それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:鮪薙
アーキテクトの護身用通信機型レーザー銃の射撃音、スペクターのスラスターが火を吹く音、人っ子一人どころか生き物の気配がしないこの区間の広場はその2つの音に支配されていた。
先程は完封していたスペクターだが今度の相手は同じ鉄血のハイエンドモデル、その自慢の推進力からの突撃や、自身に掛かるGを度外視したスラスターを使ったフェイントも紙一重で回避される、だがアーキテクトの射撃には的確に回避して致命打になる一撃は当たらない、一進一退という戦いがそこでは繰り広げられていた。
(くっそ、全力を出せないのもそうだがコイツ意外とつえぇ!!)
(銃火器を使ってこない、だから戦えてるだけだよコレ、下手しなくてもゲーちゃんより強いかも……!)
互いに予想してなかった攻防戦、そして何よりこの戦い二人とも制限が掛かっているのも均衡している理由になっていた、アーキテクトは使えるのは未だ不安定で更に今回のために特殊な細工を施したレーザー銃のみ、スペクターはスペクターで先程から副官との戦いで見せた飛行ユニットとスラスター以外の生成は行わず体術だけでの戦闘を行っている。
が、その長くなるかとも思った攻防、それはアーキテクトが何度目かのレーザー銃の銃爪を引いた時に終わりを告げることになる、スラスターによる高速ステップで接近してくるスペクターに照準を合わせトリガーを引いて、表情が引き攣った、急に軽くなったトリガー、引いたというのに無反応を貫く愛銃、ようは
(嘘、ここで!?)
「何だぶっ壊れたか!だったら好都合だそのまま転がしてやるよ!!!」
「ハハッ、そうみたい、手加減してくれるわけないよねって!?」
一瞬だけ反応が遅れたが向こうの蹴りを横っ飛びで回避、受け身を取りながら再度銃口を向けてトリガーを引くが結果は変わらない、マジカよお前となるアーキテクト、唯一の攻撃手段を失った彼女がそこから
「ウラァ!」
「キャン!!」
蹴りの直撃を受けて何とも奇妙な悲鳴とともに広場の石畳に転がるまで時間は掛からなかった、だが攻撃手段を失ってからも彼女は避け続けるという形で抵抗を続けたお陰か、スペクターの表情には汗が流れ息も軽く上がっているのが確認できこの戦いが彼女にしてみれば本当に予想以上に消耗させられたことを示していた。
「はぁ……はぁ……思ったより、手こずらされた」
「ゴホッ、ヒュー(本当に最低限の条件は達成できた、でも欲言えばもう少し進めてあげたかったなコレ……)」
なんとか立ち上がろうと腕に力を入れるが上半身を軽く起こせる程度で体全体には力が行き渡ららずに立てそうな感じはせず、戦いはもうできないと判断、だがまだ手段はあるとアーキテクトはまだ目の前で息を整えているスペクターに
「それにしてもさ、何だってゴホ痛っ!?うぅ、銃火器を使わなかったのかな」
「アタシが殺したいのはアイツだけだ、それ以外に血を流す必要なんてねぇだろうが」
「なんだ、やっぱり根っこは同じじゃんか」
要は、他に誰かを必要以上に殺したくない、それが今の言葉だ。そんな呟きはどうやらスペクターにも届いたようなのだがそれを聞いた彼女は物凄く嫌悪を表した表情で
「誰が根っこは一緒だぁ?アタシとアイツを同じにするな、何も知らずに、適合したと言うだけでのうのうと生きてたアイツとは違う!」
「のうのうと生きてきた?アッハッハ、イタタ……誰から聞いたのかなそれ、あ~、分かった再生産されたドリーマーだろ、アイツ本当に性悪だな~」
どうやら彼女は少々、いや、かなり間違っている情報を吹き込まれているらしい、アーキテクトは彼女の話を聞いてそう判断、だけどそれだけじゃあここまで強い恨みにも殺意にもならない、それは分かるのだがその理由を、根元の部分をアーキテクトは見ることが出来ない。
「(何だ一体、彼女を何が此処まで駆り立ててるんだ)でもさぁ、ユノっちもユノっちで色々あったんだよ」
