好きな子と混合ダブルス組むために全国トップを要求された   作:小賢しいバドミントン

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時折攻撃的なクリアをアタッククリアと書いてましたが正しくはドリブンクリアでした。すみません。
アタックの方が分かりやすい……分かりやすくない?


ミントンのさして為にならない話でまーた半分くらい文字数使ってます。



去り際香る子

目指せ優勝、打倒綾乃に向けて気合マックスのなぎさだったが、その翌日の土曜日に風邪をひいてしまい出鼻をくじかれる形となった。見舞いには綾乃とのり子と理子が向かい、昨日相談されたばかりの健太郎はおかしそうに呆れながら「いい機会だから何も考えずにゆっくりしとけ」とメッセージを送っておいた。

もう休日練習も限られ、部員達の緊張感も高まってきており、健太郎は体育館裏で行輝に相談を受けていた。

 

「どうしたらミスが減らせるかか…。ほぅ、すぐには難しい問題だな」

 

「はっ、はい…。俺、去年の試合で終盤のミスが重なって、自滅した形になったんです。今年こそはって思ったけれど、中々直らなくて。正直、そんなものかって妥協っていうか、諦めてた自分がいたんですけど、秦野や羽咲を見てると、もっと減らせるんじゃないかって」

 

「なるほど…」

 

やはり実力のある新入生が二人も入って来てくれたのは、上級生である彼等にとっても良い影響を与えている。

健太郎は真面目な表情で腕を組みながらも、内では弦羽早(つばさ)と綾乃の影響に口元を上げていた。

 

「それに…せめてシングルスだけは、秦野に先輩として1ゲームは取りたいって気持ちもあって…。勿論、実力差は分かっています」

 

「…いや、誰かに負けたくないって気持ちはとても大事だ。恥じることは無い」

 

ただ、と健太郎は心の中で付け加える。

 

「(秦野はステップの遅さはあるものの、あの守備の安定感はシングルスでも上位だ。スタミナやメンタルに難があるわけでもない。最近は羽咲との練習でスマッシュの安定感も上がっているし、贔屓目なしでも強豪相手に通用する)」

 

この間弦羽早が残ってマンツーマンの居残り練習をしている時に、休日どれくらいの練習をしているのかを聞いたが、ほとんど一日の日程と同じだった。

 

まず起きてから早朝のランニングと軽いフットワークとストレッチ。それから提出物などを手早く済ませつつ、部屋でひたすら壁打ちやサーブ練習。昼食後、今度は筋トレと素振りを行い、その辺りで疲れが溜まって来るので、パソコンで試合を見て研究しノートに書きこむ。夕方から夜は市のクラブチームに顔を出し、それが終わった後にまたストレッチをして寝るらしい。

 

友達と遊びに行ったりすることもあるらしいが、部活の無い日、彼は基本そうして休日を過ごしているらしい。

 

彼にとって一日を練習に注ぎ込むのは誰かに勝ちたいとかそういった競争心があるのではなく、本当に平凡な日常としての一部のようだった。

 

「ただ実力差を分かっているのなら、予め作戦を立てていた方がいい。一打一打丁寧に決めずとも、予め心構えをしておくんだ。相談に来るならアドバイスには答える。勿論、秦野から相談があれば当然そっちにも乗るが」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「それと本題のミスを減らす方法だが、具体的に説明する」

 

ちょいちょいと指で手招きしながら体育館の扉を開き、壁角に置いていたラケットを手に取って体育館の隅で壁打ちしている弦羽早に声を掛ける。

 

「おーい、秦野ちょっと来てくれ」

 

「はーい!」

 

跳ね返って来たシャトルを空中ですくうと、何か用かと言った顔で健太郎の元へと駆ける。

 

「なんでしょう?」

 

「葉山がミスを減らしたいって言ってな。体幹に関しては間違いなくお前を見せるのがベストだと思ったんだ」

 

健太郎の後ろにいるもじゃもじゃ頭の先輩に視線を向けると、おいっすといつもと変わらない無邪気な笑顔を浮かべ、弦羽早もそれに返す。

 

「まずミスショットが起こりやすい原因だが、中級者以降となるとある程度限られる。メンタル的なものやラケットワークはこの際置いておくとして、それ以外では大きく別けると、ラケットを振るタイミング。シャトルの中にしっかり入り込めていない。打つ際に体がブレて、釣られてラケットもブレている。

まあミスショットなんてプロでも珍しくない。状況に寄りけりだが、とりあえずこの三つが少しでも良くなれば改善されるはずだ」

 

