それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:鮪薙
彼女たちが言う例のアレを保管している場所に全員が駆けつつ、キャロルは手元の端末で基地の監視カメラ映像を見てみれば
「ちっ、まっすぐ向かってくるな……イントゥルーダー、起動にはどれくらい掛かるんだ」
「間に合うかは今の状況だと五分ね」
五分、しかもそれは何もなくスンナリと済んだ場合という前置きが付く、なので言ってしまえばほぼほぼ間に合わない、一応基地の防衛プログラムと足止めの隔壁を降ろしてはいるのだがそれでも時間が多少稼げればと言う程度だろう。
しかもよしんば起動したとしても懸念点があるとすれば
「あのぉ、キャロル様、それ本当に起動したら状況を変えれるですかね?」
「推測通りならばな、何だ不安なのか?」
「もし失敗すればキャロル様とアルアジフ様が危ないですからね」
彼女たちすればそのバクチで失敗した場合が恐ろしいのだ、恐らくはその時点で自分達は殺られており、残されるのは彼女だけ、となれば待っているのは惨殺されるだけの未来、それだけは絶対に避けたいのだから。
その言葉にキャロルは頷きも何もしない、正直に言えば自分でも分からない、だがコレしか手がないのだから仕方ないと思うしかない。
「ここだ、この扉の先にある」
「状態は?」
「あと一歩、それが分からないだけだ、作戦前にも弄ってて、そのままのはずだが」
「っ!?キャロル様、下がってください!」
「どりゃ!!」
では向かおうかと言う所で周囲を警戒していたスユーフが叫び、全員がそっちを向いて構えを取れば降ろされていた隔壁が両断され、次いで蹴り飛ばされたのか、両断された隔壁が彼女たちの方向に飛ばされてきたのをジャウカーンがその手で弾く。
何が起きたか、誰が引き起こしたか、そんな事は全員が分かっていた、何より視線の先にその犯人は攻撃的な笑みを浮かべ、異形とも言える義手の右腕にブレードを握っている鉄血ハイエンドモデル
「よぉ、揃ってんな裏切り者共」
「エクスキューショナー……とすればもうハンターもエージェントも追いついてくるってことよね」
「いえ、もう居ます」
声と同時に暗闇から現れたのはクラシックメイド姿のハイエンドモデル【エージェント】と黒のジャケットに両手に持った大口径ハンドガンが特徴的なハイエンドモデル【ハンター】の姿も現れれば場の緊張感は一気に高まる。
このままでは起動時間も無い、そう判断したキャロル側のハイエンドモデル四人は、それぞれが頷きあってから
「キャロル様、イントゥルーダー、起動しに向かって下さい」
「スユーフ?いや、まさかお前ら」
「私達が本気で足止めします!」
「まぁ、それしか無いわよね~、やれるわねジャウカーン」
「もっちろん!」
誰がどう見ても絶望を通り越し、先ず生きては帰ってこれない戦い、だと言うのに彼女等に諦めという表情はない、寧ろこの状況においても生き残れると信じている感じまである。
だがキャロルはそれを許可したくはなかった、彼女も分かっている、こうなっては誰かが足止めをしなければいけないことくらい、しかしそれは頭では理解してても、生きていた彼女たちに再度死ねと命ずることなんて出来ない、そんな感じに視線を落としていると
「キャロル様、我々は死ぬつもりはございません、なのでただ命じてください、生きて帰れ、と」
「……いいか、私が知らぬ所で死ぬことは許さぬ。すまない、みんな」
「イントゥルーダー、後は任せましたよ」
「任せなさい」
扉を開き保管している部屋に向かう寸前、思わずキャロルが振り向けば既に戦闘が始まっており、心の中でもう一度彼女等に感謝と謝罪をしてからイントゥルーダーの後に続くように部屋に入っていく。
入れば、直ぐにそれはあった。格納状態なのであろう、背中に装着されると思われる、デザインは三対の翼を閉じたような形を思わせる形のそれ、これこそが現状を逆転出来ると思われるキャロルの追加装備。
