだ。

 

 

 不調だろうが何だろうが、関係ない。己の手が届く範囲にさえ近づければどうにでもなると思っていたのに……完膚なきまでに自信を壊されてしまった。

 

 手も足も出せないどころではない。文字通り、子ども扱いだ。本気で頭に来た紫相手ですら、互角以上(調子が良ければ8割ぐらい勝てる)にやり合うというのに、だ。

 

 

「そう、『忠告』。此度の一連の事件において、初めてあんたに向けられた……黒幕からの伝言、あるいは要求、または目的といったところかしら」

「……何でそうなるのよ。『忠告』でしょ」

「あんた、『勘』が無かったら大概脳筋だわ。言葉通りに受け取ってどうするのよ、そんなの皮肉に決まっているでしょ」

 

 

 意味が分からず首を傾げていた霊夢に、「そりゃあ、何時まで経っても見つけられないわけよ」呆れたといった様子で蓮子が溜息を零した。

 

 

「相手の狙いがあんたの命や存在なら、わざわざ忠告する必要なんてないでしょ。そんなことせずに、ズバッとやっちゃえばいいわけなんだし」

「……あ」

 

 

 ようやく納得したかと、蓮子は二度目のため息を零し……さて、と紙面に記された『靈夢』の文字を上から叩いた。

 

 

「敵意も無いし害意も無い。結果的にはこうなっているけど、発言の内容から推測出来る限りでは……相手は、あんたのナニカを待っていたように思えるわね」

「私の? 私の何を?」

「それが分かったら誰も苦労したりはしないわよ。でも、そうね……『靈夢』の発言内容を補足するうえで重要となる、『古明地こいし』のことにも触れましょうか」

「……やっぱ、それも?」

「あら、嫌なの?」

「嫌ってわけじゃないわよ。ただ、複雑なだけよ」

 

 

 一つ、霊夢はため息を零した。けれども、そこに嫌悪感はこもっていない。言葉通り、ただ複雑なだけなのは蓮子にも伺えた。

 

 

 まあ、霊夢の立場からすれば当たり前の話だろう。

 

 

 何せ、異変が始まった当初から別れるまでの間の唯一といっても過言ではない、話が通じる相手であったのだ。

 

 その相手が、まさか敵(?)と通じていたばかりか、裏切りと取れなくもない暴挙を行ったのだ。

 

 

 ……こいしの身に、何かが起こっていたというのは間違いない。

 

 

 彼女には、彼女なりの思惑が有ったのだろう。別れる直前の会話から考えても、霊夢を……己を想ったうえでの行動であるのも、間違いない。

 

 しかし、それでも……少なからず傷ついたというか、何というか。裏切られたという思いが有るのは、霊夢の正直な気持ちでもあった。

 

 

「まあ、悩むのは話が終わってからにしなさい」

 

 

 とはいえ、複雑な気持ちになっているのは霊夢であって、蓮子ではない。何ら気にした様子もなく、蓮子はドライに話を進めた。

 

 

「古明地こいし……この子の発言も抽象的というか何というかだけど、その中でも気になる点は四つ」

 

 

 一つ、蓮子は指を立てた。

 

「『力では勝てない相手』であると初めて明言した事。すなわち、博麗霊夢の力では太刀打ちできない相手だと分かっていた」

 

 

 二つ、二本目の指を立てた。

 

「霊夢は既に気付いているとはっきりと明言した事。すなわち、古明地こいしは霊夢に何かを期待し、それを待ち望んでいた」

 

 

 三つ、三本目の指を立てた。

 

「古明地さとりの発言の通り、古明地こいしは『ワイヤード』へと繋がる鍵だった。けれども、彼女は最後の最後までそれを霊夢に明かさなかった」

 

 

 四つ、四本目の指を立てた。

 

「相手側は、そんな古明地こいしを放置していた……いえ、それどころか協力している素振りすら見られた」

 

 