健太郎はコート内に散らばったシャトルを一つすくって上へと上げると、それを軽いスマッシュで反対のコートへと飛ばす。

シャトルの音はパシュンと少し高い。

 

「今のがシャトルを打つのが速すぎて、ラケットの上部分に当たった時の音。そして」

 

もう一回同じようにすくってあげたシャトルをスマッシュで打ち込む。今度はボシュッと鈍い音。

 

「これが遅すぎてラケットの下部分にあたっている音。真ん中のスイートスポットに当たる音は」

 

最後に一回もう一度同じ要領でスマッシュを打つ。別段力を込めていないスマッシュだったが、それまでの音とは全く違い、体育館に響くような乾いた音が鳴る。

 

「これだ。まず自分の打ったシャトルの音を逐一理解するのが大事だ」

 

行輝とてバドミントン歴は結構長い。当たり前の知識ではあるが、こういった事の再確認の必要だということで、健太郎は実際に見せる形でまず最初のラケットの振るタイミングの違いを教えた。

 

「次にシャトルの中に入り込む。これは羽咲のミスの少なさを支えている大きな要因だ。ちょっと秦野、何球か前にくれ」

 

「了解です」

 

弦羽早はコートに散らばったシャトルを何球か拾うと、反対のコートへ走って健太郎の合図に合わせて投げる。最初の一球目、健太郎の動きはかなり遅く、ネット前に落ちるシャトルを手を目いっぱい伸ばしてギリギリで打つ。

 

「極端だがフットワークが遅いとこうなる。初心者にはよくありがちな奴だな。こうなるとさっきも言ったラケットの面の中央で打てなくなるし、上体を下げてしまうから打つ瞬間の視界がブレる。ここまで極端でなくとも、シャトルに近づく速さはミスショットに影響する」

 

再度弦羽早から送られて来たシャトルを今度は素早いフォームで前に飛び出し、ゆとりを持ってヘアピンで前に落とした。

 

「逆に速いと体を安定させて、シャトルをしっかり見ながら打てるようになる。これは前の球に限った話じゃなくて、横の球も、当然後ろの球もシャトルの落下地点に入り込むスピードが速いほど、ゆとりが生まれてミスショットが減る」

 

「なるほど…」

 

言われて見ればと、綾乃は確かにシャトルに振り回されるようにコート中を駆け回っているイメージは無い。コート中をくまなく動いている点はその通りだが、振り回されているのではなく、ちゃんとシャトルを追い掛けている。

 

「そして体幹。これが秦野の強みでミスショットの少なさに繋がっている。要はブレがないんだ。秦野、右足を大きく一歩前に出してみてくれ」

 

「はい」

 

ラケットを右手に持ち替えた弦羽早は、ネットに向かって右足を大きく前に出す。利き腕と利き足を前に出すのはバドミントンの基本的なフォームだが、今の弦羽早は足を可能な限り目いっぱい前に出している。通常の試合ではここまで足を広げることはないが、実例という点ではよい参考になるだろう。

 

「バドミントンは後ろの球以外は最後の一歩を大きく前に出すのが基本のフォームだが、その最後の踏ん張りの安定性って話だな。秦野、そのままで軽くロブ上げてくれ」

 

今の弦羽早の体勢は、腰の高さがそれこそ膝程度の高さになるまで、目いっぱい足を出している状態だ。その状態を維持するだけでもキツイはずだが、弦羽早は特に顔を顰めることなく、健太郎が投げたシャトルをその体制のままロブで返す。ラケットを振る際も上半身がブレることはなく、音もコースも安定していた。

 

「サンキューな秦野、もういいぞ」

 

「よっ、ととっ!」

 

「ここまでの事は出来なくてもいいし、出来る必要もないが、最後の一歩を出す際にブレないというのは面の安定性に直結する。どれだけ綺麗なフットワークでも、最後の一歩を踏ん張れなければ意味はないからな」

 

「ありがとうございます!なんか、もっと色々意識すれば良くなりそうです!秦野もサンキュー」

 

「いえ、バランスに関しては任せて下さいよ」

 

弦羽早が体幹が良く、かつ重心移動が得意なのは彼の両手利きというプレイスタイルで既に証明されている。

 

ラケットを単純に振ってシャトルに当てるだけなら、ある程度練習すれば遊びの範囲内であればできるようになる。だがバドミントンは利き腕が変わってくると、当然フットワークの順序も変わってくる。

