それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
基地の一角、主に兵器類が保管されている車庫や倉庫が並ぶ区画、その中でもD04基地から送られてきたM1エイブラムスなどや装甲車を止めている車庫の屋根の上。
そこに今回の主役……
「スゥ……んにゃ、スゥ……」
ポカポカとした日差しの中で猫のように丸まり安らかな寝息を立てているのは紫のリボンが特徴的なルピナスのダミー四姉妹の末っ子、【ディアナ】である。
どうやら今日は彼女が動き出したようで、何を思ったのかこの場所で改めて寝ている。彼女、ディアナは気弱であり、少し臆病の引っ込み思案、更に言えば泣き虫であり、また四姉妹の中でも一番の甘えん坊という特徴があるのだが更に言えばマイペースでもあったりする。
何かを見つけてはフラフラと向かったりついて行ったり、かと思えば適当な所で急に眠りだしたりと、いわゆる、自由に歩けるようになって好奇心旺盛の子猫、というのが彼女にピッタリな言葉になるだろう。だがふと目覚めたり、周りを見渡した時に誰も居ない、もしくはユノ達が居ないとなると急に心細くなり泣き出してしまう、というのも子猫だと言われる由縁だろう。
「ふにゃぁ……スゥ……」
しかし、しかしだ、幾ら人形でありダミーの中でも本体と同等レベルに動ける彼女と言えど車庫の屋根から地面まではそれなりの距離があり、また屋根自体も決して安全に寝れるという幅ではない、そんな状況下でここまで寝息を立てながら寝れるというのはある意味肝が座っていると言うべきなのか、それともマイペースが強すぎるというのか。
そもそもにして、なぜ彼女が此処で寝ているのかと、それは起動した直後の出来事である。もはや何度目かは分からない勝手な起動をしてからディアナはキョロキョロと辺りを見渡しながら、時には他の人形に挨拶をしながら外に出た時に彼女の視界に入ったのは一匹の蝶、それを見つけたディアナはキラキラとした瞳で捕まえようと追い掛け、丁度この屋根の上に止まったのを確認して向かったのだが
「あっ」
あと一歩という所で蝶はまた飛んでいってしまった、それならば降りればと言うことなのだがふと、視線を下に送った際に思ったよりも高いこの場所に身体が固まり急に弱気な気分に陥り、身体を縮こませながら視線を外して
「うぅ、ど、どうしよう」
要は、高さに恐怖してしまったのだ、それこそ木に登ったはいいが降りれなくなってしまった子猫のように、このまま誰かが来るまで、もしくは思い切って泣いてしまえば誰かが来るのではないかとすら考えた時、なんだか此処って暖かいなと気付く
もしかしたら単純な現実逃避だったのかもしれないが事実そこはよく大福が日向ぼっこからの昼寝に使うスポットであったりする、ともかくディアナはそのポカポカとした陽気に恐怖を忘れるためか、はたまた割と本気で眠くなったのか丸まって、冒頭に戻るということだ。
「あ?あれ、ルピナス……じゃねぇな、アイツさっきダミーがまた勝手に動いてるだ何だ言ってたし、おい!」
それを発見したのは朝の散歩中だったノア、あんな所で寝てたら危ないだろうがと思いながら声を掛けてみる。掛けられたディアナはというとビクッと身体を跳ねさせてからムクリと顔を上げて声がした方を見たのだがこの時の彼女はまだ寝ぼけており、視界も若干ボヤケている、なので
「……ママ?」
「へ?」
「ママァ、よいしょ、ママ!」
「ちょ、おま!?」
ほぼ顔だけしか見ずに特徴が殆んど一致したのでノアをユノと勘違いしたままディアナは寝ぼけふらつくはずの身体を起こして勢いよくノアのもとに飛び込む、そんなのを見れば慌てるのがノアでありともかく怪我をしないようにと飛び込んでくるディアナの下まで向かいキャッチするが想定よりも勢いが良かったがために尻もちをつく
「っと!馬鹿、あぶねぇだろうが!!」
「みゅう、ママ……ママ?」
胸に顔を埋めユノだと思いながら堪能するディアナだったが今掛けられた声、そして匂いなどが微妙に違うと感じて小首を傾げなら顔を上げて飛び込んだ主をよくよく見てみれば
「ノア、おばちゃん?」
「オメェにそれを教えたの、ぜってぇ57だろ、後で〆る」
なお、冤罪であり真犯人はMDRだったと知るのは少し後である。流石に叔母呼ばわりされるのは色々と悲しいので訂正しようした時、何を思ったのかディアナはモゾモゾと動き出して彼女の足の間に器用に丸くなって
「おい?」
「スゥ……スゥ……」
「おい……はぁ、どうすんだよこれ」
どうやら下に降りれて安心したらまた眠くなり寝てしまったディアナにノアは呆れつつも動けなくなったこの状況をどうしたものかと考える、恐らくは下手に動けば起こしてしまう、流石にそれは可愛そうだしなぁと思っていると散歩から戻ってこないノアを探してかクフェアが現れて
「あれ、ルピナスちゃん?」
「いや、コイツはディアナだな、紫のリボンしてるし」
で、コレどうすりゃいいかなと彼女に聞くノアなのだが手はディアナの頭を優しく撫でており、口ではそう言いながらも顔は綻んでいると気付けばクフェアは
「そのままで居てあげたらどうですか?起こすのも可愛そうですし起きるまで」
「起きるまでって……ガキは何時起きるか分かんねぇぞ」
「それなりの時間になったら起きると思いますし、もし長くなりそうならお義姉さんを呼ぶのはどうでしょうか?」
もはや自然にユノをお義姉さん呼びしている彼女にお前はと思いながらもノアはクフェアの提案に乗ることにした、今日は休日なので別に朝の数時間くらいは潰されても問題ないし、クフェアが居るなら退屈もしないだろうと思っている。
それに、何だかんだで子供がこうして自身を信頼して安心して寝てくれているというのは少しだけ嬉しかったりするのだ、なのでもう少しこの時間を体感していたいという思惑もあったりなかったり。
「ノアって、子供が好きなのですか?」
「んだよ突然、まぁ嫌いじゃねぇな」
へぇと一言呟いてから安らかな寝息を立てるディアナを見つめて、自分も少しだけでと撫でてあげれば嬉しそうに口元を緩めるディアナ、恐らくだがこの時点でも彼女はユノの足の間で寝ていると思っているし今撫でたのもユノかクリミナかと勘違いしているのだろうがそれでも
「可愛いですね、やっぱり子供は」
「だな、しかしそこまでアタシとあの能天気バカと似てるのか?髪とか目の色とか、雰囲気とかちげぇだろ?」
「意外と波長とかは同じ、とかですかね?」
数時間は寝てるかと思った二人だが予想に反してディアナは数十分経ったくらいにフッと眠りから覚めてアクビをしながら起きたのだがその時になって漸く
「ママじゃなかった!?」
「いや、オメェあの時に気付いてなかったのかよ、名前言ってただろうが」
「ふふ、おはようディアナちゃん」
その日、ディアナはノアとクフェア、その後はヴァルター夫婦とも甘えに甘えて一日を過ごしたとのこと。
主役とか言いながらノアとクフェアカップルに半分くらい出番取られてた気がするやーつ。
因みにこの時のノアの子供は好きという言葉があのD08カフェのデリバリーの際の私なら妊娠できます宣言に繋がるらしいぞ?