それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

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ユノとは別のベクトルでの人形誑しの素質あり


ヒーローガール

これがもし舞台の演劇であれば、自分はきっとヒロイン役でしょうね。【SSG 69】は自身に付けられた拘束具と周りの野盗の下卑た笑みを見て思わずそう現実逃避を行う。

 

彼女がこうして捕まった理由は少し前、作戦行動中に野盗が張っていた罠に嵌り、それでもと部隊の面々を逃がそうと一番最適化が進んでいた彼女が殿を務めたから、お陰で部隊員は逃げ延び、後は自分が撤退するだけ、もしくは基地からの援軍が来るまで耐えれば、と思っていたのが数分前、だが

 

(これは、切り捨てられたってことよね)

 

どうやら自分が配属されていた基地の指揮官は一人を救出するつもりはないらしい、ついぞ援軍は来ず、彼女は捕まり今こうして後は自身が保ってきた貞操を虚しくも食い破られこの野盗達のお人形になるだけとなっていた。

 

恨み言などが無いかと言えば嘘になる、恐らく部隊員達はすぐにでも私を救出させろと訴えてはいるだろうけどあの基地にそんな余裕はない、つい最近にも鉄血に襲撃されやっとこさ防衛したというのに、今度は一人を救出させるために動かす余裕なんて無いのだろう、もっとも

 

(あのレーダー基地からの援軍提案を受けていれば未来は違ったでしょうけどね)

 

しかしそれはもうたられば(IF)の話、あの無駄にプライドは高い指揮官はそれを突っぱね自分たちの基地だけで『見事』防衛に成功はした、まぁ結果はこの通りな訳だがと思うと遂にため息が漏れてしまう、そしてそれは野盗の一人に見られたようで

 

「何だよため息なんかついて、へへ、諦めましたってか?」

 

「えぇ、舞台だったらここからヒーローでも助けに来てくれるヒロインの役だったでしょうけどね」

 

「なら問題ねぇ、これからお前は俺達の上で踊ってくれるヒロインだからよ」

 

何上手いこと言ったつもりになってんだよと野盗の一人が言えばやいのやいのと言い合いになる、がすこぶるどうでもいいと何気なく空を見上げた時、彼女の眼に一筋に光の線が映った、このタイミングで流れ星なんて皮肉かしらと思ったが何かが違う。

 

その流星のような光は過ぎ去ったと思えば急旋回、という所でSSG 69だってあれは流れ星なんかじゃないと気付く、では何か、そもそも単独で飛行する存在なんて……

 

(え、いや、もしかして?)

 

「【Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)】」

 

綺麗、そう表現するしか無い短い詩が彼女の耳に届いた、誰の声なんてものは聞くまでもないあの光からの声だと。思わず聞き惚れるSSG 69、それと同時に彼女はあの光の正体が分かった、度々戦場に現れる機械仕掛けの天使、その綺麗な歌声が聞こえたのならば敵対しなければ助かるという噂が流れるほどの存在

 

《動くなよ!》

 

少女の警告に近い通信の刹那、SSG 69には当てないように、だが野盗は決して逃さなとばかりに殺戮の雨が降り注ぐ、マシンガンなんて可愛いと思えるほどの弾幕、断末魔も挙げれずにその鉛玉に体を食い破られる野盗、凡そがその殺戮に喰われた空間が出来上がった辺りで彼女の耳が次に捉えたのは聞き慣れないブーストの音とSFチックな機械の羽根を生やした背中、そう、ナデシコからの指示で救出に来たノアである。

 

「怪我はねぇな?一応当てねぇようにはばら撒いたつもりだが」

 

「え、えぇ、無いわ……ありがとう」

 

「感謝だったら能天気バカとオメェが逃した部隊員に言うんだな」

 

聞けばナデシコで監視任務をしていたユノが何かから逃げる部隊を発見、何処の所属か、それとコレで全員なのかとSSG 69の基地の指揮官に聞けばそれで全員だと返答、だが部隊の一人が即座にまだ一人、部隊長がと言えばどういう事だとなるも向こうはそんな人形は知らないの一点張り、なので

 

「オメェを一時的にMIAにしてアタシが発見、P基地で保護からの所属にするって荒業をすることにしたってわけだ」

 

「そう、ふふ、これであの基地からは被害ゼロって言いたいわけね、本当にプライドと悪知恵だけは働く男ね」

 

「まぁ、今頃その全てをすっぱ抜かれて本社に送られてるだろうけどな……ともかく」

 

一通りの警戒が終わったのかノアはスラスターを停止させて地上に降りてから振り向けばSSG 69は思わず見惚れた、彼女の眼に写ったのは勝ち気で、だが何処か安心させる笑顔、そんな彼女が自分に手を差し伸べて、こう告げる

 

「アタシの、能天気バカの基地に来い、居心地は保証できっからよ、って、おい?大丈夫か、ぼうっとしてっけど」

 

「……あっ、え、ええ、大丈夫よ、でもそうね、拘束具を外してくれないかしら?」

 

あ、わりぃとノアは無造作にSSG 69の手首につけられている拘束具を【分子崩壊】させたのだが彼女には何が起きたか分からずに困惑の声が上がる、ともかくコレでSSG 69が新たにP基地に迎えられ基地ではお決まりのようにユノと副官が出迎え案内をして、というのが数日前。

 

彼女は言ってしまえばノアに惚れていた、あの一件は自身が思い描いていたヒロインを救い出すヒーローであり、メンタルモデルが一瞬で陥落するのも無理はなかった、だからこそ基地に来たのならば彼女の隣に……と此処まで書けば分かるだろう、この恋はどう足掻いても実る余地はないのだ。

 

「んなの、ないでしょ!!!」

 

「あ~、はいはい、そうだにゃ、オメェさんも運がなかったにゃ」

 

「うぅ、ノアァァ、どうしてぇ~」

 

配属されP基地に慣れてきたSSG 69は今、BARで酔いながらIDWに愚痴っていた、内容は勿論、終わってしまった自身の恋、基地に来て早々にノアとクフェアの仲の良さを見せつけられた彼女だったがまだチャンスは有るはずと思っていた、が

 

「何よあれぇ、アタシが入り込む余地なんて無いじゃないのぉ~!!」

 

「ありゃ無理だにゃ、まるで初めからそうであったかの如くな熟練夫婦、ポッと出のオメェさんには勝ち目なんて万が一もないのにゃ、ほれ、飲むか?」

 

「ありがとうございますぅ、ですよね、でも、でもぉカッコよかったんですもん……」

 

(アイツ今後もこんな感じに犠牲者を増やすわけじゃねぇだろうにゃ?)

 

クチュン!可愛らしいくしゃみがノアの自室から聞こえれば風邪ですか?とクフェアの心配する声もした。

 

だがそれにしてもとIDWは思う、何で失恋したやつは揃って自分に話してくるのだろうかと、そう思いながらもSSG 69と飲みながら愚痴を聞いてあげる彼女であった。




主原因はMDRの特別記事。

ユノかノアに惚れた人形は大体悲しい事になる、まぁヴァニラの場合もなんですけどね!

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