Serial experiments □□□  ー東方偏在無ー   作:葛城

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世界は大きく変わった

けれども、それを知るのはたった二人だけ

それは、幻想郷の歴史においては最大で、最小で、歴史書に記されることはない……博麗霊夢が起こした異変であった


エピローグ

 

 

 

 

 

 ──幻想郷。

 

 

 それは、人ならざる者たちが集う隠れ里。

 

 

 コンクリートジャングルの現実世界からは否定された存在……一部の神様や妖怪、超能力者たち、あるいはその末裔たちが肩を寄せ合って生きる、小さくも幻想的な世界。

 

 博麗大結界と呼ばれる、幻想郷(内)と現実世界(外)を隔てる不可視の壁によってほぼ閉ざされたその世界は、緑が溢れていた。空気も澄んでいて、空も青く、どこまでも自然が自然のままに息づいている。

 

 何故そこまで綺麗なのか、その理由は一つ。この世界を管理する者たちの存在によって文明の発達が管理されているからだ。

 

 現実世界より否定された存在にとって、現実世界ではもう生きることは叶わない。幻想郷が、現実世界と同じようになってしまえば、その後に待っているのは……消滅のみ。

 

 だから、科学技術を始めとした、秩序そのものを根こそぎ作り変える力は危険視されている。理由問わず、それを広めるようなことをするものを厳しく罰するので、必然的に技術の発展は抑制されているわけだ。

 

 それは何とも乱暴な考えではあるが、しかし、悪いことばかりではない。外とは違い、幻想郷の時間は忙しないが緩やかに流れている。人ならざる者たちにとって、この世界は最後の住処なのであった。

 

 そこで住まう人々を始めとした、人ならざる者たちは、幻想郷内にて定められた規則(ルール)にはよく従った。特に、強者とされている者たちほど、この規則を守った。

 

 その気になれば、大勢の妖怪を従えて王として君臨することが出来るかもしれない存在も、中にはいた。だが、彼ら彼女らはあえてそれをしなかった。

 

 

 それは何故か。理由は、色々とある。

 

 

 例えば、強者とされている者たちは意外と多く、結果的にそのおかげでパワーバランスが保たれているから。

 

 例えば、争い事を好まない強者もおり、何か事を成せばその者が敵に回るから……といった理由がある。

 

 けれども、強者たる彼ら彼女らを押し留めている最大の理由は、そこではない。腕の一振りで人間一人、妖怪一体を容易く葬る強者たちの暴走を押し留めているのは……一人の人間の存在であった。

 

 それは、幻想郷の要であり支柱でもある博麗大結界を管理する、博麗神社の巫女。渦巻くパワーバランスを一身で押さえ付け、留め、幻想郷内の秩序を守っている、秩序の天秤。

 

 異変ある所に博麗の巫女あり、妖怪ある所に博麗の巫女あり、人間ある所に博麗の巫女あり。幻想郷が出来たその時より幾度となく代替わりを果たしながらも、その名を幻想郷内に知らしめ続けた、最強の抑止力。

 

 

 

 ──その名を、博麗霊夢(はくれい・れいむ)。数多の妖怪から一目置かれている博麗の巫女の中でも、歴代最強と噂されている美少女であった。

 

 

 

 御年十代半ばでありながら、博麗の巫女を先代より襲名して、幾数年。未だ負けを知らぬは博麗霊夢と揶揄されることもあるその少女は、己の寝床でもある博麗神社の縁側にて腰を下ろしながら……静かに、眠気と戦っていた。

 

 

 

 

 

 

 ──ちちち、と。

 

 

 

 

 

 

 どこからともなく聞こえてくる鳥の鳴き声。これは、雀だろうか。半ばまで瞑り掛けている己の眼を気合いでこじ開けながら、霊夢は胡乱げな意識の中でぼんやりと考えていた。

 

 

 季節は、春だ。

 

 

 此度の幻想郷の春は、例年にないぐらいに陽気で、穏やかで、誰も彼もが眠そうにしている。それは、内と外とを隔てる博麗大結界を管理する霊夢とて、例外ではない。

 

 船を漕ぐ霊夢の傍には、カップが一つと皿が一つ。内容は、すっかり冷めてしまった紅茶が淹れられたカップと、茶菓子であるマドレーヌが三つだ。

 