「教えてくれイントゥルーダー、この【ダウルダヴラ】を起動する最後のピースを」
ダウルダヴラ、誰が考え開発したのかは不明だがこの拠点に眠っていた装備。キャロルが読んだ資料にはコレは元々ルーラー用の追加パックのような存在だったらしく、多数に攻められた場合の自衛兵装、らしいのだが
結局はとある問題が浮上でお蔵入り、イントゥルーダーが目をつけて引っ張り出されるまで埃を被っていた、それが遂に起動する……だがそれは
「人格データよ、それも成熟しきった、もしくは人間そのもののレベルの人格データ……それがダウルダヴラに必要な最後のパーツ」
とある問題、それは演算機能が追いつかないという部分だった、当時の鉄血の技術を持ってしてもそれだけが解決できなかった。そもそもにしてこの武装にはアルケミストのようなテレポート技術も使われており、それにより光学兵器の射撃を空間転移、オールレンジ攻撃に転換、他にも反重力装置の演算も混ざっているので、そのための演算が唯のAIやコンピュータでは間に合わないのだ。
無論、キャロル自身の演算機能を使ってもだ、故にもう一つの人格データをダウルダヴラに埋め込み、演算機能を強化しようというのだ
「それさえあれば起動するわ、因みにあたくしのは無理よ、正直に言えばそんなのに使えるほどキチンとしたのじゃないから」
「なら、私の使えば……」
『ううん、使うのは私のだよ』
何を貴様、アルアジフの言葉に即座にキャロルがそう答える、彼女は本気で何を言ってるのかと、主人格のお前が何故犠牲にならなければならないのだと、いや、もっと言えば
「お前は生きるべきだ、そもそもお前が主人格だぞ?」
『……あ~、それなんだけどさキャロル、実は襲撃作戦の時にナデシコ繋がったじゃん?その時にエルダーブレインからの介入が実はあったんだ』
「!?そ、それがどうした?」
『多分そのままだとキャロルは完全に制御下に置かれてた、だから私は抵抗するために、その、キャロルを【主人格】に押し上げたんだよね』
彼女の中で一度思考が止まる、それと同時に先程からアルアジフの声に妙に走るノイズの意味が分かってしまった、彼女は今消えかかっているのだ、キャロルならまだしも人間の意識であるアルアジフがそれを明け渡したとすれば、存在が消え始めてしまうのだ。
「なん、で……」
理解できなかった、自分なんかよりアルアジフの方が生きたほうが良いと、彼女が今日まで生きていたのはあの日、廃棄され朽ち果てるだけの存在だった自分を彼女に救われ、その恩を返そうとしてただけ。
更に言えばアルアジフは理不尽に殺された少女、ならばもっと生きたかったはずだと、だがそれは違うのだとアルアジフは答える。
『私ね、本当には全部分かってたんだ、自分がもう死んでることも全部、でもキャロルは違う。今も生きている、だからこれからも生きるのは貴女なんだ』
それはとても優しい声だった、恐れも何もない、全てを受け入れ尚且、自分は貴女の役に立ち消えると告げていた。
外の戦闘音が激しさを増す、もしかしたらもう何人かは殺られてしまってるかもしれない、時間が刻一刻と無くなっていく中、キャロルは揺れる感情の中でゆっくりと口を開く
「イントゥルーダー、アイツラに手を貸してやってくれ、もう少しだけ時間が欲しい」
「良いけど、あまり稼げ無さそうよ」
「構わない、そこまで時間は取らせん」
イントゥルーダーはその時、キャロルの瞳を見た、確かにまだ迷ってはいる、だがそれでも決意しようというのが微かにだが見えた、だから彼女は頷いてスユーフ達が戦っている戦場へと突入する。
「アルアジフ、私はお前に恩を返すことを目的に生きてきた、だがお前が消えるとすれば、どうすればいい」
彼女の問い掛けにアルアジフは、そうだねと一つ置いてから
『だったら、私のお願い聞いてくれるかな?』
刹那、キャロルの意識は白い空間に居た、そして目の前には瓜二つの少女、言わずとも分かった彼女はアルアジフだと。
アルアジフはキャロルを見つめてからそっと近づき、その両頬を優しく触れながら
