それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

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綺麗事だからこそ


賑やかな中の小さな戦い 前夜

様々なことが裏で起きているが、それをさも当たり前のように知らされていない指揮官は執務室にてスチェッキンから街からのお知らせを聞いていた、内容はこの間彼女が聞いた

 

「エンニチ?」

 

「そう、まぁざっくり簡単に言えば街総出で少し大きなお祭りをするらしいんだ、こんな世界でご時世だからこそ少しでも楽しもうってことなんだろうけど」

 

「へぇ、それって何が出るの?」

 

「普通のお祭りと変わらないかな、強いてあげるならニホンのお祭りだから出店にその特色が濃く出るって感じ、詳細までは行ってからのお楽しみだって言われて知らないんだ、すまないね」

 

和気藹々と会話を続ける二人、だが副官だけはその会話に参加せずに書類を片付けながら、例のクローン、シュピーゲルについて考えていた。ここ数日で情報を集められるだけ集めているのだがあれからパタリと止まったのだ、まるで今までのは

 

(わしらに存在を認知させる行動に感じるな)

 

だとすれば何故、今になってという疑問がもし指揮官の殺害が目的ならば今まで認知させなかったアドバンテージを生かしてチャンスが訪れるのを待てばいい、と考えて

 

(もしや、向こうに時間はない?)

 

これならば急に向こうが存在をちらつかせる行動を始めたのにも合点がいく、そこから今しがたそこの二人がしてた会話を思い出す、恐らくだが指揮官はその縁日とやらに遊びに街に出るだろうと、だが本心から言えばそれには待ったをかけたい気持ちが強い。

 

情報を今日まで、しかも此処まで隠せたということは何かしらがバックに付いてる可能性だって否定できない、ならば街総出で祭りを行うという情報も向こうは握ってると考える、そして祭りとなれば間違いなく人の出入りは多くなり

 

(暗殺にはもってこいじゃぞ……しかし……)

 

止める理由が出てこない、彼女には未だ自身がクローンであることすら話せていないのにその他のクローンの生き残りが自分を殺すために探している、だから祭りには行くなとは言えない。

 

指揮官の心身への負担を考え教えなかったことが今となり仇となった、優しさだけでは駄目だと彼女の精神の歪みを認識したあの日に分かっていたはずなのにまた同じ過ちを犯してしまった、そう考えるとついペンを持つ手に力が入り、ピシッというペンにヒビが入る音が響いてしまう。

 

「ど、どったのナガン?」

 

「ッ!?あ、いや、すまぬ、つい力を入れすぎたようじゃ」

 

「珍しいね、副官がそんなミスするなんて、まぁ指揮官そういうことだからさ、丁度休日の昼間だし遊びにきなよ」

 

スチェッキンはスチェッキンでその日に屋台を開くらしく、更にはスリーピースのライブの計画してるとか、その目はガチだった模様。なのでこれからまた準備のためにと執務室を出ていってから指揮官が

 

「ねぇ、本当に大丈夫?ナガンが力加減を間違えるなんて滅多なことじゃないけど」

 

「呵々、歳かのう、まぁよい縁日とやらには行くのじゃろ?一家で楽しんでくると良い」

 

「そのつもりだけど、そっちは?」

 

「む?むぅ、そうさな……折角じゃ、流石に基地全員は無理じゃが行きたい者を集って出るかの」

 

そう伝えるとじゃあ今からその日のことを色々決めなくちゃねと書類を片付ける速度を上げる指揮官、だが副官は祭りを楽しむ為に出るという訳ではない、逆に考えたのだ。

 

向こうが指揮官がこの祭りに出ると知って行動を起こすのならば……寧ろ打って出て先に処理すると。そのためにもギリギリまで情報を集めて、更に当日の警備体制も考えなければとその日の業務終了後にここ最近、また出番が増えた密談室にてクリミナとルピナスを除いた暗部、更にはアーキテクト、Vectorとウィンチェスター、PPSh-41も集い緊急会議が行われていた。

 

「こちらが送られてきたシュピーゲルの診療データです、数値だけ見れば少し前の指揮官と全く同じです」

 

「同じ、それってつまりエアハルテンを投与されてるということなのかしら?」

 

「……どうだろ、だってユノっちは適合して死ぬ寸前まで衰弱したからそれを投与されただけで、この子らはそもそも必要あったかすら怪しい、もっと言えば胡蝶事件が起きてもしかしたらそのまま手付かずだって考えたら」

 

「もしかして、これでクローンとして正常な数値……?」

 

「じゃあ、なんで病院に?」

 

聞けば、シュピーゲルは病院に来て診断は確かに受けたのだが、それは何処かが悪いと言う訳ではなく少し検査をしてほしいという内容だったらしい、その病院は孤児には無償で診断しているので悪いところがあるのならば遠慮なく言ってくれと伝えたのだが

 

『いや、本当に大丈夫だ……ただ少し診てもらいたいだけ』

 

それだけ言ってそれ以上は語らないという雰囲気だったらしい、だとすればやはりこちらの存在を知られることが目的だったと考えられる。

 

「なんで態々そんなことをって考えても仕方ないわね、副官、当日はどうするつもり?」

 

「変わらぬ、わしが始末を……付ける」

 

「どうしても、それしか無いのかな。それに副官一人でどうにか出来るの?多分だけどシュピーゲルはユノっちがハイエンド化と侵食を限界まで進めた存在だって考えたほうが良いかもだし、不意打ちでも勝てるかなんて」

 

「はぁ、アーキテクト、お主の気持ちは分からんでもない、だがな僅かな可能性に掛けそれで指揮官に危害が及ぶほうがマズイのじゃ、分かってくれ。しかしそうかハイエンド化は考えてなかったな……ではこうしよう」

 

それから当日の動きや配備が決められ解散、だがアーキテクトと彼女に声を掛けられVectorとウィンチェスターも残ったのだが二人は何故残されたのか、それを聞いてみれば

 

「ちょっと、私のワガママに付き合ってくれない?」

 

イタズラな笑みを浮かべ、だが目には確かな決意を宿した彼女が告げたのは副官とは違う、シュピーゲルを『救う』作戦、彼女は想った、このままじゃ悲しいだけのお話になってしまうと。

 

そんなのゴメンだと、アーキテクトは考えた、悲劇しか無いなんておかしいって、きっと、いや絶対に悲劇を、悲しみを回避する方法があるはずだと

 

「……綺麗事ね」

 

「綺麗事だよ、でも、だからこそ叶えたいんだ、そして私達にはそれが出来る筈なんだ」

 

「ふふっ、確かにVectorの言う通り綺麗事が過ぎるわ、でもそうね……面白いからノッてあげる」

 

「まっ、もうこの基地に悲しみの鐘を鳴らしたくないからね、いいわ、やってあげる」

 

そして、縁日当日……指揮官を殺そうとするスペクター、スペクターを殺そうとする副官、そしてそれをひっくるめて止めて悲劇を防ごうとするアーキテクト、3人それぞれの思惑が渦巻く中、ヴァルサー一家が街に到着するのであった。




おっちゃんはね……もう悪役以外自分が作ったキャラを殺すのは疲れたんだよ……

因みにですがスペクターちゃんの現状のテーマ曲は『魔弓イチイバル』だったりします、つまりそういうことです。

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