それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
それ故に過去を思い出す整備士ヴァニラ
不器用な二人の、ちょっとした一コマ
と、一日彼女の世話をすると言われたヴァニラだが今は中庭のベンチにてちびスプリングを隣に座らせた状況のまま唸っていた。
今こうして大人しくしてくれているのは非常に助かるのだが果たしてそれで良いのだろうかと、やはり元が彼女とは言え今のメンタルは子供のそれと言うならば少しは遊んであげたほうが良いのだろうと、だがそこで躓くのが彼女、理由は唯一つ
「(なぁにしてあげれば喜ぶのだろうかねぇ)ねぇ、スプリング?その、何かしたいことある?」
「ヴァニラと一緒ならなんでもいいよ!」
それが一番困るんだけどなぁと彼女の頭を撫でながら思案する、がやはりと言うべきかそれらしいヴィジョンも何も浮かばない、彼女のこの人生で子供の相手というのは……無くはなかった。
いや、と彼女は頭を振る、無くはなかったなんてのはあまりに失礼だ、だって
(……あったのよね、そんな時代が)
自分と居るのが何が楽しいのか笑顔のまま中庭で寝転んでいる大福を見つめているちびスプリングを優しく、だけど何処か悲しい感じの瞳でヴァニラは見る、そうすれば一つの影が、ちびスプリングの隣に現れて、まるで意思を持ってるかのように彼女の方を向いたと思えば、ゆっくりと口がこう動いた
【た、す、け、て】
刹那、もう乗り越えたはずの記憶がなぜ急にと思う間もなく彼女は軽い吐き気に襲われた、それを押さえつけるために態とらしく深い深呼吸を繰り返せば隣のちびスプリングが心配そうな顔で覗き込んでくるがそれを気にする余裕はなく、終いにはああくっそという悪態と同時に額に手を当てて空を仰ぐ。
別に子供が嫌いというわけではない、その証拠にP7やステアーと言った人形達とは普通に遊べるし会話できる、寧ろ嫌いだったらこの職場は地獄だっつのと苦笑いを浮かべるほどだ、ただ彼女は苦手なのではなくちびスプリングの様に真っ直ぐな好意を向けてくる子供と言うのに弱い
(落ち着けっての、彼女は何の関係もない、そうでしょ?)
「ヴァニラ、だいじょうぶ?すごく、つらそうだよ?」
「へ、平気よスプリング……ええ、大丈夫」
精神が漸く落ち着き始めた所でちびスプリングの頭を撫でて、優しく言葉を掛けてあげるがどうにも彼女は納得しきれてない表情でヴァニラを見つめる。
彼女はほぼ直感していた、ヴァニラは無理してると、もしかしたら自分が悪いのではとすら思ってしまい撫でられて嬉しいはずだと言うのに顔を俯かしてしまえば今度はヴァニラが慌てる番になる。
「え、ちょちょ、ほら、本当に大丈夫だから」
「でも……まだ辛そうだもん、わたしヴァニラのそんな顔見たくない」
その言葉に思わず言葉が詰まる、これが他の誰かだったら多分隠し通せただろうし誤魔化せると断言できた。だがちびスプリング、もといスプリングフィールドとなると彼女の中でその絶対の自信が揺らぐ。
だけど彼女は仮面を被り直す、今の彼女にこれは話してはならないと、普段の笑顔の仮面を被り
「もう、私がこの基地に居て辛い時なんてある訳無いじゃないの、それよりも私はスプリングが悲しい顔してるほうが辛いなぁ~」
「うわっぷ、ふにゅぅぅぅぅ」
(思ったより滅茶苦茶柔らかいやん)
自分を誤魔化すように、ちびスプリングにこれ以上悟らせないようにと彼女の両頬をぐにぐにと弄ったのだが彼女を襲ったのは予想以上にぷにぷにした頬、硬すぎず柔らかすぎないあまりに絶妙な硬さと弾力、何と魔性なことかもしかしたら普段のスプリングもこれくらいの頬なのだろうかとすら考えれば、このまま離すのは何だか勿体無い気がしてしまうと考えてしまうほどだった。
「やぁん、もう気持ちのいい頬しやがって~」
「ヴァニュラ~、ひゃべりぇないよ~」
「ハハハ、何言ってるか分からないわよ~」
その後、数分に渡り彼女の頬を弄り回したヴァニラだったが、ちびスプリングもやられてばかりではなく反撃とばかりにヴァニラの頬に手を伸ばしてグイッと引っ張るが、大人の、しかもそろそろ30が見えてくる年齢になるであろう彼女の頬にそこまでの弾力はなく、更にちびスプリングが周りと比べればそれなりに配慮があるとは言っても子供特有の手加減知らずが働けば
「……あれ?」
「いひゃい」
その言葉に慌てて離すちびスプリング、どうやら多少思考も子供寄りになっていたようで自分がこうならばヴァニラも同じ様に大丈夫だろうと思ってしまったらしい、まさか此処で年齢を感じてしまうとはと頬を擦りながら人知れず心で涙するヴァニラ。
だが今の流れのお陰で先程までの空気は霧散したし、ちびスプリングもあの悲しい表情は消えて今は弄くられた頬をぐにぐにと戻すような仕草をしてから楽しかったようでえへへへ~と笑顔を浮かべる。
それを見て息を吐き出すヴァニラ、普段のあの慎ましい感じの穏やかな微笑みもいいが、今の彼女にはこのような花のような笑顔はまたいいものだと思いつつ。そこで最初の悩みである、今日一日どうすれば良いのかという疑問が解決してないことに気付けば
「あ~、で、やっぱり何かこれで遊びたいとか、ない?」
「ヴァニラは、もしかしてわたしと居るのは嫌なの?」
「そんな事ないわよ、でもほら暇してないかなって」
「してないよ!あ、でも……」
突然言葉を濁したと思えば、彼女のお腹から可愛らしい音が鳴り、ちびスプリングが顔を赤くする、そこで自身の腕時計を見れば針はそろそろお昼を指そうかという時間であり確かにお腹が空き始めるなと理解してから
「んじゃ、食堂でお昼にしようか?」
「うん!あ、わたし、ヴァニラの料理が食べたい!!」
「私の?!作らなくなって長いわよえっと、因みにご注文は?」
「……オムライス!!」
包丁すら握らなくなって長いというのに思わぬ難易度のある注文に真顔になってしまうヴァニラ、だが聞いてしまった手前、出来ないとも言えないしかと言って他のとかも言いにくい彼女は考えに考えて、自分でもかなりぎこちない感じの笑顔を作って
「え、ええ、任せておきなさい」
「やった!ヴァニラのオムライス!!」
無邪気な喜びの声がヴァニラの精神に突き刺さる、同時にそれなりの重圧も掛かれば冷や汗も流れるものであり、だがこの笑顔を裏切るわけにも当然行かないのでと食堂に仲良く歩いて向かう間に彼女は今まで以上に必死にレシピを頭の中で探し続け、そして食堂に着いて、彼女は
「……やるわよヴァニラ、スプリングを悲しませられないからね」
一人、
やっぱり前後編じゃ終わらねぇわこの話……
という事でSession幾つになるか不明だぜイエーイ!!(ヤケクソ