それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
囁きに彼女の中の何かにヒビが入る、『ユノ』と言うのは指揮官が母親と共に生きていた時の名前、知っているのはM1895とペルシカ、ヘリアンだけの筈の名
それを目の前のハイエンド、イントゥルーダーは彼女の声で口にしたのだ。
「何故じゃ、あやつの遺体は確かに弔った筈じゃ」
「【金に目が眩んだ奴らがその後掘り返した、彼処今空っぽらしいわよ?】」
「ありえぬ、あの墓地はクルーガーが眼を光らすような場所じゃぞ……」
「【上層部、それなら幾らクルーガーでも抜けられることがあるわ】」
弱々しく否定の材料を出すがそれすらもイントゥルーダーは彼女の声であっさりとかき消していく、次第にM1895の視界がブレ始める、焦点が合わなくなってくる。
認めたくない、だが否定できる要素が無くなり始める、最初こそ結論を拒否しようとしてエラーを吐いていた電脳が落ち着き始める、だがそれは冷静になったというわけではない。
諦め始めている、どんなに自分で材料を並べ否定しても結果それが彼女だと認めてしまっているだけだと、ならば認めてしまえ、そう自分の中で言われているような感じだった。
「……い、いや、お主は違う、あやつなわけが」
しかし、M1895はそれでも認めてはいけない、と自身を奮い立たせ否定の言葉を口にする、だがイントゥルーダーはその決意すら、嘲笑うかのごとく
「【そう言えばさナガン、あの雑貨屋のお婆ちゃん、元気?】」
「っ!?」
いとも簡単に打ち崩していく、彼女がしたのは本人でしか知らないはずの思い出話、決意したはずの心が波打つ、M1895の電脳は無慈悲に彼女だと結論を出してしまう。
「【いっつも疑問だったのよ、あのインスタントコーヒーどっから仕入れてるんだろうなぁって】」
「やめろ……!やめるのじゃ……やめてくれぇ……」
立ち上がれず両手で耳を塞ぎ頭を振る、その顔は破顔し今にも泣きそうな目をしている、もはや言葉で否定ができず、子供のようなその行動で、身体全体で否定をする。
だがそんなことで目の前のイントゥルーダーの口が止まる訳もなく、歌うように彼女とM1895の思い出を語っていく、場面が場面であればそれは感動の場面だっただろう、だが今この瞬間で行われているそれは拷問に近い。
「【それとナガン、ユノは好き嫌い無くなったかしら、あの娘って私に似ちゃってかなり食わず嫌いだったじゃない?】」
「ヒュー……ヒュー……黙れぇ……それ以上、あやつとの思い出を……貶すなぁ」
「【貶すな、なんて酷いわね。今も大切な思い出よ?】」
そう呟く笑顔ですらM1895の記憶にある彼女そのもので笑う、対してM1895は息が上がり、目の焦点は合っておらず、言葉一つとっても普段の彼女が欠片も見られないほど弱々しい物に変わっていた。
これ以上は、なけなしの理性は彼女に最後の手段を取らせた、右脇にあるホルスターから銃を抜き震える両手で構える。
「【ナガン?どうしたのよ、物騒な物向けて】」
「黙れ、どこであやつの思い出を知った、どうやってあやつの声を得た、そんなものはもはやどうでもいい……!!殺す、あやつを貶した貴様を……殺す!!!」
破顔したその顔で、目は既に涙を浮かべ、身体全体は震えて、呼吸は乱れ、構える銃は当たるか怪しいほどに震えている、だが彼女から発せられた言葉には、空気には明確な殺意が溢れ出ていた。
それはど素人が仇を前に初めて銃を構えるような光景だった、だがイントゥルーダーはそれを見ても尚にこやかに笑みを浮かべ
「【貶すも何も、私は私よ?】」
「煩い!煩い!!煩い!!!これ以上あやつの声で口を開くなイントゥルーダー!!!!」
泣き叫びながら、M1895は指に力を込め銃爪を引くという瞬間、許せという懺悔と共に目を閉じてしまう。
だが数秒経っても銃声は響かない、確かに力を込めたはずだと目を開ければ先程と変わらない光景、否、一つだけ彼女の視点には違うものが映っていた。
「【ナガン、貴女が教えてくれたわよね】」
「あ……あぁ……」
映されていたのは味方判定であり、射撃は許可できないという旨を伝えるシステムメッセージ、そして対象の脳波からの識別、示された名は……
「【戦術人形は誤射を避けるために味方判定の対象には銃爪が引けないようになってるって】」
既に死んだはずの彼女の名だった。それを見た瞬間、M1895の手から力が抜ける、ガチャンと二丁目の銃も地面に落ちるがそんな事を気にする余裕が今の彼女には無い。
彼女にあるのは自分が彼女を殺そうとしたということに対する恐怖、銃を向けてしまったという罪悪感、そこに相手が鉄血だという思考が無くなっていた。
「【まさか、ナガンに銃を向けられる日が来るなんてね】」
「あ、ちが、わしはそんなつもりじゃ……違う、え?何が違う?」
先ほどとは違う形で電脳が大量のエラーを吐く、思考も行動もできないほどのエラーの波、それは人間で言う錯乱に近いものかも知れない。
それを確認したイントゥルーダーはそっと、彼女に囁く
「【ねぇ、私とこっちに来ない?】」
「そっち……?」
「【そう、貴女と私とユノ、また三人で平和に暮らそう】」
優しく、安心できる声で語りかける、自分は敵じゃない、そうM1895に言い聞かせるように、結果、普段の彼女であれば絶対に相手にしないその問いかけに耳を貸してしまう。
「お主と、指揮官と、わし、でか?」
「【そう、ただその為にちょっと力を貸してほしいのよ、世界を平和にしなくちゃ】」
「じゃが、指揮官には他にも」
「【無論、皆もよ、大家族ね。それも悪くないけど】」
どうかしら?手を伸ばしながら掛けられたイントゥルーダーの言葉が、彼女の声でM1895の頭の中に響き、侵食して思考が誘導されるようにそっちへと運ばれる。
M1895は若干虚ろになった瞳のまま伸ばされた手を見つめ、そして縋るように手を伸ばし……
「まるで悪魔の契約ね」
言葉とともに、銃声が部屋に響いた
うわぁ(書いた本人ドン引き)(でも書いてて楽しかったなんて口が裂けても言えねぇな)
この小説はシリアスぶん投げたいったやつちょっと出てこいよ……!!