好きな子と混合ダブルス組むために全国トップを要求された   作:小賢しいバドミントン

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今さらですが桃田選手世界ランク一位おめでとうございます。

それと今回からコーチ席という単語を使いますが、コートの横にある四つか五つくらい並んだパイプ椅子の事言ってます。
公式のルールでは基本監督やマネージャー以外は禁止みたいですが、原作でも普通に座っていたので特にその辺り意識してないです。


沢山の誤字報告ありがとうございます。中々減らず申し訳ないです。




ワックワクが止まらないよぉ

インターハイ出場者を決める神奈川県インターハイ予選。その日程はかなりシビアなもので、以下の通りとなる。

一週目土曜 女子シングル ベスト8

日曜 男子シングル ベスト8

 

二週目土曜 混合ダブルス&シングル予備 ベスト8

日曜 男女共にシングルス決勝(県大会)

三週目週 女子ダブルス ベスト8

    男子ダブルス ベスト8

四週目 土曜 男女ダブルス決勝(県大会)

日曜 ミックスダブルス決勝(県大会)

五週目 団体戦開始

 

一週目のベスト8を決めるのは所謂地区大会。そこで8つのブロック別けをしてその8名が県大会という形で翌週の決勝を賭けた舞台へと上がれる。ダブルス、ミックスも同様だ。

 

このように毎週必ず試合が行われる形式となる。

混合ダブルスと同日のシングルスの予備日だが、男女が別日に行う為、余程の事がない限り基本混合ダブルスだけが行われる。

 

ただ一つの試合に掛かる時間はインターバルを含めて30分前後は掛かる。選手は勿論、監督や運営が一丸となって素早く回していかない限り、大会が夕方まで続くなんてことになり兼ねない。

 

開会式の言葉で神奈川県バドミントン委員会の会長の挨拶で、その種が説明される。

日本の中でも人口の多い神奈川県での試合数は他県に比べても多い方だ。

コートは全部で10コート存在するが、空いているコートが無いように、かつ負けたプレイヤーは線審の為にすぐに運営本部に来るようにと選手一同念を押される。

 

手短な開会式が終わると共に、女子シングルスに参加する綾乃、なぎさ、理子の三人は顧問の美也子に手渡されたユニフォームに着替える為に更衣室へと移動していた。今日は女子シングルスというのもあり、男子更衣室も女子専用となっており、男にとっては非常に肩身の狭い体育館となっている。

もっとも着替える必要もないので、弦羽早は私用のバドミントンウェアで着ていた。制服でもよいかと考えたが、ただでさえ密閉する体育館に、選手、見学、応援、監督勢や運営委員を含めると集まる人数は百人なんてものじゃない。

特に応援席は熱気が上がってくるのと人口密度が高いのもあり、その熱の籠り方はサウナかと思えるほどになる。

 

それに選手には試合前に軽い打ち合いの時間が設けられる。綾乃のアップに付き合う予定だったので熱さ対策も兼ねてウェアは丁度良かった。

 

「ほんとにこんな試合数消化しきれるの?」

 

「男女が別日に別れて10コートノンストップで回せば余裕だよ」

 

ぎっしり詰まったトーナメント表を目を細めて睨みつけるエレナは、長い1ヶ月になりそうだとふぅと息を吐いた。

 

「あ~、なんか私の方が緊張してきちゃった」

 

「羽咲ならラストまでは楽勝だよ。ただその最後が」

 

「あのピンク髪の人だっけ。あの子、中学の神奈川県で優勝なんでしょ。こないだ綾乃も負けたみたいだし」

 

「負けたと言っても一点のラリーだけだし、それに羽咲も強くなってる。大丈夫さ」

 

正確には強くなっているよりも、戻ってきているが正しいのだが、中学校での綾乃のバドミントンを知らない弦羽早からしたらそう見えている。

女子更衣室の近くで壁を背もたれに話し合っていると、更衣室から出て来た女子達が弦羽早の元へとやってきて、握手などを求めて来た。これで三回目だろうか。

弦羽早はいつも通りの爽やかな笑顔を浮かべてそれに応えると、少女達から黄色い声が上げた。

 

「人気ね~あんた」

 

手を振りながら去っていく少女達に弦羽早も応えながら、ふぅと作り笑いを辞める。

 

「言っちゃ悪いけどこのレベル帯だとミーハーな子が多いから。それに花朝月夕の二人に比べたら、芹ヶ谷じゃないけどピエロ扱いって感じだよ」

 

「なにそれ?バンド?」

 

「ダブルスコンビ。この人達」

 

