それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
たまにはこの三人で出掛けてみようよ、そんないつものように唐突に提案された言葉、誰の提案だって?そりゃ勿論、我らが指揮官ことユノである。
正直に言えばただ単に出掛けたことなかったよねという話である、勿論ノアを連れ出すということはクフェアを基地に残すことになるのだがあれから数日、流石にこの基地にも少し馴染めるようになり、更に言えばシャフトやキャリコと仲良くお茶会をする光景も見られるようにもなったので問題はないだろうと思っている。
「で、なんで突然出掛けるって話になったんだよ」
「いや、思い付きだけど?」
「この能天気バカ殴っていいか?」
「やめい、まぁわしらだけ、というのは確かになかったからな、こういうのもありじゃろうて」
相変わらず能天気バカに妙にあめぇよな、ばあちゃんは。そんな呟きをしつつもこうして街にまで出てきてしまった以上は帰るとも言えないノアも何だかんだで付き合いが良いとも言える少女である。
ユノとしてもそれを理解しているのでごめんごめんと謝りながらも笑顔で街を歩いていき、目的地に向かうがまぁこの街に来て目的地と言えば大体が此処になる。
「……なぁ、芸がねぇってオメェ言われたことねぇか?」
「え、無いけど?でも他に寄るってなるとカフェとか、パン屋とか、あ、最近できたクレープ屋さんとか!?」
「とことん食い物屋じゃねぇか、クレープは後で寄るぞ」
カフェは食い物屋に入るのか?と思わず聞きそうになった副官だが思えばユノと寄る時では彼女は決まって料理を注文しているのでもしかしたらそこらのファミレスとかと同じ認識なのかもしれない、実際そうである。
それはさておき、彼女らが居るのはいつもの雑貨屋前、確かに芸がないとも言われそうだがここしか無いとも言える、無論この街には他にも見所あるのだがユノとしてはここで店主の老婆と雑談するのが楽しみの一つになっていたりもする。
一方のノアとしてはAUGとの出会いがあったあの日以降も行かないわけではないのだがあんまり街に出たりはユノ以上にしないためにあの日以降寄ったことがなかったりする、別に苦手とかではないのだがよって話すだけの話題を彼女は持ち合わせていないと思っているからだ、なので本音を言えば偶には良いかとは思っている、ユノには間違っても言わないが。
ともかく、あまり店前で雑談してるのも悪いのでとユノが扉を開けて……閉めた、あまりに謎すぎる行動に怪訝な視線を送る二人にユノは
「いや、だって、いやね!?」
「良いから開けるのじゃ、大迷惑じゃろう……」
て、その最後の言葉が店の扉を開けた時に出なかった、あの副官が店内を見て固まっているという異常事態にこれにはノアもおいおいどうしたんだと覗き込めばそこに居たのは店主の老婆、それと
「んだ、あのおっさん」
「ばっ!?あの方はグリフィンの社長じゃ!!も、申し訳ない、コヤツも決して悪気があってのことじゃないのじゃ!」
「ごごごご、ごめんなさい!ほら、ノアちゃんも謝って!!」
「あ、あ~、すまねぇって痛ってぇなおい!?」
「そのような口の聞き方があるか馬鹿者!!」
スパン!と小気味良い音を響かせて頭を叩かれるノア、此処までの無礼な行動にいよいよ表情を真っ青にし始めるユノと副官、だが彼女らを迎えたのは楽しげな笑い、それから
「ハハハッ、そこまで畏まらなくて大丈夫だ、今日はオフだからな」
「呵々、相変わらずあんたは恐れられてるようだねぇ、いらっしゃい、今日はその3人なんだね」
へ?という表情を晒す二人と結構な勢いで叩かれた頭を擦るノア、どうやら二人は知り合いのようだと認識し、尚且ユノはそこで初めてクルーガーを認識できていることに気が付いた。
始めてみた彼、声からでは、そしてファーストコンタクトではなぜか熊に見えてしまったその人の表情はどことなく穏やかであり、予想と違ったそれに彼女は目が点となり見つめてしまう。
その視線と言うか様子に気づいたクルーガーは本人的には出来るだけ威圧感を出さないように彼女と視線を合わせるためにしゃがみ、それから
「ふむ、私が分かるか、ヴァルター指揮官」
「ひゃっ!?あ、え、はは、はい!!」
「……緊張しなくて大丈夫だ、だがそうか分かるようになったか」
もしかして嬉しいのかこの人と副官は直感するが口にはしない、そんな事を口にできるかという感情もある。
隣のノアは今の会話でこの自称姉はどうやら今日まで社長という存在をまともに認識できなかったのかと理解、ツッコミを入れてやろうかとも思ったが事情を知ってはいるのでどうしたもんかなと近くの店の商品を眺め始める。
「ほれ、年頃の娘を怖がらせてるんじゃないよ」
「そのつもりは全く無いのだが、いや、この風貌ではそう思わせてしまうか、すまない」
何だこの空間、本気で申し訳無さそうにするクルーガー、それを見てこの人は本当にと呆れる老婆、状況がいよいよ飲み込めなくなった副官、とりあえず笑顔を作ろうと努力するユノ、そして最後にノアはと言うと丸い筒状のもののそこから目を付けて何かを覗き込んでいた。
「お、コレおもしれぇな、模様が変わっぞ」
「お主のその肝の座り方は見習いたいと思ったのは初めてじゃぞ」
「万華鏡だね、気に入ったかい?中々に高いけど、少しはまけてあげるよ」
言われ財布を覗き込むノア、まぁコレくらいなら足りっかと支払いに動こうとした時、大きな影が彼女の前を横切りそして……
「ねぇ、おばあちゃん、これ本当に私払わなくていいの?え、と言うより食べていいの?」
「いや、まぁ、社長が良いというのだから、いいのじゃろうが……」
「ウメェなコレも、帰ったらあれだなアストラ辺りに作ってもらえないか相談してクフェアにも教えてやらねえと、ってなんだ、食わねぇのか?」
「代金ならば気にしなくても良い、君たちには寧ろコレでは不足なほどに負担を掛けてしまっているからな、気にしないでいくらでも注文してくれ」
そんな気楽に頼めるほど私達は、肝座ってませんからねぇ!?という心の叫びを無理やり抑え込んでかなり硬い笑顔でありがとうございますと伝えてからクレープを食べ始める、はっきり言えば味は上手く認識できなかった。
あの後、万華鏡の代金をクルーガーが支払い何事かと思えば
「こうして会ったのも何かの縁だ、君たちには本当に様々な仕事を頼んでしまっている、だと言うのに表彰も何も出来てないからな……せめてこういった形で労わさせてくれないか?」
ここはクルーガー曰く彼も気を休めるために極稀に来る街、どうやら雑貨屋の老婆やあの老人とも知り合いらしいがそれは置いておこう。
最後に、この三人と社長がクレープを食べてる光景は後から心配になり見に来た老婆曰く、久しぶりにあった祖父と孫娘達の交流のようだったらしい。
あの老婆と老人ヤバない?(今更)(何他人事なんだこの作者)
因みに万華鏡は無事クフェアちゃんにプレゼントされました、ノアちゃん的には彼女の心の傷を癒やすつもりだったけどクフェアちゃん的には思考が停止するくらいに嬉しかった模様(加速する勘違い