それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
買い出しと題して二人が街に出てからまだ数十分、そしてこの時間でなにか進展があったのかと言えば
「……えっと、スプリング?」
「ひゃい!?あ、いえ、な、何でしょうか?」
(殆んど進んでないにゃ)
いや、今会話が始まったから少しは進んだのかもしれないとかなり前向きな解釈をしたくなるほどには進展がなかった、因みに買い出しは既に終えている。
なのだがスプリングフィールドは終わったとは言わない、普段であれば街ではなくスチェッキンやカリーナに注文するようなものも街で買おうとしている所を見るに彼女も何かしら進展はさせたいという感情はあるのだろう。
そしてそれに何も言わずに付き合うヴァニラもヴァニラで何かしらの考えがあるのかもしれない。
「ああ、いや、驚かすつもりはなかったんだけど……それで次は何を買いに行くなかなぁって」
「あ、すみません……ああ、次でしたね、えっと、せ、洗剤です、はい」
(うーん、このギクシャク共……見てるこっちがイライラしてくるにゃ)
だが此処で自分が出てもどうしようもないのでと苛立つ気持ちを抑え込んで二人の尾行を継続する、別段しなくても本当は良い、良いのだが此処まで来て何も進展を見ずに引き返すというのはあまりにもったいなさすぎると言う畜生猫の最後のプライドである。
コソコソと、だが周りの住人からは怪しまれないようにと行動をしていたIDWの耳に
「そこのお嬢さん、一つ占いでもどうかな?」
「済まないが今それどころじゃ……おい、待つにゃ、オメェこんな所で何してるにゃ」
断ってから通りに抜けようとしたがその声に驚くIDW、そこに居たのはいつぞやの占い師姿のK5、彼女はニコリと笑みを浮かべ
「全く、君は何をしているのかな?」
「……ヘタレーズの尾行にゃ」
「もう少しいい方を考えてあげても良いんじゃない?まぁ、そう言いたくなるのも分かるけどさ」
む?とそこでIDWはなにか引っかかりを覚えた、何というか彼女達、と言うよりどちらかをそう呼ばれているのは気に入らないと言った感じの口調に聞こえたからだ。
しかし、深く思考を巡らしそうになった時、ハッと当初の目的を思い出してそっちを見ればまだ辛うじて二人を視界に収めることには成功するがかなり距離を離されていた。
「やっばいにゃ、このままじゃ見失うにゃ」
「おっと、流石に話しすぎたね、追うんだろ?私も付いていくよ」
「は?まぁ邪魔しなけりゃどうでもいいにゃ」
「無論、ただで付いていくわけじゃない、彼女達が、いや、マスターがヴァニラを誘った理由を知ってるから教えてあげるよ」
《お、マジですか、それはありがたい》
妙な事になったにゃ、そう思わざる負えないIDWだったがK5から真相を聞いてなるほどと納得と同時に、彼女の言葉に引っかかりを覚えた理由にも見当がついた。
付いたが、今は言わなくていいかと改めてスプリングフィールドとヴァニラの尾行に集中するのであった……と、割りと注意を払っていれば直ぐにでも気づきそうな二人に尾行されてるなんて全く気づけてない二人は現在、雑貨屋にてグラスを眺めていた。
(どうしましょう……でもこうして二人っきりのチャンスが作ったんです、何か、何か進展をさせないと)
スプリングフィールドは焦っていた、今日中にでもどうにかしないとK5にヴァニラを奪われると、あの時の目は本気のそれだった、だからこそ今回のような少々強引な手段をとってでも街に二人で出てきたのだから。
対してヴァニラも、割と焦っていた。まさか向こうからこんな風にお誘いが来るとは露とも思わなかったというのが本音だ、なので軽くだが緊張しているし会話の糸口も見つけられずにこうやってグラスやカップを眺めているだけになっている。
「おっ?」
そんな中、ふと一つのマグカップが目に留まった、なんてこと無い白と黒の2つのカップ。
