それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
帰ろうとしたその足が止まる、何を言っているのかと電脳がざわつき、思わずM1895が振り向けばそこには穏やかな笑みを浮かべ、だが目には覚悟を灯したレイラの姿。
「レイラ?」
「ごめん、でも私はそっちには行けない」
ただ冷静に告げられるその言葉、先程までの空気が一変しこれには流石のアーキテクトも空気を読んで黙っているほど、いや、もし此処で彼女に限らず誰かが喋ったとしてもM1895の耳には届かないだろう。
何故?と思う、だが同時に納得もしてしまう、彼女はそういう人間だったと、しかしだと聞く前にレイラが再度口を開く
「ナガンが言おうとしてることは分かってる、でもそっちに行っちゃいけないんだよ」
「……」
言葉が上手く出ない、何かを言って無理矢理にでも彼女を連れ戻してやろうと思うが体が動かない、それでも何とか手を動かし伸ばそうとするが中途半端な所で止まってしまう。
たったあれだけの言葉でレイラの意志が強すぎると感じ取ってしまった、だからどうにも出来ない、そんな彼女を見てからレイラはアーキテクトに
「私が言ったこと、全部やってくれた?」
「もち!データの吸出しもしたし……C4の設置も、ね」
「そう、ありがと。でもジュピターのデータも持ってくのはどうなのよ」
「いやいや、これくらいないと私の扱いがどうなるかわかったもんじゃないしー?」
おちゃらけたアーキテクトの態度にはぁと溜息をつくレイラ、だが仕事はきっちりしてくれているのでそれ以上は何も言わず顔を俯かせ立ち尽くすM1895に近付く、その際ウィンチェスターが動こうとしたがVectorがそっと止めた、その顔は誰もが初めて見るほど寂しい目をしていた。
「ナガン、その、ごめんね」
「謝るな、馬鹿者が……」
やっと出せたその声は涙声だった、ゴチャゴチャになっている感情を抑えることができなくなりつつあった。
「どうしても、どうしてもダメか?」
「ええ、どうであれ、そこに私の意識が存在してなかったとは言え私は貴方達を苦しめてしまった、それに死んだ人間がのこのこ戻れる訳ないじゃない」
「ッ、お主はやはり、大馬鹿者じゃ、いつもは融通が利くくせに変な所で義理堅い性格、しかもそれをユノにも引き継がせおって」
ユノ、その名前を出した時レイラの顔が少し俯く、彼女の中で一番の後悔、心残り、それが娘であるユノの事であり出来れば今此処で彼女と再会したかった、声だって聴きたかった。
だけどそれを押し殺す、彼女なら私が居なくても、いや、そもそも記憶にない母親が居なくても幸せに過ごしていると
「(ダメね、これ以上は覚悟が鈍るわ)ナガン、すぐにここから出て、後は私に任せて」
「お主は、どうするつもりじゃ」
「この司令部の残ってるデータを全て破棄して残ってるジュピターと鉄血兵に自壊プログラムを流してから、最後に仕掛けた爆弾でこの基地ごと私は死ぬ」
その声に目に顔に迷いはない、それを理解できてるからM1895は何も言わず一つ頷いてから、だけどこれだけはと口を開く
「レイラ、また会えて嬉しかったのじゃ」
「私もよ、ナガン……ユノをこれからも頼んだわ」
「ああ、任せるがよい、あっと、ほれ」
思い出したように渡されたそれは生前に自分が大切につけていたペンダント、まだ大事に持っていたのかと驚き彼女を見れば当然じゃろうがという顔と言葉で迎えられる。
M1895もレイラも、本当ならもう少し話したかった、だがそれは出来ないと互いに最後に笑顔を交わしてから背を向け基地から離脱するために駆け出す、その間際、自分を殺めた暗殺者、Vectorがこちらを向き
「私は、貴女を誇りに思うわ」
「何よ、突然」
「いいえ、でもこれは言わないとって思っただけよ」
