それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
舞台はいつもの街、普段であれば誰かがのんびり買い物に出たのだろうとか散策に来たのだろうとかで済まされるこの街、だが今日は違った。
何がどうしてこうなった、IDWは珍しく状況が飲み込めず慌てていた、そしてそれは彼女だけではない。
《こちらアリババ、いや、マジで何がどうしてこうなったんですか!?》
「叫ぶなバレるにゃ、そして私も何も分からないにゃ……まさかこんな展開になるなんて欠片も思わなかったにゃ……」
変装したIDWがサングラスをずらし見つめるその先、そこに居るのはスプリングフィールドとヴァニラ。そう、あの二人が、二人っきりで、街に出ているのだ。
まず最初にコレをIDW達が知ったのは二人が街に出ていった後、モグモグとD08地区の417から送られてきたシュークリームをアーキテクト含めた一家で食べている指揮官からの言葉からだった。
その日、FMG-9がそういやヴァニラを見てないなと基地を見て回り途中で見つけたのが上記の彼女達、何か知らないかと聞いてみれば
「その二人ならさっき街に買い出しに行ってくるって出ていったけど?」
「……なんと?」
「ええ、確かマスターの買い出しの手伝いをする、そんな事を言ってたと思いますわ。ほら、ステアー、口にクリームが付いてますわよ」
「え、なにそれってデートじゃねって!P7、それ私が取ったやつなんだけど!」
因みにアーキテクトが同席しているのは何でもシュークリームに一度は停止させた指揮官の胸を大きくするナノマシンを再稼動させるナノマシンが仕組まれていたのを発見、即座に停止させたからである、だがそんなの知ったことではないP7は美味しそうに頬張りそれから
「へっへーん、油断する方が悪いのよ!」
「アーキテクトさん、その、私ので宜しいなら食べますか?」
「シャフト、態々自分の出す必要ない」
「お、何だこの姉妹、末っ子しか優しい子は居ないのか」
ギャアギャアとアーキテクトとP7とステアーのシュークリーム争奪戦が始まりかけるテーブル、シャフトはどうにか止めようとしたり夫婦が微笑ましそうに眺めてたりするがFMG-9としてはそれどころではなかった。
あの恋愛クソザコのハズの二人が、何を思って突然、街に出たのか、しかも買い出しとは言え二人っきりで、謎が謎を呼ぶ状況に彼女が取った選択はIDWに連絡、そして冒頭に戻ることになる。
「アリババ、何か情報はないのかにゃ」
《それが全く、分かるのはマスターから誘いがあったとしか》
「おめぇそれでも基地の情報担当かにゃ」
《私が集めてるのは基地外の情報ですからねぇ!!》
そんなやり取りが行われてるとは露と知らないスプリングフィールドとヴァニラという恋愛クソザコの二人、一応で言うならば先に誘ったのはFMG-9の情報通りスプリングフィールドからである。
彼女から朝、何時ものようにコーヒーを飲みに来ていたヴァニラに少し買い出しに付き合ってはくれないかと裏返りかけていた声で誘ったのだ。
「……」
「……あ~っと」
だと言うのに街に来てから否、街に来るまでも碌な会話がない、勢いだけで誘ったのは良いがそれ以降を考えてなかったのだ。
買い出しというのは本当だ、だが言ってしまえばその買い出しも彼女一人で全く問題のない量であり、ただ単にヴァニラを連れ出したかっただけ、そんな行動をとった理由は昨夜のこと、カフェを閉めてBARの準備をしに行きますかと言う所でカランカランとK5が入ってきた。
「もう閉店ですよ?」
「あぁ、直ぐに済むから大丈夫だよ……ねぇマスター、貴女ヴァニラの事どう思ってるの?」
「へ!?」
何を言い出すんだこの占い師と言いかけた所で彼女からの雰囲気がなにか違うと感じ取ると同時にと言うよりもあまりに突然過ぎる内容の質問だとも感じた。
だから答えようとした時、少し間が空いたことにまだスプリングフィールドが迷っていると感じたのだろう、K5から
「まぁ答えても答えなくてもいいよ。実はね……私、彼女のこと結構気に入ってるんだよね」
「……はぁ」
今この人形は何と言った?それを言葉にはしてないが空気が変わったことで相手に伝える、今この瞬間、スプリングフィールドは目の前の戦術人形は敵だという認識に変え見つめる。
だが向こうは怯まず、寧ろそんな雰囲気を出すスプリングフィールドに軽く笑いながら
「そうだね、マスターも彼女に好意を持ってるのは知ってるさ……だけど何時までも行動を起こさず、なぁなぁで済まそうって言うなら」
遠慮なく攫っていくからね、それは宣戦布告、何時からK5がヴァニラを気に入ったかは不明だが、それでも彼女は身を引こうとも考えていたのだが何時まで経っても進展しない距離感についに業を煮やした。
進展させるつもりがないのならば自分が彼女の隣を貰う、そして今夜それを告げに来たのだ。
「これでも礼儀は持ってるつもりだからね、先にこの基地に居て、彼女に惚れているマスターがくっつくならばまぁそれでも良いかなとは思ってた、だけど君は何時まで経ってもそんな行動を起こさない」
まるで自分以外に好意を持ってる存在が居ないからのんびりしてるのかと思うくらいにね。声に明らかな挑発が混ざっているのが嫌でも分かった、もしかしなくてもK5は彼女の意気地のなさをバカにしているとも取れる声でもある。
だがスプリングフィールドは言い返せない、その言葉は間違っているというわけでもなく事実そういう感情も混ざっていた、このまま下手に関係が拗れることもなくコーヒーを出して、何気ない会話をして、一日を終える、そのサイクルで満足していた節もあった。
「……私、は」
「言っとくけど、情けも容赦も無いからね。これでも貪欲なんだ私は」
磨いてたグラスを見つめ戸惑うスプリングフィールドとは対象的に自信に満ち溢れ、今すぐにでも想いを告げに行きそうなK5、気持ちで既に負け始めているスプリングフィールドは考えてしまった。
こんな情けない自分よりも彼女の方がヴァニラさんの隣に相応しいのではないのかと、そこまで考えて
(何言ってるんですか私)
違うだろう、そうじゃないだろ、ゆっくりと顔を上げK5を漸く見据える、それから
「させません、あの人の隣は……私しかありえませんので」
「へぇ、口だけは急に強気になったじゃないか、いいよ、その言葉に免じて少しだけ大人しくしててあげる」
だから、頑張ってみなよ。それだけを言い残してK5はカフェを出ていってから彼女は廊下を歩きながら一枚のタロットカードを引けば、出てきたのは『魔術師』
「……これはどっちの『始まり』か、賽は投げたつもりだからね、マスター?」
ゆっくりと魔術師のカードを正位置でカフェの扉に向ける、それは『始まり』を、そして自分には逆位置でそれは『詐欺』を示す。何をどの様に指し示しているのか、それは引いた本人であるK5にも分からない。
Sessionとか前後編とか書いてないけど連続物になってるよコレ!
BGMはサブタイトル通り、暫くはコレ聞きながら書くわ