 基本的に緑茶派かつ和菓子派の霊夢にしては、珍しい組み合わせである。飲めないわけではないが、霊夢個人の好みが、『洋』ではなく『和』の方に傾いているからだ。

 

 

 ……で、だ。紅茶だけでなく、マドレーヌも少し硬くなっているのは……眠気に負けてしまったからだろう。

 

 

 まあ、霊夢が眠そうになるのは、ある意味では当然であった。何故かといえば、霊夢が住まう神社は……とにかく、変化がなくて静かであるからだ。

 

 

 ……というのも、だ。

 

 

 まず、博麗神社は人里(幻想郷内にて生活する人々が暮らす場所。そこ意外に、人間は基本的に暮らしていない)よりかなり離れた不便な場所にある。つまり、日常的な交流がほとんどない(没交渉、というわけではない)のだ。

 

 博麗神社は幻想郷を維持するうえで最重要ではあるが、だからといってそれだけを大事にして生きて行けるほど、幻想郷は楽園ではない。御参りしたくとも、人里で暮らす人々にとってはそう挨拶に行ける場所ではないのだ。

 

 当然、巫女の手を借りるような事態になれば、彼ら彼女らはここに来るだろう。しかし、頻度はそう多くはない。言うなれば、巫女は一発のミサイル。ナイフで事足りる事態ならば、それが出来る者たちに任せる……当たり前のことであった。

 

 加えて、博麗神社にはおおよそ娯楽と呼べる物がほとんどない。全くないわけではないのだが、とっくの昔にやり飽きてしまっている。

 

 その役目故に、そうぽんぽんと神社を離れるわけにはいかず、朝昼晩と一人で神社に籠っているせいであった。

 

 

 だから、この日の霊夢も暇を持て余していた。

 

 

 ぽかぽかとした陽気は暑すぎず、寒すぎず。そよそよと頬に当たる風はどこまでも優しく、穏やかで。することがない霊夢が、眠気を覚えてしまうのはある意味では仕方ない話であった。

 

 なら、修行なり雑事なりをすればよい話なのかもしれないが、霊夢は性根が物臭である。暇を潰す為に何かをするという行為を面倒に思う霊夢にとって、こうして船を漕いでいるのは何時もの日常でしかなかった……のだが。

 

 

 ──不意に、変化のない光景に変化が起こった。

 

 

 それは、霊夢の斜め後ろ側。ちょうど、マドレーヌが載せられている皿の、少し上。何もないその空間に、突如として亀裂が走ったかと思えば……そこが、ぐわりと開いたのだ。

 

 開かれた亀裂は穴へと変わる。その向こうには、幾つもの眼光が蠢く、何とも形容し難い光景が広がっている。それは、幻想郷の住人たちからは『スキマ』と呼ばれている、特殊な空間であった。

 

 言うなれば、ワープホールのようなもの、といえば理解が早いだろう。

 

 大きさにしてラグビーボール大ほどの穴から出て来たのは、シルクの手袋に包まれた腕。一目で女性のものであることが伺える細い腕が、音もなくマドレーヌへと伸ばされ──叩かれて、皿の外に指が当たった。

 

 

「……手癖が悪いわよ。欲しければ、ちゃんとお伺いを立てなさいな」

 

 

 なおも諦めずに伸ばされる指先を、霊夢は幾度となく払う。計3回払われたその手は、諦めたかのように皿の端をちょんと叩いた。

 

 

『──めずらしいモノを食べているのね。御一つ、くださいな』

「最初からそう言いなさい……これなら、貰ったのよ。いや、というより、詫び代わりに持って来させた」

『……詫び? 何かされたの?』

 

 

 するりと伸びた細い腕がマドレーヌを一つ掴み、穴の奥へと消える。と、同時に、霊夢の言葉に返したのは、絹が風に喘いだかのような艶やかな声。

 

 霊夢の傍にはだれもいないが、霊夢は驚かない。何故なら、開かれたスキマの向こうに、その声の持ち主がいることを知っているからだ。

 

 

「されていないけど、されたの。半年間でチャラにしてやるってんだから、むしろ私の寛容な対応を褒め称えてほしいところよ」

『……されていないけど、された? とんちにしては、本当に意味が分からないのだけれど……あら、これ美味しいじゃないの』

「分からなくていいわよ、そんなの。とりあえず、半年先まで茶にも菓子にも困る事はなくなったってだけよ」

 