慎重に手にとって見れば重量は程よく、これにコーヒーを淹れて丁度いい感じになるだろうという重さ、そんな感じにカップを眺めていればスプリングフィールドもどうかしたのかと自然と隣に現れ、白の方を手に持ってみる。
「あ、確かにこれは丁度いいマグカップですね」
「でしょ、大きさもコーヒー一杯と考えれば程よい感じだし……買おうかな。スプリングもどう?」
「えっ、そんな悪いで、あ……」
と此処で今までが嘘みたいに自然に会話していたということに気づいて顔を真赤にするスプリングフィールド、それを見てか釣られて向こうも軽く頬を赤くし気恥ずかしそうにその赤くなった頬を指で掻く。
結局は向こうもこっちも糸口が見つからずにいただけなのだ、それが偶々この2つのマグカップが繋いだ、そうだこのチャンスを逃しちゃいけないとスプリングフィールドが意を決して
「あの、今日の買い出しはコレで終わりなのですが……その、すこし、お、お話がしたくて、だからその……お時間いただけますか?」
「え、ええ、良いわよ?」
ヴァニラからの言葉に思わず笑顔を咲かせてからでは直ぐに会計を済ませますねと買う予定だったものをレジに通していく、それを見送ってから近くの店員にこのマグカップを包んでくれと頼むヴァニラ、二人はそれから店を出て広場中心の噴水近くに腰を下ろしていた。
「(もう退却は出来ません、行きます!)あああああ、ああの、ヴァニラさん!」
「……ふふっ、緊張しすぎでしょスプリング」
「っ!?も、もう、からかわないでください!」
ごめんごめんといつの間にかいつもの調子に戻っていたヴァニラにからかわれるスプリングフィールド、だがすぐに彼女も気を取り直し、と言うより今のやり取りのお陰で幾分か緊張が取れた様子で
「きょ、今日は突然買い出しの手伝いに来てほしいだなんて、すみませんでした」
「別に大丈夫よ、それに割りと楽しかったし」
「え、あ、そ、それなら良かったです、はい」
少し沈黙が流れる、スプリングフィールドとしてはヴァニラが楽しかったと言ってくれたのが嬉しくてニヤけるのを抑えるのに必死という部分もある、だがコレでは意味がないとパンパンと頬を両手で叩いて
「あ、あの……」
言葉が、出ない。これ以上先の、本当は言いたい言葉が出てこない、まるで電脳の中で変換ミスが多発しているように出てきてくれない、パニックになりだす、このままじゃいけないのに、今日こそはと決めたのに、そう考えれば考えるほどに上手く纏まらない思考
(やはり、私は……)
「ねぇ、スプリング、コレ受け取ってくれる?」
突如、ヴァニラがそんな事を言いながら差し出してきたのは先程の雑貨屋で見つけたマグカップ、その片割れの白の方だった、これをどうして?という顔で彼女を見つめれば
「まぁ、その、折角のペアカップって奴らしいし、それならまぁスプリングに受け取って欲しかったってのが一つ」
それとねともう片方、ヴァニラが持つべき黒のマグカップも彼女に差し出す、今度こそ何が何だかと混乱した眼になりだすスプリングフィールドを知ってか、知らぬか、ヴァニラは更に言葉を続けていく
「あ~、えっと、まぁ私は一応はコーヒーを自分で淹れれるんだけどさ、なんか違うのよね、こう、朝はやっぱりさスプリングが淹れてくれたコーヒーじゃないと目が覚めないっていうかさ……」
「へ、え?ん?」
「あああ、要はあれよ、毎朝、スプリングのコーヒーが飲みたいって話、でもほら貴女カフェがある日じゃないと飲めないからさ、その、つまりあれよ」
顔を彼女らしくないほどに真っ赤にして、ヴァニラはこう告げた。毎朝、私のためにコーヒーを淹れて欲しい……意味を理解したスプリングフィールドだったがその答えを言うまでに
「あ、後で良い、答えとかは後でいいから今日はもう帰りましょう……ええ、帰りましょう」
「へ、あ、待って、待ってください!?」
二人のそんなやり取りを見守っていた2つの影の一つ、IDWは軽く息を吐いてから
「……難儀なもんにゃ、お前は」
2つ目の影、K5に向けそう告げる。
悲報、2話で終わらんかった。
明日もドタバタラブ・ドラマティックに付き合ってもらう