それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

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でも、少しは好きになりたいな

※一人称だよ


彼女は雨が嫌い

額に冷たい何かが当たった、その感触で目を開ければ……見たくもなかったボロボロの天井、隙間からは雨雲が見え雨が降っていることが分かる、首を動かして両サイドを見れば雨漏りでビショビショとまで行かなくても濡れてしまっている衣類

 

片さなきゃ、そう思い起き上がった所でバンッ!!と蹴破られる扉、見れば人型の霧が立っており、私はああ、と『動かなくなった』感情で理解する

 

「_______!!!」

 

(……また、か)

 

何かが身体を強く打った、痛いが既にその辺の感覚も麻痺してるから声を上げることはない。とりあえず致命傷は避けたいという本能で顔だけは守るように身体を丸くする、蹴られる、打たれる、掴まれ投げられる、何かを叫ばれる、一通りを数十分行われ、最後にまた何かを言われると霧は扉から出ていく

 

最後のは仕事のことだ、天井を見れば雨は酷くなって更に雨漏りがひどくなる、見れば朝食はもう食べれるか分からなくなっていて、だけど食べなきゃまた理不尽に襲われるからとそれを口に運ぼうとして

 

「っ!!!!???ヒュー、ヒュー、ぜぇ……ぜぇ……ゆ、夢?」

 

目が覚めガバっと起き上がり荒くなった息を整える、なんであんな夢をと窓のカーテンを開ければ納得する

 

「雨……嫌だな」

 

外に出れないからとかそういう意味ではない、根本的に雨が嫌い、思い出にある全てで雨が降ってた時にいい思い出が一つもない、お手伝いさん、今は【G36】が追い出されたのも雨だって聞いた、あの粗末な小屋で雨漏りがあれば全てが駄目になり食事だって持ってこられる頃には水浸し、それを思い出した所で気持ち悪くなる。気付けば今はもう跡だけのはずの体の傷が疼き思わず体を抱きしめてしまう

 

最悪だ、そう思わずにはいられなかった。幸い今日は休日だから何か気分転換が出来ないかと思いつつ、洗面台で顔を洗い、歯磨きをしてからいつもの軍服に着替えて部屋から出る

 

(早起きしすぎたけど、丁度いいからカフェに行こう)

 

誰かいるかも知れないけど、居ても数人だろうしそのくらいならまぁ何とかなるかな、上がりきらない気分とそれに比例して少し重い足取りのままカフェに向かう、その途中、そんな私はやはり悪目立ちしたのか

 

「お嬢様?」

 

「あ、G36、おはよ」

 

「おはようございます、いえ、それより如何なされましたか?雰囲気が沈んでいますよ」

 

「あ~、やっぱりそうだよね。雨の所為、かな」

 

雨、その単語でG36は気付いたようで真剣な目で私を見る、カフェで話そうかとも思ったが此処でもいいかと近くのベンチに座ればG36も隣に座る、それからまだ少し疼く身体の傷跡を擦りつつ

 

「ダメだよね、もう割り切ればいいのに雨が降っちゃうと傷跡が疼くし、夢にも見ちゃうし……」

 

「いいえ、それはお嬢様が悪いのではありません、それに心にできた傷というのはそう簡単には癒えるものではございません」

 

「だけど、あれからそれなりに時間は経ってる、なのにあの頃は何とも思わなかったあれが今夢で見ると怖くて、痛くて、気持ち悪くて」

 

言葉が止まらない、それに呼応するように傷跡が更にズキンと疼き出す、何時もなら問題ないはずの食欲が急激に失せていき頭の中で何かが蠢く感覚を覚える

 

思えばこの頭の中で蠢く感覚、これを感じ始めた頃から夢が妙に鮮明になった気がする、雨の日のあれは初めてだが彼処まで現実味が溢れる感じではなかったはずなのに、自覚した瞬間、酷い寒気が襲う。どうしちゃったのだろうか思うも保てずにぼんやりし出す意識、だがグンッと身体に衝撃が走り意識が戻る

 

ボヤケていた視界が鮮明になり映ったのはG36の珍しい泣きそうな顔、そして私の腕を掴み作戦時の顔で私を見るおばあちゃんの姿

 

「しっかりせい!!」

 

「おばあ、ちゃん?」

 

「よし、戻ってきたな……何があった、話せるだけでいいから話してみよ」

 

安堵の息を吐くおばあちゃんがそう聞いてくる。何があった……?ああ、そうだ雨の日は昔のことが鮮明に思い出して、それで気分が沈んじゃうって話をしてたんだっけ?なのでその事を説明すれば、何故かおばあちゃんの後ろのG36が小さく首を横に振ったのが見えた

 

「そん、な、お嬢様……さっきは」

 

「良い、そうか、まぁ雨はお主にとってはあまり良くない記憶しかないからのう、致し方あるまい」

 

「ごめん、心配掛けちゃったみたいだね……やっぱり雨は嫌いだよ」

 

うーむ、この気分どうにかして戻らないか、そう考えるが聞こえる雨音に思考が若干乱れる、どれだけ嫌いなんだよ私と自分に苦笑する。そんな感じに悩んでいるとおばあちゃんがチラッと時計を見て、それから丁度よいなと言うつぶやきが聞こえた

 

「どったの?」

 

「呵々、お主の雨嫌いを少しは良くする方法を思いついたのじゃよ、屋上に行くぞ、指揮官、G36、すまぬが傘を頼めるか?」

 

「あ、はい、直ちに、では一旦失礼しますねお嬢様」

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

G36を見送ってからおばあちゃんと共に屋上へと向かう、途中で傘を取りに行ってたG36も合流して屋上に出たのだけど雨がまだ降っている、何を見せたいんだろ、だけど聞いてみても

 

「しばし待て、それなりに運が良ければ見せれるはずじゃ」

 

「運任せのもの!?」

 

「まぁ、確かに運任せにはなりますね……」

 

一体何をって雨が止み始めてる、一時的な通り雨だったん……私はその先の思考も、言葉も失った。それは初めて見る光景、現象だった、空に浮かぶそれ、しっかり見えるわけでは無いがそれでも分かる七色の帯がアーチを描いていた

 

「本日は運が良かったようですね副官」

 

「これが、おばあちゃんが見せたかったもの?」

 

「うむ、完璧ではないが映ったな。これは『虹』雨が止み、日が出た直後ならばよく見られるものじゃよ。どうじゃ、偶には雨も悪くなかろう」

 

おばあちゃんの言葉に小さく頷いて虹を見つめる、その幻想的な光景を、雨の後のこんな綺麗な光景があったのかと

 

初めて雨の日でいい思い出が生まれた、直ぐには難しいかもしれない、でもこういう日が沢山生まれれば、もしかすればいつの日にか

 

「……ありがとう、おばあちゃん」

 

「さて、礼を言われる覚えはないのう」

 

「ふふ、素直じゃないですね相変わらず」

 

とりあえず、今日はほんの少しだけ、雨が嫌いじゃないかもしれないと思えただけでも良しとしようかな。そう思いながら私は虹が消えるまで眺め続けていた




いやぁ、穏やかな話でしたね……

今回は話が浮かばなかったのでストックしてたお話、指揮官の一人称視点で書くって初めてだったけどこの娘だけは妙に書きづらい、不思議

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