それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

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何時からこの基地に居たのか、それは誰も知らない、暗部も知らない

※ 猫視点


大福と名付けられた不思議猫

我が輩は猫である。という書き出しの文献を何処かで見たことがある、だがその続きは言えない、正確に表すのならば名前はまだない、と言う存在ではないからだ。

 

我が輩は猫である、名前は……

 

「大福~、御飯の時間よ」

 

「な~」

 

我が輩は猫であり、名前は『大福』である……些か、コレを付けたあの少女には不満を漏らしたいがあのような幼子が一生懸命に考えた名を無碍にすることも出来ない故に甘んじてその名を受け取っている。まぁ、それに慣れるとこの名も悪くはないと思えるしな

 

今我が輩は此処で世話になっている、確か誰かが言っているのを聞いたが此処は『S09地区P基地』と呼ばれるところらしい、まぁ猫である我が輩には関係のないことであり、こうして不自由なく生活できる拠点として過ごさせてもらっているだけである。

 

無論、それだけでは我が輩も申し訳ないという気持ちがある、若い頃ならまだしもこれでもそれなりの年月を過ごしているのでな、故に今こうして餌を提供してくれた少女(いつぞや名付け主の少女がわーちゃんと呼んでいたか)に礼も兼ねてゴロンと腹を見せて転がる。

 

「……相変わらずお腹見せて寝てる猫よね、此処が余程快適な基地ってことなんでしょうけど」

 

「にゃ~」

 

「撫でろって?まぁ、少しだけよ……えへへ」

 

口ではあーだこーだ言いながらも見ろ、この頬を緩ませ幸せそうな表情で我が輩を撫でる少女の姿を、やはり人間という者は何時の時代も変わらないのだ、こうして愛嬌と呼ばれる姿を晒せば気を良くし、次も餌を、ブラッシングをしてくれる、なんとも扱いがたやすい存在だろうか

 

だがふと思う時があるのだ、この顔は過去に他の過ごしていた家や基地でも見たなという存在が居ることを、似ている、ではなく瓜二つとも言える事もあった。時には放浪していた時も見たのだが最近の人間とやらは中身が肉ではない者が多いのだな、全くもって不思議な人間が増えたものである。

 

この不可思議な存在、それはこの基地と呼ばれる建物でも当てはまる、だが所詮は多少長生きしてるだけの猫である我が輩には理解が及ばぬ事であろうと考えるのを止め、食事を食べ、ごろにゃんと愛嬌を振りまき……む、この足音はいけない、直ぐにこの部屋から離脱せねば、そう思い身体を起こし耳を澄ましその瞬間を狙う。

 

「大福?」

 

マズイ、少女が怪訝な表情で我が輩を見ている。このままではこちらの考えがバレ捕らえられるかもしれない、それだけはいただけない、我が輩は自由でありたいのだ。

 

扉が開くまで後数十秒もない、だが此処に居る人間たちは逃げ足に自身がある我が輩でも絶対とは言えない程の能力を見せてくる、故にバレてはいけないのだ、完全なる奇襲、それしか無いのだ。そこに居る少女に気取られるを避けるように、なおかつ扉から離れ過ぎない位置にまで動いてからゴロンと転がる、無論その間も扉先に耳を立てることは忘れない、因みにこの位置はこの部屋の中でもあの機械からの風を受けにくい位置なので向こうは勝手に

 

「ああ、冷えすぎたの、まぁ直撃する位置で寝てたしねアンタは」

 

「な~」

 

「はいはい、じゃあ他の子のお世話に入るから大人しくしてて頂戴」

 

ふふ、どんなに能力が高くとも我が輩がこうすればそれ以上の疑問は持たれないのだ、これであとは扉が開くタイミングを図るだけ、なんとも簡単な、む?何やら足音が増え、いや違うコレは、そう思い動き出そうとしたときには扉が開かれそこに居たのは

 

「大福、遊ぼ!!」

 

名付け主の少女、確か皆からは『指揮官』と呼ばれている彼女だ、だがこうなっては仕方がない、タイミングはズラされたが彼女ならば抜けることが出来る、その時までは我が輩はそう思っていた。

 

事実、彼女に捕まったことは過去一度もない、正直言えばあの少女は鈍くさいと言えるのだ、根性は認めるがそれ以外が追いついてないとも言える、故に逃げ切れる……切れるはずだった。我が輩が行動を起こし迫ってくる彼女の横をすり抜けようとした時、腕が既にそこにあった。

 

最初は指揮官の少女の後ろに回り込んできていた獣 医(ほんめい)かとも思ったが違う、アヤツの腕は白衣の白、しかしそこにあるのは赤い服の腕、つまり

 

「捕まえた!!ふっふっふ、いつもの私じゃあ無いんだよ大福~?」

 

「にゅ~、にゃぁ」

 

「そうかそうか、認めてくれるんだね~、うりゃうりゃ」

 

認めたのではない、我が輩の観察眼の衰えを嘆いているのだ、ええい止めろ、そうやって無造作に撫であふぅん、何だこの少女、こんな気持ちの良い撫で方を知っているものだったのか!?

 

いかん、これは早く抜け出さないと駄目になる!くそ、おのれ、この少女いつの間にこんな力を、くっ、駄目だ、抜け出せん!気持ちが良すぎるだと!馬鹿な、コレが私の最後だというのか!認めん、認められるかこんなこと

 

「にゅあ~」

 

「あ~、遂に捕まっちゃいましたか大福、丁度いいので指揮官、そのまま捕まえててくださいね、簡単な健康診断をしちゃいますから」

 

うおおおお……おのれぇ、ああ、駄目、そこは気持ちいから、やめ、ぐにゃぁ……

 

我が輩は気付けば彼女の虜にされていた、完璧に計算され尽くした撫で加減に叶うはずもなかったのだ、他の同僚猫も犬も同じ様にされているのを何度も見たがなるほどコレは癖になると納得もできた。

 

それにしてもこの指揮官という少女、こんなにも立派な娘だっただろうか、少し前まではひょろっとしており我が輩としては心配になる程だったのだがいつの間にか立派になっているではないか、ふむ、幼子の成長は早いとは思っていたがよもや此処までとは

 

今までは守るべきということで危なっかしいことをしないかも見守っていたのだが、やれやれもうその必要はない程に成長していたのだな……

 

「なぁ」

 

「あれ、急に大人しくなった」

 

「指揮官を漸く上だと認めたんじゃないの?」

 

「え、わーちゃん、それってつまり今まで私が下だったってこと?」

 

何をバカなことを言っている、名付け主を下に見る猫など何処に居るというのだ、我が輩は最初から主だと認めていた、その上で何かあったら困ると悟られぬように見守っていたのだ。

 

だがそれも今日まででよいのかもしれない、今度からは普通に接してやろう、我が輩とてここは気に入っているのだからな。

 

我が輩は猫であり名前は大福である、この場所を甚く気に入り、平穏と過ごしているだけの存在である。




こう書いててもやっぱコイツが何者なのか分かんねぇんだけど?え、何、なんなのこいつ?猫?猫なの?

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