それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
(やぁれやれ、やっとですか……)
カタンとハッキングしていた警備型スカウトからの視覚共有を切りよいしょと椅子の背もたれに体重を預ける。
最後に見た光景はスプリングフィールドの告白にヴァニラが若干ヘタレながらも答えた所、あの様子だとキスはないだろうと彼女は考えている、そして実際無かった。
彼女的には今回の流れは普通に祝福している、そもそも毎度毎度、広報室に来れば相談されてた身としては漸くあの流れから開放されたという喜びもあったりする。
「っとと、そういやIDWにPKP達に声を掛けておけって言われてましたね」
いそいそと行動を開始する、だが何故あの三人なのだろうか、その共通点をイマイチ見いだせないFMG-9はふむと疑問に思いながら、まぁ何かしら意味があるんだろうなぁ程度に留める。
場面移して、漸く進展できた二人、今はもうPPKと指揮官の時みたくそれなりにイチャツイているのだろうかと思えば
「……」
「……」
思い切った行動をしたことを今更ながら自覚し互いが互いに顔を赤くしたまま俯かせ、次どうするべきかを考えていた、いや考えるという思考を回すことすら出来ていない。
寧ろこの基地のある種の先輩カップルのあの夫婦は告白したその日に同じ部屋に過ごすようになったと聞いて、その時は凄いなぁと漠然と思っていたが当事者になり今わかった。
(あの二人もしかしなくても相当メンタル凄いのでは!?)
(この流れで、あ、あああ、相部屋!?む、無理ですよそんなの!)
ヴァニラは勿論、スプリングフィールドも眼をグルグルさせそのうち頭部から煙でも出てくるのではというくらいに、もし第三者が居れば何とも初々しいことだと呟く光景。
「あ。えぇっと、す、スプリング?」
「ひゃ、はい!?あ、はは、こうして想いを告げたのに何でしょう、凄く恥ずかしいと言うか、いえ、嬉しい、嬉しいですよ勿論!?」
「そ、そりゃあ私もさ。それで、この後どうする?」
どうする、どうする、いい感じに思考が暴れ出しているスプリングフィールドはその言葉を脳内で反射させ、あらぬ方向へと突き進み始める。
これからすること、ヴァニラは勿論そんな深い意味もなく聞いた言葉なのだがその顔がスプリングフィールドの目を通してみてみると真剣な表情に見えてしまい、見えたからこそ
「(ま、ままま、い、いや、だって)あ、あわわわわわ」
「す、スプリング?ちょ、大丈夫!?」
「ははは、破廉恥です!!??」
ボフンと、そんな軽快な音が聴こえそうな煙を頭から吹き出して遂にスプリングフィールドは倒れ、それを目の当たりにしてしまったヴァニラはどうすれば良いのか混乱の極地に陥る。
結局、その後ヴァニラが泣きつくようにPPSh-41に連絡を入れリベロールと共に担架で医務室に運ばれた模様、原因は単純に思考のオーバーヒートとのことで数十分後には意識は戻るのであった。
こんな事があれば基地中に二人がくっついたという話が広まるわけで、その日の夜のBARには努めて冷静に普段どおりにマスターとしてカウンターに立つスプリングフィールドと
「はい、では本日はお集まりいただき感謝にゃ」
「……この集まりは何だ、そして何故私は呼ばれた」
「あの、私も理由を教えてもらってないのですが?」
IDWの音頭に怪訝な声と目を向けるPKP、FMG-9に声を掛けられただけで詳細は一切わかっていないG36、他にもまだ居る。
「あ~、はいはい、何となしにですが読めましたはい」
「このメンバーを集めるって結構肝が座ってるよね」
今回集められたメンバーの共通点を見抜いて呆れ気味に呟くPPSh-41、そして今回の主役みたいな立ち位置にされているK5、この四人がIDWによって集められた理由、そしてその共通点とは
