それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
「過去、だと?」
まだ負の感情が籠もっているが戸惑いも隠せていない声でスペクターが呟くように言葉を漏らす、対してユノ指揮官も直ぐにでも命を奪われる状況だと言うのに冷静にスペクターを見つめる。
この傷から彼女が語る過去なんて嫌でもスペクターは理解できる、だが、だからといってそれを語られた所で
「同情を誘おってのか?んなことでアタシがお前を殺したくなくなるとでも思ってんのか、だとすりゃあお花畑も良いところだな!!」
「ううん、私も貴女を知らない、だけど貴女も私を知らない、だから知ってもらうって」
「おめぇ、自分で何言ってんのか理解してんのか?今から殺そうとしてるやつに自己紹介とか普通じゃねぇぞ」
罵りに近い声と言葉をぶつけるがユノ指揮官は怯むことなく、自分の今日までの事を話していく、彼女は直感していた。スペクターはきっと自分が語ってる間は、いや、この状況に持っていった時点できっとすぐにでも殺さないと。
だが周りはそう見えない、特にアーキテクトから始まったと告げられVectorと共に現れた副官は広場に来てこの状況を見た瞬間に
「指揮官!?何故止めるVector!!」
「駄目よ、彼女の覚悟を見届けなさい」
「覚悟を、じゃと?」
何を言っている、そんな眼で見てくる副官にVectorはまだ立てないでいるアーキテクトに肩を貸してから戻り彼女の口から昨日あった出来事を語らせる。
昨日、祭りの前夜にユノ指揮官はアーキテクトに呼び出され彼女のラボへと足を運べば何故かSOCOMの姿もありなんで?と聞いてみれば
「まぁ、その、これから話す内容がさ。ちょっとだけユノっちに衝撃が強いかもってことなんだ」
真剣な、だが何処か迷っているアーキテクトにユノ指揮官は小さく頷いてから彼女の前に座り、ゆっくりと促す、それから少しの間がありアーキテクトは副官達がひた隠してきた事実を話す、確かにそれは彼女にとって衝撃的だった、自分はオリジナルから生み出されたクローン、見れば少しだけ顔を青くしているのを見てSOCOMが近付いて
「大丈夫かしら、いいえ、無理しなくていい、それくらい辛い事実だもの」
「だい、じょうぶ。確かにちょっと驚いたけど平気……ただ」
彼女は自身の出生の秘密よりも辛かったことがあった、それは隠されていたという事実、もしアーキテクトが話さなければずっと知らないまま、そして今日も何も知らずに自分のクローンである彼女が殺されていたかも知れない、それがとにかくショックだった。
「ユノっちは言ってたよ、自分はそんなに弱く見えるのかって、ソッチのほうが凄いショックだったみたい」
優しさ故の行動だった、だが結果としてそれは彼女を傷付けてしまっていた。自分は自分のことすら聞かされたくないほどに弱い存在なのかと、それに気付いた副官は違うと首を振る、振ってから二人の方を見る、状況は変わらない、スペクターがユノ指揮官に馬乗りになりその手は首に掛かっている、直ぐにでも助けるために動き出したい、だが
「副官、貴女が彼女を孫と見るならば、そして指揮官と見ているのならば目を逸らさずに彼女の覚悟を、そして成長を見てあげなさい」
「……ああ」
見つめる、見届けるという覚悟で。対してユノ指揮官から全てを聞いたスペクター、彼女は今、酷く困惑していた、彼女の過去を聞き、今までを聞き、どうしてという感情が生まれていた、何故そこまでされて
「オメェはあんなに笑ってられるんだよ……」
「最初から笑えてはなかったけどね、でもそんな私に手を差し伸べてくれた人たちが居た」
「んなの、その眼に利用価値があるからだ、善意とかじゃねぇ、利用するために近付いてきてるだけだろ!」
「確かに、そんな人達も居たかも知れない、でも全部が全部そうじゃなかった、本当に私を思って手を伸ばし、様々なことをしてくれた人も居た、教えてくれる人も居た」
彼女が人を拒絶していた時でも、それでも手を差し伸べ、そして引き上げてくれた人たち、このままじゃ自分が壊れるからと叱咤してくれた人も居た、だからこうして彼女は今、笑えている、そして何よりもとユノ指揮官は笑う、この状況下で彼女はスペクターに穏やかな笑みを浮かべて
