それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
そんな日があるとは知らなかった、そう語るのは指揮官一家の(自称)長女のP7、そしてそれを知ったのは約二日前、偶々一〇〇式から伝えられたのが始まりだった。
無論、彼女はそれを聞いて何も行動を起こさないわけがなく、直ぐに次女ステアー、三女AS Valにも教えれば娘会議が勃発、が元から知らなかったP7とAS Valは何をすれば良いのだろうかなどと話しているのだが、ステアーは一人、完全に失念してましたという表情を晒していた。
(すっかり忘れて、ました。本当だったらもっと前から用意するつもりだったのに)
そして前日くらいに二人にこういう日があるから指揮官にこれを送り感謝を告げようと言う流れを考えていたのだが此処最近のバタバタでキレイに抜け落ちていた。
「ステアー、貴女も何か意見出しなさいよ!」
「母の日なら、贈り物が一番、です」
「贈り物……何が良いのかな?」
だが後悔しても仕方のないこと、そうすぐに割り切ったステアーは二人にバレない内に表情をいつものに変えてこの会議に参加する。今からだと何が用意できるかすらも分からない現状で更に何を贈るかも考えていない、どうしようかと頭を悩ましてからAS Valが物凄く遠慮気味に手を上げて
「お花、とかどうかな?」
「花ね、確かに今から用意するとなるとそれが一番かしらね」
「でも、どのお花を贈る?」
ステアーの疑問にまたうーんという唸る声から始めるシンキングタイムに包まれる空間、確か花にはそれぞれ何かしらの意味があるとか聞いたことあるよなぁとP7が思い出してならばと彼女が出した提案は凄く簡単なもので
「誰かに聞いてみよう!P38とかなら知ってるっぽいし」
「G36Cも本読んでるから知ってそう」
「それもそうね、さぁ急ぐわよ、時間は多分全然ないんだからね!!」
「え、あ、待ってよお姉ちゃん、それに廊下は走っちゃ駄目だっておばあちゃん言ってたよー」
相変わらずの行動力の化身っぷりを発揮して部屋から出てP38がいると思われる農業エリアへ疾走を開始するP7とステアー、それを追うとするが根がしっかり者であるがために走るなと言われている廊下を走るわけにも行かず急ぎ足で移動を開始するAS Val、そんな誰が長女か分からないなこれって言う光景を偶々目撃したのがガリルと昨日配属されたばかりの【GSh-18】
「今日も元気一杯やなぁ」
「せやけど、あんな騒がしく廊下走ったら怒られるんとちゃう?」
「そうは言うても毎日誰かしら走っとるし、殆んど形骸化しとるやろ?」
それで良いんかなぁとGSh-18は思うが先輩人形がそう言うならまぁええかと割り切りつつ自分は気をつけておこうと考えておく、しかし何が彼女たちをあそこまで急がしたのだろうかと疑問に思っているのがガリルにも分かったのか、まだ来たばかりだからあの娘らのことを深く知らんから無理も無いかと笑ってから
「母の日や、あの三人からしてみれば指揮官のことやけどな」
「指揮官を?」
「不思議やって顔も無理はないけどな、まぁこの基地で過ごしていけばすぐに分かる、今はそういうことやってことだけを覚えといてや」
後日、というより母の日に彼女も理解するが今はしようがないのでガリルがそう言うならばと一旦の理解を示してから、母の日という事で関連して思い出した事を何気なく呟く。
「そう言えば、指揮官も何か準備を進めてませんでした?」
「せやったか?あ、いや、確かにスチェッキンやカリーナに何か注文しとったな」
そう、指揮官も此処三日ほど前から慌ただしく何かを用意してたとそこでガリルも思い出す、何を頼んだかまでは分からないが母の日に関連するものだろうとは推測が立てれたがだとすれば、と考えた所で、一瞬だけ悲しそうな眼をしてからすぐに切り替えて
「ま、気になるんやったら母の日の後にでも聞いてみるのがええんやないかな」
態々、聞く必要もないだろうとは思っているがと口にはしないで隣のGSh-18の反応を楽しみつつ、基地をまた適当に散策することにした。
そんなこんなで母の日当日を迎えた基地、P7達も準備は何とか終えて贈り物も無事確保できたのだが、今日は休日だと言うのに珍しく指揮官は基地には居らず
「お出かけしに行った?」
「ええ、AR小隊と副官を連れ今朝方、あたくしはその間あなた達の事を任されこうして留守番ですけど」
「むぅ、これじゃあ、おかあさんに贈り物が渡せない……」
「でも今日中には帰ってくる、ですよね?」
それは勿論、とPPKが答えればとりあえずの安心した様子になる三人、それを見て今日が何の日かを思い出せば、ああなるほどと合点がいき
「ユノは本当に、愛されてますわね」
「お父さんも好きよ!」
「はい、大好き、です」
「父の日、楽しみにして下さい」
娘たちからそう伝えられれば、穏やかな笑みを浮かべつつそれぞれを頭を優しく撫でてあげるPPK、そもそも父親呼びは良いのかと周りの一部は思ったがもはやそれも今更な問題なので本人は気にしない、だがFive-seveNはきっちり折檻した。
時間にして15時、思ったより時間がかかってしまったという感じの表情をした指揮官が帰ってくる、後ろにはAR小隊の面々と副官も居るが彼女たちも何処と無く疲れた感じの表情をしていた。
だがそれも、帰路についたという通信を聞いてからスタンバっていた娘たちを見れば吹き飛んだ。
「お帰りなさい、お母さん!」
「あのね、これ、今日は母の日だから……」
「造花だけど【サルビア】受け取って下さい」
「え、ありがとう!これ態々用意してくれたの?」
勿論じゃない!とP7が飛び込む勢いで抱き着こうとしたがまだ彼女の傷は治り切ってないことを思い出して抑えてから優しく抱き着く、それに続いてステアーとAS Valも同じ様に抱き着いてからそれぞれが感謝を述べれば思わず涙ぐむ指揮官
「また、良い思い出が出来たのう」
「本当にいい子たちですわ」
祖母と夫がそれぞれ感想を述べている間も娘たちと母の心安らぐやり取りは続き、こうして彼女たちの初めての母の日は大成功で幕を閉じるのであった。
因みに、指揮官は何を用意して何処に行ってたのかと言えば、ペルシカのラボに向かい、その後に中には相変わらず何も入っていないが自身の母親、レイラの墓参りに向かっていたのだ。
「……ふふっ、嬉しいものだね」
(主任が石見て笑ってるのですが?!)
(あれって、例の義眼の少女からのでしたっけ、確か主任が後見人の)
勿論、指揮官の本当の母親はレイラであることには違いない、しかし記憶も全てを失ってから保護され一から様々なことを教えてくれたペルシカも、彼女にとってはまた一人の母親なのだ。
ペルシカに贈った石はアベンチュリン、石言葉は親愛。ユノにとってはレイラは勿論だが彼女だってある意味で母親である。
ヘリアンさん?あの人は先生だから……