弦羽早はスマートフォンを取り出すと、四人の男子が集まっている写真を見せる。中学生時代の弦羽早と陸空、そして長い髪を後ろで束ねた色白の美少年と、吊り目が特徴的なツンツンヘアーのイケメンが映っている。

 

「うわっ、確かにこれはイケメンだわ…。普通に街にいたら視線向きそう」

 

「でしょ?おかげで同校以外の女子の歓声は基本あっち。北小町(うち)の誰かがインターハイ出場したら会えると思うよ」

 

「は~、やっぱ中にはいるもんなのね。容姿もスポーツも出来るって」

 

「それはほら、羽咲がそうじゃん」

 

「あ~はいはい」

 

こいつはどこまで綾乃馬鹿なのだと適当に流す。

友達のエレナからしても綾乃は可愛いが、ここまで堂々と言われると聞いてるこっちがむずがゆい。

そんなどうでもよい会話をしていると、更衣室から新ユニフォームに着替えた三人が出てくる。

 

新しいユニフォームは美也子が選んだもので、普通のバドミントンウェアとは違う、身体のラインが浮き出るピッタリとしたシャツとスパッツという、露出度はないが少々過激とも言えなくもない。特に胸の大きいなぎさはそのボディラインがかなり目立っており、恥ずかしそうに頬を赤らめている。

一方新鮮なスタイルのウェアに理子は素直に可愛いと喜んでおり、綾乃はその二人の後ろでジーと立っていた。

 

「いいじゃないですか、可愛いですよ」

 

「そ、そうか…?これ、恥ずかしいんだけど…」

 

「似合ってますって。ね、秦野?」

 

機動性も高く、不健全ではないちゃんとしたウェア。でも他とは違う個性がある。服に命を掛ける美也子が選んだだけあってエレナの評価もかなり高かった。

彼女はクルリと振り向いて弦羽早にも同意を求めようとするが、一点だけをジッと見つめるその姿に話を振る相手を間違えたと肩を降ろす。

案の定と言うべきか、弦羽早はなぎさや理子のボディラインを一切無視して綾乃をジッと見つめていた。

 

「なに、秦野?ひょっとしてイマイチ?」

 

「い、いや。とっても可愛いよ。凄くよく似合ってる」

 

「ん~、そっか。ありがと」

 

「こんな時にまでデレデレしてんじゃねぇよ。ほら、行くぞ」

 

バシンと弦羽早の背中を叩くと、なぎさは先頭に立って試合会場へと向かった。

 

 

 

 

 

全十コートでついに第一試合が始まった。

どういった組み合わせであろうと、一回負けたらそれで終わりとなるトーナメントにおいて、この第一戦でどこまでその日のコンディションを上げられるかが重要となる。

 

「なぎさせんぱーい!」

 

「理子ちゃん先輩ファイトー!」

 

「キャー!荒垣さーん!」

 

『カ・オ・ル・子!カ・オ・ル・子!』

 

この神奈川でも有名プレイヤーであるなぎさと薫子に向けられる声援は大きく、なぎさは他校の女子生徒からも応援され、薫子は親衛隊らしき男子達の野太い掛け声が向けられる。

大会の至る所からシャトルの音と歓声、声援が飛び交っており、本当に試合が始まったのだとプレッシャーに弱いプレイヤーは既に呑まれているだろう。

 

一方、コーチ席で一つの試合を静かに見守っていた弦羽早はピクリと眉を動かす。

ファーストゲームは18‐21で綾乃が取られた。相手がそれほど強い相手かと言われると、本気の綾乃なら5点も取られる事なく倒せる相手だ。

 

「(手を抜いてる…それもあるが、少しでもラリーを続けて集中してるのか)」

 

格下相手とはいえ試合すらアップに使うというのは、対戦相手の少女からすれば屈辱的だろう。

綾乃は小学校時代から、少なからずそういうところがあった。

 

「(とはいえ露骨過ぎないかな…。昔の羽咲でもここまで極端じゃなかった気がする)」

 

第一ゲームを取られ、続く第二ゲームは21‐16と5点差で勝利。そして第三ゲームの現在、綾乃が18点に対し、相手は僅か4点だった。

加えて対戦相手は汗をダラダラと流して肩で大きく息をしているのに対し、綾乃はまるで軽いノックをしている如く飄然としている。

 

格下相手に手を抜いてアップをするというのは、実力差が生まれやすい第一試合では珍しくない状況だが、1ゲーム取らせるとなると正直良いやり方とは言えない。

案の定、手を抜かれている事に気付いたのか、対戦相手の少女の目は微かに潤んでいる。

 

『ゲーム! マッチワンバイ羽咲!