 以上、そこから考えられる推測……と、これまでの要点を纏めた私の結論はというと……そう言いながら、蓮子はずびしと霊夢を指差した。

 

 

「『『岩倉玲音』とその関係者は、博麗霊夢に何かを望んでいた。あるいは、あんた自身が相手側の目的そのものである』。それが、数々の証言をもとに紡ぎだした仮説を組み合わせた、私の結論よ」

 

 

 蓮子の、その結論は……思いの外大きく強く、室内に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………点けっぱなしのテレビから広がる音声。芸人とMCの掛け合いと、笑い声のBGMが、静まり返った室内にはよく響いた。

 

 

「……わたし?」

 

 

 たっぷり、20秒程だろうか。蓮子の結論を頭の中で反芻していた霊夢が、恐る恐るといった様子で自身を指差せば、「ええ、あんたよ」はっきりと蓮子は頷いた。

 

 

「そう考えると、これまでの諸々の仮説にとりあえずの筋が通るのよ。あんた自身が目的だったから、あんただけは改変を免れていた……でしょ」

「な、何で私なのよ。そりゃあ私は博麗の巫女だけど、私が死んだって次代の巫女は用意される。その間はむしろ紫たち大妖怪が気を張るから、余計に警戒されるはずよ」

「さっきも言ったでしょ。おそらく、相手の目的は幻想郷じゃない。害意も無いし敵意も無いってことは、そもそも幻想郷そのものには何の興味もないのよ……『岩倉玲音』はね」

 

 

 おそらく、相手の目的は……ズイッと、蓮子の指が霊夢の額を押した。

 

 

「博麗霊夢、あんたよ。博麗の巫女だから……いえ、それを含めて、あなた自身があいつらの狙いだと考えた方が早い」

「なんで、私なのよ……ていうか、だったら私は何で最初に死にかけたのよ」

「そんなの私が知るわけないでしょ。でもね、これだけは言える。『岩倉玲音』はあんたが、私たちが生まれるずっと前から、それこそ幻想郷が生まれるずっと前から存在していたかもしれないやつよ。それがどういう意味か、分かる?」

「そ、そんなの……」

「幻想郷が狙いなら、それこそ幾らでも機会はあった。目障りなら、体勢が整う前に攻勢に出られた。でも、そうしなかった。只の気紛れか、あるいは理由が出来たか、それとも……」

「……それとも、なによ」

 

 

 その先は、あまり聞きたくないし、聞いても心身によろしくないだろう。

 

 直感的にそう思った霊夢だが、平均よりも少しばかり頭がキレる(意味深)らしいうえに相当に学問を修めている蓮子には、霊夢の気持ちなど御見通しであった。

 

 

「レミリア・スカーレット嬢に倣うのならば、『運命』なのかもね」

「……運命って、あんたね」

「そう考えてしまうぐらいに、全てが繋がってしまうからよ」

 

 

 なので、ズバッと蓮子はその先を告げた。もちろん、霊夢は「こんな運命、嫌よ」言葉通り、心底嫌そうに顔をしかめたが……そんなの、蓮子の知った事ではなかった。

 

 そして……当の霊夢も、本当に……心の底から嫌ではあったが……蓮子の結論を否定しようとは思わなかった。

 

 何となく……そう、何となくではあるが、分かるのだ。『勘』が、訴えている。蓮子が導き出した結論は、ほとんど当たっているということに。

 

 

 ──『岩倉玲音』の正体は、人々の集合的無意識である。

 

 ──『岩倉玲音』の目的は、博麗霊夢……つまり、自分である。

 

 

 そう、改めて心の中で呟いた、その瞬間。かちり、と。また、己の中で何かが外されたような気がした。

 

 それもまた、先ほどと同じく……絡み付いていた鎖が解け落ちたかのような……どう言い表せばよいのかは分からないが、何か……そう、何かが、軽くなったのを霊夢は感じ取っていた。

 

 

(これは……なに?)

