それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
目覚めてから翌日、騒がしくしない、と言う大前提の下で指揮官のお見舞いが解禁された医務室は一人、また一人とお見舞いに来ては心の底から心配したんだぞ的なことを言われつつも無事を喜ばれ、指揮官もそれに謝りつつもしっかりと答えていく。
が、そこでふと思った、あの日保護したはずのAS Valはどうしたのだろうと…そもそもにして思えばあの刺された日が最後の記憶なので今彼女がどうしてるのかすら知らない指揮官はお見舞いも落ち着いてきたタイミングでPPSh-41に聞いてみれば
「まだスリープ状態ですよ、指揮官が起きてから再起動させるとヴァニラさんが言ってましたよ」
「え、なんで?」
ポカンという顔を晒して指揮官がそう聞けばPPSh-41は大きくため息をつく、つかれた方はなんでさ?と再度疑問符を浮かべた顔を晒せば更に深いため息、それから
「今でも彼女のメンタルでは貴女を刺したという事実が深く残っていて、その状態で起こしてもいいですが貴女がまだ意識を失っていると知ったらどうなると思います?」
「…あっ」
ポンっと手を叩けばいよいよPPSh-41は軽く頭を抱える、この指揮官あまりに考えてなさすぎだろうと、いや、彼女は割とこういう指揮官なので少々仕方ない部分があると割り切ってから、彼女に来てもらいますか?と聞いて向こうから肯定の確認取れれば、手元の通信機のスイッチを入れてから
「こちらPPSh-41、ヴァニラさん今大丈夫でしょうか?」
《はいはい、大丈夫だけど?》
「指揮官が彼女に会いたいと」
それを言われるとあ~と何やら悩むような声とカタカタとキーボードを叩く音が聞こえPPSh-41は不思議そうに眉を顰める、もしかして何か問題でもあるのかと待ってみること数分、漸く彼女から答えが返ってくる。
《うーん、物は相談なんだけどさ、指揮官こっちに連れてこられない?》
「…なぜですか?」
《今ここで起こして、それからそっちに向かわすのでも良いんだけどこの娘のメンタルがまだ不安定なのよ、だから途中であの時のパニックが出ないとも限らないのよ》
「なるほど、なので指揮官に来てもらいその可能性を排除したいと…」
カツンカツンとボールペンをテーブルに叩きながら思案する、PPSh-41としては無駄に動かして傷が開く可能性をイタズラに増やしたくはないが、指揮官は彼女に会いたいと言っている手前、来てもらって途中でパニックを引き起こされてはそれはそれで悲惨なことである。
少々長い思案の末、はぁと一つため息をついてからヴァニラに返答をする。
「分かりました、今から10分後位に向かいますので準備を済ませておいてください」
《ういうい、待ってるよ》
通信が切れたのを確認してから指揮官に事情を説明する、しかし向かうと言っても彼女を歩かせるという選択肢は勿論無いのでPPSh-41が持ってきたのは車椅子に指揮官を乗せてからヴァニラが待つメンテナンスルームに向かえば準備が完了した様子の彼女とベッドに寝ているAS Valの姿。
「お待たせしました…彼女の傷、消さないんですか?」
「これ以上は、難しいわね。完璧となるとボディをそう取っ替えになるわね」
「でもかなり薄くはなってるよ…ヴァニラさん、起こしてあげて」
了解、とキーボードを操作していく、その作業の音を聞きながら指揮官はAS Valを心配そうに見つめ数分後、ヴァニラの手が止まったと思えばゆっくりと今日まで眠っていた彼女に視線を向ければ、ゆっくりと目が開かれた。
三人はとりあえず怖がらせないように少し距離を開けて様子を見ていればAS Valは上半身を起こして彼女たちに気付いて自身の気を失う前の最後を思い出して泣きそうな表情になり
「あ、え…」
「あわわ、落ち着いて、安心してここは私の基地だよ」
「あなたの、基地?」
PPSh-41に手伝ってもらいながら車椅子を彼女の側に近付いて震えだしている彼女をそっと抱きしめてあげれば今度はぎゅぅっと抱き返され、それから嗚咽混じりの声が部屋に響く。
その様子を見た指揮官はよしよしと彼女が落ち着くまで頭を撫でてあげ、数分経つ頃には落ち着き始めたのか、そっと顔を上げて
「その、えっと…本当に…」
「大丈夫、私はもう大丈夫だよ。それよりもValちゃんの方は大丈夫?痛い所とか調子が悪い所とかは無い?」
「そうね~、一応こちらで見れる所では問題箇所は無かったけど、何かあればじゃんじゃん言って頂戴?」
「だ、大丈夫…です」
と言いつつも側の指揮官に隠れるように体を寄せる彼女を見てヴァニラは怖がらせたかしらと苦笑いを浮かべつつ距離を離す、PPSh-41はその一連の流れからどうやらトラウマが多く彼女の中にある可能性を見つけて時間と彼女が大丈夫になった所でカウンセリングをしましょうかと電脳で予定を立てていく。
本来であればここから指揮官が案内をという場面なのだが彼女は絶対安静の身であるためにそれは出来ない、はてどうしようかとValを見つめつつ考えていれば、どこから嗅ぎ付けたのか
「困ってるようねお母さん!!」
「い、いきなり大声は、驚かしちゃうよ」
そんな勢いのいい声と共に現れたのはP7とステアー、と言っても見た感じはでP7がここに駆け付けたのをステアーが止めようとした感じではある、そしてそんな割と大きな声で現れたとなれば
「ヒッ…」
「ああ、P7駄目だよいきなりそんな大声で来たら」
「うぐっ、ごめんなさい…でもお母さんが困ってるって感じを聞いたから、それに」
それに?と指揮官が聞けばP7の目はAS Valに向けられそれからその薄くはなったがそれでも生々しい傷跡を見て、今度は驚かさないようにゆっくりと彼女に近づいて
「貴女、私と似てるし…いや、もちろん色々違うのは知ってるわ、でも、その…少しは気持ちは理解できるから」
「似てる…?」
何がと聞こうとした時、そっとP7が腕の裾を捲くればそこには傷跡が、それを見てAS Valも理解できた、彼女も自分と同じような所でそんな扱いを受けていたのだと。
「それに、仲良くなりたかったし、だから私達が案内してあげる!」
「私も、仲良くなりたい、です」
「…あ、えっと」
指揮官とP7達の間を眼を泳がす、見るからに迷ってますという感じの彼女に指揮官は
「いってらっしゃい、ここは良いところだからさ、それに皆貴女になにか言うわけない、寧ろ良くしてくれるよ」
「そうそう、だぁれもValが悪いなんて言ってない、それを確認するついでも兼ねてるわ!」
「絶対に今思いついたよねそれ」
だまらっしゃい!!とステアーのツッコミにP7が叫べばクスクスと誰かの笑い声が聴こえ見てみればAS Valが小さく笑っている姿、だが直ぐに見られてると気づいて申し訳なさそうにマフラーで口元を隠して
「ご、ごめんなさい…」
「ああ、もう、謝んなくていいっての!お母さんも私達も寧ろ笑ってくれて嬉しいんだから、それで行くの?行かないの?」
「どう、します?」
「えっと…じゃあ、お願い、します」
なら決まりね!こうしてキャットコンビと気弱な彼女の基地散策が始まる、これはそこから始まった、一人の家族が増えるお話。
よし、ほのぼの再開だな!!