それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
「お、おぉ?もしかして防いだ!?」
ある種の初見殺しとも言えるレーザービーム、だがゲーガーはそれを咄嗟に小手の変形機構の一つであるフォースシールドの展開で防ぎ切ることに成功し、ジャウカーンはそれを見て感動の声を上げる。
しかし、撃たれた本人であるゲーガーからしてみるとあれは冗談抜きで死を覚悟したものであった、それは当然だろう、防いだと言われてはいるが装甲の一部はフォースシールドを貫通し軽く融解している、もしコレが彼女ではなく先程までの戦場で撃たれてたと考えると身の毛がよだつ物がある。
(もう一発は、難しいか)
見れば細かなスパークすら上げている、その様子から先程と同じような変形はもう難しいだろうとすら判断、比較的に強度を維持できる拳の状態に戻して構えを取る。一方ジャウカーンはその構えを見てまた目を輝かせる、彼女としては作戦を遂行していると感覚はあまりない、あるのは純粋無垢な遊びたいという欲求、だからこそ先程の戦闘ではこのレーザーの砲撃ではなくその腕に内蔵された榴弾による砲撃、そしてノアとの戦闘中は近接と対空レーザー『程度』に済ませていた、理由はもっともっと遊びたいから。
「キャハハ、ねぇ何して遊ぶ!?」
「お遊戯の時間はとうに過ぎてる、子供はもうお家に帰る時間だ」
「えぇ~、でもそれじゃあキャロル様の命令遂行できないし……あれ?」
急に何かを疑問に思い始めたジャウカーン、だがそれを考え始めた瞬間、彼女の瞳は一瞬だけ光を失ってから頭を振ってまた先程と同じような無邪気な笑顔に戻る。
ゲーガーは今の一瞬の異変が引っかかった、だが
(考える暇は無さそうだ、持ってくれよ……!)
「行くぞぉぉぉぉぉぉ!!!」
ジャウカーンの叫びに応えるようにゲーガーもブースト込みで踏み込み、異形の拳同士が激突、甲高い音を当たりに響かせた。
その頃、基地の外側、遊撃として駆って出ていたノア、そして異変にいち早く気づき防衛を第二部隊に任せヒポグリフにてとんぼ返りを果たした第一部隊と部隊長であるナガンは二人のハイエンドモデルと対峙していた。
だがノアは先程まで三人相手に大立ち回りで砲撃を阻止しながら戦っていたために既に消耗気味、今は片膝を付きながら相手を睨み、しかしそれはそれとして結局は一人は通してしまったのは事実なのでと
「はぁ、はぁ、わりぃ婆ちゃん……一人突破された」
「いや、寧ろ三人相手によくぞ耐えた。だがすまぬ、もう少し付き合ってもらうぞ」
「へん、余裕だっ、ての」
グッと立ち上がりエアハルテンが内包された注射を首筋に打ち、20mmバルカン砲……ではなく取り回し重視なのかMINIMIを生成し構え、第一部隊も陣形を整え構えるのだが相手側に動きがあまりに無い、それを疑問に思っていると、二人の片側、始めにブラックマーケットで目撃されていた純白の長髪、印象などは変わっているがスプリングフィールドに似ているハイエンドモデルの女性が
「少しだけ宜しいでしょうか」
「あ?テメェらに聞く口なんざ……「よい、話せ」婆ちゃん!?」
「感謝します、ナガン様、お嬢様の下に来ては貰えないでしょうか」
勧誘、引き抜きとも言えるそのセリフに真っ先に噛みつこうとしたノアだったがそれを先に察知したナガンが制してから、ゆっくりと首を横に振る。
「お主らがそう云うということはアヤツの意識はあるのじゃな」
「はい、故に「アヤツは一度でもわしに来てほしいと言ったか?」……いいえ」
「よしんば、わしが今行ったとしてアヤツは心を苦しめるだけじゃ、どれほどの付き合いかは知らぬが短くとも理解できぬ中ではあるまいて」
話はコレで終わりだ、こうなってしまったからには敵同士なのだからと悲しむような眼を一瞬だけしてからナガンは構える、それは向こうの二人も同じようでそれぞれが構え
「分かりました、いえ、思った通りのお方で安心しましたよ。【スユーフ】参ります」
「コレで本気で行くとか言われちゃったら色々破綻しちゃうからねってコレ言っちゃいけなかったわ、適当に流してよ。【ダラーヒム】本気でぶつかりに行ってあげる!」
片やスユーフと名乗ったハイエンドモデルはリボルバー型の弾倉が付いた不可思議な双剣を、片やダラーヒムと名乗ったハイエンドモデルは両腕に装備しているトンファーのようにも銃のようにも見えるそれを構え相手を見据える、そして
「シッ!!」
スラスターを限界まで吹かせたノアが二人に突撃によって戦いの火蓋は切って落とされた、が先程までならばスユーフとダラーヒムは優勢に立ち回れたであろう、だがトゥーマーンが撃破されたことによって広域ジャミングは消失、陽動のための部隊も、そしてこの基地の襲撃のための部隊もほぼ一掃され始めている。
はっきり言えば彼女たちに勝ちの目はもう無い、だと言うのに彼女たちに諦めの感情はなく、洗脳かとも思える攻勢に疑問を覚え始めるナガン。
「考え事ですか!」
「っち(悠長に考え事は後じゃ!)にしても、珍妙な武器を使うのう、射撃と近接が同時、コンセプトが全く分からんぞそれ」
「欲張りセット、というやつですよ!」
「くっ、うっ!」
スユーフの苛烈とも言える連撃に晒されながらも近接で対応するナガンと一〇〇式、それを援護しようとWA2000、FAL、64式自が援護射撃をするのだが何と相手はそれを両手の剣で直撃コースだけ弾き、返す刀で剣先を彼女等に向けトリガーを引けば銃声と同時に弾丸が彼女等に向け放たれる。
無論、二人を捌きながらのそれに安々と当たるものではないがそれでも牽制にはなる、そしてノアはと言うと
「ダラァァァァァ!!!」
「何度やっても、同じだっての!」
MINIMIの連射をダラーヒムに浴びせるが向こうはそれを小手で弾きながら接敵を試みる、彼女が一人で戦っている時はこれで更にスユーフまで接敵してくれば訓練しているとは言え苦手な近接戦闘を強いられていたが彼女は第一部隊が抑えている。
なれば多少の無茶を取るという選択肢も出てくる、はっきり言うとダラーヒムは
(あたしよりも強い、ちっ、人形と人間の差ってやつか!)
