それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
その日は、朝から生憎の天気……などという生易しいものではなかった。吹き荒れる風、窓を激しく打つ雨、そして何より結構な頻度で空が光ったと思えば
「1……2……3……4……」
バーン!
「今の近いのう、これはまだまだ荒れそうじゃな」
副官の言葉にVectorがそうねと答える、本日は雷雨なり、しかもこれは嵐と呼べるものでありまだ朝だと言うのに暴風雨によって外の視界は最悪に近く、また風の強すぎるために基地巡回のダイナゲートとスカウトも一時的に撤収命令が出されるほど、更に言えば
「帰った、駄目だこりゃアタシでも飛べなきゃねぇが地上の様子がろくすっぽ確認できねぇしさっきなんか雷がかなり近くまで落ちて危なかったぞ!」
「やれやれ、となると今日は休日だが指揮官の出番になってしまうか」
「彼女としては寧ろ好都合だという感じにナデシコまで向かってたけどね。まだまだ嫌いのようね」
二人の会話にあ?と疑問符が浮かぶノア、一体何がと聞こうとすら行動した時、その動きは彼女の後ろからバスタオルを手に持って現れたクフェアが有無も言わさずにそのタオルでノアの頭を拭き始めたことで中断させられる。
「もう、この嵐の中、哨戒任務に出て帰ってきたなら身体拭かないと風邪ひきますよ?」
「にゅわ、ありがてぇが自分で拭けるしそもそもアタシは風邪引くような体質じゃねぇっての」
後にユノが一度風邪を引いたし過労でも倒れたことがあると聞いたノアの一言は『あいつもしかしなくてもメチャクチャな虚弱体質だったんじゃねぇの』だった模様、尚これはユノにしっかりと突き刺さり、落ち込んでカフェでケーキを食べている姿が目撃された。まぁそれは今は関係ない余談なので置いておこう
そんな話題の彼女、ユノはVectorの言葉通り地下の特殊戦略室にてナデシコと繋がり休日返上で監視の任務をこなしていた、だがオモイカネからすれば態々返上までしなくてもいいのにという感想、一応ユノが繋がってなくとも現状ならばナデシコの機能の3割はオモイカネでも使えるので簡単な監視は可能、なので
「指揮官は休んでても良いんじゃないのかな?」
「そうかもしれないけど、ほら、この嵐でうちの基地も禄に哨戒任務が出来ないってことは他の地区や基地も同じだろうし、そういう時こそ私が一番輝くからさ」
「そりゃあ、そうかもしれないけど」
ナデシコ、もといユノのルーラーとしてのその監視能力は如何なり状況でも正確な監視ができるというのが一つの売り文句にある、だと言うのに勝手に決めた休日なのでしませんではユノとしても向こうから何を言われるか分からないというのがある。
だが、理由はそれだけではなかった、彼女としてはこの天気の中で休日を楽しむ、と言う気分になれずに逃げてきたというのもあったりする、と云うのも彼女は虹を初めて見たあの日からかなりの時間が経った今でも雨が苦手なのだ。
「どうしても、思い出しちゃうんだ、クリミナ達が居てくれるお陰で幾分、ううん、かなり落ち着いてきたけどそれでも古傷は疼くし、気分がどうしても落ち込んでいっちゃう」
「あ~、そう言えばそんな事話してくれてたね。今日みたいな暴風雨とかだとやっぱりキツイ?」
「正直に言えば、うん、普段くらいの雨なら最近はもう平気だけど……」
電脳体なので疼くはずのない古傷の部分を擦りながら苦笑しつつ答える、彼女としても自分の今の状況がちょっと情けないなと思っており、どうにかしたいとは思っているのだが中々その過去のトラウマが振り切れないでいた。
対してオモイカネは悩む仕草をしてから、自身で出した椅子にヨイショと腰を掛けて
「そんなに慌てないで良いんじゃない?」
「え?」
「だって、過去の傷ってのは直ぐに消せるわけでも治せるわけじゃない、それこそ死ぬまで抱え込んじゃうってやつだって、どっかで聞いたよ?」
そもそも簡単に消せたりするなら多分皆もう少し前を向けてるんじゃないかなと自身の目の前の地図を見つめながら続ける、オモイカネにもトラウマとは違うがそういう物を持っている……いや
(正確には、あたいの『大元』か)
きっと、あの時に銃爪を引いた彼女もまだ引き摺りながらも生きているのだろうと考えるとオモイカネも少しだけナイーブな雰囲気になってしまう、が今回は指揮官を励まさないとねとすぐに思考を持ち直してから彼女を見れば、監視をしながらも何かを考えている姿。
「悩み事?」
「あ、まぁ悩み事と言えばそうかな、私ね、ずっとしっかりしなきゃって思い続けてるんだ。今はほらクリミナや、ルピナス達が居るから尚の事さ……でもこういう天気になると本当にボロボロ色んなものが剥がれて溢れ出てさ」
どうしても隠し通せなくなってしまい、本当ならば皆と雨でも何とか過ごしたいとは思うのだが今の彼女を見れば嫌でも周りに気遣わせてしまうと考えてしまい、それならば休日返上で役に立てることをしてしまおうとこうしてナデシコに来てしまったとユノは語る。
思ったよりも根深い彼女の問題にオモイカネもどうしたものかと悩んでいると、突如ユノの前に投影モニターが表示されそこに映っていたのは彼女を親友を自称、いや、もう既に本当にその立ち位置に来ているハイエンドモデルのアーキテクト、彼女は休日だと言うのに基地の何処にも居ないユノを探してこうして通信を繋げてきたらしい。
《あ、居た居た、ユノっちそこで何やってるのさ~》
「アーちゃん?あ、えっと、こんな天候だからどの地区も監視が更に必要かなって思って」
《むぅ、真面目すぎるよ~それにこの嵐じゃあ鉄血も動けないと思うよ?アイツラ確かにしっかりしてても悪天候に絶対に強いってわけじゃないし、オモイカネだけでもどうにかなるレベルじゃないかな》
「そこであたいに振られるのか、まぁアーキテクトの言葉通り無問題だね」
だけどなぁというのはユノの言葉、彼女的には今の自分はあまり周り見見せたくないんだよなぁという感情が大きい、だからこそオモイカネは
「ほぉら、行ってきなって、疼くなら嫌なこと思い出しちゃうなら前に副管が見せてくれたっていう虹の時みたいにそれ以上の楽しいで覆い被せちゃえば良いんだよ」
「それ以上の……うん、そう、かもね。それにこうやって逃げてる方が色々心配させちゃうだろうし」
《そうそう、んじゃ食堂で皆止まってるね~!》
ブツリと切れた通信、アーちゃんはいつも元気だなぁと笑いながらユノも
「じゃあ、行ってくるね」
「おうさ、ここの預かりは任せて楽しんできなよルーラー!」
あ、やっべまたそう呼んじゃったと申し訳無さそうに笑うオモイカネに仕方ないよと笑みを返してから彼女はログアウト、その日はどうやらアーキテクト達が色々と楽しませてくれたらしく翌日にナデシコに来たユノの顔は輝いていたとのこと
だけど少しずつ改善はしつつある、前進ができるなら彼女はまだ弱くない。
この作品でVA-11 Hall-Aコラボ(仮)やろうとするとナデシコの電脳空間がくっそ使いやすいのではと言うことに気付いた今日このごろ
……まぁ書くかはまだまだ考え中なんですけどね、VA-11 Hall-Aの本編買ったのでクリアしたいし