それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
副官こと【ナガンM1895】の朝は早い、それがたとえ休日でも平日でもおおよそ日が昇る少し前には起床、朝の日課の自身の二丁の愛銃の点検を行う。
因みに二丁持っているがそれぞれ役割、使用する場面が決まっている、片方には特にアクセサリーは付いておらず緊急時や護身用に使われるもの、そしてもう片方にはサプレッサーが装着されており外に出てる際にどうしても必要になった場合、もしくは人混みからの暗殺などに使われる。
その二丁の点検を終えて両脇のホルスターに収めてから肩と首を回してからグッと椅子の背もたれを利用しながら伸びをして立ち上がり部屋を出て執務室に向かうのだがその日は何と言うか妙に
「あ、おばあちゃん!後で私達が肩とか揉んであげるわ!」
「よぉ副官、昨日ちょっといい酒が手に入ってさ、明日休みだし呑まねぇか?」
「ナガン、今日は早めに上がっていいよ、そんなに多いわけじゃないからね」
別に嫌だというわけではないのだが妙に自分を気遣っているような気がすると副官は感じていた、上2つは執務室に来るまでにP7とM16、最後のは今彼女の横の机で書類と格闘しているユノの言葉、確かに今日の仕事量はそこまででもないし、残りだってナデシコからの監視任務なので副官は何もずっと居なくても大丈夫といえば大丈夫な仕事、なので言われればまぁ偶には良いかと言葉に甘える。
が、どうにも気にかかる、だが思いつかない、しかし
「皆が嫌に気に使ってる気がするんじゃよなぁ」
「え、それ私の隣で呟くの?」
場所は射撃訓練所、業務を早めに上げられた副官はその微妙にもやもやする感情のまま銃を握って的を撃ちつつそんな事を呟けば隣でいつものように鍛錬をしていたコルトSAAがジト目で副管を見つめる。
因みにだがコルトの方は何となしに副官が感じてるその違和感の正体、もっと言えば大本の原因に感づいている、感づいてはいるが口にしたら自分もその環に入ってしまうそうな気がして口にしたくないだけである、彼女は自分をまだ若いと思っている少女である。
それから数十分ほど射撃をしながら考えるも思いつかず、だが悪い気はしないとその日一日を彼女たちの好意に甘えながら過ごしていくことにした、時に孫娘とも言えるP7達がFive-sevenかUMP45から教わったのかマッサージを受け、M16が手に入れたというお酒を受け取り、続けて
「おっと、居た居た、ばーちゃん!ほいっ!」
「っとと、なんじゃこれ?」
「あ~っと、ほら、あれだ、任務の途中で街に寄った時に食った串焼きだ、すげー美味かったからお土産ってやつだ、うん」
じゃあなとまるで逃げるようにノアが去って行ったほうを見つつ、投げ渡された串焼きを見て
「まぁ、酒のツマミにはもってこいなのじゃが、今日何かあったか?」
此処までされれば副官も今日はなにかそういう日なのではないかということを勘付き始める、それから電脳でこの日に何かあったかを考えつつ歩いてる時に、目の前から来たのは62式、コレがもし64式自や一〇〇式とかならばもう少しだけ誤魔化せてたかもしれない、だが彼女は……
その日の夜、今日がどういう日なのかも理解できてモヤモヤが晴れ、全くだったら素直に言えば良いものをと嬉しそうに笑いながら少し冷え始めて夜風が吹く屋上にて一人酒盛りをしていた。
本日は敬老の日、この基地でそれに当てはまるとすれば確かに副官くらいであり、ユノがおばあちゃんと呼ぶように気付けばこの基地にとっても彼女はおばあちゃんであり、そんな彼女に救われ、教わることも多々あったから今日の気遣いに繋がっていると分かれば
「呵々、揃いも揃って素直に感謝の言葉を言えばよかろうて」
「それは、私が代表して言うって決めてたからだよ、おばあちゃん」
む?と振り向けばこの時間だと言うのに着替えず軍服のユノの姿、普段であればもう自室にて旦那であるクリミナと一日を語らいともに寝るだけというサイクルのはずの彼女がここにいることに少し驚く副官。
一方、向こうもこの反応をされるのは薄々思ってはいたので苦笑いをしながら彼女の隣に座り、それから
「今日までさ、本当におばあちゃんには助けられっぱなしだったよね」
「……そうさな」
「何するにしても、おばあちゃんが居なかったら出来なかっただろうし、大きな作戦だってうまく行かなかったかもしれない」
「買い被りすぎじゃ、その頃のお主であればわしが居なくとも上手くやれたじゃろうて」
グイッとM16から貰った酒を呑みながらそう返す副官、だがユノは首を横に振ってそんな事無いよと答えてから
「それにさ、おばあちゃんが居なかったら、もしかしたら私がこうして生きてないかもしれない、そんな場面だってあったんでしょ?」
「……あぁ、無かったわけではない、お主に黙って泥を被り守ってたさ」
「その事に私は今まで知らなかった、だからまずは謝らせて、ごめん、指揮官としてキチンと知ってあげるべきだった」
「馬鹿言え、お主が被る必要がない泥をわしが勝手に被っただけじゃ」
願わくば汚れを知らなくても良いように、だがもうそれは叶わない、ユノは自分から前に進み暗部という存在を知った、弱いと思っていた彼女が気付けば自身が支えなくても立ち続けることが出来る肩を並べられる存在にまで成長していた、それを思えば嬉しくもあり、だが同時に、もう自分から離れていくのかもしれぬなと寂しい気持ちも現れる。
「もう、わしは必要ないかのう」
「それこそ何言ってるの、だよ。これからもおばあちゃんには側で助けてもらいたい、ううん、そうじゃなくて、共に助け合いたい」
真剣な瞳が副官を見据える、こういう時は指揮官として成長した目をするのは卑怯じゃろうてと笑い、また一口飲んでから、まぁと一つ前置きをして
「確かに今のお主のまま副官を離れるのは少々不安じゃのう」
「ん?」
「肝心な時にまだ失敗をする、ドジを踏む、人と対話がまだ不十分」
グサグサと急に風向きが変わった言葉の針がユノを襲う、あれなんか雰囲気が予想してたのと違うんだけどと彼女が口にする暇もなく、口撃は更に続く
「更に言えば書類も未だミスが出るわ、自身に関わる重大なことは心配掛けたくないからと黙り続ける、コレに関しては昨日クリミナから苦情が来たぞ、お主はわしらを家族だ仲間だ言いながら何故黙っておる、信頼できないと取られても文句は言えぬぞ」
「あぐっ!?……うぅ、ご尤もですはい」
「お主のそれは美徳でも何でも無い、早急に治すべき悪い癖じゃ……まぁこんな風に少し突けばボロボロ出てくるお主の副官、わしくらいしか務まらんじゃろうて」
うぅとグサグサと容赦なく言葉の針に刺されたユノは、だが当初の目的を果たさねばと立ち直り、酔いが回り始めたのか少々赤い顔した副官であり大好きな祖母とも言える存在の彼女に
「今日まで、本当にありがとう、それとこれからも宜しくね、おばあちゃん!」
こうして敬老の日は幕を閉じる、だがその裏、ノアの自室にてまた一つとある出来事が起きていた、彼女の部屋、そのベッド、一つの影がベッドの誰かに覆い被さっていた
「く、クフェア……?」
「ノア、私ね」
貴女が欲しいの、その瞬間、普段の彼女からは考えられないほど顔を赤くしたノアがそこには居た。
何気なく話題振られるコルトSAAちゃんであった。
え、最後?さて、何のことやら