それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
「ねぇ、クリミナ……私、太ったかも」
それは酷く深刻な声だった、妻からのまるで不治の病に侵されその余命も幾ばくもないという申告を受けた患者のような顔と声に旦那であるクリミナは出来たのは出来る限り優しい笑みを浮かべることだけだった。
何がどうその話になったのか、それはこの基地で主にユノのために行われている定期的な健康診断の時だった、一通りの事は終わりその数値を医務長であるPPSh-41が確認する。
「ふむ……む?」
「ん、どったの?あ、もしかして身長伸びた!?も~、ペーシャちゃんがあの時もう伸びないなんて言ってたけどやっぱり伸びてるんだねぇ」
断じてそうではない、と言う慈悲無き指摘が来るのはもう少し後、PPSh-41が気になった項目は2つ、片方は身長、そしてもう片方が体重、いままでは面白いくらいに変動がなかったそこの数値、だが今回は違った。
変動していたのだ、無論、繰り返しになるが身長ではない、ならば残るは
「体重が、増えてますね」
「……え?」
「身長に変わりはありませんが体重だけが確かに増えてます、誤差、と言うには少々厳しい数値ですね。まぁそれでも指揮官の数値は平均よりしただったので丁度良くはなった感じですが……指揮官?」
「ちょっとペーシャ~?女の子に体重の話題はナイーブだって昔から言ってるでしょー」
固まるユノにSOCOMが非難の声を上げれば、PPSh-41は申し訳ありませんと頭を下げる、下げながら思ったのは指揮官って意外にこういうの気にする人だったのかと言う驚き、今までそういう話題を聞いてもなければ振られたこともせずにモリモリと美味しく大量の料理を食べているものだからてっきり気にしてないもしくは考えていないとばかり思っていたらしい。
まぁこうして非難の声を上げたSOCOMもユノがそんな反応するとは思ってもなかったので若干だが驚いていたりする、と医療スタッフからもそんな風に思われていたユノだが実を言えばその辺りを気にし始めたのは何時ぞやツァスタバにマニキュアを教わった時のあの会話。モチモチのほっぺを触ってから彼女が言った言葉
『卑怯と言わざるおえませんね……ですがもしかしたら今日まで維持できていたのはナノマシンの所為なのでは?』
ナノマシンの所為なのでは?その一言が彼女を現実に引き戻した、確かに言われれば今までの自分はそりゃもう食べれるだけ食べていた、運動もしていたがとてもじゃないがそれでペイできる程のカロリーを消耗してるとは思えない、となれば自分がその辺りをコントロールを始めないといけないのでは、そう思った彼女は今日までに少し運動量を増やしてみたり、周りに悟られない程度に食べる量を減らしてみたりと言うことをしてた、していたのだが……
「太った……てこと?」
彼女の声には周りを縛り付ける重さがあった。思わず医務室のベッドで休憩という名の睡眠をとっていたリベロールが起き上がるほどの声の質にPPSh-41とSOCOMにも思わず冷や汗が流れる、歴戦の彼女たちだとしてもたった一人の少女の深刻な声のそれにどう答えて良いのかと迷いが生じる
そんな空間の中、動いたのは今しがたその声で起きたリベロール、彼女はノソノソとまるでG11みたいな動きで彼女の側まで行き、徐にプニッとユノの脇腹を摘んだ。刹那空気が死んだのを二人は感じ取った、何やってるんだこの娘という空気すら感じる、そして
「うーん、言うほど太ったって感じしませんけど」
「そ、そうかな……こんなことだったらウエストとかも図っておくべきだったかな」
「あ、そうよ、ペーシャその数値あるでしょ、腹囲のやつ」
「なるほど、えっと……あっ」
ペーシャの珍しい声にSOCOMが先ず悟った、続けてリベロールも理解した、そして最後にユノの目から光が急速に消えていくのが見えた、と言うのが今こうやって自室でユノがクリミナにそう告げるまでの本日のハイライト。
ユノも、一応だが自分がこの体型になってからも平均より下の数値だったのは理解しているがそうではないのだ、重くなった、と言う事実が重要なのだ。つまりこれからもこの食生活を続けていれば何れはこのお腹に余分なお肉が着いてしまうのではという危惧があるのだ、彼女だって少女であり、クリミナ大好きの奥様である、自分の情けない身体は出来ればパートナーには見せたくないのだ。
対してクリミナは言うと太ったと言われても本当にそうなのだろうかという疑問で一杯だったりする、もし本当にそうだとすれば彼女は夜の時点で気づき悪戯紛いに指摘する、間違いなくする、夜の自分は若干Sが入るからと断言すら出来る、が
(変わらない気がしますが……)
相変わらずのモチモチお肌、身体には余分な肉はなく、綺麗な肌に健康的な身体の感触、と思い返してみても彼女が言う太ったに繋がる物がない、ないので
「あの、本当にウエストは増えたのでしょうか?」
「うん、増えてた……」
(ふむ、とすれば)
このままではユノが翌日から食事量減らしますとか言い出しかねない、それはよろしくないのでと考えるクリミナ、身長は変わらず体重は増えウエストも増えている、だが贅肉などは付いていないお腹、そこに更に付け加えればユノはよく運動をする少女でもある、ジョギングだって欠かさないし、最近では筋トレだって始めている、とそこで
「筋トレ……あぁ」
「どうしたの?」
「そうですわね、一つ言うならユノは太ったというわけではないということですわ」
「?」
コレが太ったではなければ何だというのだろうかと疑問符を頭の上に一杯並べるユノに優しく、だが妖しい微笑みを浮かべてから手慣れた様子で彼女の唇を奪い押し倒してから
「では、教えながらでよろしいですわね」
「もしかして、それを口実にしたいだあっんっ!もう、クリミナ、私結構本気でぁんっ!」
「えぇ、口実もありますけど、きちんと教えて差し上げますわよ、ユノ」
まぁここからの流れはほぼ毎晩通りなので割愛しよう、という事で翌朝、食堂には普段通りに美味しそうな顔で朝食を食べていくユノの姿が、昨日の様子とは打って変わってのその姿にPPSh-41がクリミナに聞いてみればあぁと納得する回答だった、と言うよりも彼女もそれに思い至っていたのだが言いそびれていたらしい
「筋肉が付いただけ、指揮官の運動量や内容を考えるとそれしかないんですよね」
「ふふ、でもお蔭で可愛らしいユノが見れましたので良かったですわ」
「おかわり!」
「お母さん、今日もよく食べるね」
「私はもうお腹一杯です……」
「あの、私も、おかわり」
今日も基地は平和です。
食べる量を減らしてみたり(元が多いので誤差)
因みにヴァルター一家ではユノに続いてシャフトちゃんもよく食べる娘です。