利き腕が右だとすると、足の運びは右→左→右となるが、左利きの場合はその逆。腰の捻り方や重心の動かし方も逆になる。それをラリーのさ中に瞬時に入れ替えるのは、余程の慣れと重心移動と体幹の良さが無ければ形にはならない。

しかも弦羽早はどちらの腕でもジャンピングスマッシュを行える。バドミントンの体幹が要求される最もたる打ち方を両方の腕でだ。

 

「(この強みは当然秦野だけでなく羽咲にも言える。ったく、こいつらがウチで助かったよ。他校にいると思うとゾっとする)」

 

健太郎などの教える側の人間からしたら、ミスの少なく守りを強みとする選手に勝つための案を考えるのはかなり難しい。攻めが強い選手には上げないように意識させ、強打があるがコントロールの無い選手にはミスを誘うようにパターンを組ませ、スタミナが無い選手には疲れさせたらよいが、守りの堅い選手を突破するには、やはり最終的にはそこを崩す為の力と技術が必要になる。

 

それは試合中のアドバイス一つで会得できるものではないので、だから選手としてどちらが上だと言うのではないが、指導者としてはやりにくいのは守りの選手だ。

 

 

気合の入った行輝を重点してノック練習をやっていると、なぎさの見舞いに行っていた綾乃と理子、のり子が帰って来た。

 

 

 

 

翌日の日曜日、まだエレナは部活には来ない。とは言え休日を挟んでいたのは幸いで、これが平日であれば綾乃の心配も今以上だっただろう。なぎさも今日までは休んでおくそうだ。

 

それに、決してエレナを蔑ろにしている訳ではないが、今の綾乃にはまた更に悩みの種が一つ増えていた。

 

昨日なぎさのところへの見舞いの帰りに会った一人の少女。

長いツインテールに大きなリボン、派手な顔立ち、そして何よりも目立つピンク色の髪の少女、芹ヶ谷薫子。

 

彼女と会ってすっかり意気消沈している綾乃は、ブルブルと体を震わせながら罪を告白する罪人のように呟く。

 

曰く中学校時代の大会の時、風邪をひいた薫子は公平を期すためにと綾乃を呼び出して監禁し、間近で咳をしたりすることで無理やり綾乃にも風邪を引かせてきたらしい。

 

うわぁ…と、話を聞いていた全員が綾乃へと同情の眼差しを送る。それは人見知りの綾乃でなくとも、十分にトラウマになるレベルの出来事だ。

病人の咳を好んで間近で受けようとする人間はただの変態か、風邪でもひいて学校や仕事を休みたい者ぐらいだろう。

 

 

そんな綾乃にすら思い込みが激しいと言われる件の少女は、北小町バドミントン部がアップのランニングを始めた頃に突然訪れた。

 

「随分カビ臭い体育館ですわね。練習機材も少ないし、とても環境がいいとは言えませんわ」

 

漫画であればバン!と背中に文字が浮かぶような、腰に手を当てる堂々とした構えでその少女は体育館入口に立っていた。

長いボリュームのツインテール。大きな黒いリボン。背丈は決して高くないが女性らしい体つきと、大人びた強気の顔立ちの美人。だが何よりも目立つのはやはりピンク色の髪。

 

「な、何しに来たの、去り際香る子…」

 

「芹ヶ谷薫子ですわ!」

 

弦羽早の背中に隠れるように潜り込む綾乃に対し、彼女は甲高い声で叫び返す。

 

そして弦羽早の顔を見るとギョッとしたように目を見開き。

 

「な、何故珍獣の秦野弦羽早がここにいるんですの?」

 

「誰が珍獣ですか。せめて二刀流って言ってくれ」

 

「あんなアホらしいバドミントン珍獣で十分ですわ」

 

アホらしい、というのは当然両手を使い分けるプレイの事だ。弦羽早はフォームの綺麗さや安定性はかなり高い評価を受けているが、その曲芸師のようなプレイスタイルの所為か、真に基礎を重んじるプレイヤー等からは、呆れと嘲笑を籠めて珍獣呼びする者もいる。

 

「それで、どうしてあなた程の実力者がこんな高校へ?」

 

「羽咲とミックス組むため」

 

「なるほど、そういう――ええっと、わたくしの聞き間違えかしら。今、羽咲さんとミックスを組むと?」

 

「…そだよ。秦野は私のペア」

 

ひょこっと弦羽早の背中に隠れていた綾乃が顔を出す。

 

色々と理解できないと薫子は立ち尽くす。

まずそもそも綾乃がダブルスを組むと言う点で色々とおかしい。あの他人を見下すことに関しては天才的で、協調性もリスペクトの欠片も無いあの羽咲綾乃が、ダブルスを?

