それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
戦術人形と言えど戦うだけではなく趣味を楽しむ事もある。無論全員がそうとは限らないがこの司令部では殆どが何かしらの趣味に目覚め楽しんでいる
いい例がスプリングフィールドだろう、彼女は休日のみとは言えカフェとBARを経営、それはもはや趣味という領域を超え始めているが本人が趣味と言うなら趣味である
そんな部屋一つを増築改装という規模ではなくとも手軽に、もしくは省スペースで出来る趣味の持ち主はたくさんいる、その中には彼女の姿もあった
「……」
場所は宿舎、第三部隊に充てられた部屋、他の隊員は寝静まって真っ暗な中、デスクライトの明かりを頼りに自身の机の上でピンセットを手に真剣な眼差しで何かを組み立てているのは隊長の【HK416】
彼女が現在作っているのは自身の趣味とも言える【ボトルシップ】その中でも難易度が高い分解・組み立てという方法でワインボトルの中で船を組み立てていく、パッと見た感じでは9割近くが完成しているが休日や暇な時の合間合間の作業だったとは言えここまで来るのに数週間、確かに通常の人から見れば十分に早いが彼女は戦術人形、手先がブレることもなく正確にそして素早くパーツを組み立てられる、それでもここまで掛かった
理由は『集中力』の問題。いくら正確無比に出来ると言ってもそれを長時間、更に今回のは特別な思い入れも手伝い慎重に慎重を重ねている為、彼女にしては珍しく疲れを感じることもあり一気に作るのは出来なかった
「ふぅ」
作業を進める手が止まり、一息つく。あとは仕上げなのだがそこで万が一があれば今までの時間が水の泡になるので一旦小休憩を挟むことにしたのだ、チラッと時計を見れば22時、今日中に完成させるつもりだったが思ったより進んでいた時間に思わず苦い顔になる
今回のボトルシップは指揮官にプレゼントするつもりの物、今日中に渡したいがこの時間帯だともう寝てしまってるかもしれないと焦りが出てくる。だが焦れば作品が駄目になる、それでは本末転倒だと自分に言い聞かせ最後の作業に手を付けた
416は最初からボトルシップが趣味だったわけではない。寧ろここに来た直後の頃は趣味等はなく、指揮官が定めた休日は逆に煩わしかった。自分は
そんな彼女に転機が訪れたのは遂に指揮官に問い詰めに行った時だった。自室に居た彼女に自分は戦うために来た、だから私だけでも出撃させてくれ、と
懇願にも近いそれに指揮官は驚いたような顔をしてから少し困ったような、だけどそう言われることが分かっていた顔で
「そう、だよね。でもね、私はそれだけじゃ寂しいと思ってるんだ、貴女達の指は決して銃爪を弾いて相手を
なんか上手く言えないし伝えられないけどね、416には分からなかった、なぜそんな悲しそうな顔をしながらそう言ってくるのか。そんな様子の彼女に指揮官は少し考えてから何かを思いついたらしくちょっと待っててくれと伝え部屋に戻っていく
言われた通りに待つこと数分、少々埃塗れになった指揮官が見せてきたのはボトルシップ、それと初心者でもすぐに始められる組み立てキット
「あれだけ言っておいて何もアドバイス無しはどうかと思うからね。一度さ、これを作ってみるのはどうかな?あ、こっちのボトルシップは私が作ったんだよ……まぁちょっと見栄えは良くないけど」
指揮官の言う通り見栄えは良くない、だけど真剣に作ったことが雰囲気だけでも分かる。何故かその時は分からなかったがその雰囲気に惹かれ、それに指揮官からの勧めなのでと宿舎に戻り作り出したのが始まりだった
端的に言えばハマった、最初こそは慣れないことに苦戦しつつの作成だったが自身が完璧主義だというのも合わさりメキメキと実力をつけていった、何より自身の手から何かが作られていくという事に不思議と感動を覚えた
彼女は気付いた、指揮官があの時言った『他の可能性』はこれだったんだと。そして、お礼を言うためにと一から設計を考えて材料を削りパーツから作成した作品がこのワインボトルに作られた船、そして今遂に完成した
「23時……とりあえず行ってみる」
ここまで来て落とすなんて真似はしたくないので慎重に持ち、宿舎から出て指揮官の部屋へと向かう、正直に言えば恐らく寝てるだろうと思っていた彼女だったが部屋の前についた時、扉から明かりが漏れている事に気づき驚く
(寝て、ない?)
もしくは電気の消し忘れ?と思いながら扉をノックすればあ、ちょっと待っててねと言う声がしてから扉が開き中から出てきたのはいつもの軍服ではなく寝間着姿の指揮官
「416?どうしたのこんな時間に」
「それはこっちの台詞、起きてるとは思わなかった」
「いやぁ、部隊が大幅に増えたからローテーションとかを考えてそれを纏めてたら……あ、大丈夫、もう寝るよ、うん、多分」
本当に寝るのか不安に襲われるも先に要件を済ますべきだと考えて416は仕上げてきたボトルシップを指揮官に見せる
「お~、すっごいねこれ、作ったの?」
「ええ、指揮官に渡すために、それとお礼を言うために」
出てきたお礼という言葉にキョトンとする、どうやらあの時の言葉は自然と出ていた言葉なのかもしれないと思いつつ
「あの時、この指に他の可能性があることを言ってくれた、そしてこのボトルシップを渡してくれて気付けたから、殺すだけじゃないって事を。だからお礼を言いたかった、ありがとう指揮官」
その時の416の顔に指揮官は忘れないだろう、いつもは無表情な彼女の顔が今だけは穏やかな少女の微笑みになっていた事を。だけど416もこの時はいつもの無邪気な笑顔とは違う、まるで母親のような優しい笑顔の指揮官に見惚れていた
(こんな顔をすることあるのね)
そして直ぐに元の感じに戻る指揮官に安心しつつ、そっと自身の最高傑作とも言えるボトルシップを手渡す
「でもこれ本当にくれるの?苦労したんじゃないの?」
「指揮官のために作ったものだから、受け取って欲しい」
そう言い切れば指揮官は、分かった大事に飾るねと嬉しそうに笑う。それだけでも416は作った甲斐があったと思え更に言えばあの優しい笑顔を見れて良かったと思えた
最後に指揮官にまた完璧なものが出来たら見せに来ると言い彼女は宿舎に戻り今日のことは決して忘れないと思いながら床に就く、因みに指揮官はあの後も仕事をしたらしく翌日寝坊し、やはりあの時に寝かしつけるべきだったと少し後悔する416であった
指揮官@オチ担当
416ちゃんは当初は只の模型だったけどボトルシップ似合いそうからのこの展開になりました
因みに指揮官が見せたのは分解・組み立て式じゃなくて引き起こしタイプです
私は作ったことも買ったこともありません……