それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
ノアという少女は過去のあの出来事で過剰なまでに誰かを、何かを自分の中で特別にするという事に恐怖を抱いている。
当然といえば当然ではあるだろう、過去にその特別だった存在である『妹』達を守れず全員を失ったというのがあれば嫌でもそれがトラウマとして彼女の心に深い、本当に深い爪痕を残してしまっている。
だから、自分の中でクフェアの立ち位置が保護し目が離せない少女から一人の『特別』になっていることに気付き、彼女は恐怖していた。
(そんな、駄目だ、アイツを特別にしちゃダメだ!)
振り払わなければ、距離を離さなければ、そうしなきゃ失っちまうと彼女らしからぬ思考の暴走が働く、見れば顔も普段の勝ち気な表情は鳴りを潜めて焦燥に駆られた顔。
だからだろう、その日の空中哨戒の任務を終えて何時も通りに戻ってきたノア、そこにはこちらも普段と同じように、だが何処と無く心が踊っているような表情をして出迎えに来ていたクフェアが駆け寄ってくる。
「おかえりなさい、ノア!……ノア?」
無意識にノアは駆け寄ってきたクフェアから距離を取る、その行動を不思議に思い彼女を見た時、クフェアは言葉を失った。まるで自分を恐れるような眼でノアは彼女を見ていた、最初はあの夜のことでやっぱり嫌われたかと思ったが向こうがすぐに自分でも驚いたという風な表情になり、それから仏頂面に変わり
「……ただいま」
「え、あ、ノア、どうし」
「来んな!!!」
「っ!?」
いつもであれば彼女と共に今日この後どうするのかと話しながら基地に入る、だが今回はただ一言それを告げてからクフェアの隣を速歩きで通り過ぎようとするので引き留めようとしたくクフェアを襲ったのは初めての拒絶の声、それに驚き固まるクフェアにノアはやってしまったという表情、いや、もっと言えばそんなつもりはなかったという顔にも見えた。
「ノ、ア?」
「あ、いや……じゃあな」
何かを言い繕うとしてそれを諦め困惑する彼女を置いてノアはさっさと基地に戻ってしまう、一人どうすることも出来ずに取り残されたクフェアは今の彼女の行動に衝撃を受けながらも動揺した頭で先程までのノアの表情と声をゆっくりと反芻していく。
確かに拒否ではあったと、でもなにか違うものも混ざっていたという風にも感じ取れた、だけどそれが分からない。
「あ、居た居た、クフェアちゃん!」
「指揮官さん?あっと、すみません、少し考え事してて、直ぐに基地に戻ります」
「いや、それもそうなんだけど、ノアちゃんと何かあった?さっきすれ違ってクフェアちゃんはって聞いたらテメェには関係ねぇって言われたんだけど……」
話そうか悩んだ、だが自分だけで解決できるとは思えなかった彼女は何処か話せる所でゆっくり話せないかと聞けば、それだけで何かを察したユノは小さく頷いて何処かに通信を入れ、それから案内されたのは普段であれば平日は開かないはずのカフェ、その奥のテーブル席に通され
「どうぞ、ココアでございます」
「え、あ、ありがとうございます」
「ありがとスプリング、じゃあ宜しくね?」
「畏まりました、済んだら通信で教えてもらえれば戻りますので」
ペコリと一度お辞儀をしてからスプリングフィールドはカフェをから出ていく、それを確認してからユノはココアを一口飲んでからクフェアに促すように優しく頷く、その時の瞳は普段の彼女ではなくノアの姉としての穏やかで、何処と無く心配そうな色が見える感じにクフェアはゆっくりと口を開く。
気付けば、全てを話していた、自分はノアが好きだということ、昨夜ちょっとお酒に酔ってゴタゴタがあったこと、今朝ノアが自分を起こすことなく任務に出て帰ってきたら何かを隠すように自分を拒絶したこと、とにかく話していた。
その間、ユノは一つ一つを真剣に聞き、時に頷き、時に何かを考える素振りを見せながらキチンと彼女の言葉に耳を傾け、終わってから
「そう、か。クフェアちゃんはノアちゃんが好き、なんだね」
「は、はい、多分、出会ってからずっと、好きです」
「ふふっ、でもそうか、昨日のことで怒ってるって感じでも無さそうだし……もしかして」
何かに思い至ったユノの声にどうしたのかと聞けば、あくまで自分の予想だけどと前置きをしてから
「ノアちゃんはさ、聞いたと思うかもだけど昔、妹たちを皆、失ってるんだ。だからなのかな、あの娘って一つをこう、深く気にいるって事をしないと言うか、なんだか平等に好きになるって言う感じがするんだ」
「それは、どうしてですか?」
「ごめん、そこまでは分からない、あまり自分のことを聞いても話してくれなくて。でも考えられるとすればその昔の出来事が間違いなくあの娘の心の中にあって……あ、いや、ノアちゃんは妹たちを大切に想っていた、だけど失った、と言うことは」
誰かを突出して気に入り、失ったときのことを恐れてる?この時ばかりはユノの勘の鋭さと言うべきか、驚愕するレベルの人間観察の能力の高さと言うべき、ともかくクフェアは今の話だけでノアと言う少女をプロファイリングを始めるユノに驚きながらもクフェアはだったら先程の態度にも合点がいくと頷く。
要はあれは自分を嫌ってもらおうという行動でもあり、ノア自身も彼女から離れようとしてしまった行動だと。勿論コレは彼女たちの推測ではあるがきっとそんな気がするとクフェアは確信にも似た感情があった、毎晩彼女と共に寝ているから知っている、だってノアは
(いつも、魘され、一人にしないでくれと言ってますから)
クフェアは決心をした、今日彼女に告げてしまおうと、そして少し怒ろうと、この事をユノに伝えれば少しだけキョトンとしてからハハ、と先程までの雰囲気を霧散させてクフェアが知る彼女の声で笑ってから
「お願い、お姉ちゃんだけど、私じゃ踏み込めなくて……」
「はい、任せてください」
こんなやり取りを行ってから、結局その日は夜までクフェアとノアは会話一つ出来なかった、この光景に何かあったのかと周りの人形達も二人に聞くがノアはぶっきらぼうに返し、クフェアは少しだけと暈して答えるに留める、彼女としても何とか少しだけでもと思っているのだがノアが逃げるように動くのでそれも叶わない。
なので彼女は夜、ノアの部屋の前に立っていた、理由は唯一つ、何を思ったのか怖がり、拒絶してこようとする彼女に物申してやろうと、覚悟を決め扉をノックし、少ししてからゆっくりと開かれた……そのタイミングでガッと扉の隙間に自身の戦術人形としての愛銃である【サンダー】の銃身を挟み込んで
「ノア、お話があります」
「……帰れよ」
「帰りません」
「帰れよ!!!」
「帰れるわけないじゃないですか、この臆病者!!!!」
後にクフェアが語る、コレが初めの夫婦喧嘩だと、因みにそれを語った隣でノアが今も夫婦じゃねぇんだが!?と叫んでいたのは余談だろう。
くっついてすら居ないけど)夫婦喧嘩はっじまっるよー!