それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
それはふと、本当にふと思いついたかのように湧いて出た疑問だった。いつものようにラボで作業をしていたアーキテクト、今やっているのは件の
その作業の途中にふと手が止めて、何かを考え、そして先程まで纏めていた資料を一から読み漁っていき、そこで冒頭の疑問が生まれた
(……ユノっちのクローン、残りはどうしたんだ?)
些細な、だが気になってしまうと引っかかりを覚える疑問、ユノ指揮官はオリジナルではなくクローンであり、それは幾つも生成されていた、そして今ここに居る彼女は最後の彼女ではない。
だから居るはずだったのだ、彼女の後のナンバーのクローンが、だがドリーマーから貰った資料にも自分が持っている資料にもそのことについての記述が一つもない、一応の確認のために向こうのドリーマーに通信をしたのだが返ってきたのは
《無いわね、資料はそれで全部、記憶にもない、まぁ考えるとすれば秘密裏に処理したが妥当よね~》
「そうだよね、うん、ごめん急に変な通信掛けて……所でドリーマー、いい加減ユノっちの胸を大きくっておい、切るな!!」
どうやら諦めていないらしい、だがそれよりもとアーキテクトは改めて考える、確かにドリーマーの言う通りクローンは秘密裏に処理されたから資料にも記録にも残っていないと考えるのが妥当だろう。
だが、何故だか知らないが引っ掛かる。何だが嫌な予感がすると、考えすぎなのかも知れない、だが彼女はどうしてもその疑問に納得の行く推測を出すことが出来ない。
(なんだろう、ざわつくっていうのかな、とにかくコレは軽視しちゃいけない気がする……)
アーキテクトがそんな疑問と格闘している同時間、医務室にて医務長のPPSh-41も不可思議な連絡を貰っていた。
「指揮官がですか?いえ、病院に掛かったことはないはずですよ、彼女はこの基地で自己完結してしまいますから」
《そうか、いや、すまない……そっちでも上手くやっているようで安心したよ》
「いい職場に恵まれましたからね、所で院長、その少女の診療のデータもらえますか?」
《本来であればご法度だけど、事態が事態だからな、直ぐに纏めて送ろう》
「すみません、助かります、では失礼します、院長、その、身体にお気をつけて下さいね」
《ああ、君もな》
通信の相手、元勤務先だった病院の院長との通話が切れてから彼女は先程の話を纏める、と言っても彼女にしては珍しく纏めても疑問符が消えない内容、と云うのも
「指揮官が、あの病院を利用した?でも身なりは全然違ったみたいですし……っと来ましたね」
元勤務先の病院、そこにユノ指揮官が診療しに来た。初め聞いた時何を言ってるのですかと真面目に返そうとしてしまう所だったがよく聞いてみればその時の彼女はグリフィンの制服も来ておらず身なりもぼろぼろな服装と外装、そして何よりも目はワインレッドではなく、ゴールドで髪の色は茶髪とのことで他人の空似もしくは姉妹かなと言うことで向こうの院長が確認を取ってきたらしい。
もちろんだがユノ指揮官な訳がない、彼女は間違っても街の病院に向かう理由はなく、もし風邪や怪我をしてもこの基地での治療が可能なのでそもそもにして行く必要がないのだ、しかし送られてきた診療データを見てPPSh-41の顔は驚愕に染まる。
「(この数値……いえ、そんなバカな、姉妹だとしてもこんな一致の仕方……ッ!?)ソーコム!!直ぐに指揮官の診療データを此処に持ってきて!!」
「え、ちょ、どうしたのよ突然」
「良いから!!」
珍しく切羽詰まった表情の彼女にSOCOMもそれ以上は何も聞かずにユノ指揮官のデータの資料を纏めて持ってくれば、PPSh-41は礼もそこそこに今しがた院長から貰ったデータのありとあらゆる数値を照らし合わせていけば、出てきた言葉は
「……何の冗談ですかコレ」
「いい加減教えてくれるかしらペーシャ」
「うぅ、騒がしいですけど何かあったのですか医務長」
SOCOMもあまり見たことのない彼女らしくない狼狽え方に何があったのかを再度聞いて、流石に此処まで騒ぎになればベッドで眠っていたリベロールも出てきてその資料を横から二人で眺める。
眺めて、先ず気付いたのはSOCOMだった、彼女も軽く目を見開いて2つの資料を見比べてから
「これ、本当なの」
「冗談に見えますか?」
「そうね、見えたらどれほど幸せだったかしら」
そう言いながらリベロールにも渡せば、此処最近詰め込まれた座学から彼女も驚くような声を上げて、上げた所でキレイな二度見をしてから
「い、医務長……え、ありえるのこれ?」
「ありえないなんてありえない、ですよ……ソーコム、情報部とアーキテクトにこのことを報告、他に情報が出てないか探してもらってください、私はこのデータを副官に見せてきます」
「……私は?」
「リベロールは此処で待機を、誰かが来たらできそうな処置は貴女が、難しそうなら私かソーコムを呼ぶように、良いですね」
バタバタと慌ただしくなる医務室、SOCOMは指示の通りに情報部へ、リベロールは緊張したような顔になりつつも頷いて自身の準備を始めたのを確認してからPPSh-41はこのことを副官に伝えに走る。
副官自体はすぐに見つかり、此処では話せないと自室に来てもらってから先程のことを伝えれば、向こうも真剣な表情で
「確か、なのだろうな」
「はい、この記録、そして院長からの証言がありますのでほぼ間違いありません」
「そうか、呵々……まさかな」
力なく呟く、今しがたPPSh-41から聞かされたことはある意味で衝撃が大きかった、この基地に居るはずのユノ指揮官の他の地区での目撃証言、実は情報部がこの短時間で集められただけでもかなり少ない件数だが存在していた、そしてどれもPPSh-41が院長から聞かされた特徴と合致、更にアーキテクトから彼女のクローンのその後は全く記録に残っていないという言葉、そこから出された結論
ユノ指揮官のクローンに生き残りが存在、行動理由は不明、だが副官はある種の直感を感じていた、このクローンは間違いなく
(指揮官を探している……)
嫌な予感が、彼女の中で渦巻き始めていた。
ちょっと持病が……(言い訳)
クローンは全滅したとは言ってなかったからね、仕方ないね。