 

 

 だが……それと同時に。霊夢は……自身の奥に、胸の、心の、その奥に……固く閉ざされた扉のようなモノが鎮座しているのを知覚した。

 

 初めて……そう、初めてだ。思わず、霊夢は胸に手を当てる。

 

 その奥へと意識を向けようとするが……どうにも、手応えが無い。有るのは分かるが、それだけだ。

 

 強固な扉であるのだって分かるのに、その先が無い。まるで蜃気楼のようなそれに、霊夢は……内心にて首を傾げた。

 

 

(何らかの術ではないし、呪いでもない……何なのかしら、これ?)

 

 

 病気……ではないだろう。念のために霊力を巡らせて探ってはみたが、異変らしき部位は……と。

 

 

「──それで、霊夢ちゃんはこの後どうしたいの?」

 

 

 身体の内を探っている霊夢の耳に、その問い掛けが届いた。

 

 ハッと我に返って顔を上げれば、今しがたまでテレビを見ていたメリーと視線が交差した。

 

 

 ──これまで、ずっと我関せず&霊夢なみにマイペースに振る舞っていたからだろう。

 

 

 一瞬、霊夢は(あ、話を聞いていたのか)といった具合に、中々失礼なことを考えた。

 

 ちなみに、「静かだから寝ているかと思ってた……」蓮子の方はもっと失礼なことを口走って……まあ、それはいい。

 

 

 この後……この後、か。

 

 

 チラリと、霊夢は蓮子に視線を向ける。『好きにしろ』と言わんばかりに両手を軽く上げて肩をすくめる蓮子から視線を戻した霊夢は、答えようと……答えようと、した。

 

 

 しかし、出来なかった。それは何故か……理由は、ただ一つ。

 

 

 己を見つめる……霊夢を見つめるメリーの目であった。何処となく紫に似ていて、ほわほわとして穏やかな雰囲気を醸し出している普段の彼女とは掛け離れた……真剣な眼差しであったからだ。

 

 

 どうしたって、それは……。

 

 

 その言葉が、霊夢の唇から出る事はなかった。見つめる視線の強さに堪らず顔を逸らし「霊夢ちゃん、どうなの?」たかったのだが、機先を制するかのようにメリーからそう言われて……蓮子に視線を向けた。

 

 

 ──諦めろ、こうなったら私にも手が負えん。

 

 

 けれども、蓮子は役に立たなかった。いや、むしろ、メリーの矛先が己に向かわないように、「……喉乾いた」そっと台所の方へと向かって……ああ、くそ。

 

 

 頼むから、その目で見ないでほしい。率直に、霊夢は思った。

 

 

 この目は……幼い頃から苦手なのだ。昔、悪戯をした時に紫からよくこの目を向けられた。叱るのでもなく、自分が何をしたのかを自覚させる……ああ、この目は駄目だ。

 

 

 ──かちり、と。

 

 

 その瞬間、何かが……いや、違う。ついさっきまで捉えられなかった扉の鍵が、外された音を霊夢は聞いた。けれども、まだ……そう、まだ、開く気配はなかった。

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「……さ、さっきも言ったでしょ。決着をつけたいのよ」

 

 

 あ、これは答えない限り一時間でも二時間でも終わらないやつだ。

 

 幼い頃からの経験則からそれを察した霊夢は、とりあえず先ほど蓮子に答えた事をそのまま伝えた。

 

 

「違うでしょ、霊夢ちゃん。私が聞きたいのは、そこじゃないよ」

 

 

 ──が、しかし。メリーは納得しなかった。

 

 

 けれども、そこでないのなら、何処だというのだろうか。

 

 意味が分からずに目を瞬かせれば、「もう、霊夢ちゃんは本当に素直じゃないのね」メリーは一瞬ばかり苦笑を零し……次いで、再び表情を引き締めると、あのね、と改めた。

 

 

