それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:鮪薙
スペクターの軽口にも大した反応も見せない副官、そんな彼女に対してつまらないとばかりに溜息をついてから周囲の気配に気を配りつつ、再度目の前の羅刹と化している副官に
「おいおい、んな顔してると眉間にシワが刻まれるぜ、幾ら人形だって跡は残るんだからよ?」
「……」
「ちっ、ダンマリかよ、まぁ態々おしゃべりに来たって感じじゃあねぇもんな」
まるで隙だらけな会話、だが副官は向けた銃の銃爪を引くことが出来ない。あれは完全な見せかけな隙、更に言えば彼女が握っている情報で向こうはハイエンドモデルに完全になっているのだがその能力が未知数というのもあるのでそれも銃爪を引けない理由になっている。
だがのんびりもしてられないのは副官もスペクターも同じ、更に言えばスペクターはこのまま睨み合ってても数の不利が生まれてしまうだけというのもあり、ならばしゃーないと副官をフードの奥から睨みつける。
「このまま時間稼ぎされるつもりはないんだ、お喋りの要件がねぇのなら突破させてもらうぜ」
「行かせぬよ、あやつ、指揮官には指一本たりとも触れさせぬ、お主はこのままここで死んで朽ち果てよ」
いっそ冷静な、そして冷酷な一言にスペクターは面白いとばかりに狂笑の表情を口元に浮かべてからぐっと重心を落とす、遂に動くかと彼女に意識を集中させた副官の耳に奇妙な音が届いた。
それはまるでアイドリング、しかも車とかではなくジェット機に近いそれ、何処からだと驚く、暇なんて既に無かった。
「考え事か、余裕な……」
「っ!?グッガッ!!!??」
「もんだなおい!!」
スペクターの姿がブレたと同時に副官は禄に反応できずに壁に叩きつけられる、直様何が起きたかを理解しようと自身の状態をスキャンすれば腹部に多大な衝撃が来たとだけが表示される、撃たれたというわけでもない、では何がと体制を整えながらスペクターの方向を見れば
(何じゃ、あれ……!?)
「ハハッ、いい反応するじゃねぇか。驚いたか?アタシの身体は自由自在、故にこう名乗ってる
副官が見たのは背中、肩甲骨辺りからまるで生えてきたと言わんばかりに機械仕掛けの翼、まるでSFから出てきましたとばかりの飛行ユニット、それからの圧倒的な推進力からの一撃の蹴りが副官を襲った衝撃の正体。
だがあれは何処から、そんな疑問で電脳が埋め尽くされそうになる前に直ぐに頭を振る、今はそんな事を気にしてる場合じゃない、否
(そんな事を考える余裕なぞ、ない!!)
不意打ちの一撃でダメージは貰ったがそこは長年前線でハイエンドモデルとも殺りあった副官、体制を完全に整えきる前だと言うのに正確無比の、そして禄に視認できない速度で構えると同時に愛銃が吠え、弾丸は一直線にスペクターを襲おうと翔ぶが。
「あめぇんだよ!!」
本当に自分が相手にしているのはハイエンドモデルなのか、そう言いたくなる光景が始まる、中途半端に広さがある空間を選んだのも失敗だったとこの時に副官は内心で舌打ちをした。
彼女は撃たれた弾丸を最小限の動きで避ける、身体だけを逸して、などという可愛いものではなく、身体中からブースターを出現させてそれを使い高速で回避しながら接近をしてくる、副官も流石に二度目となれば驚きながらも対処はできるのだが、やはりカラクリが全くわからない。
最初に考えたのは既に彼女の身体は機械化されており、その装備かとも思ったがだとしても最初の飛行ユニットの説明ができない、身体中から出現するブースターだってそうだ、先程の対峙ではそんな気配欠片もなかった。
「(駄目じゃ、全く分からぬぞっ!)チィ!」
「よっと(マズイな、やっぱり派手に動くほどに余力がねぇ)」
「メメール!!」
G3の声と同時に連続した射撃音がスペクターを襲うがそれすらも回避、だがその顔に余裕はなく、寧ろ時間を掛けすぎたと言う顔になっている。
今の銃声は街にも響いたはず、ならばもしかしたらターゲットは逃げてしまうかも知れない。
