それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
月明かりだけが照らす彼女の部屋、なんてこと無い今日もクフェアがノアの部屋を、いやこの際だから言えばほぼ毎日のように二人は一緒のベッドで眠っている。
とにかく今夜もそれは変わらなかった、いつものように部屋に来て、いつものように寝るかと横になり、気付けばマウントを取られていたというのがノアの感覚であり、更に言えばなんか凄いことを言い始めたクフェアに思考が追いつかなくなっている。
(あ、アタ、タタタ、アタシが欲しいダァ!!???)
彼女は勿論だがこういう事を言われたことはない、あるとしても体が欲しいとかそういう意味でしか無い、なので明らかに今回は意味が違うそれをノアは理解できてるし、そして理解した上で混乱しているのだ。
普段の彼女とはかけ離れた顔と声にノアは思わず顔を赤くするのを止められず、心臓の鼓動も妙に早まり始める。
「お、おぉおい、クフェア?一体どうしたってんだ!?」
「……違う、欲しいじゃない」
「お、おう?」
ノアを見つめたままクフェアはそう呟いたかと思えばその体制のまま、何かを考え始める、言葉から察するになにか言いたいのだろうがその言葉が出てこないという感じだろうかと動くに動けないのでノアは考えていると
「そうです、私を貴女の物にしてください」
「本当にどうしたんだオメェ!?」
と此処でノアは微かに月明かりで晒されたクフェアの表情を見て妙に赤いことに気付いた、自分で言っておきながら恥ずかしがってるのかと思ったのだがそんな感じではない、それから遅れるように彼女から微かに嗅ぎ慣れた匂いが
間違いない、これは酒の匂いだと気づくまで時間は掛からなかった、そして狙ったかのタイミングでコロンと瓶が転がる音、何とか動かせる視線を向ければ、ジャックダニエルと書かれたラベルが貼られた空き瓶。
(……あ、そういや呑んでたっけ)
自分は全く酔わないからと呑んでてたのだがクフェアも付き合いが非常に良い少女であり、無理はするなよとノアが一言伝えてはいたし、それなりに強いから大丈夫だろうとすら思っていたが、此処まで酔うくらいには付き合っていたらしい。
つまりこの行動は酔ったからの行動なので適当に……とは言い難い、酔っ払ってはいるのは確かなのだがその場合は本心というものがくっきり現れるものだとノアはM16から教わっているので
(本気、本気でオメェはそう思ってんのか?)
「ノア……」
艶めいた声が耳に届く、酔いが回りに回り恐らくは理性という部分はもうなくなっているだろうクフェアはゆっくりと腕の力を抜いてその顔をノアに近づけていく、一方純粋な力勝負ならば振り払うことも落とすことも出来るはずのノアは何も出来なかった、嫌だという拒絶感が出ない、寧ろこのまま成すがままでも良いんじゃねぇのかとすら思い始めた所で
(え、何思ってんだアタシ?)
我に返った所でクフェアが急に力が全部抜けたようにストンとノアの大きな胸に沈む、見れば安らかな寝息を立てておりどうやら先に良いに酔って睡魔が回ったらしいと言うのが分かる。
だが今のノアはそれどころではなかった、ついぞクフェアがやろうとしたことは未遂に終わったと分かった時、彼女は確かに
(……なんで、なんで今、残念って)
戸惑いを隠せない彼女、結局その夜はクフェアの安らかな寝息を聴きながらずっとその事を考え眠れずに朝を迎える。
朝、クフェアが起きた時にはノアはベッドにはおらず、横に備え付けられている小さなテーブルには『今日は弁当は要らねぇ』という書き置きだけが残されていた。
「……」
頭が痛い、漸く意識が覚醒し始めたクフェアが最初に感じた感覚、それから昨夜の記憶が曖昧だということに気付いて思い出そうと電脳に潜った時に、急激に顔を真赤に染めることになる。
自分が意識が完全に落ちる直前までの光景をリピート再生してしまったのだ、それはつまりノアに自分が覆いかぶさり、貴女が欲しいだとか貴女の物にしてとか伝え、あまつさえキスからの行為をしようとしてしまったという場面、だが彼女は別にこの行動が恥ずかしかったというわけではない、彼女の中では好意を伝えるというのは大体こういうことだろうと思ってしまっているからだ、ではなぜかと言えば
(私、ノアが好きなの?)
無意識だったその感情に、今彼女は気付いた、助けてもらい、手を差し伸べてくれた彼女に自分は惚れ込んでいたのだと、いや、もしかしたら牢獄とも言えるあの部屋で出会い、会話をした時には一目惚れだったのかもしれないと。
寝間着のままギュッと胸を抱く、ずっと心の中で燻っていた小さな『恋』という火がゆっくりと、だがそれでも十分な速度で大きくなっていくのが分かった、だからこそ昨夜のあの行動に思わず
「嫌われて、ないといいな」
普段の彼女ではなく、年相応の、だけど初恋をした少女のような口調と声で小さく呟き、何だかんだでノアが気を利かせて被せてくれた少し薄目の掛け布団を抱きしめれば、フワッとノアの匂いを感じた所で
(ちょっと、癖になるかも)
いや、駄目だからと頭を振って彼女も着替えて部屋を出る、今日も彼女は業務をこなすのだが、ちょくちょく上の空になったり、少し落ち込んだりが見られたらしい。
だがそれよりも深刻だったのは……
(クソッ!違う、こんなのアタシじゃねぇ!!)
何かを振り払うように頭を振り、苛立ちを隠す素振りもなく休憩のために座っていた廃車をぶん殴る、あれから彼女はひたすらこの気持ちに、クフェアに対する心情に振り回されていた。
コレが何のかは知っている、理解もしている、だからこそどうしてだと戸惑いが生まれる、自分はコレを持つことを恐れていたはずだと。
(ちげぇ、アタシはアイツを保護しただけだ、絶望に浸かってたアイツを放っておけなくて、手を差し伸べただけだ……だけなんだ!)
結果、彼女は笑うようになった、表情をコロコロ変えてくれるようになった、素直にこれは嬉しいと思うし連れて帰ってきてよかったと思っている。
そんな彼女を見るのが楽しかった、今まではそれは自分がしたことは間違ってなかったという安心からの気持ちだと思い込んでいた、だが
(『好き』だってのかよ、アタシが、アイツを?)
自分が基地にいれば何処に行くのにも付いてきて、朝は何を気を使ってるのか弁当を持ってきて、任務から帰ってくれば誰よりも自分を出迎えに来て、夜は自分を頼るように共に寝ようとやってくるクフェア、その時その時の表情を思い出して、心がざわついた、しかしこのざわつきは決して好きを自覚し動揺、もしくは戸惑いから来たものではない
(だって、『好き』になっちまったら、『失っちまう』じゃねぇか)
彼女は、誰よりも臆病な少女である。
あれ、只々くっそ甘いドタバタラブコメに、あれ?
これSession分けしたけど前後編で終わるかも、あとイベント始まりましたがまだ手を付けられてません、明後日やります、多分