「霊夢ちゃんは、どうしたいの?」

「どうって、そりゃあ……」

「違うよ、私が聞きたいのは、決着をつけたいと思っている、『博麗の巫女』としての霊夢ちゃんじゃないの。今、ここにいる、ただの霊夢ちゃんに聞きたいの」

「──っ!」

「幻想郷の事とか、お友達の事とか、そういうの、今は邪魔なの。霊夢ちゃんの、本当の気持ちを知りたいの。ねえ、霊夢ちゃんは……本当は、どうしたかったの?」

「……どうって、そりゃあ……その……」

 

 

 まっすぐ、真正面から見つめられる。苦手な類の、その視線。言い繕うことも煙に巻くことも暢気に受け流すことも出来ず、霊夢は言われるがまま考え……考え……あれ?

 

 

 ……何故だろうか。霊夢自身が不思議に思えるぐらいに、胸中から出てくるモノは何もなかった。先ほどまで、決着だとか口にしていたはずなのに。

 

 

 いや……正確には、有るには有る。

 

 

 だが、手応えが無い。胸中の、その奥にある触れられない扉と同じく、まるで霞のように手応えのないソレが、ふわふわと湧いてくるのを霊夢は感じ取っていた。

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………大きく息を吸って、吐く。目を瞑って……己に問い掛ける。

 

 

 下手な言い訳は、通じない。それを分かっているからこそ、霊夢は何度も深呼吸をして気を落ち着かせる。メリーが、急かさずに待ってくれているのは、見なくても分かった。

 

 

 ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと。

 

 

 何度も何度も何度も、繰り返す。触れられない扉へと、手が伸びて行くのが分かる。その扉が何なのかは、分からない。でも、それがとても大事なモノであると、『勘』が訴えている。

 

 

 ──手を……ああ、駄目だ、それに触れては。

 

 

 その指先が扉へと触れる直前、霊夢は手を引いた。古ぼけて埃だらけのそこから、遠ざかる。と、同時に湧き起こる安堵感と、少しばかりの……いや、これでいい。

 

 

 こうしなければ、なら──。

 

 

「──霊夢ちゃん、私を見なさい」

 

 

 ──ない。

 

 

 そう思った途端、頬に触れる温かい感触に霊夢は思わず目を開けた。視界一杯に映ったのは……何処となく、紫の面影を感じさせる、メリーの微笑みであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………メリーは、それから何も言わなかった。頬を包む両手も、全く動かなかった。ただ、微笑んで……霊夢を見つめるだけであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そのまま、どれぐらいの間、そうしていただろうか。時間にすれば、そう長くはない。少なくとも、霊夢の体感では……2分と経ってはいなかっただろう。

 

 

「……分からない」

 

 

 その2分にも満たない時間を使って霊夢が絞り出したのは……そんな言葉であった。

 

 当然といえば当然なのかもしれないが、メリーの後ろから様子を見ていた蓮子が「……分からないって、あんたね」呆れたと言わんばかりに溜息を零していた。

 

 けれども、メリーは笑うこともなければ呆れた様子もない。ただ、黙って見つめるばかりであった。

 

 そう、見つめるだけだ。けして逸らさず、まっすぐ霊夢の目を見つめている。堪らず霊夢の方が目線を逸らそうと……するたびに。

 

 

 ──ぐいっ、と。

 

 

 無言のままに、頬を掴むメリーの指先に力が込められる。顔ごと背けようとすれば、それ以上の力で無理やり戻され……目線を、逸らせられない。

 

 

 ──どくり、と。

 

 

 霊夢は、己の心臓の鼓動が高鳴り始めているのを自覚した。これは嫌だ、これは落ち着かないと思っても、抵抗出来ない。

 

 これではまるで……何時ぞやの、幼い頃に紫から怒られている時の……言い訳を許さないと本気で腰を据えている時の……ああ、くそったれ。

 

 

「わ、分からないから……知りたい」

 

 

 気付けば……霊夢は、そう口走っていた。その後になってようやく、自分が何を言ったのかを理解したぐらいに、それは無意識の事であった。

 

 

