それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

259 / 794
雲が晴れる


日溜まりが陰る日 Session4

「…所で副官」

 

あの報復から二日が経った基地、未だ指揮官の意識は戻っていない。PPSh-41の話であれば一命はとりとめてはいるのだが消耗した体力がかなりのものでありいつ意識が戻るかは彼女も分からないとのことだった。

 

彼女が起きない、それだけで全体の士気すらも低いのが感じられるこの基地の広報室にてFMG-9はあの日の処理に追われていた、彼女が起きてから悟られないようにという根回しである、それを進めつつ隣の副官に気になることを聞いてみることにした。

 

「なんじゃ…」

 

「あの日の作戦、何で態々リスクの高すぎるオールデリートにしたんですか?何時も通りターゲットだけの処理でよかったはずじゃないですか」

 

「…やりすぎ、と言いたいか?」

 

まぁ、否定はしませんと視線を向けずに答える、はっきり言えば彼女らしくないというのがFMG-9の感情だ。対して副官はそう言われると分かってはいたのか表情を変えずに窓から外を眺めつつゆっくりと口を開く

 

「まぁ、そうじゃな…」

 

「そうじゃなって、そらまぁ確かにヘリアンさんと社長の手回しであの基地に今回のことで関係無さそうな人間は調査して本部に召集しましたから居たのは畜生共だけでした、ですが…」

 

「一度ここらで派手なことをすれば、次に手を出そうと考えてた奴らの手は止まるじゃろうて」

 

言葉の途中で副官がそう割り込む、つまり彼女は指揮官を守るために今回の大規模なことを実行したと、話はそこで終わりだとまたカタカタと広報室にはキーボードを叩く音だけが響く…その日、彼女が目覚めることはなかった。

 

事件から四日目、指揮官の容態は安定しているものの意識は回復せず、また少し士気が下がった気がする基地、それでも全員はいつものように、そして彼女がいつ目覚めても良いようにと普段どおりに振る舞う努力をしている。

 

P7とステアーは大丈夫だと自分に言い聞かせながら普段どおりに業務を行い、遊ぶ、PPKもそんな彼女たちに負けじと警護任務をこなして、終われば指揮官の側に付きっ切りで彼女の世話をしている。

 

副官もG36も、とにかく彼女がいなくともやれることを一生懸命にこなしている…なのだが、とデータベースに訪れていたヴァニラは思う

 

「この基地って、こんなに静かだったっけ」

 

「…そう、ですわね」

 

静か、喧騒は普段と変わらないはずだと言うのに彼女はそれを感じ取った。足りない気がするのだ、いや、実際に足りないのだろう、それだけ指揮官がいないという穴が大きすぎるのだ。

 

それはカリーナも感じていたことであり、更に言えばこの基地人形全てが同じことを思っている、だけど口にしないのはすればまた辛くなってしまうからだ。

 

「ごめん、話題変えようか…」

 

「いえ、大丈夫ですわ」

 

「ならいいけど…一つ良いかしら」

 

「え、まぁ答えれられることならば」

 

カリーナが振り向けばなにか迷いを感じているヴァニラの姿、それから数分と彼女にしては珍しい感じに沈黙してから漸く意を決したという感じに口を開く

 

「どうして、あの報復に本社は口を出してこない?いや、もっと言えば本社はどうして『この基地にここまで甘い?』」

 

思えば、この基地は最前線の激戦区でありながら何というか自由にさせすぎている面が強い、最もたる例は先日の報復、あれだけ見れば人形の暴走でありこの基地を残すには危険すぎると声が上がりそうなのだがそれがない、それに今までの暗部の動き、スチェッキンの商売、上げればキリがないのだがそれら全てはきちんと本社、更に言えば社長やヘリアン上級代行官に通した上で許可が降りている、いくら何でも甘すぎないでは?とヴァニラは思ってしまった、故に本社から来たというカリーナならばなにか知っているのではと聞いてみたのだ。

 

そして彼女後に言うこの世界は本当に腐ってると、カリーナはその問いに目に迷いを隠す素振りも見せずに乗せて、それから

 

「…甘いのではありません、今回の報復も謂わば本社からの命令に近いのですから」

 

「本社から?え、いや、どうして、言っちゃ何だけどたかが指揮官一人の暗殺未遂の報復が本社から命令が下るのよ」

 