「私が生きたかったこの世界を生きて欲しいかな、私が見たかった景色を見て欲しい、私が話したかった人達と話して欲しい、私が知りたかった世界を識ってほしい、それが私の願い」
「アルアジフの願い……」
「勿論、途中で生きる理由が変わっても良い、でも初めくらいはお姉ちゃんとして背中を押してあげないとなって」
にししと照れくさそうに笑うアルアジフにキャロルは少しだけ視線を落とす、輝いていた、これから消えるというのに何故そんなに眩しく笑えるのかとすら思ってしまった、向こうはそれを感じたのか、今度は優しく抱きしめ
「ごめんね、でも私が此処に残っちゃうとさ、お母さんが寂しくなっちゃうから」
「母上は、寂しがり屋だったのか?」
「うん、とても、隠してたみたいだけどね……だから逝かなくちゃ、そうだ、妹たちもお願いできる?」
彼女は何となしにだが、あの基地に居る指揮官は自分と同じだということを直感で気付いた、だから彼女等を置いて逝ってしまうということにはかなり申し訳ないなとは思ってたりもする、なのでキャロルに追加で頼めば
「あぁ、姉上の願いだ、聞き届けるさ」
姉上とか母上とかどこで覚えたんだろうと思わず疑問に思ってしまうアルアジフだが渾身のスルー、見れば体中にノイズが走り始め、二人はもう本当に時間がないと知る。
最後にとアルアジフはキャロルと目を合わせて頭を撫でる、そして
「【エストレーヤ】」
「何だそれは?」
「私達のファミリーネーム、これから貴女はダミーブレインでも何でも無い【キャロル・エストレーヤ】として生きていくんだよ」
ニコッと花が咲いたような笑みを浮かべ、さぁそろそろ本当に時間がないから行こうとキャロルの意識が現実に戻る。
聴こえる戦闘音は散発的なものに変わり始めていた、自分が迷っていたばかりにと思わず後悔の念が生まれるがそれを押し殺し装置へと足を運んで、台座に手を置けば
《システムを起動》
『……よし、ありがとうキャロル、楽しかったよ!』
「ッ!!それは、こちらのセリフだ、ありがとう、本当にありがとう姉上!!」
《人格データの読み込みを確認、ダウルダヴラの起動を許可します》
場面代わり保管室前の広場、そこではスユーフ達とイントゥルーダーが足止めのための戦いを繰り広げていたが、今居るのは満身創痍なんてものを通り越した彼女たちと余裕綽々と言った感じの鉄血のハイエンドモデル達。
見ればイントゥルーダーなんかは余程無茶したのだろう、片腕は見る影もなく、人工皮膚は切り裂かれ、片目は潰れていた、だがそれでも立ち上がり戦闘を続行せんとしている
「まだ立つのですか、その体でよくやりますね」
「……まぁ、意地ってやつよ」
その言葉にスユーフ達も立ち上がる、もう全員が武器は消失してたり腕が無かったりだがそれでもキャロルが帰ってくるまで戦うつもりだ、だが
しつこいと言うエクスキューショナーの一撃、ジャウカーンが咄嗟に両手を広げて防御態勢を取るが
「くぅぅぅぅぅ!!??ぐあぁぁぁあ!」
防げるはずもなく枯れ葉のように飛ばされ、いよいよ立つことも出来なくなる、此処までかとイントゥルーダーが目前まで迫ったエージェントの銃口を見つめながら思った時、彼女等全員を銅線が襲った、しかもそれは突如現れたという形。
それを見た彼女、銅線をなんとか回避したエージェント達が保管室の方を見れば
「ダミーブレイン、まさか起動に成功した……!?」
「ダミーブレインだと?ハッ、冗談じゃない」
キャロルは笑う、未だ自分をダミーとしてしか見れない彼女たちを、そんなモノはとうに乗り越え生まれ変わったと笑みを浮かべながら歩き高らかに告げる、今の自分は
「俺は、キャロル・エストレーヤだ!!」
その目には微かにだが涙の跡があった、だがもう振り向くことはしない、その心に新たな命題を灯し、キャロルは戦闘を開始、否、これから始まるは戦鬼による蹂躙である。
何でこんなクッソ長くなったんですか?しかも色々ガバ理論やんけお前!!許して……許してヒヤシンス……
アルアジフ「さよならって、なんだか寂しいよね……だからまた、約束だよ!」