「知りたいって、何を?」

「分からない……分からないから、それを知る為に……」

「知る為に? 誰の何を、何の為に?」

「……『岩倉玲音』に会いたい。私は、げん……ううん、自分の為に、会ってみたい」

「それは、どうして?」

「分からない。分からないから、会いたい。退治じゃなくて、ただ……話をしたい」

 

 

 それが、切っ掛けになったのだろうか。

 

 

 意識せずとも、尋ねられるたびに勝手に言葉が己の唇から出て行くのを霊夢はどこか他人事のように感じ取っていた。

 

 

 けれども、他人じゃない。そう、全て自分の事なのだ。

 

 

 これは、紛れもなく己の本心であって……メリーの問い掛けに答える度に、何かが……そう、己の中にあるナニカが、剥がれ落ちて行くような感覚を覚えた。

 

 

「──霊夢ちゃん。貴女が、貴女自身の為に何かをして、それで誰かの迷惑になることを怖がっては駄目よ」

 

 

 それ故に、あるいは……霊夢自身にも上手く説明が出来なかったが、そのメリーの言葉は……不思議と心の奥底に、すとんと落ちてゆくような気がした。

 

 

「みんな、そうよ。他人に迷惑を掛けないで生きられる人なんてこの世にいないの。みんなが我慢して、みんなが迷惑をかける。だから、貴女だけがそれを許されないなんて駄目なのよ」

「でも、私は……」

「でも、じゃない。もう貴女は『博麗の巫女』じゃない。博麗の巫女でなくなった貴女が、いったい誰に遠慮をするの? 誰を想って我慢するの?」

「それは……」

「博麗の巫女でもなければ、幻想郷の為でもない。偶には、自分の思うままに、自分のやりたい通りに……自由にやって良い時が有るものよ」

 

 

 そう言い聞かせるように呟くと、言いよどむ霊夢からメリーはそっと離れる。外された指先の温もりに、思わず霊夢は唇を開き……次いで、閉じた。

 

 その霊夢の前に……そっと差し出されたのは、冊子タイプの『地図』であった。A4サイズのそれは、厚さが1センチ強はあるやつで……表紙の隅に、税込1980円という文字が見えた。

 

 

「さあ、選んで。霊夢ちゃんの思うままに、行き先を決めて」

 

 

 ……一瞬、霊夢は何を言われたのか分からなかった。

 

 

 とはいえ、霊夢が分からなくとも蓮子なら……ああ、駄目だ。「……?」付き合いの長い連子も、メリーの発言の意味が分からずに小首を傾げて……まあいい。

 

 

「……行き先って、どうやって? ていうか、何の話?」

「あら、そんなの決まっているじゃないの。霊夢ちゃんが、次に向かう行き先よ」

 

 

 とりあえず、率直に尋ねてみれば、返事がそれであった。

 

 

「考え込む必要なんてないでしょ。霊夢ちゃんは、霊夢ちゃんの思うままに決めたらいいの。何時ものように、ね」

「え、いや、何時もって、何の……」

「ほら、明日にはもう出発する予定なんだから。ちゃっちゃとしなさいな」

 

 

 困惑する霊夢を他所に、メリーはそう言いながら……地図を開いて、霊夢の前に広げて置いた。そこには、日本列島がカラーに印刷されていた。

 

 

 

 

 

 ──え、明日? 

 

 

 

 

 

 思わず、連子に視線を向ける。そうすれば、蓮子からは「……諦めなさい、言い出したら私よりずっと頑固だから」そんな言葉を掛けられ……ああ、そう。

 

 

 ……もう、規定事項なのだろう。少なくとも、メリーの中ではたった今行き先を決めて、明日には出発……なのだろう。

 

 

 何だろうか……こう、ある意味では変な所で強引に事を進める、この話の持って行き方。まるで、臍を曲げたどこぞの胡散臭い大妖怪を思い出させ……ああ、まあいい。

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………思うままに、か。

 

 