「(幾ら能天気なアイツだって逃げることくらいはする……あああああもう、しゃらくせえ!!)出し惜しみなしの大サービスだ!!」
「なっ!?」
「何じゃと!?」
二人の驚愕する声が響く、無理もないだろう、スペクターが叫んだと思えばその両手に先程まで気配すらなかった重火器【M79グレネードランチャー】の存在があったのだから、だが副官はその一瞬に遂にカラクリに行き当たった、あれは取り出したとかではない、あれはまるで一から生成されたと、つまり
「逆コーラップス……!?」
「へぇ、まさか言い当てるタァ驚きだ、だが遅い、持ってけ!!!」
確かに彼女の言う通り、言い当てた所で回避は既に間に合わない距離でグレネードは撃ち出され、せめてダメージを小さくしようと両手でガードしながら後方に力の限り飛び退くと同時に炸裂、だが彼女たちの予想していた爆炎ではなく彼女たちを包んだのは
「煙幕……?」
「しまった!?」
副官が走り出したその時、煙幕の向こうではスペクターが自身が出せる速度で走り、眼の前に人影が現れて今日だけで何度目か分からない舌打ちをして【スタンロッド】を生成、一瞬でも怯ませて駆け抜けようとした時、影が何故か退いた。
速度は落とさないが驚くスペクター、自分を止めに来たのではないのかと通り抜ける際にその影【Vector】を見れば、彼女は
「行きなさい、広場に」
聞こえた言葉、それはつまり指揮官は逃げていない、と言うことを告げていた。間違いなく罠だろうと思いながらもどうせ街中を走るんだとそのまま広場の方へと彼女は消えていくのを確認してからVectorはゆっくりと煙幕の向こうへと視界を向ければ、副官とG3も丁度抜けてきたところだった、思わず思う、丁度良かったと
「Vectorか、今クローン、確かスペクターと名乗ったマントに身を包んだ奴が通らなかったか?……何の真似じゃ」
「ご冗談が過ぎるのでは?」
「冗談に見えるのかしら?」
愛銃を二人に構えるVector、その声は、眼は冗談を乗せているようには見えない、だからこそどうしてこんなことをしていると聞けば、少し考える素振りを見せてから
「ハッピーエンドの条件は……最後は大団円らしいわよ?」
《リスノワールからメメールへ、すみませんアクシデントです》
Vectorの意味の読めない言葉が言い切ると同時に別働隊のウェルロッドから通信が入る、が彼女たちも彼女たちで足止めをされていた、その相手は
「意味が分からないわね、なぜ指揮官を危険に晒す方法を取るのかしら?」
「確かに前もって処理すれば指揮官は安全ね、でも副官は?それに前々から言おうと思ったけど、貴方達少し過保護が過ぎるのよ」
ウィンチェスター、彼女もまた広場の方の足止めのためにウェルロッドとグローザの前に立ちはだかっていた、そして広場では……
「やっぱり罠だったかよ」
「いいやぁ、罠じゃない、ユノっちは確かにこっちに来るよ……その前に少し私の相手してよ」
アロハシャツ姿でいつか作った護身用のレーザー銃を構えたアーキテクトとスペクターが対峙していた。
今ここに、ひだまりも優しさも知らない少女を救う作戦が始まった、残るピースはあと一つ、だがその前にアーキテクトは条件を整えなければならない、それを改めて電脳で復唱していつもの余裕そうな笑顔の裏で彼女は緊張していた。
あと3~4話は掛かりそうな気がするぞコレ
ハイエンドモデル『スペクター』
コーラップス技術及び逆コーラップス技術の人形兵器運用のテストモデルとして作られた存在、胡蝶事件の際に自我が目覚め以降は様々な人間の悪意などに触れながら放浪していた、ハイエンドモデルとなっているがユノと同じであり人間でありながらそうなった存在。
特徴としてはその技術を使った自在に取り出される兵器による変幻自在は攻撃を得意としている、だがあまり大規模に身体を作り替える物や、連続しての使用は身体が負荷に耐えられずに崩壊してしまうので注意が必要。
また定期的に『エアハルテン』の投与が必要でもある、それによって平時でも、そして創り変えた後でも身体を人間へと『維持』出来ているのだから。
戦闘時のビジュアルは『最終兵器彼女』の『ちせ』戦闘イメージはキネクリさん