痛みを感じれるか感じれないか、その差というものがやはり大きい、見ればダラーヒムは完全に弾けているというわけではない、数発は直撃しているのだが痛覚を切ってあるのか怯まず突っ込んでくるは、近接戦闘に置いても向こうに分があるわでどうしてもノアが苦戦を強いられてしまう、しかしこれ以上の時間は掛けれない、基地に突撃したジャウカーンが暴れでもしたらクフェアにも被害が行くかも知れない。
そう考えた時、彼女の眼の色がはっきり変わった、射撃は弾かれる、近接は勝ち目はない、第一部隊がスユーフを倒すまで悠長に時間を稼ぐ選択肢も取れない、ついでに言えばエアハルテンも先程打ったので最後であり時間制限もキツイ、なら
(肉を切らせて……)骨と断ってやらァ!!!」
「バカの一つ覚えで弾幕張っても無駄だっていい加減気付きなよ!それっ!!」
距離を遂に詰めたダラーヒムが恐ろしい速度で右トンファーをノアの顔面に向けて放った時、彼女は驚愕に染まる。
グチャと言う何かが潰れる音がノアから発せられた、見ればトンファーの先端部分がノアの左目に突き刺さっている光景、痛みは強いはずのそれ、だが彼女は脂汗を流しながらニヤリと笑いその右手を掴み
「まさか、私を確実に捉える為!?」
「片目くらいくれてやらぁ!!!」
ノアの考えが分かったダラーヒムは即座に左も振るおうとするが雷鳴にも似た銃声と同時に腕は吹き飛んだ所で己の敗北を悟り
「(負けちゃった、でもこれで後は……)すみません、キャロル様……」
もう一度、雷鳴が轟き、ダラーヒムは地面に伏した。その音はスユーフにも届き思わずそっちを見てしまえば
「ダラーヒム!!っしまっ!?」
一瞬、だが戦場で、しかも歴戦の精鋭である彼女等にとってはそれは十二分な隙であるそれを見逃すわけもなく、ナガンが接敵からの蹴り上げで双剣の片方を飛ばすと同時に彼女以外の部隊員が一斉射撃、2つで切り払っていたのが一つとなれば捌ききれるものではなくなり、被弾が増え、そこから動きが鈍くなりという悪循環が始まれば
「ヵハッ……ここまで、ですか」
「答えよ、お主らはどうして性急に駒を進めた、勝てるわけ無いと分かることじゃろうて」
「さぁ、ですがそうですね……」
ニコリと負け今まさに機能が停止するというのにスユーフは穏やかな笑みを浮かべ、最後にこう告げた。
「『我々』が大きくなることを煙たがる存在が……」
居るってことですかね。そして彼女とダラーヒムはトゥーマーンと同じ様に自爆装置を作動、爆散した。今の彼女の言葉の意味を考えたいのは山々なのだが事態がそれを許さないと一度その場の全員が集まればノアの怪我を見て血相変えたWA2000が即座にヒポグリフを呼んで機内で応急処置を施す。
「この馬鹿、あんな戦い方しなくても勝てたでしょう!!」
「こんなん生成すりゃいいだろ、それにあれが確実だったんだ、それよりも基地は、基地は平気なのか!」
彼女が心配する、基地、そしてナデシコ内、そこは現在……
「ゴホッ、はぁ、ぜぇ……」
「アッハッハ、やっぱり私が最強だね!」
友の傑作は砕かれ、片膝を付くゲーガー。
「これが、ダミーブレイン、いや、キャロルちゃん……」
キャロルが操る銅線と射撃ユニットの合わせ技でボロボロの姿で倒れ伏すオモイカネ達とPPKを構えるが変わらないくらいにボロボロのユノの姿。
キャロルちゃん達に好き勝手されると困るのだーれだ
今回のスユーフさんの武器はガンブレードをイメージ。ダラーヒムはRAVEという漫画で出てきたガントンファーっていう素敵武器のイメージです。
Q 何でノアちゃんの左目潰したん?
A 本来はもっと激戦を書くつもりだったから(強弁