しかも弦羽早はこの高校に来た理由として綾乃とペアを組むためと言った。つまり彼はわざわざ宮城の中学からこちらまで来たことになる。

そこまでするということは弦羽早は綾乃に対して、人としてかバドミントンプレイヤーとしてかは分からないが、好意を持っている事となる。

”あの羽咲綾乃に”

 

「ア、アハハハハ!そっ、それは滑稽ですわ!まさかあなたがダブルスを、それもミックスなんて」

 

薫子は見下すような口調のまま、腹を抱えながらあまりのおかしさに涙を流す。

 

「ッ…笑わ…ないでよ…」

 

「え?なんですって?」

 

背中に隠れる綾乃がギュッと、訴えかけるようにウェアを握りしめるのを感じる。二人の因縁がどれ程のものかは弦羽早は知らないが、しかしそれだけで動くには十分だった。

ポンと綾乃の頭を優しく撫でると、弦羽早は薫子の元へ歩み寄ると、その腕を強く掴んで引っ張り、ジッとその顔を睨みつける。

 

「痛ッ!ちょっとあなた、レディに対して――」

 

「あんまり俺のパートナーを馬鹿にしないでくれる?邪魔するなら帰って」

 

これまで聞いたことない様な冷たいトーンに、綾乃を除く部員達は皆ぞわっと背筋を震わせた。先程の爽やかだった雰囲気は一転し、攻撃的な目つきの弦羽早はギィッと薫子の腕を握る力を強める。

 

「ッ!」

 

「やめろ秦野!」

 

そこに割って入ったのが健太郎だった。薫子を掴む腕を、健太郎が更に掴む形で止めさせる。

弦羽早もそれで少し冷静になったのか、スッと静かに離れるが、ただ薫子に対して謝罪も何も言わなかった。

 

健太郎は薫子の腕を確認する。

軽く赤くはなっているが腫れてるまでは無く、ほんの数分置けばすぐに赤みの引く程度のものだった。一応その辺りは気を付けてはくれていたようだ。暴力沙汰で出場停止など笑い話にもならない。

 

「悪かったな、うちの生徒が。あとでちゃんと言っておく。ただ君も、人が気にしているところをああやって笑うもんじゃない。パッと見腫れてないが大丈夫か?」

 

自分の腕を優しく手に取る健太郎の姿は、薫子にとってはまさに白馬の王子様のようにキラキラと輝いて見えたようだ。

大人びているようで少女趣味の毛がある薫子の脳内に、花畑の中、白いタキシードを着た健太郎にお姫様抱っこされるドレス姿の自分が瞬時に浮かぶ。その背景に、檻に入れられる獣のコスプレをした弦羽早と、ボロ布を着たみすぼらしい格好の綾乃が入っている辺り、彼女の性格の悪さが伺える。

 

「(こ、こんな優しくてクールな殿方がいらっしゃるなんて……)」

 

カァァと誰が見ても分かりやすくなるほどに顔を真っ赤にさせる薫子に、恋愛に疎い綾乃以外は困惑したように口を開く。

理子がボソリと「女の子版弦羽早君だね」と先程の暗い空気を壊す為に冗談交じりに言うと、弦羽早の黒い笑みが彼女へと振り向かれた。

 

「え、ええっ!だだだ、大丈夫ですわぁッ! ……って、ち、違いましてよ!」

 

健太郎の手を振りほどく薫子は、ビシッと健太郎含む全員へと指を指す。

 

「不合格ですわ、北小町高校!こんな仲良しクラブの雰囲気にしつけのなってない獣一匹では、予選を勝ち上がるなんて不可能でしてよ!」

 

「秦野、珍獣から普通の獣に降格されたぞ」

 

「ほっといて下さい」

 

「わたくし達興南高校とは――コーチを除く他全てが比べ物になりませんわ!」

 

流石にオーホッホとまで典型的な笑い声では無かったが、しかしシンデレラの意地悪なお姉さん役がさぞ似合いそうな笑い方をする薫子は、健太郎が「見学するか?」と声を掛けるまで笑い続けた。

嫌な性格、というよりも面倒な奴だというのが北小町バドミントン部の総意であった。

 




自分のことちゃんと性格悪いって自覚してる薫子ちゃん好き。

原作でダブルス戦も見たかった。ミキちゃんあの雰囲気で全国レベルなの凄い。
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