 

 だから、霊夢は気にした様子もなく、振り返ることもせず、寝ぼけ眼をそのままに、霊夢は叩いたその手でマドレーヌを手に取り、かじる。

 

 温いを通り越して冷たくなった紅茶(冷めたのは自分のせいなので)に僅かばかり眉間に皺を寄せ、緩くため息を零していた。

 

 それを見て……というより、感じ取ったのだろう。はあ、とため息らしき声がスキマの向こうから零れた。

 

 一拍遅れて、ラグビーボール大の穴は目に見えて広がり……中から、ナイトキャップのような帽子を被った妙齢の女がぬるりと姿を見せた。

 

 女の名は、八雲紫(やくも・ゆかり)。この幻想郷を作るに当たって尽力した、妖怪の賢者。数多に存在する強者たちの間からも一目置かれている、大妖怪と呼ばれている内の一体である。

 

 

 その、八雲紫……一言でいえば、美人であった。

 

 

 熟女とも少女とも表し難い、特有の年代のみが出せる、脂が乗った女。町を歩けば一人二人と振り返られるであろう美貌の彼女は、「貴女、いったい何をしたのよ」心底呆れたかのように霊夢の背中に軽く圧し掛かる。

 

 

「別に、何もしていないわよ」

「じゃあ、何をしたの? お姉さん、怒らないから素直に教えなさいな」

「おねえ……ちょ、痛い痛い痛い、脇を抓るの止めてよ。妖怪の腕力でやられたら肉が千切れるでしょうが」

 

 

 説明するのが面倒だった霊夢だが、さすがにここまで強引な手を取られると、黙るわけにもいかなくなる。

 

 誤魔化しは許さないと言わんばかりの、紫の視線。心の底から面倒だなと思いつつ、紅茶を一口……口の中に入っていたマドレーヌを呑み込んだ霊夢は、さて、と話し始めた。

 

 

 

「簡単な話よ。そいつのせいで私はとんでもなく痛い目にあった……というか、遭う事が確定しちゃったから、これはその御詫びよ」

「……どういう意味?」

 

「思い至らなかった私にも落ち度はあるけどさ……考えてみれば、あいつって全ての者の内面にいて、全ての者と繋がっているわけよ」

「……あの、霊夢?」

 

「つまり、あいつはある意味、全ての映し鏡みたいなものでさ。親和性の高い私が、そいつを一突きするってことは……見方を変えたら、私自身を突き刺すも同じってわけよ」

「…………?」

 

「本来は、何事も起こらないのよ。数多の世界線に存在する己に分散されるから、刺したところで、爪楊枝で突かれた程度の影響しか出ないはずだったのよ」

「……その、霊夢?」

 

「まあ、それは私の落ち度なんだけどね。楼観剣で数多の道を断ち切っちゃって間もない時だったから、分散される影響が全部私に集結しちゃって……気付いた時にはもう、手遅れで……おまけに、私自身が、色んな世界線の自分を集結させちゃっている時にやったことだからさ」

「霊夢、あの、霊夢?」

 

「もうね、アレが最後の決め手だったのか~って、後で気付いてさ。そうなると、最初のほら……胸に大穴が開いたのって、アレって元を辿れば私なんだよね。結局、自分で自分の胸を刺し貫いたっていう話に──」

「いったいどうしたの? 何か、悪いモノでも食べた? 具合が悪いなら、無理しなくていいのよ」

 

 

 

 普段の胡散臭い微笑みとは別物の、困惑と緊張が入り混じる眼差し。普段とは異なる状態に不安を抱いたのか、心の底から心配で堪らないと言わんばかりに、紫の手が霊夢の背中を摩った。

 

 

 ……具合が悪いやつが冷えた紅茶片手にマドレーヌを食べたりするのだろうか。

 

 

 第三者の立場でこの場に居合わせたなら、そんなことを思っただろうか。そもそも、血色の良い霊夢の顔を見て、何をどうすれば『具合が悪いのか』という判断に至るのだろうか。

 

 

 客観的に見れば、紫の反応は親馬鹿以外の何物でもないだろう。

 

 