「聞けばこの基地から離れることはできなくなりますよ」

 

声が本気だった、感情が消え冷たいその声にヴァニラが怯む、だが今更それが何だと肯定の意を示せば、カリーナは分かりましたと一言言ってからこの基地の『本当の役割』を語り始める。

 

「先ず前提として、本社は今でも指揮官さまを『人』として扱ってません、彼女の眼の能力はサンプルとしてはこれ以上にない存在であり、かと言って実験体として生かすにはあまりに惜しすぎる存在でもありました」

 

「…」

 

「ならばと本社は考えたのは最前線に彼女を『飼い殺せる』基地を作ってしまおう、そこで彼女には機嫌を損ねる事なく過ごしてもらおう、そして生まれたのはS09地区『プリズン基地』基本この名前では呼ばれませんがこれが…」

 

「この基地ってわけ、考えなかったわけじゃないけど…」

 

ヴァニラが苦々しく言葉を吐き捨てる、だがまだ話は終わりではなくカリーナはコーヒーを飲んでから更に続ける。

 

「当初はこの地区の鉄血の襲来を早期に発見するレーダー程度の役割で済むと思われていましたが思わぬ副産物が生まれたのです」

 

「副産物?何かあったかしら?」

 

「人形との卓越したコミュニケーション能力ですよ、どのような人形であれこの基地に送れば鎖を繋げることが出来て更に自律行動の能力が飛躍的に上がるというデータも出れば、本社の社長含む上層部がそれに目をつけ此処に送られてくる人形は大小あれど問題を抱えた存在が多かったり、ロールアウト直後の人形が送られてくるようになったのです」

 

鎖、それは理解できてしまった。先日のあれを見せられれば嫌でも確かに彼女という存在は鎖と言えるだろう、しかしだ、それでもあれが何事もなく流される理由にするには弱い気がしてしまうと思考を巡らせて…ふと、先程の言葉を思い出す

 

「(『人』として扱わず、この基地は『飼い殺し』の為に用意した…まさか)本社の、所有物に危害を加えたという形になっている?」

 

「その通りですわ、向こうからすればこの地区の警戒網として設置したレーダーを勝手に破壊しようとし、あまつさえ漸く鎖を繋げられた存在を解き放とうとした、それが向こうの考えなので」

 

「とことん、指揮官を人間として扱わないってのが本社のスタイルってこと…胸糞悪いけど今回はそれに助けられたってのがやるせないわね」

 

「無論、私もヘリアンさんもペルシカさんもクルーガー社長も今では指揮官さまを人として見ております、ですが…」

 

辛い表情になりながらそう告げてくるカリーナにヴァニラはそっと頭を撫でる、そんな事誰でも分かっていると、でなければこうしてこの基地が彼女がいないだけで此処まで士気が下がるはずもないのだから

 

その日も彼女の意識が戻ることはなく、一日がまた過ぎていった…そして指揮官が刺されてから5日目の昼の医務室、先程までPPKが居たのだが体を拭いてあげようとタオルを用意するために席を外した時だった。

 

「んっ…」

 

今の今まで欠片も動かなかった指揮官の目がゆっくりと開かれ、目だけで当たりを見渡そうとした時、PPKが帰ってくれば

 

「ユ、ノ?ユノ!?あたくしが、あたくしが分かりますか!?」

 

「…ぴーぴーけー?」

 

その日、全員が待ちに待った日が訪れた、これで漸くこの基地も普段どおりに向かい始めると誰もが信じた。

 

だからこそ、その日溜まりに僅かな陰が生まれていたことに誰も気付かなかった…




目覚めた日溜まり、されど陰りは残る。

次回で暗殺未遂事件終わりかなぁって

S09プリズン基地
ユノ指揮官を飼い殺すという目的で作られた基地、彼女の感情で鉄血側に落ちてしまう可能性を考慮、幸いなことに人形が入れば幸せを感じという点を逆手に過剰なまでに人形を配備、だがその際の副産物として本文のことが発見されれば実働部隊として使える基地へと名目を変えいる。だが本質はあくまで本社所有のレーダー施設のようなものとされている。

尚、この基地がそのような名称を持っているというのはトップクラスの機密であり知っているのは上層部の一部と社長、カリーナ、ヘリアン、ペルシカ、そして今回聞いてしまったヴァニラだけとなっている

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。