「拒絶だけじゃなくて、良いも悪いも一度は正面から受け止めようと思え始めた。前に、進み出せたんだ」
「……そんなの、結局は傷付くだけだ、どんなに優しい笑みを浮かべても、どんなに優しい言葉を掛けられても、結局最後は自分のために利用するために裏切るんだ!!私の時も妹たちの時も!!」
取り乱したように頭を振る、今まで取れなかったフードが外れ瓜二つの顔が晒される、だがその顔は酷く焦燥していた、彼女は善意なんてありえないという環境に居すぎた、だからこそユノ指揮官の話の善意の人たちの話を聞いても受け入れられない、そして拒絶するも、目の前の彼女は怒りもせずに促すように否定していく。
そして次に出てきたのは、ならどうしてという感情、そんな存在が、今日出会った老婆が見せてくれたあの暖かいモノを、
「どうして今になって出してくるんだよ!!!なんであの日、あの時じゃねぇんだ、今じゃなくて……あのときに来てくれりゃあ妹たちは、今だってぇぇぇ!!!」
あの日、スペクターと名乗る前の出来事、妹たちを助けてくれると、保護してくれるから働いてくれと接触してきた人間の悪意に気づけずに頼りそして、裏切られ玩ばれ死んでいった彼女たち、あの日に来たのがこの街の、そしてユノ指揮官が語るような人物であれば死ななくてよかったというのに
「どうせ信じても裏切られ、好き勝手される、何度も、何度も!伸ばしてくれた手?んなの繋いだ所で最後には離される、んなのにオメェは信じ続けんのかよ!!!」
「信じる、私が救われたように、だから今度は私が手を伸ばすんだ」
「ハッ!こんな悪党の手を繋ごうってのかよ、本当に……」
「悪党なんかじゃない、だって貴女には心がある、人を人として見れる、戻ってこれるんだよ!」
心があるから、いつでも周囲を気にせずに殺せたというのに何も知らない人間が巻き込まれるのを回避するためにしなかった、副官とアーキテクトも殺せたはずなのに無力化に留めた、深く深くまで隠していたはずの優しさを彼女は見抜いていた、だからこそ手を差し伸べようとしていた。
だがスペクターはその指摘に違う!と叫ぶ、自分にはそんなのないと、戻れないほどに汚れたと叫び頭をかき乱す、彼女は確かに憎悪していた、だがそれはユノ指揮官個人にもあるだろう、敵側のドリーマーに間違ったことを唆されたとは言えこうして平和を勝ち取った彼女に何故それが妹たちに向かわなかったのかという半ば八つ当たりに近い憎悪、だがそれ以上に腐った世界を見続け、ユノ指揮官を知り、周りに人が集まってるのを見て、彼女は想ってしまった。
「どうせ、最後にはオメェも裏切られるんだ……どんなに人がいい奴らが集まったって、少しの細工ですぐに手のひらを返してくるんだ!だから、だからアタシが先に終わらせてやるってんだよ!!」
「……そうか、やっぱり貴女は優しいんだね」
「はぁ?」
「だって、辛くなる前に幸せのまま終わらそうってことでしょ?形はすごく物騒だけどさ、それって結局は優しいから出てくる行動だよね」
訳が分からないと言う表情を晒すスペクター、今の言葉からどうしてそんな考えになるんだと、同時にその言葉が妙に胸に打ったのも感じてしまった。
だからこそ、リボルバーを生成して突き付けながらまた優しい笑みを浮かべている彼女に対して次に出てきた言葉は
「黙れよ、黙ってくれよ!!どうして、なんでそんな暖かいモノを向けれるんだよ!!!アタシは唯のハイエンドモデルだぞ!?クローンだぞ!?オメェを殺そうとしてるだけの機械だぞ!!」
「だったらなんで泣いてるの!なんで撃たないの!今だって殺そうとすれば出来るじゃん!!!」
「うるせぇ、うるせぇ!!!なら望み通りにしてやるよ!!」
この場に居る全員が始めてみたかも知れないという感情を顕にした声を出したユノ指揮官の言葉に遂に歯止めが効かなくなったスペクターが叫びながら銃爪に力を込め
「ユノ!!!」
あれはマズイと言う副官の悲鳴じみた叫びとほぼ同時にパァンと広場に乾いた銃声が響いた。
これドルフロ小説ってマ?
コレもう完全にユノっちに最速で最短で一直線の少女が憑依しだしてるぞ……