18(エイティーン)21(トゥエンティワン)! 

21(トゥエンティワン)16(シックスティーン)! 

21(トゥエンティワン)6(シックス)!』

 

試合を終えた綾乃は、う~んと、さも勝ったことが当たり前の様子で背伸びをしながら弦羽早の元まで歩いてくる。

 

「ちゃんと挨拶した?」

 

「え?あ~、そうだったね。ありがとーございましたー」

 

身体の正面を弦羽早に向けたまま、顔だけ対戦相手へ向け、頭も下げずに気だるそうに告げる。

綾乃の態度にそれまで我慢していた少女は遂に瞳からポロポロと涙をこぼし、両手で顔を覆う。彼女のコーチ席にいた同校の少女達の鋭い視線が綾乃に向けられるが、彼女は気づきすらしていない。

 

「…それじゃあ行こうか」

 

「うん。なぎさちゃんと理子ちゃんの試合は?」

 

「荒垣先輩は終わって泉先輩はまだやってるみたい。見ていく?」

 

「いいや。それよりここの売店に肉まんがあったの。それ食べる」

 

「俺、軽い弁当なら作って来たけどどうする?」

 

「肉まんがいい」

 

「え~…」

 

やはり羽咲綾乃の本質はそう変わるものではない。

この子は中々気遣いができる少女では無かった。

 

 

 

 

綾乃が売店で肉まんを買っている間に弦羽早は理子の試合を見学しながら、作って来た弁当を消化していた。

いくら弦羽早が綾乃に好意を抱いているとはいえ、一日中一緒にいる訳ではない。部活仲間の試合が行われているのなら、そちらの応援を優先するのは彼の中では当然だった。

それに正直綾乃が食べてくれるとはさして期待もなかったので、自分の好きな品物を入れてきたが正解だった。因みに弁当といっても結構な品物は冷凍食品と料理男子と言える内容ではない無骨なもので、ひょっとしたら綾乃もそこまでのクオリティではないと読んでいたのかもしれない。

 

理子は無事、相手がバックハンドが苦手であることを気づき、そこを上手く組み立てながら勝利。

遠目で薫子の試合もみていたが、彼女も危なげなく圧勝している。

 

続く二回戦、三回では綾乃もアップが終わったのか、失点は5点と4点と圧勝。他のメンバーも順調に勝ち、時間も昼を過ぎた頃、綾乃には今日最後の試合となる四回戦、薫子との試合がいよいよ始まる。

 

念入りのストレッチを終えると、綾乃はバドミントンバッグを肩に立ち上がる。

 

「綾乃ン頑張って!」

 

「ラジャー」

 

「綾乃ちゃん全然緊張してないね~」

 

「それが羽咲の強みですから」

 

プレッシャーに弱い理子としては羨ましいのだろう。感心したように綾乃に声を掛ける。

 

その一方なぎさは第一ゲームのスコアを見て、綾乃の本質を少しだけ理解しかけていた。

 

「羽咲、油断するなよ…。次の相手は芹ヶ谷なんだ」

 

「大丈夫だって。もう秦野にも散々言われた」

 

「…ならいいんだが」

 

秦野。その名前になぎさは目を少しばかり細めて、小柄の少女をジッと見下ろす。

今の彼女にとって彼はどれくらいの存在であるのか、未だ誰にも理解できない。コーチの健太郎は勿論、恋愛に興味深々の悠も、友人のエレナものり子も、綾乃が弦羽早をどういう風に見ているのか理解できない。

 

そしてその弦羽早もまた、今日はそこまで綾乃に対して多くは語っていない。

 

シングルス、それも女子シングルスであるのも大きいだろうが、戦略等は基本何も言わずにアップとストレッチを手伝い、気の持ちようについて軽く話すだけだった。

 

「(ホント読めねぇな、コイツは)」

 

なぎさも去年の全日本ジュニアでの戦いから最近まで彼女の存在が軽いトラウマとなっていたからこそ分かるが、試合中の綾乃を不気味だと思う要因は読めないのだ。

何を打っても返ってくるシャトルに、全く疲労を見せない表情。そして自分(対戦相手)を見ていながら、そこに何の興味も持っていないことを物語る、光の籠らない瞳。

他にも綾乃が対戦相手を精神的に苦しめる要因はあるが、現時点でなぎさが気づけたのはその三つ。

 

「(多分秦野も様子見って感じか。調子が悪いならともかく、今は無理して揺さぶる事を言うべきじゃないのは理に適ってる)」

 