 何せ、とりあえずは落ち着けと促す霊夢の反応をやせ我慢と判断したようで、「医者を」だとか、「業務の一部肩代わり」だとか、呟き始めている。というか、何か思考を巡らせている。

 

 紫の式(術的な契約で結んだ部下みたいなもの)である八雲藍が見れば、呆れた眼差しを主である紫に向けたのは間違いないだろう。場合によっては、落ち着いてくださいと溜息を零したかもしれない。

 

 ……まあ、言葉は違うが、親が親なら子も子というやつだろう。

 

 そんな藍も、己の式である橙(ちぇん:猫又の妖怪)が似たような反応をしたら、顔色を変えて取り乱すような女である。いや、そればかりか、医者を引きずって……話を戻そう。

 

 

「……いきなり何よ? 事情を説明しろって言うから説明しているのに、いきなり病人扱いは止めてもらえるかしら」

 

 

 紫の目線から見れば親心だとしても、当人である霊夢からすれば不本意この上ない。

 

 今にも布団の中へ引っ張ろうとする紫を宥めながら注意すれば、「だって、霊夢が何を言っているのかさっぱり分からないんだもの!」何故か、それ以上の剣幕で怒られてしまった。

 

 

 ……いや、まあ、言わんとする事は霊夢にも分かるのだ。

 

 

 説明しろと言われたから説明をしてはいるが、正直、今しがたの説明を行う自分を、客観的に見ていたら……紫ほどではないが、『お前大丈夫? 疲れているんじゃないの?』と思わなくもない。

 

 実際、それぐらいに慣れない事、普段の自分では間違っても口にしないような事を言っているなとは思っていた。

 

 

 ただ、本当にこれ以上の説明をしろというのが無理であり無茶なのだ。

 

 だって、紫たちは覚えていない。いや、実際は、それ以前の話である。

 

 

 紫たちが存在していない時に起こった出来事であり、紫たちでは認識出来ない事柄であり、それを認識し、記憶出来ているのは……今の所、霊夢と……菓子を持ってくる、あいつしかいない。

 

 そう、誰も、何も覚えていない。何故なら、霊夢が語るそれらは全て過去の出来事であり、もう存在していない世界の話であり……新しい幻想郷において、それは遠い記憶であり記録しかないのだから。

 

 

「無理に分かろうとしなくていいわよ。お互いに納得した結果だし、私としては半年間も菓子がタダで食えるから万々歳って感じかな」

 

 

 なので、そう答えるしか霊夢にはなかった。それ以上にどう上手く説明をすればいいのか分からなかった。

 

 紫も、そんな霊夢の内心を察したのだろう。というか、『お互いに納得している』という部分に、これ以上は終わった話を蒸し返すだけだと思っただけなのだが……まあ、それはいい。

 

 

 ──さて、と。

 

 

 最後の1個を頬張り、飲み込む。紅茶を流し込むように胃へと収めるという中々に慌ただしく3時のおやつを終えた霊夢は、するりと縁側へと放置している靴を履くと……その場で、大きく伸びをする。

 

 

「紫、ちょっと所用で此処を離れるから、その間お願いね」

「出かけるの? いいけど、何処へ?」

「紫が外界に作った、スキマ商事に。そこで働いている、玲音って子、覚えがあるわよね?」

「玲音……ああ、あの子、覚えているわよ。妖力はか弱いけど、分身したりして人件費が安く済むから有り難いのよね」

 

 

 今更ながら、もくもくとマドレーヌをかじり始めた紫は、「物静かな子だけど、よく働く子だわ」そんな感想を零した。

 

 スキマ商事──それは、八雲紫が外界物資などの取引をスムーズに行う為に作った会社である。どうしてそんなモノが有るのかと言えば、必要だからだ。

 

 

 ……というのも、だ。

 

 

 基本的に、幻想郷における様々なモノは自給自足によって賄われている。しかし、全てではない。どうしても、幻想郷内では手に入り難いモノも存在する。

 

 

 その中でも代表的なのが、『塩』だ。

 

 

 幻想郷内部にも岩塩などで手に入れることは出来るけれども、限りがある。他にも海産物なども該当するが、そちらも相応に値段が張るし、数が少ない。

 

 それならばいっその事、外界から仕入れる方がずっと手っ取り早い。けれども、何時までも外界から盗んで(スキマは便利)いるのを繰り返すのは、将来的に見て非常によろしくない。

