それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

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周りから見たら大丈夫なのかと言われる一日


彼女的には楽しい一日

朝方、いや、早朝と言ったほうが正しい時間帯の中庭に、ノロスケだってまだ起きていない時間帯のそこに一つの影が現れる。その手には角砂糖が詰まった瓶を持ち無表情で中庭の所定位置に向かいしゃがみ込んでからキュポンと言う音を響かせて瓶の蓋を開ければ、一つだけ手に持ち、そっと地面に置く。

 

暫くすればワラワラとその角砂糖に集まり始める虫、小さいながらも懸命に生きている蟻が角砂糖をその顎で崩し一匹一匹が巣に持ち帰っていく。その様子を先程から変わらずに無表情で眺めるのは【イングラム】彼女は決まって毎朝コレを行っている。何か深い理由があるということもなく、では趣味なのかと聞かれればそれも微妙な所だと返し、では何故?と聞かれてもなんとなくよとしか返されないが彼女はコレを欠かさない。

 

そうこうしている内に1つ目の角砂糖が遂に蟻の集団によって解体され尽くす。それを見計らって彼女がまた角砂糖を落とせば先程と同じようにワラワラと群がり解体作業を再開する。

 

「……いや、本当によく飽きもしないで見てられるわよね」

 

早朝から始まったアントウォッチング。それは瓶の角砂糖がいい感じに減り始めた時間、朝食になっても帰ってこないイングラムを探しに来たM21が来るまで、否、誰かしらが止めなければ永遠とこの光景を眺めているだろう。ともかく毎度毎度こうして呼びに来るM21からしてみればもはや呆れの粋であり、意味のないため息を吐いてから

 

「イングラム、もう朝食の時間だよ」

 

「もう、そんな時間だったのね……えぇ、今行くわ」

 

「だったら立つ素振りは見せようよ、いつものことだけどさぁ」

 

名残惜しい、そんな感じに蟻の行列を眺めるイングラムの腕を引っ張り立たせてM21が歩き出せば、やれやれと言う感じに彼女も歩調を合わせる。これが朝食前までの彼女。では時間を進めよう……

 

朝食後、本日のヤークトフントチームは非番なので誰しもが自由に過ごす中、イングラムはと言えば

 

「貴方は本当に動かないのね、クケケッ」

 

「おい、ノロスケをビビらせんなよってビビってねぇなコイツ」

 

中庭に戻りノロスケを眺めていた。それも遠目からではなく至近距離でジッと彼の顔を見つめる。対してノロスケはと言えば何か大きな反応をするわけでもなく何時もと変わらずにノンビリとした動きでノアが用意した餌をモソモソと食べている。

 

因みにこの間もノアに甲羅を結構な勢いで水をぶつけられ掃除されているのだが意にも介さない。イングラムからの少し怪しい視線にも怯まない辺り相当肝が座っている亀なのかもしれないが、ともかくイングラムはノロスケを眺め続ける。偶にキャベツの葉を持っては食べさせるのだがその時もリアクションを取るわけでもなく無表情でその様子を眺める。

 

鼻歌交じりに甲羅を洗うノアと、我関せずを地で行き餌を食べ寝に入ろうとするノロスケを、それすらも何が面白いのか無表情で見つめるイングラム。何とも面白いのかシュールなのか分からない空間にノアの様子を見に来たクフェアも困惑気味な笑みを浮かべながら

 

「た、楽しいのですかね?」

 

「多分楽しんでると思うよ?」

 

何時からそこに居たのですか!?と隣に現れたM21に驚きつつ、彼女の楽しんでると思うよと言う言葉を聞き改めてイングラムを見てみるも

 

(わ、分かりません)

 

何をどう見ても無表情、いっそつまらないですと言われたほうが分かりやすいとすら思うその顔だが、M21はあれはあれで楽しんでいると断言する。長らくヤークトフントとして活動を共にしていたからこそ分かるのかと問えば、いやいやそうじゃないと返されて

 

「イングラムの指、地面に置いてある方見てみ?」

 

「……あれ、動いてる」

 

「そうそう、あれが所謂動物のしっぽみたいなもんだよ、あの動きの時は凡そ楽しんでるときってわけ」

 

よく見てるなぁとそこでは感心したクフェアだったが、真実は作戦行動中にカニバル時のイングラムは決まって指をそんな風に動かしていており、その時に初めて発覚した事である。

 

このノロスケ観察は昼食の時間になるまで続き、結局時間になっても現れない彼女をM21が朝と同じように引き摺って食堂に向かわせる光景が見られる。これが彼女の昼食前までの行動。ではまた時間を進めよう。

 

「コケッコー」

 

ここは養鶏場。鶏たちがストレスを感じないよう自由に遊べる広場の柵の向こうからイングラムは眺めていた。因みに冒頭のコケッコーは鶏ではなくイングラムが抑揚のない声での鳴き真似であるが、コレを聞いたゲーガーが物凄く微妙な表情で彼女を眺めていたがコレは余談だろう。

 

更に余談だが彼女に歌を歌わせると見事に抑揚がない物に仕上がる。曰くあまり気分が乗らないとのこと。とまぁそれは置いておいて昼食を終えた彼女が今度は此処に来た理由はただ単に鶏を眺めたいだけ、時たま地面を嘴で突いたり、羽根を動かしたり鳴いてみたりと蟻やノロスケよりは動きが見られるがそれでも無表情は貫いている。

 

そこに現れたのはヤークトフントのリーダー【USPコンパクト】向こうはただじっと眺めているイングラムを見つけ、それから時計を眺めてから

 

「イングラム、夕食の時はM21の介護を受けずに自身で食堂に向かってください」

 

「善処するわ、ええ……ところでリーダー?」

 

スゥっと前髪で隠れている方の目が紅く光る。表情も見れば先程までの無表情ではなく面白いものを見つけた子供のような無邪気さを感じさせながら薄ら寒い狂気も感じる笑顔に変わっている。対してそんな物を向けられたUSPコンパクトだがこちらは慣れているのか何も反応はせずに

 

「何でしょうか」

 

「また、波がうねってますよ。クケケッ、もしかして今日はまだ打ってないんですかぁ?駄目ですよぉ、打たないとほぉら、アイツラに食われちゃいますからねぇ」

 

「分かってますよ……だからこれから出るんじゃないんですか。それだけですか?」

 

えぇとイングラムが返せばUSPコンパクトは一瞥してさっさとその場を去っていく。その際にイングラムは見逃さなかった。USPコンパクトの目が少しだけ揺れたことを、どうやら

 

(もう出始めてるじゃないですかぁ、ケケケッ……貴女はこの基地で一番不安定。指揮官以上に、ノア以上に。お薬に頼らないともう正常に踏み込めないほどに)

 

その後、イングラムはM21に夕食の時間に食堂に連行されるまで鶏たちを眺めてたらしい。コレを聞いたUSPコンパクトはただ一言

 

「いい加減にするべきでは」

 

尚、治らない模様




因みに夕食後はアクアリウムで眺め続けて就寝時間にM21に連行されます、更に言えばM21とイングラムはそんな関係上、相部屋です。

大丈夫なのかこの人形……

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