チラリと弦羽早の方を向くと、彼は少し困ったように肩を上げながら苦笑を浮かべた。

 

「あら?そこにいるのは羽咲さんでして?」

 

ざわめきの中でもよく通るお嬢様口調は、世界広しと言えども彼女ぐらいしか思い浮かばない。

声へと振り向く綾乃の顔に、ふぁさりと布切れが投げられる。

次の対戦相手、芹ヶ谷薫子は一瞬弦羽早の方を向いてニヤリと口元を上げる。

 

「…ハンカチ?」

 

「ええ。負けた後、涙をふくのに必要でしょう? それとも、拭くのは鼻水だったかしら?」

 

ここまで強気な挑発になぎさを除く女子バドミントン部勢が小さな悲鳴を上げる。

並みのプレイヤーならただの嫌な奴で終わるが、薫子の実力は彼女らも重々理解している。先程の二回・三回戦での薫子の失点は、8点7点と圧勝しており、一年生でありながら優勝候補の一角。

 

だが綾乃は挑発に苛立ちを覚える素振りはなく、それどころかにこぉと慈悲深い和らげな笑みを浮かべて。

 

「大丈夫。薫子ちゃんをボッコボコにするために練習してきたから、ワックワクが止まらないよぉ」

 

「へぇ、言うようになったじゃない」

 

二人の間に漂う闘志、いや、闘志なんて綺麗なものじゃない、もっと薄汚れた勝利への渇望に理子、悠、空の三人は互いに抱き合って悲鳴を上げて、弦羽早となぎさは試合前から何をやっているんだと軽く呆れていた。

 

 

 

 

試合前、半コートでクリアーを交わしながら弦羽早は綾乃の観察をする。

 

「(羽咲の調子はいい。多分、練習中の彼女とは比べ物にならないくらいに集中している。素直にやっていいとは言ったけれども…)」

 

あの頃の綾乃も本人らしさがあったが、決して今の彼女も無理して作っている感じはない。

 

「(ほんと、複雑な子だよ!)」

 

ちょいちょいと手招きして前で構える綾乃のサインを合図に、弦羽早はジャンピングスマッシュを打ち込む。少なからず名前を知られている弦羽早が女子のアップ練習で、ジャンピングスマッシュを打ち込んだ事に観客席から困惑の声が上がる。綾乃がスマッシュを打つのならアップとして理解できるが、弦羽早が打ち込んだところでレベルが違い過ぎて練習にならないだろうと。

 

しかし綾乃はその球を難なくドライブで返す。弦羽早は数歩足を前に出しながらドライブで返し、綾乃が上げたロブ球を再びスマッシュを打ち込む。

それを何度か繰り返したところで審判から試合を始めるようにと声が掛けられた。

 

練習用のシャトルを綾乃から預かりコーチ席へと出ようとするとき、すれ違った薫子が声を掛ける。

 

「随分面白い演出ですわね。珍獣のあなたにはピッタリ」

 

「あ~、この間の事は謝るよ。そのお詫びに一つ」

 

「一応受け取っておきましょう」

 

「死ぬ気でやらないと、今の羽咲には勝てないよ」

 

「…ご忠告感謝しますわ」

 

パイプ椅子へと腰を掛けた弦羽早は、静かに綾乃へと視線を向ける。

誰の目から見ても明らかなくらい、今の綾乃の雰囲気はいつもと違う。いつもののんびりとした雰囲気は欠片も無く、冷たくて静かに、ジッと薫子を見つめている。

 

「今日は遊びじゃないから、気を付けて薫子ちゃん」

 

「…その嘗めきった態度、久しぶりですわね」

 

『オンマイライト!芹ヶ谷薫子、港南高校! オンマイレフト!羽崎綾乃、北小町高校!ラブオルプレイ!』

 

審判の掛け声と共に、綾乃にとっての本当の初戦が始まった。

 

 

 




どっかで大会原作沿いって書きましたが、やっぱり違和感あったのでリアルと原作の混合してます。
薫子戦があった日がベスト8まで決めると書いてあり、続く試合ではもう準決勝でした。また試合数も県の割に少ない。
一周目と二週目の間で既にトーナメントが決まっていた状況なので予備日で消化したのとも違うな~と自分は捉えたので、ならもう混ぜてやろうと。

因みに現実は地区大会男女纏めてシングルスを1日目で、ダブルスを男女纏めて二日目にやってその1ヶ月近く後に県大会が行われる感じみたいです。
勿論混合ダブルスとかないです。
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