「んなもん決まってるにゃ、この際だから失恋したことを酒の肴に呑むにゃ」
「し、失恋!?ば、バカを言うな私は失恋も何も!」
「よく言いますよ、来て早々に既婚者の指揮官に惚れた態度とってたの何処の誰でしたっけ~?」
「ペーシャが強すぎるのですが……」
この中だけで言えば失恋してから一番長いのはPPSh-41であり、それでも未だに呑んではその時のことを語るので今でも想っているらしい、諦めが悪いと言うよりも彼女はとにかく一途なのだろうというのが周りの現在の印象である。
ともかく、今回集まられたのはざっくりと言ってしまえば失恋組、PKPとG36は指揮官に恋し、PPSh-41は言わずもがな、IDWは死別なので少々違うが話くらいは聞けるという事で主催、そしてK5。
だが此処で一番の被害者は今日失恋したのにそれを呑みながら話そうぜと言われるK5ではなく、今日晴れてヴァニラとカップルになったスプリングフィールドだろう。
「……あの、コレ、私が此処に居て良いんですか?」
「オメェが居なかったら誰がお酒を入れるのにゃ」
「えぇ……」
あまりにもあんまりな言い分に困惑を隠せないスプリングフィールド、これにはK5も同情を隠せない様子で申し訳無さそうな顔で、だが
「じゃあ、マスター。私はカンパリオレンジお願いね」
「最近私呑んでばかりではありません?あ、マルガリータで」
「待て待て、なんでこのままの流れでこの呑み会が始まる、私は違うと……」
「良いから一緒に飲むにゃ、マスター、私はギムレットにゃ」
「まぁ諦めてくださいPKP、どうあがいても成就しませんしその恋。ジンライムで、で貴女は何呑むんですか、決めないなら適当に決めますよ」
「……す、スクリュードライバーってのが呑みたい」
お、この人ら同情するけど情けは見せないつもりだなとこの基地に来てから慣れた扱われ方に引き笑いをしつつ畏まりましたと注文の準備に入る。
その日、BARでは失恋組のあれこれで盛り上がる、コレ一種の尋問ではないかとすらスプリングフィールドは当初は思っていたが内容を聞いてみれば
「まぁさ、結局はその人が幸せならいいのよ。そりゃあ隣に自分じゃないのは悔しいけど、それであーだこーだ言うのなんてお門違いもいいと思うのよ」
「そうですよねぇ、その人が幸せなら満足できちゃうんですよ、そうでしょG36?」
「え、そ、そうですね。お嬢様が幸せであるならば私はそれ以上はお求めません」
酔いに酔っているK5の言葉とG36の言葉にでしょ~?と気付けばIDWではなくPPSh-41が仕切り盛り上がっている席の会話、では主催のIDWと自分はそうじゃないと言ってたPKPはと言うと
「分かってた……分かってたさ、でも思うんだ、ヒグッ、あんなツマラン基地なんかさっさと蹴ってこの基地に来てれば私にも希望があったんじゃないのかって」
「そりゃまぁ、否定はしないにゃ」
「だがな、同時にクスン、思ってしまう、きっと最後にはPPKが選ばれるんだろうとグズッ、ヒッグ」
酔いだすと泣き上戸になるPKPの相手をしていた、彼女も彼女である程度は自覚してたし、そして現実を見ていたが思うところは沢山あったらしい。
こうして基地の夜は更けていく、最後になるがヴァニラはと言うと
「やっぱ、同棲の方が良いのかしらね……」
「惚気るなら後にしてください、今は副官から頼まれた情報収集が先ですから、ヒット」
「の、惚気じゃないっての!っとと、こっちもヒット、これなら楽勝に集まるわね」
FMG-9と共に副官達が闇オークションを潰しに行った際の共に戦った部隊の一人から頼まれた情報の収集に追われていたとのこと。
Q 相部屋とか式は?
A まだ無理だろコイツラ(無慈悲