それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
各々が何かを考え唸る声が響く、ある者はなにか欠片でも心当たりが無いかと、ある者は自分たちがその時に会ってた人物は誰だったかを、ある者は片っ端から自身の電脳の記録とペルシカから取り寄せた自分たちの任務の書類を読んでは何もない事を。
またある者はこの時には居なかったが故に待機中に何かそういった事を噂でもいいから聞いてないかと思考の海に潜り、そして最後に……
「う~」
備え付けられているソファーに伸び切って自分はもうコレ以上は考えられませんという表情を晒すのがSOPMODⅡ、ここはAR小隊からのリクエストで作られた彼女等が集まり会議を行う部屋、完全な独立部屋となっているのでAR小隊で機密なことを話したり通信が行われたりする際によく使われる。
ほぼほぼ忘れられているだろうが彼女等AR小隊はP基地を拠点としてはいるが所属をしているわけではない、ペルシカからの指示で彼女たちはこの基地の指揮下に入っているという状況である。まぁそれがなくともユノの指揮下には素直にはいるだろうが、ともかくそんな部屋でAR小隊は集まり、頭を悩ましていた、それは
「駄目ね、M4の言う通り何も思い出せないわ」
「ペルシカさんからの資料もそこだけで綺麗に抜け落ちてます……」
「それは機密性が高すぎたって理由付けがされてるがな、あーくっそ、誰と会ったかすら曖昧だぞおい」
「すみません、待機中のことを思い出してみましたがどれも当て嵌まるようなことは……」
議題はM4が気付いた自分たちの記憶の穴、あの日、散り散りに逃げるまで行っていたはずの任務、それが全員揃って抜け落ちていた。もしM4があの夢に疑問を持たなければこのまま誰も気付かずに流れていたであろうそれに全員が挑んでは見たが結果は惨敗、その頃AR小隊に合流してなかったRO635なら或いはとも考えたが彼女も空振りとなるといよいよ手詰まりである。
「うぅ~」
「SOP、唸ってばかりいないで、なにか思い出せることはありませんか?」
「無いよ~、そもそもあの任務の時は私は陽動作戦でドンパチしてただけだもん」
「確かにそうだったな……ん、待てよ、だとすりゃSOPは内部までは踏み込んでない、なのに消された?」
「任務そのものが機密、もしくは記憶に残っていると不都合な物だったってことよねそれ」
また難しい話が始まった、SOPは軽く、いや、かなり熱くなり始めた電脳で思わず愚痴る、SOPもAR小隊の一人としてその性能は決して低いわけではない。寧ろ下手な人形よりも処理速度も段違いであり、電脳の性能は非常に高い。
だがそこで関わるのがSOPのメンタル部分、少々子供っぽい部分が強い、それ故か頭の回転や直感と言ったものは眼を見張るものがあるのだが考える、と言う段階になると弱くなる、本人曰く考えれば考えるほどに頭がオーバーヒートしだすらしい。
なので今回みたいな場面だと正直に言えばあまり役に立たない、立たないが全員集合と言われれば来るしか無いので来てみたと言うだけである、がそれもそろそろ限界が来ている。
「ねぇ、まだ続けるの?」
「SOP、今回の話は重要なのよ?」
「でもでも~、こうして集まって頭捻らせて何にも出ないんじゃ時間が無駄じゃんか~」
SOPの一言にM4達もそうなのだがと言う空気になる、確かに此処に集まり早数十分、はっきり言えば進展なんてものは全く無く、寧ろ全員が全員同じように記憶が抜け落ちているというのが強いてあげればの成果かと言えるものだけ。
なので結果だけ言えば解散となった、ただし今回のことは副官、そこから派生して指揮官にも報告をあげるらしく近い内に基地の情報部でも動きが見られるようになるだろう……がSOPにはそんなものは関係ない、彼女は今足早に向かっているのは回転させた頭をクールダウン出来る場所、内心では今日が休日で本当に助かったと思いながら目的地の扉を開けたのが
「いらっしゃいませ、あら、今日はSOPちゃん一人ですか?」
「うん、マスター、パンケーキ!アイスと蜂蜜増し増しのやつお願いね!さっきまで頭凄く使って疲れてるんだよ……」
「あらあら、分かりました直ぐにご用意いたしますね」
ふへ~とパンケーキの用意に厨房へと消えたスプリングフィールドを見送ってからSOPはいつものカウンター席に腰を下ろし一息つく、あの数十分、人形からすれば立ったと言われそうな時間だが彼女には非常に長く、それ故に消耗された体力は戦闘時よりも多い、そして思うのは
(やっぱり考えるよりも暴れたいよ~、でも最近此処らへん大人しいからなぁ)
ぐだーとカウンターに伸びる、此処最近のS地区といえば彼女が好きな鉄血相手のドンパチは少し前に比べると確かに少なくなっている、つまりその分、この地区は平和になり始めているということなのだがSOPとしてはツマラナイことである、彼女の趣味は今も昔も鉄血人形を痛め付けること、今はユノの眼のこともあるので少しだけ大人しくなってはいるが今でも彼女の自室には鉄血の目玉がコレクションされていたりするので実を言うとユノは未だにSOPの自室は入室禁止命令が出てる。
「はぁ~、どっかで鉄血が暴れてないかなぁ、そしたら喜んで出撃して目ン玉とか中身とか抜き取ってからキレイに取れた部分をコレクションするのにさぁ~」
「サラッと恐ろしいことを言ってますけど、暴れてたなら指揮官から連絡が来ますよ、はい、お待たせいたしましたSOPスペシャルです」
「やっほー!待ってました!」
が、そんな末恐ろしい発想も出てきたパンケーキ【SOPスペシャル】の前にすればかき消える、元々はそんな名前は付いていなかったのだが毎回毎回このトッピングを頼むのが彼女だけなのでとスプリングフィールドが命名したパンケーキ。
2枚に積み重ねたパンケーキの上にF小隊の牧場から送られてくる牛乳で作ったバニラアイスを2つ乗せ、更に蜂蜜をこれでもかとたっぷりと掛けた甘さに甘さの暴力を掛け合わせたかのようなそれは頭を使った後には非情に体に染み込むと好評だったりする。
因みにユノも大好物なのだが彼女は放っておくと【ユノスペシャル】に変貌する注文をするので基本的に誰か同伴時でないと注文が出来ない、まぁそんな余談は置いておき、SOPはそのパンケーキをナイフとフォークで一口に切り分けてからパクリ、そして
「ん~、まい!」
キラキラなその笑顔にスプリングフィールドは優しく微笑むのであった。
……そろそろ養蜂場でも考えるか、なぁスリーピース!