それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

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ほんの小さな奇跡


名も無き科学者のよくある狂気 Session4

何を驚いてるんだ目の前の相棒はと思うFMG-9だったがふと、視界右側から夢で見た時と同じようなメッセージが流れてきたことで理解した。

 

どうやらネクロノミコンで封が開いた分でミーシャの意識が、いや、コレは意識ではない、言うなれば

 

(残留思念、とは違いますがそれに近いものでしょうね)

 

恐らくはイントゥルーダーの時のような乗っ取りは起きないレベルでしか今の彼女は存在しない、メッセージとして送るくらいにはあるのだろうが、言い返せばそれだけである。

 

だから目の前の期待を持ってしまっている彼女には伝えなければならない。

 

「ヴァニラ、残念ですが彼女が表に出てくることはありません」

 

「分かって、いるわ」

 

「ですが、彼女からのメッセージはあります……と言うより今も懸命に送ってきてますね、結構元気ですねぇ」

 

感心するようにFMG-9が呟く今も視界にはミーシャからヴァニラに伝えてほしいというメッセージが絶え間なく流れる、それは本当に切れ間がなく、切れ間、が……

 

「あの~、ヴァニラ、お宅の娘さんに少し落ち着けって言ってくれません?ちょっと文字の乱立が酷すぎて私でも酔いそうなんですけどコレ」

 

「え、あ、えっと、ミーシャ?」

 

「にゃああああああ!!!???あああもう、落ち着け阿呆!!」

 

ヴァニラの名を呼ばれた瞬間、FMG-9の視界が大文字で埋め尽くされ、遂に彼女は叫んだ、と言うかコイツ残留思念の類じゃないのかよという感想すら出てくるレベルにミーシャは元気にメッセージを表示させ続けている。

 

このままじゃあ、自分の視界が言葉に埋め尽くされたままで面倒だと感じたFMG-9はヴァニラに少しだけ待てと伝えて近くのパソコンに自身を繋げれば、視界に表示されていたメッセージが全てそちらに流れるようになる。

 

【オカアサン】

 

【ワタシ】

 

【オカアサン ダイスキ】

 

その言葉にヴァニラが声を失う、恨んでいると思い続けていた娘からの言葉、あんな目に合い、助けに動けなかった自分を未だ大好きだと彼女は伝えてきた。

 

次は自分が彼女に、ミーシャに声を掛けなければと言う衝動に駆られヴァニラはモニター前に行ってから

 

「ミーシャ?ミーシャ、なの?」

 

【ウン ワタシダヨ オカアサン】

 

「ごめんね、私、あの時助けられなくて、ごめんね!!」

 

心からの慟哭に近い声で彼女は謝り続ける、こんな形とは言えもう会えないとばかり思っていた娘と再会し、嬉しいという感情も確かにある、だがそれ以上に罪悪感で埋め尽くされていた、誰もがどうすることが出来ないと言われてもヴァニラはあの日を後悔し続け、自身を責め続けていた。

 

「ごめんね……ごめんね……頼りにならなくて、助けられなくて、ごめんなさい……」

 

「ヴァニラ……」

 

見てられなかった、だが見ていなくちゃいけないとFMG-9は目を逸らさずにモニターに縋るように優しく抱きしめ謝り続けるヴァニラを見続ける。

 

そんな中、モニターのメッセージに異変が起きる、突如として軽いノイズが走ったのだ、それと同時にFMG-9が顔を顰める。

 

オカアサン ダイジョウブ?