 

 そういうわけで、作られたのが『スキマ商事』と幻想郷では呼ばれている、幻想郷唯一の外界に作られた、物資のやり取りを行っている会社なのであった。

 

 ……ちなみに、外界の空気は幻想郷に住まう妖怪たち(人間も含める)にとってあまりよろしくない。影響を受けない玲音は、そういった意味で人知れず紫たちから重宝されている人材(?)でもあった。

 

 

「恩人に会いに行くらしいんだけど、一人だと心細いし勇気が出ないから一緒に来てってお願いされたのよ」

「あら、そうなの……何時の間に仲良くなったの?」

「色々あったのよ」

「ふーん……何時頃戻る予定なの?」

「友達のところに泊まるから、明日の昼頃かな」

 

 

 尋ねてきた紫に、霊夢は特に思うところなく「──明日!?」応えた──のだが、どうにも反応がおかしかった。

 

 

「あ、明日って、どういうこと!? 友達って、何時の間に!?」

「この前、相手は大学生の女、そんな心配しなくていいわよ」

 

 

 不思議に思いつつも、霊夢は紫が心配しそうなことを先に伝えた……のだが、どうも違う。

 

 ぷるぷると、今にも腰が抜けそうなぐらいに青ざめた紫の姿に、「……紫?」霊夢は訝しんだ。

 

 

「……は」

「は?」

「反抗期が……来てしまったのね……!」

「……はあ?」

 

 

 が、すぐに白けた眼差しを向けた。先ほどとは異なる意味で訝しむ霊夢を他所に、紫は……震える手で顔を覆い隠し、蹲ってしまった。

 

 

「そ、そんな、来てしまった、ついに来てしまった……恐れていた反抗期が来ちゃった、霊夢が、霊夢が……!」

「あ、あの、紫? 反抗期って、何の話?」

「ああ、あああ……ついこの前まで一緒にお風呂に入ったり、おんぶしたり、お布団で子守唄を歌ったりしていたのに……!」

「いや、本当に何の話をしているのよ」

 

 

 いきなり動揺を露わにする紫に、困惑する霊夢。

 

 けれども、紫は気付いた様子もなく、まるでこの世の終わりを迎えようとしているかのように、ぶつぶつと(霊夢にとっては)しょうもないことを呟き続けていて……と。

 

 

 ──ふわり、と。

 

 

 空の彼方より、唖然としている霊夢の傍に降り立ったのは、狐耳を帽子で覆い隠した、八雲紫の式である八雲藍であった。

 

 

「──紫様、至急ご確認していただ──何があったのだ?」

 

 

 よほどの、急ぎの用事があるのだろう。

 

 前口上などをすっ飛ばして本題に入ろうとした藍ではあったが、主の異様な姿に敬語も忘れて目を瞬かせた。当の紫は、藍の存在にすら気付いていなさそうであった。

 

 

 ちらり、と。

 

 

 藍の視線が、霊夢へと向く。けれども、当の霊夢ですら何と言えばいいのかさっぱり分からない。「……用件は?」とりあえず、用件だけでも聞いておこうと霊夢は思った。

 

 

「……地霊殿の、『古明地さとり』より緊急の依頼が先ほどあったのだ」

「さとりから? なに、また鬼が暴れて手が付けられなくなったの?」

「いや、そうではない。鬼ではなく、妹の『古明地こいし』に関してなのだが……」

「こいし? 何があったの?」

 

 

 藍も、とりあえず時間を改めようと判断したようで。とくに隠すような事もせず、詳細を教えてくれた。

 

 

「妹が構ってくれなくて寂しいらしい」

「は?」

 

「どうも、外界にあるスキマ商事の玲音と仲が良い事に、嫉妬しているようでな。お姉ちゃんは私なのにと、うるさいのだ……」

「……は?」

 

 

 

「説得して、地霊殿の方が楽しいよと分からせて欲しいのだとか……」

 

 

 

 

 ……しばしの間、霊夢は言葉が出なかった。

 

 

 

 

 

「……あほくさ」

 

 

 

 

 そうして、間を置いた後……色々とばからしくなった霊夢は、大きなため息を零して……さっさと、その場を離れるのであった。

 

 

 

 






終わり、閉廷!

以上、みんな解散、ラブ&ピース!
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