それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
スペクターがP基地に加わり数日、まだまだ完全に慣れたというわけではない彼女は今、上空を飛んでいた。
別に家出とかそういうのではなく、コレが此処数日で彼女に決められた仕事の一つ、彼女が持つ飛行能力を最大限使っての哨戒任務、またはパトロールとも言える仕事である。と言うのも確かにユノの眼は鉄血に対しては早期発見のレーダーとなるのだが盗賊などと言った存在には無力であり、今までも地上哨戒を行っていたが完璧ではなかった、なのでと白羽の矢が立ったのはスペクター、広範囲を長時間及びヘリと同等の速度で飛び回れる飛行ユニットを使って上空からの目となり、時には自身で事態を解決できるその火力はこの基地にとってもありがたいものだった。
(ま、それだけじゃねぇだろうけどな)
確かにスペクターにより哨戒範囲は大きく広がったには広がったが結局は彼女は一人しか居らず、その監視も限界がある。となれば自分がこうして任務に付かされているのは他に理由があると考えるのが自然である、そしてその考えは正しい
グリフィンとしては彼女の飛行ユニットの稼働データが欲しいと言う本音がある、人一人を自在に飛ばすことが可能なコレを開発ないし量産ができるようになればと言う考えだろう。
(コレだから人間ってのは……っとと、そろそろ帰投時間かって、ん?)
彼女の眼が地上で何かを捕らえ、高度を落としながら目を凝らせば映ったのは開けたボンネットから黒煙を吹き出している車、事故ったかとも思いながら地上に降りて、今日一日の中では最初で最後の人助けを行うのであった、因みに帰り際に上空から降りてきたのを見ていた車の主の子供に天使のお姉ちゃんと呼ばれ恥ずかしがった模様。
「うん、じゃあ気をつけて戻ってきてねスペクターちゃん」
《まぁ、ナノマシンもいい感じに馴染んでるし問題ねぇだろ、オメェこそきちんと仕事しろよポンコツ》
「ポ、ポンコツ!?それどう言うって切られた!!」
この二人いつも口喧嘩してるなと副官が思っているとユノがうーんと突如唸り始めた、反応から見るとなにか思いついたとかそんな感じであり、どうしたのかと聞いてみれば
「いやさ、スペクターっていうのは所謂コードネームみたいなものじゃん?」
「うむ、ハイエンドモデルとしての名、ということにはなるが大体その通りじゃが、それがどうかしたのか」
「名前、ちゃんと用意してあげたほうが良いかなって、それにスペクターって亡霊とかそういう意味だから毎日呼ぶのはどうかなって思ったし」
真面目な表情のユノの言葉に確かになと納得する、更に言えば同じタイミングでスペクターの後見人にもなったペルシカからも名前だけでも良いから決めてくれないかという通信が入ったので、じゃあ彼女が帰ってきたから考えようかとなり、そしてスペクター帰投後、アーキテクトとPPSh-41の所で診察を受けてから
「名前だぁ?別にスペクターでも良いじゃねぇか面倒くさい」
「駄目だよ、いい、名前ってのは大事なんだよ?それに妹を呼ぶのに亡霊って意味のスペクターってどうなのかなって思ったし」
「はぁ、アタシは気にしねぇんだけど……ああ、分かったっての、なんで泣きそうな顔すんだよオメェは」
「(どっちが姉か分からぬのぉ)して指揮官、そう言うには何か案があるのじゃろうな?」
固まった、反応から見るにどうやら考えていなかったようだ、おいおいコイツはと呆れ顔になるスペクター、数日で彼女の色々な面を見てきたつもりだったがどうやらまだまだ甘かったようだと溜息を突きながら、思考を巡らす。
何か名前に使えそうなことがなかったかと、そしてふと一つのことを思い出した、それはまだ彼女が鉄血の所に居た頃、向こうのドリーマーが人を色々と検査と題して観察されて時に、奴がぼそっと呟いた言葉
「そういや、鉄血ドリーマーがアタシのことを『ノア』って呼んでたな」
「ノア?と言うと……方舟か」
「あ、知ってるよ確か神様が引き起こした大洪水から逃げるためのって言う船、それがノアの方舟でしょ」
ほぉ、意外と博識じゃなと感心する副官が同時になぜスペクターをそんなふうに呼んだのかという疑問が浮上した、鉄血側のドリーマーが態々意味もなしに名前を付ける訳がない。
無論、ただそう呼んだだけ、というのもあり得なくはない話なのだがどうにも引っ掛かる、それから情報を一つずつ整理していけば
(そう言えばコヤツの飛行ユニット、あれも確かに逆コーラップスの産物なのじゃが、どうしてそれを組み込んだのじゃ……?)
「もしかすっと、アタシの最終目標が方舟だったんじゃねぇのか」
唐突に、本当に唐突にスペクターが閃いたという顔で呟いたその言葉に副官もそれらと言わんばかりの顔で彼女を見る、それならば確かに『ノア』と言う言葉にも大きい意味が生まれる。
つまり元々はコーラップスと逆コーラップスを適合に適合を重ねて進化させ、その過程で今のスペクターのような状況なのだが、本来であればそこから更に発展させ、彼女の身体全てを創り変えてスペクター自身を
「宇宙船、この星を捨てて移住可能な星を探す計画、故に『ノア』」
「でもそれって、スペクターちゃんの意識とかは」
「当然ねぇか、そもそもにして自我なんて生ますつもり無かったかだろうな……だけど『ノア』か、響きは良いなコレ」
ユノの表情が困惑に変わる、どう考えてもいい意味なんて一つもないその単語に目の前の妹は食い付いたからだ、もしかしてこの妹
「名前、もしかして」
「ああ、良いだろノアって、丁度オメェと同じ二文字だしいい感じに姉妹感出るんじゃねぇか?」
「出るには出ると思うけど……おばあちゃんはどう思う?」
「む?わしは別に、本人が良いというのならば良いのではないのかの。お主は嫌なのか?」
「別に嫌ってわけじゃないけどさ、スペクターこそ良いの?あまり良い意味とかじゃ無いけどさ」
その質問に、スペクター否ノアはニヤリと笑う、確かに最初の計画では自分の意志などは一切ない唯の道具としての単語だったかもしれない、だが今の自分には確かな意思がある。
「いいぜ、いざって時には方舟だってなってやるよ、だけどな乗せるのはアタシが許可したやつだけだ、偉そうな人間とか、腐ってる奴らなんざぜってぇ乗せねぇ」
あったけぇもの、それだけを乗せる。そう彼女は笑い、こうして亡霊だった少女は名前を得るのであった。
という事で今後彼女はスペクター改めてノアちゃんです、因みに最初はギャラクシーエンジェルを最初に思いついたのが始まりでしたはい。
資料集もとりあえず出来たのでこの後、投げておきますね、まぁ例によってあまり宛にはならないですが。