「ベクちゃん!早く来いってナーちゃんがっていったい!?え、そう呼ぶな?」
アーキテクトの早くも馴染んでいる声に流石のVectorも苦笑を浮かべつつ彼女も後を追う、残されたレイラも直ぐに司令部のメインコンピューターが置かれている部屋に急ぐ
そうして辿り着きコンピュータを操作しようとした時、視界がブレ身体から力が抜けガクンと膝から崩れ落ちる。
「代用コアじゃ、そろそろ限界、か」
そう、彼女はどの道、M1895達と帰れるほど時間が残されていなかった、メインコアを失いそれでも動けたのはこの代用コアのお陰、だがあくまで代用であるこれに長く活動出来るわけもない。
ガタが出始めた体に活を入れ操作を始める、ありとあらゆるデータを削除と自壊プログラムの散布、こうすればこの地区の対空兵器は消え輸送路の確保くらいは出来るだろうと笑う。
「これで、良し……間に合ったわね、いや、まだあるけど」
がここでズルリとまた身体が崩れ落ちる、もう立ってられるほどの余裕すらなくなりつつあった、だがあとは自分でこのスイッチを押すか、いざとなれば外のアーキテクトが押してくれる手はずになっているので立てなくて問題じゃない。
そうしてスイッチに手を掛けた時、ピピピと音が部屋に響いた、どこからと思えばそれはペンダントから、どうやら改造されてたらしいと苦笑しつつ好奇心でスイッチを押せば
《繋がった……?》
「え、ゆ、ユノ?」
聴こえたのは聴きたかった愛娘の声だった、向こうもこちらも困惑の声を上げてから
《あ、えっと、お母さん?》
「お母さん、か。記憶がなくてもそう呼んでくれるのね」
《声を聞いたら、そう呼ばなきゃって思って》
やれやれ優しい子だと自然と笑顔になるレイラ、だが長々と話せない、もう限界が感じ取れるほどに迫ってきているからだ。
あれもこれも聴きたい、彼女の現状を知りたい、思い出も、全て聞いてあげたい……母親らしいことをしてあげたい、でも今の自分にはそんな資格も時間も残されていない、だから言いたいことだけを言ってしまおう、そう考え
「ユノ、ごめんね……こんなお母さんで」
まずは謝った、自分がもっとしっかりしていれば、あの時自分の基地に連れてきていれば彼女に普通の人生を歩ませることが出来たはずなのにということを込めて
「それと……幸せにね、ナガンや皆と幸せに過ごしてね」
今までを見れば自分がこんな言葉を送るなんてどうかと思うがそれでも母親として言ってあげたかった。
これで満足だ、彼女はそう思っていた、しかし指揮官も言いたいことがあった、いや、今出来たと言ったほうがいいかもしれない
《お母さん、私、恨んでないからね!》
「え」
それは予想外の言葉だった、だって自分の行いで酷い目に遭ったというのに彼女は自分を恨んでないと言い切った、それも建前じゃない本音で
《おばあちゃんから私の昔を聞いた、でも恨んでない、それよりも……》
生んでくれて、ありがとう!自然と涙が溢れ流れた、心からのその言葉に彼女は救われた。
自分の娘が、普通なら歪んでしまいそうな境遇に生きてたはずの彼女がここまで真っ直ぐに育ってくれたことを嬉しく思いつつ指に力を込めつつ
「ありがと、ユノ……どうか、お母さんみたいにならないでね」
最後に小さく呟いてスイッチを押し込む、アーキテクトが特性で作り出した爆弾は炸裂し基地のそこかしこから爆音が響き渡り、爆炎が彼女が居るこの部屋を包んだ。
その最後の顔は、とても穏やかで幸福に満ちた微笑みを浮かべて、彼女は基地の崩落と共にこの世を去った。
こうして対外的に見ればS03地区の鉄血をほぼ殲滅、大勝利を収めたこの作戦は幕を閉じる、だが司令部からは少女の泣く声がただ響いていた……
書いてて自分で泣きそうになった、年取りたかねぇな……どうも涙腺が弱くなる。
ウィンチェスターさんごめんな……明日は少し喋らすから……
次回のタイトルを失温症にするか別のにするかで悩む