 そう、心に思った、その瞬間。かちり、と……何度目かとなる感覚を、霊夢は覚えた。直後、また、絡み付いていた鎖が外されてゆく感覚がして……大きく、霊夢は深呼吸をした。

 

 

 ……行き先、か。

 

 

 どうしてだろうか……霊夢は、とても心が軽くなっているような気がした。幻想郷にいたとき、博麗の巫女として異変の解決に躍り出た時も、『勘』の促すままに動いていたが……その時よりもずっと、心が楽であった。

 

 

 ──他の誰でもない、自分の為に。博麗の巫女としてではなく、只の霊夢として。

 

 

 しばしの間、地図を眺めていた霊夢は……何となく、気になった点を指差した。それを横から眺めていたメリーは、地図を手に取ってペラペラとページを捲り……新たに開いたそこを霊夢の前に置いた。

 

 それは、先ほど霊夢が指差した点を、より拡大して印刷されたページであった。無言のままに、視線で促された霊夢は……再び、気になった点を指差した。

 

 そうすれば、再びメリーはページを捲り……さらに拡大されたページを霊夢の前に広げる。先ほどと同じく、霊夢はまた気になった点を指差した。

 

 

「……へえ、関東じゃん。新幹線とタクシー使えば、まあ……日帰りも可能な距離っちゃあ距離だわね」

 

 

 すると、いつの間にか傍に寄って来ていた蓮子が、思わずといった調子でそう零した。

 

『かんとう』とは、遠いのだろうか……こっちの地理には全くといっていいほど疎い霊夢には分からなかったが、蓮子の口ぶりからして、けっこうな距離があるようだ。

 

 

「──はい、決まり。それじゃあ、明日には出発ね」

 

 

 だが、蓮子曰く『こうなった』メリーの前では何の意味もないようだ。「ちょ、まだチケットも取れてないでしょ! ていうか、お金は!?」代わりに、蓮子の方が少しばかり慌てた様子であった。

 

 

「え、そんなの前に霊夢ちゃんが新たに当てたスクラッチのお金があるでしょ」

 

 

 だが、連子曰く……まあ、無駄だった。

 

 そういえば当てたなと思い出す霊夢と、そりゃあ、そうだけど……そう呟きながらも頬を引き攣らせる蓮子を他所に。

 

 

「じゃあ、私たちはお風呂に行くから。明日は遠出するし、きっちり身体を綺麗にしないとね」

 

 

 誰に言うでもなくそう言い放ったメリーは、サッと霊夢の手を取って立ち上が──はっ? 

 

 

「……あの、何で私の手を?」

 

 

 意図が……いや、意図は分かる。私たち、という言い方から察した……だが、理由が分からなかった。

 

 

「え、だって、霊夢ちゃん恥ずかしがって一緒にお風呂に入ってくれないでしょ」

「いや、そりゃあそうでしょ。あんた、私を何歳だと思っているのよ」

「何歳だろうと、一緒にお風呂に入る理由の妨げになるの? そんなわけないでしょ」

「いや、なるわよ──って、引っ張るな! ちょ、なんか力が……あんた、ちょ、待ち、待ちなさ──は、放せ!」

「やーん、実はね、霊夢ちゃんみたいな妹がずーっと欲しかったのよ。素直になったんだから、私も素直になっていいわよね」

「良くないわよ! 酔っ払ったアイツなみにうざったい絡み方すんな! ちょ、はな、止め、そこは止め──」

 

 

 何一つ、有無を言わさない。

 

 正しく、そんな感じで風呂場へと引きずられて行く霊夢の後ろ姿を見やった蓮子は……こっそり用意していたお茶を、ずずずっと啜ると。

 

 

「……駄目だ、そうなったメリーはあたしにも止めらんないわ。すまん、霊夢……しばらくの間、我慢してやってくれ」

 

 

 それだけを呟いて、風呂場の方から聞こえて来る霊夢の悲鳴をバックに……蓮子は、黙ってテレビの音量を上げるのであった。

 

 

 

 







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