それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
Vectorが何を話したいのか、M1895にはそれははっきりと分かっていた、と言うより一つしかないだろうとすら思っている。
「……世話を掛けてしまったな」
「別に構わないわ。私だってそれなりには動揺してるし」
どの口が動揺してるなぞ言っておるのじゃと軽口を叩けば、あら私だって動揺くらいするわと返ってくる。
が、無論そんなことを話したいわけではない二人、軽く笑い合っていたはずの先程までの空気は突然失せ、Vectorが鋭い瞳でM1895を見据える。
「どう、現実を目の前にした気分は」
「最悪じゃ、これほどまで人とは愚かになれるのかと思うぐらいにはな」
そもそもあれが人間の手で本当に行われたのかすら思いたくなると続ける彼女の顔は悲痛そのものだった、今日まで安らかに眠り、指揮官、娘を見てくれていると信じていた元パートナーが実は鉄血の生体パーツとして使われていて、墓には何も入ってないと聞かされ、未だにその言葉が信じたくない気持ちまである。
しかし現実はあれだ、あまつさえ彼女の声で、顔で、思考で自分に語りかけ、それで危機に陥りVectorの介入がなければ今頃、この基地がもしかしたら無くなっていたかもしれない程の失態を晒してしまった。
分かっている、彼女は既に死んでいて、あれはあくまで脳というパーツから読み取られた記憶でイントゥルーダーが演じていただけだと、そう理解しているはずなのだが
「まるで、生きてるかの如く喋りよってからに……」
「……」
「ああ、人形がこんな事言うのは可笑しいと思うじゃろう、だがな。あれはアヤツ本人に見えたのじゃ、わしの目にはイントゥルーダーではなく彼女の姿が重なってしまったのじゃ」
「厳しいこと言うけど、それは奴が流したウィルスがそう見せただけよ」
「分かっておる!!!」
冷静に真実を突いてくるVectorの言葉に声を荒げるM1895、顔を俯かせ握る手が震えるほどに力を込め、もう一度小さく分かっておるのじゃと言う。
彼女の言うことは正しい、あれは一種の幻覚であり、イントゥルーダーが作戦を円滑に進めようとしただけの策だと。
「すまぬ、お主が正しいと言うのに」
「いえ、私も言葉を選ぶべきだったわ」
「馬鹿を言うな、お主がこういう場面で言葉を選んだ試しがなかろう」
「これでも選んでる方だわ、これでもね」
M1895の指摘に自嘲気味に笑うVector、彼女としては選んでいる、だが下手に同情も誤魔化しも駄目だと思った時はただ真実を突きつけてしまうだけ、嫌われても仕方ないとは思っている。
だからこそ、今からする質問も決して相手には気分がいいものではないでしょうねと思いながら
「副官、彼女を撃てる?次相対したときに、その銃爪を引ける?」
「……」
「もし迷いが出るなら、撃てないと此処で言うなら、私がその役目を貰う。別にいいわ、一度殺したのだから二度殺すのも何の手間ではないから」
右手を、あの時の彼女を貫いた自身の右手を見つめそう告げる、対して問われたM1895が迷っていた、先程も言ったが彼女だってあれがイントゥルーダーの策だと分かっている、分かっている筈なのに電脳はありえもしない希望を見出してしまっている。
もしかしたら、彼女の人格をイントゥルーダーは生かしているのではないかと言う希望、オカルトも良いところだと自分でも笑いたくなるそれに彼女は欠片だけでも信じてしまっている、故に迷いが生じてしまっている。
「わしは……」
撃てないとも、撃てるとも言えない。煮え切らないその態度のM1895にVectorは静かに近付き、迷う彼女に向けて口を開く
「あのとき、貴女の目の前で息を引き取ったのは誰?」
「……」
「あの日、私が手を掛け、貴女が看取ったのは誰!」
「だから、わしに撃てと、そう言うのか?お主は」
弱々しく吐かれたその言葉に、感情を滅多に乱さないVectorがガッとM1895の胸元を掴み引き寄せ、彼女を睨む。
彼女が撃ちたくないと言い切るならそれでいい、撃つと覚悟したのならばそれでも良かった、だが今の彼女はどれでもない、どれも決めれず言葉を濁しているだけだ。
「撃てだとか撃てないだとかどっちでもいい、だがどっちか決められないと言うのは逃げよ、そんな臆病者の選択肢、私が許さない」
「なんじゃそれ、せめて決めろと言うのか」
「戦場に出るつもりなら、迷わないで、だからこそ決めてほしいわ」
彼女の目を見つめVectorは言い切る、その目を見て、その言葉を聞いてM1895は目を伏せる、そこでVectorの声に何事かと出てきたPPSh-41を見てVectorはそっと手を離し扉に手を掛けたところで
「また、後で聞きに来るわ、でもね副官」
「なんじゃ」
「私達は生きているの、死者にいつまでも縛られてはいけないのよ、それだけは忘れないで」
そう言ってから医務室から出ていく、後に残されたのは状況を何となしに理解したPPSh-41と横になり顔を腕で隠しているM1895
「死んだ者がああいった形で現れた、ならばもう一度眠らせるべき、なのかのう」
「私は、それが絶対だとは言いません。ですが彼女の場合は望んででは無いです、なら寝かせてあげるべきだとは思います」
ですが、決めるのは副官、あなた自身ですと言われれば、弱々しく笑ってから年寄りに皆厳しいのうと一言呟く、別に厳しいわけではないと分かってはいるが
(わしは、どうすれば良いのじゃ……ああいや、分かっておる、撃つべきなのじゃ、だがそれでも、それでもお主に銃を向けるのはシンドイのう『レイラ』)
指揮官はああやって前に進んでいるというのに情けないのう、悲しげな笑みを浮かべながらM1895は静かにそう思う。たとえ迷っていようが時は進む、決断はしなくてはならない
ちょっと話がくどい、反省
(新年始まってからナガンおばあちゃんのメンタルがフルボッコになってるのなんで?)
この小説、イントゥルーダーとの決着付けたら第一部完まで有り得そうな展開になってきたな?