 

「っ!?(この感じ、ネクロノミコンと繋がってるときのやつか!?)」

 

「アリババ!?ミーシャ!!??」

 

「目を逸らすな!ああくっそ、まだ伝えることあるなら早くして下さい!」

 

口調が混線する、間違いないこれはネクロノミコン状態の自分だと気付いたFMG-9はヴァニラを急かす、恐らくはミーシャ側の時間がもう殆ど無くなりつつあるのだ。

 

「あんたは謝るだけでいいのか!?違うんだろ、ああ、もう、他に伝えるべきことはあるんじゃないんですか!?」

 

「私、は、ミーシャ!これだけは信じて、私は貴女を誰よりも、何よりも大好きで、大切な、本当に大切な可愛い娘だと思ってるわ!」

 

ワタシモ オカアサン ダイスキ ダヨ

 

ブツンとモニターから電源が切れ、次に何かが弾ける音とともにFMG-9が倒れる、突然の事態に状況が飲み込めないヴァニラ、だがすぐに我に返って倒れたFMG-9に近付き呼び掛ける。

 

「アリババ!!アリババ!!!!」

 

五月蝿い、ですよ相棒

 

薄っすらと目を開けて苦笑気味にFMG-9が答えれば安堵の息を吐いて、側のソファに寝かせてから先程までミーシャからのメッセージが表示されていたモニターを見るが余程の負荷が掛かっていたようで黒煙を上げ画面には何も映っていなかった。

 

「良かった……ミーシャは」

 

「どうやら、まだ自分の中には居るようですがもうメッセージすら送れるほどでは無いみたいですね」

 

見れば右目は変わらず濃いスカイブルーになっており、確かにミーシャの意識はそこにあるのを示していたが先程のやり取りで限界を迎えたようでFMG-9曰く、殆んど残り火に近いということらしい。

 

そのタイミングで実は広報室の奥の部屋で聞いていた指揮官と副官も慌てて出てきて、無事なFMG-9の姿にヴァニラと同じ様に安堵の息を吐いてから

 

「ヴァニラ、単刀直入に聞くぞ、イントゥルーダーに使われていたのはお主の研究じゃな?」

 

「……ええ、全部処理したはずだったのだけどどうやら奴らはサルベージしたようで、しかも改良まで加えてイントゥルーダーに指揮官の母親の脳を搭載したのだと思う」

 

言うなれば自分の研究が貴方達を苦しめていた大元の原因よと自嘲気味に呟く、これが、あの日私が狂わなければ少なくとも指揮官の母親、レイラの遺体は今でも墓にあったという事実がある以上、自分は許される存在ではないと思いこんでいる。

 

だが当の指揮官と副官はそれを聞いた上で

 

「まるで自分が悪いという顔じゃな?」

 

「悪いに決まってるでしょ……私が研究さえしなければ」

 

「でも、それを言ったらもっと悪いのはミーシャちゃんを、その、殺した人たちだよ」

 

だからヴァニラさんが悪いって言うには少し違うんじゃないかなとヴァニラの過去を聞き、胸を痛めながらも優しく微笑む彼女の顔にミーシャの姿が重なる。

 

彼女がこの基地に来たのは確かに整備士が居ないからと言うのも僅かながらにある、だがそれ以上にイントゥルーダーに自分の研究が使われたということもあった、そしてもう一つ

 

指揮官の今来が自分と重なったというのもあった、自分は娘を、指揮官は母親を失っている、だから実を言えばこの基地に来て数日間は娘のように思ってしまった時期もあった。だけど違うとすぐに考えを改める、だって指揮官は前を向き続けているじゃないと、それに対して自分は前を向けれず、ずっと過去に縛られ続けている存在だと。

 

「本当に、強いわねユノちゃんは」

 

「強いんじゃないと思います、皆が支えてくれるから頑張ろうって思えるんです。だから私もヴァニラさんを支えます、だってほらヴァニラさんが来なかったらおばあちゃんも救えなかったし、皆のメンテナンスも何時か問題が出てたかもしれないってくらいに助けられてますし」

 

「……大罪人よ、私?」

 

「馬鹿じゃのう、この基地でそんな事を気にするやつは居らぬ、それにそんな事言っておると、ほれ」

 

副官が視線を自身の後ろに飛ばす、ヴァニラも釣られてみればそこに居たのは彼女が予想もしなかった人物だった

 

「す、スプリング?」

 

名前を呼ばれた彼女、スプリングフィールドはゆっくりとヴァニラの方を見つめる、その目は赤くなっており、だが何処か決心を着けている瞳でもあった。




こんな引きだけど、ヴァニラとスプリングフィールドの仲はもう少しクソザコさせるからな!!

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