それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
「落ち着いたか?」
「うん、あ、ごめんなさい、まだ治療中ですよね」
暫くM1895に抱きつき泣いていた指揮官だったが今はまだ最低限の修復しか行っていないことを思い出した彼女はそっと離れ頭を下げる。
対してヴァニラは何故か手を顔に当て天を仰いでいた、それは見たくないものを見たという反応ではなく神々しいものを見てしまった感じだ。
「(ああ、最高)いえ、大丈夫よ。ごちそうさまでした」
「小声で何言ってるんでしょうねこの変態」
下手したら二人を拝み始めるのでは何かという彼女をジト目で見つめ呆れる感じに呟くFMG-9、この反応から先程の自分の勘違いでしたは思いっきり嘘じゃんと思ったがそれは口にしないくらいには空気は読める。
それを聞きゴホンとわざとらしく咳払いをしてからM1895の現在の状態を説明し始める。
「彼女だけど今は本当に最低限の修復だけです、日常生活までならば問題なく行動できるけど戦闘などの複雑な思考が必要なものは殆どできない状態、それが現在の副官さんね」
「それって、治るんですか?」
「すぐに、とは行かないわね。ペルシカから聞いた限りだと彼女、もしかしたらウィルスにも感染してる疑いがあるのでしょ?だとするとそれをチェックしつつだからそれなりに時間は貰うわ」
でも完璧に修復してあげる、それは約束するわと指揮官の目を見て言えば彼女も良かったと何度めかわからない安堵の息を吐く。
気持ちに幾分かの余裕ができた彼女、少し考える素振りを見せそれからヴァニラにこんな提案を出した、それは彼女の今迄からすれば少々驚く内容
「あの、ヴァニラさんはフリーの整備士さん、ですよね?」
「ええ、人形専門のが頭に付くけど」
「……ここに雇われて欲しいと言ったら、交渉に応じてくれますか?」
「なっ」
真剣な顔でそう告げた指揮官にM1895は驚く、いや、彼女だけではないその場に居た人形全員が同じだった。
これは指揮官からヴァニラが認識できたからではない、彼女の目からは今までどおりマネキンだがそれでも彼女は必要だと『指揮官』として判断して口にしたのだ。
理由は簡単、今後こういった状況に陥った際に対処ができる人員がこの基地に居ないとなれば手遅れになることがあるかもしれないと思ったからだ、そしてそれを聞いたヴァニラは軽く微笑んでから
「驚いた、聞いた話じゃ人間不信だってことだったけど、まさかそっちから切り出してくれるなんてね」
「その言い方だと何だか元々此処に雇われるつもりだったみたいですが?」
「ええ、ペルシカからはここに人形の整備士は居なくて彼女が送った自動メンテの機械だけで済ませてたって聞いててね、だったら私が一肌脱ごうかなって思ってたのよ」
頼りになる顔で声でそう言われれば指揮官の顔に笑顔が浮かぶ、だがそれを不服そうな顔で見るのはFMG-9、彼女のことを知ってるからこそこいつがこんな超善良な理由だけでここに雇われたいわけないよなぁと感じた彼女ははぁと溜息をついてから
「……で、本音は?」
「あんたさっきから刺々しいわねFMG-9……!!」
「もう隠すつもり無いので言いますがね、あんたの趣味嗜好を知ってる身としてはこの基地に来るってだけで滅茶苦茶不安なんですよ!」
そもそもなんですかその猫かぶり、20代後半がキャラ作ってんじゃないですよ!と更に畳み掛けるFMG-9にいい加減にしなさいよと若干キレ気味に応戦を始めるヴァニラ、やっぱり知り合いだったんだと呑気に感想を述べる指揮官
「ああ、何とも盛り上がってるところ悪いのじゃが一つ良いかヴァニラ」
「あっと、すみません副官さん、それで何でしょうか」
「この修復作業、期間はどの程度になる」
「うーん、まだ深くまで見たわけではないので変に断言はできないけど、一週間は見て欲しいわね。何か問題があるならまぁ頑張って短縮してみるけど」
一週間、それを聴きそうかと呟くM1895、彼女としてはイントゥルーダーが次いつ行動をしだすかが分からず、あまり長い期間作戦に出れないとなるのは避けたいと思っている、どうするかと考えているとVectorがポツリと
「問題ないわ、やつも今回の作戦の失敗は痛手だし、暫くは動かないはずよ」
「……そうか、いやすまぬ問題ない」
「了解、まぁ出来るだけ早くにはするから」
「えっとじゃあ、雇うなら細かい所も決めないとね」
一通りの会話が終わってから指揮官がそういうも、自分で言った細かい所の部分で細かい所ってなんだろと小さく呟く、流石にこれは初めての事なので冗談抜きで分からない、なので彼女が出した結論は
「カリンちゃんに任せたほうが良いかもね、うん」
「うむ、その方が安全なのじゃ」
「指揮官と副官が人事壊滅って基地としてどうなのかしらね普通……」
我らが秘書、カリーナにぶん投げるだった、そして副官であるM1895もそれに賛同すればグローザが若干呆れ気味にそう言う、それを見て何だこの職場天国かとか言い出しそうな顔で微笑むヴァニラ
「そうか~、雇うのかぁ……ボス、とりあえず部屋は独房でいいですからね?」
「喧嘩なら買うわよアリババ」
「その名前出すってことは宣戦布告ですよねメジェド」
「あの!とりあえずカフェに行って色々決めてからでいいですかね」
なんか急に喧嘩が始まりそうな雰囲気になり慌てて仲裁に入る指揮官、もう人間不信だとかマネキンだからとか言ってはいられないと思っての行動だが今日は頑張るなぁとPPSh-41は思いつつあとでカウンセリングしてストレスチェックしておきましょうと決める。
一方、止められたヴァニラとFMG-9、FMG-9の方はやれやれと言った感じに頭を掻き、ヴァニラは優しい笑顔で
「もちろんよ指揮官、後で〆る」
「自分も着いていきますよボスじゃないと怖いし~?」
「私は……ちょっと此処に残るわ」
「じゃあ、私は戻るわ。お大事にね副官」
「では私はカリーナを呼んでまいりますねお嬢様」
それぞれが行動を開始し医務室を出ていく、そして残ったのはベッドのM1895、壁に腕を組み寄りかかるVector、主であるPPSh-41、ほんの少しの沈黙の後
「副官、話良いかしら」
「……ああ、大丈夫じゃよ」
「私、奥に居ますから」
生きてる者の務め、M1895、彼女はそれと向き合わなければならない
ヴァニラさんはその、優秀なんですよ、ただえっと、人よりちょっと歪んでるだけで……
アリババとかメジェド、この二つはあの心の怪盗団のゲームから。双葉ちゃんかわいいヤッター