「……だったらなんだ、助けても言えずに、自我も生まれずに目の前で冷たくなってった妹たちを看取る以上の事があったのかよ」
うわ、いきなり重っ!?と叫ばなかった自分を褒めたいとアーキテクトは考えつつ、未だサボろうとしている身体に活を入れ何とか立ち上がるもガクンと膝をついてしまう、だが此処で再度倒れちゃ駄目だと気合を入れて顔だけは、眼だけはスペクターを見据え
「確かに、君から見れば程度は……ああ、いや、軽い重いなんて決める方がどうかしてる、それに、コレ以上はさ」
「アーちゃん!!」
「ハハ、アハハ、クククッ、本当に、本当に来やがった、なぁおいオメェ、能天気だ何だって言われたことねぇか、いや、言われてるよなぁ、じゃなけりゃこの状況にノコノコ顔を出すなんて出来ねぇよなぁ!!」
アーキテクトの言葉の途中でスペクターが声を上げる、それは歓喜、それは呆れ、そのどちらかだとしても混ざるははっきりとした殺意と憎悪、目は見開かれ、顔は狂気のそれに染まり目の前の、存在を知ってから、ずっと
対して、殺意も憎悪も向けられた少女、ユノ指揮官はその空気の重さを感じながらも自分を見て額に脂汗を浮かべながら笑顔を浮かべているアーキテクトに近付いて
「ごめん、私のワガママで、こんな」
「良いってことよ、いつも私のワガママとか付き合ってもらってるんだもん、これくらい、イッタタ、ああウン平気平気」
今の会話でスペクターは眉を顰める、まるで此処に誘い込んだのはそこのそいつの計画だったという内容、どういうことだと考えそうになるが流石に彼女もそこまで馬鹿ではない、考える必要もなく結論に至る、至りそれでも尚、分からなかった。
自分が命を狙われている、それを知ってどうして護衛も付けずに彼女は此処に来たのかと。
「ユノっち、クリミナ達は?」
「ライブに夢中だよ、まぁクリミナには無理言ったけど……」
ライブ、それはスリーピースが祭り仕様で行っているかなり大規模な物で、それが先程の戦闘での銃声や、アーキテクトとあそこまで派手に戦ったとしても街自体が気にせずにいられた理由、だがそれはどうでもいいとスペクターは思考から消して、自分を見据える彼女に
「よぉ、やっと会えたな、むざむざ命を投げ捨てに来たってのか?」
「ううん、そんなつもり無いよ、私は貴女と話し合いに来た」
「はぁ?アタシはてめぇに持つ口はねぇぞ、アタシ達の存在も知らずにぬるま湯に……」
「知ってるよ、って言っても昨日知ったんだけどさ。私達は同じクローンで、貴女は私の後の番号の存在で、そして今日、私を殺しに来たってこと」
このすぐにでも一方的な殺し合いが始まりそうな空気の中、祭りを楽しんでいたという浴衣姿のユノ指揮官はそう告げて改めてスペクターを見つめる、その眼には迷いはなく、戸惑いもなく
「もう一度言うよ、私は貴女と話し合いに来た」
「……ざっけんなよ!!!!!」
スペクターからすれば世迷い言を言い放ったユノ指揮官に飛行ユニットを全力で稼働させて突撃、無論、彼女が避けれるはずもなくモロに喰らいだが飛ばされるというわけではなくそのまま押し倒され首を思いっきり締めようとしたスペクターの顔に驚きが混ざった。
今目の前に居るコイツは適合してから悠々と、それこそ無菌室で育てられるくらいに大事にされて、本当に何も知らずに生きてきたとばかり思っていた少女、だがはだけた浴衣から見えた身体に刻まれたそれ、切り傷、火傷、ムチで打たれたようなものもあれば、まるで薬品で肌を直接溶かされたような物、とにかく大小様々な傷跡を見てしまう。
「んだよ、この傷」
「私の……過去だよ」
今此処にピースは揃った、後自分にできることはもうない、だからこそと人形であるはずのアーキテクトはただひたすらに祈る、友の無事を、そして新しく出来そうなもう一人の友の手を繋げられることを。
一周年にはスペクター編は終わらせたいね!!
まぁ多分あと2~3話だから、うん、多分