それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
スチェッキンという戦術人形はこの基地においてもはや心臓の一部と言っていいほどの存在であるのは周知の事実だろう。
実際、彼女が繋げたパイプの数は多いいというわけではないがどれも一定以上の信頼があり、いざという時には力になってくれるだろうという繋がりも少なくはない。
更に言えばこの基地の財源の一部も担っている、気付けば社内報にも載ってしまうほどには『スチェッキンさんの移動式屋台』と言うのは有名になりつつある、移動式屋台とは銘打っているが物資の配送もやってたりするのでもはや何でも屋に片足突っ込み始めてはいるが
だが不思議なことに、誰も彼女の過去を知らない。製造されて直ぐの存在なのか、それともそれなりに可動しているのか、本部務めだったのが此処に来たのか、それとも別の基地からの異動だったのか、民間から来たのか、それら一切が不明なのだ、無論、知ってるものは居るがそれもこの基地では極少数である。ただ分かるのは奇妙なまでの商売の手腕の高さ、交渉の上手さ、確か過ぎる人を見る目の持ち主、それが大多数の認識だということだけだ。
そんな彼女は今本部に居た、と言うのも流石に頻繁ではないがその他基地への物資の配送を終えてその確認と報酬の確認の為にだ。
「これが本日分の物資配給のリストね。一応目を通してもらえるかな?」
「…ああ、確かに。一部とは言え毎度済まないな」
「なぁに報酬さえきちんと貰えるなら喜んでさ」
「これが今回分だ、どうだ?」
書類を受け取り目を通す、金額は提示された額、他には特に特筆するものはないが言葉にしない報酬というのもある、なので彼女は何時も通りの笑顔を浮かべながら
「OK、いつもの口座に宜しくね~」
「分かった…そうだ嬢ちゃん、この話は知ってるか?」
「ん?おっと、まぁ良いか、今日の分はその内容次第でチャラにしたげる」
なら問題ねぇなと本部の物資係が笑いつつ、その話を始める。結論から言葉にしない報酬、今回で言えば物資の搬送を代わりに行ったという『借り』をチャラにした、それだけの価値は確かにある情報だった。
思わぬ情報を手に入れて割と上機嫌なまま基地に帰ってきたスチェッキン、トラックを止めて彼女が先ず向かったのはFNG-9の広報室、そこで裏取りを依頼して、次に向かったのは中庭
「やぁ、指揮官にPPK」
「あ、スチェッキンおかえり」
「おかえりなさいませ、スチェッキン、今日も配送に?」
だね~、いやぁ儲かる儲かると笑い二人に副官が何処に居るかを聞いてから、軽く雑談をしてその場を去る、途中P7とステアーに二人の居場所を聞かれたので答えたりしつつ副官の自室の前についたタイミングで
《あ~、こちらFMG-9、さっきの話マジだね》
「ういうい、ありがとね~…さて、副官、少し良いかい?」
「む?スチェッキンか、珍しいのう、入れ」
では失礼と入室し適当な所に座って、彼女がコーヒーを淹れてるのを見つつゆっくりと此処に来た要件を話し始める。
「副官、S03地区って知ってるかい?」
「どうしたそこの名前を出すなんぞ、知らぬわけなかろう年中放射線を含んだ雨が振り、テロが日常茶飯事、少し突いただけでも黒い噂しか出てこない…失礼承知で言えば魔境の地区じゃろ」
それがどうしたのじゃと言う視線を送ればスチェッキンはいやいや今日本部で面白い話を聞いてねと前置きをして、長くなるのだろうコーヒーを一口飲んでから
「なんでもS03地区へと繋がる補給路が完成したみたいなんだ」
「ほう、それは…朗報なのか?いや、そもそもその程度のことでお主が面白いと判断する訳はない、ほれさっさと本題を言ってみよ」
「いいの?じゃあ遠慮なく、どうやら補給路が完成したからなのかそのS03地区のとある司令部から数名人形がこっちに来るみたいなんだ」
「来る…っ!お主まさか!?」
副官が目を見開いてスチェッキンを見れば彼女は笑っていた。今の今まで碌な補給路はなくしかもS03地区から誰かが出てきたという話を聞いてない、それが突然出てきてこっちに来る、普通だったらそんな厄介ごとの塊、いや、何時爆発するかもわからない不発弾なんて関わりたくないと思うのが正常だ、だがスチェッキンはそこに目をつけた。
「誰も関わりたくない、つまり『最悪の場合の指揮官の避難地』になりうる」
「だが、それは向こうにとっても厄介事の筈じゃ…」
「何言ってるのさ副官、向こうにとって厄介事だろと関係なくしちゃえば良いんだよ。いいかい、向こうが出向いてくるのは間違いなく他地区の司令部との繋がりが欲しいからだ、更に言えば向こうは物資だって欲しいはずだ」
その時の眼は商人の目であり思わず副官が息を呑むほどだった、そこからスチェッキンはニヤリという表情を崩さずに更に言葉を続ける。
「放射線を含んだ雨が年中降るってことは水だけでも貴重だ、だからこちらからは水、食料、嗜好品、それとアーキテクトに作らせてる浄水器を提供しようと考えてるんだ」
「随分と大盤振る舞いじゃな」
「借りを大きく作りたいからね、いざって時に拒否されるって言うのが最悪だからさ」
その言葉に重さがあった、まるで実体験であると言わんばかりの声、見れば表情も物悲しげなものであり過去に彼女に何があったのか、それを知ってる副官だが触れずになるほどなと一言呟くだけにする。
副官はそれからコーヒーを飲んで、少々スチェッキンのその案を思案する、だが彼女の言うことは確かであり、最悪を考えるならばMSF、D地区以外にもそういう場所は欲しい、しかもS03となれば一度逃げ込めば暫くは時間を稼げるはずだと考えて
「分かった、お主の案を受けよう。だがS03地区の人形たちがこの地区へ来るという確証はあるのか?」
「FMG-9に裏取ったから確かさ、だけど先にD地区に向かったみたいだけどね、それからこっちに来るみたいだ」
「だとすれば時間はまだあるか、うむ、指揮官にはわしから伝えてはおく…安心せい、適当に暈すところは暈す」
「はは、それは助かるよ副官、じゃあこっちは物資の準備を進めておくよ」
副官の言葉に何処か安心した感じのスチェッキンは副官の部屋を出る、それからスチェッキンはその日に向けての準備を進めていくことになる、因みにアーキテクトはその日にスチェッキンに伝えられて白い顔を更に白くしながら浄水器の開発に少々デスマーチを繰り広げることになったとのこと…
S03地区の話出したけど大丈夫なんですかねこいつ…
スチェッキンさんの過去を話をしようとしたけどこいつ中々隙きを見せなかった…すまぬ、スマヌス…